第39号:中国の高等教育改革の現状および動向
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中国の大学における「教学」経費に対する評価および考案

2009年12月 8日

張学敏

張学敏:西南大学教育学院 教授

 1961生まれ。教育学博士。西南大学教育学院教授、博士課程教員、中国教育学会教育経済学分会常務理事。教育部の人文社会科学重点研究拠点である西南民族教育・心理研究センター副主任、西南大学師範教育管理事務所副主任。主に教育学原理、教育経済・管理、教師教育、西南民族文化や教育に関する研究および教育活動に従事。「高等教育研究」、「中国教育学刊」、「教育と経済」、「教科・教材・教育方法」などの出版物において70を超える学術論文を掲載。「授業における教育技術」、「教育経済学」、「貧困と義務―貧困地区における義務教育経費の投入に関する研究」、「公共経済学」など10冊を超える著書や教材を刊行。教育部による「第9次五カ年計画」、「第10次五カ年計画」、「第11次五カ年計画」の社会科学プロジェクト、全国教育科学における「第10次五カ年計画」、「第11次五カ年計画」の企画プロジェクト、重慶市哲学社会科学における「第10次五カ年計画」のテーマ、国家発展改革委員会による「第11次五カ年計画」の発展計画テーマ、教育部や重慶市からの委託プロジェクトにおける10以上のテーマなどを主宰。「貧困地区における教育投資体制に関する問題と改革を論じる―教育投資におけるマクロコントロールおよび教育コストの補償体制を確立するための研究」と題する論文が教育部による第三回全国教育科学研究・優秀成果3等賞を受賞。

共著者:賀 能坤

概要

 「教学」経費(教育・教育関連経費)は大学教育の質を向上させる非常に重要な要素である。それは中国の大学が量から質への転換を実現するために必ず重視しなければならない課題である。中国の大学評価体系で掲げられている教学経費に関する基準は、大学教育における中心的な役割を明確にするための効果的な手段である。教学経費に関する基準には、不正確な統計資料や非科学的な評価基準といった明らかな問題点が存在する。しかし教学重視の大学という方向性を支持していることには変わりはない。中国の大学と外国の大学の大きな違いは運営経費の不足である。教学経費に関する基準を適正化することが中国に必要な課題である。大学教育の質を保証するための基準を確立し完備していくよう努力しなければならない。

1.教学経費という言葉の背景

 「教学経費」という言葉が聞かれるようになって久しいが、権威ある書籍による明確な定義付けには至っていないようだ。中国における高等教育において大学教学経費と言う言葉は高等教育機関の定員拡大に伴って出現した。「教学経費」と「教育経費」は一字違いに過ぎないが、「教育経費」から「教学経費」への転換こそ中国の高等教育が量の追求から質の重視へと変化していく過程を象徴している。

 中国における高等教育事業は近年急速に発展している。1999年に始まった大学①の定員拡大以降、高等教育への粗進学率は大幅に上昇してきた。2008年には全国における各種高等教育機関の学生数は2907万人に、粗進学率は23.3%に達した。中国の高等教育が「エリート路線」から「大衆路線」へと変化したことを物語っている。中国の大学は定員拡大という合法的な手法で多額の学費や国家財政からの交付金を獲得してきた。大学の教育経費は収入総額という面では大幅に増加し、大学の運営条件は大いに改善された。しかし大学生が急激に増加したため、大学における教育資源の供給にひずみが生じ教育の質に疑問が投じられるようになった。国家による交付金や学生から徴収する学費によって大学の収入は増えたが、さまざまな基準により教育の質を検証してみるとどうだろうか。つまり数字で評価できる教育成果(知識、能力、技能、行動)を検証してみたところ、教育への投資が教育成果に直接つながることはなく、明確な因果関係もないことが明らかになった。投入資金は決定的な要素ではないのである。こうして教育投資と成果の矛盾が注目され、教育経費が「要所」である学校教育に使われたのかという疑問が浮き彫りになった。さらには多大な教育投資の何割が学校の教育活動のために使用されたのかと疑われるようになった。教育活動に従事する研究者、教育主管部門、学生や父兄などが一様に前述の点を憂慮しており、大学は定員拡大による質の低下を防止するため教学経費を充実させるべきだとの意見が出されるようになっている。

 これと並行して教学経費に対する研究者たちの関心が高まっている。教育の質を保証する教学経費(教学業務経費と呼ばれることもある)を重視するよう大学に呼びかけるため、異なる角度や手法で大学の教学経費に対する研究が展開されている。13の省・市における高等教育機関を対象として行われた定員拡大後の教育の質に関する調査によると、各省・市は定員拡大後に高等教育機関の土地、器械や設備、図書資料、実験室の建設、教育用コンピュータといった教育インフラに対する投資を拡大した。しかし問題点も多く教育上の必要を満たすまでには至っていない。相次ぐ定員拡大によって理想と現実の差は広がる傾向にある。河北省の場合、教育投資は拡大しているものの、ほとんどの学校において学生一人当たりの教学経費は年々下降している。一部の本科大学においては学生一人当たりの器械や設備は5000元分にも満たず、1380元という大学すらある。結果として超大規模なクラス、実験チームの人数倍増、実験プロジェクトの減少といった状況が見られる。多くの大学でデジタル閲覧室が導入されているが、利用可能な図書ソフトや設備は需要に追いつけていない。広西ではほとんどの大学において学生一人当たりの設備経費が国家基準に達しておらず、図書館の蔵書不足や低い更新率という問題が存在する。実験や実習の拠点や実験室が不足しているため、広西の一部大学では共同運営を採用しているほか、実験室や実習拠点を企業内に設ける場合もある。

 大学の定員拡大により、大学の教学経費が増大する学生の需要を満たせていないというのが事実である。結果として更新されるべき教育設備の継続使用、学生教員比率の急速な上昇、学生一人当たりの教育資源の低下などが教育の質を直接的または間接的に悪化させている。高等教育における規模の拡大は、教育経費水準の引き上げに根ざしているべきである。学生一人当たりの教学経費を底上げしなければ、大学教育の質は大幅に低下することだろう。

 こういった時代背景の下で、「教学経費」という言葉が大学経営者、教育研究者、各界の専門家たちの間で頻繁に語られるようになった。「教学経費」の意味するところは定かではないが、教学経費と教育経費の間に必然的な関連が確立していることは確かだ。「教学経費」は大学教育の質を保証するという新時代における使命を担っている。

2.教学経費に対する評価および効果

 教育の質を高めるため中国教育部は2003年に周期的な教育業務評価制度を導入した。また「一般大学における本科教育業務の水準評価方案(試行)」(以下「方案」と称する)を制定した。2004年にも特別チームを組織し2002年に制定された「方案」を修正した。修正版「方案」は特に「教学経費」基準に対する規定を追加している。「方案」は「学費収入を四大教学経費(本科や専科の業務費、教育出張費、スポーツ振興費、教育器械・設備のメンテナンス費)に振り分ける割合」や「学生一人当たりの四大教学経費の増加状況」という二つを設定している。そして「四大教学経費が学費収入に占める割合」に関する対応する基準(人材育成に関する需要を十分に満足するAクラスは25%以上、人材育成に関する需要を概ね満足するCクラスは20%~23%)を規定している。また「学生一人当たりの四大教学経費」を持続的に増加(Aクラス)または維持(Cクラス)するように規定している。中国政府は「教学経費」の投入比率を比較することによって大学の運営水準を評価しようとしている。大学が教学経費を重視して大学運営の質を向上させるよう導く狙いである。教育部の部長である周済氏は、しばしば次のように語っている。「経費の投入は各レベルの指導者がいかに教育業務を重視しているかを明らかにする「試金石」である。各レベルの教育行政部門や各高等教育機関の責任者が教育業務を重視しているかは、教学経費の投入状況を見れば分かるだろう」。

 さらに教育部は「高等教育機関における本科教育業務を強化するための若干意見」と題する1号文書(教高[2005]1号)を通達し、教学経費の投入比率に対して人為的な調整を実施した。従来の基準は合理的な範囲で調整され、Aクラスの基準は従来の25%から30%へ、Cクラスの基準は従来の20~23%から25%へと引き上げられた。教学経費への投資が非常に重要視されている結果である。同文書は各大学に対して教育の実際的需要に対応するため教学経費を拡大するよう明確に要求している。大学は経費の支出割合を見直し、教育業務を重視した教学経費の増大に努める必要がある。教育部は各高等教育機関における教学経費の投入状況を定期的に公表すると共に、教育業務を評価するための重要な基準としている。

 教学経費に対する評価は同経費の増大を大いに促進してきた。大学における教育環境は著しく改善されており、教育の質が積極的に保証されている。2003年に始まった5年間の第一次大学教学評価によって、592の一般大学が相次いで評価を受けた。多くの大学が評価過程を契機として、政府からより多くの交付金を獲得し抜本的な予算拡大に成功した。また支出割合を積極的に調整することによって意識的に教学経費に振り分ける資金を増やすようになった。経費は教学に使うことが保障された。特に一部の地方大学の中には、教学経費に対する評価を通して過去の損失の穴埋めや教学経費の新設に成功したところもある。教育環境は大いに改善され、ハード面やソフト面における底上げが急速に実現した。2006年に評価に参加した133の大学の場合、最近3年間における学生一人当たりの教育施設、宿舎、運動場の面積が累計で平均20%も増加した。また学生一人当たりの四大経費、学生100人当たりのコンピュータ台数、学生一人当たりの教育・科学研究用器械の設備評価額が累計で平均30%以上も増加した。さらに学生100人当たりのマルチメディア教室や視聴覚室の座席数および学生一人当たりの新書購入数は累計で平均60%以上も増加した。2006~2007年には合わせて331の大学が評価を受けた。これらの大学における学生一人当たりの教学経費、器械の設備評価額、図書数量、実験室面積などの増加率はいずれも30%を超えた。これは評価業務を開始する前の数倍もの数値である。教学経費に対する評価は大学教育の質を引き上げる上で大きな役割を果たしているのである。大学生数の急激な増加を考えると、教学経費に対する評価がなければ恐ろしいことになっていたであろう。

3.教学経費の評価に関する理性的考察

(1)教学経費基準における問題点

 教学経費の金額を基準として教育の質を評価するという手法は健全な思惑に基づいていた。表面的に見れば両者の因果関係は明白である。しかし実際の運用過程においては幾らかの問題点が存在する。

1. 不正確な統計結果

 教学経費とは何か、どうのように教学経費を定義するかという問題は解決に至っていない。専門書の中にも教学経費に関する定義は見当たらない。教学経費の意味が確立していないため、教学経費の構成や線引きが不明瞭となっており、統計結果を不正確なものにしている。

 中国における大学本科教育の業務水準に関する評価方案において、教育部は「四大教学経費」の評価基準を定めている。しかし評価専門家から大学管理者に至るまで教学経費の統計範囲や統計基準を熟知していない。統計に入れるべき項目が何か、統計に入れるべきではない項目は何かについて明確で科学的な基準がないのである。大学と評価専門家による統計結果が往々にして一致しないのは、両者の同基準に対する理解に差があるからだ。自己評価において大学は教学経費が教育部の定める基準に達するように何とか関連のある項目を計算に入れようとする。しかし専門家は現地評価において多くの費用を対象外にしてしまう。特定の項目を統計対象に入れるかどうかについて、各専門家の意見も一致していない。筆者は西南大学評価事務所で業務に参加したが、教学経費の統計の難しさを思い知らされた。統計範囲に対する異なる意見にも悩まされた。多くの権威ある評価専門家に問い合わせてみたが、回答はいずれも「担当の評価専門家が大学の実情に合わせて確定する」というものであった。彼らでさえ明確な答えを持っていないのである。大学の実情に合わせて「確定」するとは、専門家によって確定する結果が異なることを意味している。別の大学に対する評価過程でも同様の問題が発生している。

 実際のところ四大経費は旧国家教育委員会が1988年に制定した「高等教育機関の会計制度」における会計科目から抜粋されたものである。1998年に教育部と財政部は「高等教育機関の会計制度(試行)」を公布したが、教学経費に関するリストはない。言い換えれば四大経費は十数年前の会計科目に基づいて選別されたものである。なぜ前述の4項目が選ばれ他の項目は選ばれなかったのか、なぜ1998年以降の会計科目から選定しないのかなど、今となっては知る由もない。現行の大学財務制度において「教学経費」科目が欠落していることも統計を不正確なものとしている大きな原因である。財務の常識から考えれば、教学経費は非常に重要な財務データであり、その収支は財務データの中で明確に区分されていなければならない。しかし中国の大学における財務諸表には、現在に至るまで教学経費という科目が存在していない。不明瞭で拡大解釈の可能な教学支出という項目があるだけである。地方の大学は概ね企業の会計諸表を採用しており、教学支出という科目さえ存在しない。大学校長から財務責任者に至るまで教学経費の具体的な投入状況や支出金額を正確に把握していない。教学経費に関する明細表など存在しないのである。

2. 非科学的な評価基準

 「教学経費」を基準として教育の質を評価することは教学経費と教育の質の間に見られる線形的な関係に根ざしている。すなわち教学経費への投入が多いほど教育の質も高くなる。逆に教学経費への投入が少ないほど教育の質も低下する。このため教育の質を向上させるために、大学は教学経費を増大させるしかない。

 近年中国が制定した「教学経費」に対する評価基準がすべての教学収支を対象としたものではなく、前述の4項目のみを対象としていることを思い出していただきたい。これらの経費の増加が教育の質を向上させる効果があることは疑いようがない。しかし四大経費の用途を考える際、教育の質との明確な関連性を説明するのは難しくなる。例えば「教育出張費」の増加が教育の質を高めると言い切れるだろうか。国内における教育交流、討論会、研究会のために費やされる出張費は国外のものと比べると格段に安価であるが、教育の質に対する影響力は侮れない。「教育用器械・設備のメンテナンス費」も疑問点が多い。メンテナンス費が高くつけば教育の質が向上すると言えるのだろうか。目まぐるしく新製品が登場する時代において教育用器械・設備の更新速度も非常に速くなっている。器械のメンテナンス費用が新製品に買い替える費用と変わらないことも多々ある。こういった状況が多くの大学で見られることが調査で明らかになっている。大学業務においてメンテナンス費はわずかな費用であり、今後とも少なくなっていく傾向にある。このことが大学の教育投資に関する事実を正確に表しているわけではなく、教学経費に対する熱意を証明する基準とは言えない。「スポーツ振興費」や「本科や専科の業務費」にも類似した問題が存在しており、大学の教育投資に関する状況を総合的に表しているとは言えない。すなわち四大経費が多ければ教育の質も高くなるという結論は正確ではなく、「四大教学経費」によって教育の質を押し量ろうという目的も非現実的である。

 教学経費と教育の質にある論理的関係に基づく評価は、最終的な目標として教学経費を継続的に増大するよう大学を促すという効果がある。決して教育主管部門の定める基準をクリアするだけと言うわけではない。しかし各大学の実情を観察すると、大学校長の主要な関心は健全な大学運営にあるようだ。科学研究環境の改善、博士学位コースの開設、大学のシンボル的建物の建設、学校規模の拡大といった速効性のあるプロジェクトに経費を重点的に投じる傾向がある。一連の大学評価報告によると、教学経費は規定に従って基準に達しているものの段階的に増加しているわけではない。インタビューを通して大学が予算を編成する際に次のような原則があることが明らかになった。第一に黒字確保、第二に建設重視、第三に発展を目指す。各大学は「教学経費」が潜在的な項目であると考えている。教育を健全に進めることができる限り、経費の増減が大学の質や発展に根本的な影響を与えることなどないと考えている。こうして必然的に大学の健全な運営や建設プロジェクトに重点が置かれ、余力の範囲内で教学経費を検討するという状態に陥っている。

(2)教学経費に対する評価の存廃

 教学経費の基準には疑問点が多く、評価過程においても数多くの問題が存在する。加えて大学の中には教学経費の基準を満足するために資料を捏造することさえある。教学経費評価におけるマイナス面を危惧し評価の存続に異議を唱える専門家も現れている。実は、海外の大学の評価基準システムを見ると、イギリスの「タイムズ紙」や「タイムズ・高等教育情報誌」が1986年に始めたイギリス大学ランキングおよび「USニューズ&ワールド・レポート」による全米大学ランキングといった外国の大学評価基準を整理してみても、「教学経費」という特殊な評価基準などは見当たらない。中国の大学に対する次世代の評価体系において、教学経費評価を存続させるべきかについて軽率に判断を下すことはできない。中国における大学の実情に照らし合わせて真剣に検討しなければならない。

 近代の歴史において中国の大学はわずか数年で「エリート路線」から「大衆路線」への転換という困難で特筆すべき目標を達成した。2008年における大学生数を見てみると、中国は名実ともに高等教育大国となっている。高等教育を受ける人の数が飛躍的に増大するに伴い、中国政府も大学事業に多大な資金を投じるようになっている。しかし運営資金不足に悩む大学は珍しくはない。

 2007年における国内総生産は24兆9529億9000万元だった。国家予算として拠出された教育経費は国内総生産の3.32%を占めた。前年の3%に対し0.32ポイント上昇したことになる。全国の一般高等教育機関における予算内事業費の支出額は、学生一人当たり6546.04元であった。これは前年の5868.53元に対して11.54%の増加である。全国の一般高等教育機関における予算内公共費の支出額は、学生一人当たり2596.77元、前年の2513.33元に対して3.32%の増加である。表面的に見れば中国の高等教育経費は増加傾向にある。しかし国家予算の3.32%を占める教育経費のうち、いくらが高等教育のために用いられたのかは分からない。また大学に交付された経費のうち、いくらが教育のために運用されたのかも定かではない。中国の大学が普遍的に経営難であるということは否定できない事実である。一部の大学は銀行から融資を受けながら運営を続けている。教育部官僚であると共に国家教育発展研究センターの主任を務める張力氏は、大学に対する政府の投入資金が少ないと公言していた。同氏は次のような比較データを提供している。2006年における大学経費総額のうち、42.6%が政府からの交付金である。非政府機関からの収入は57.4%であった。経済協力開発機構(OECD、アメリカ、イギリス、フランスなど30カ国で構成する国際機構)に所属する国々では、79%が政府からの交付金である。非政府機関からの収入は21%であった。一部のOECD非加盟国においても64%が政府からの交付金である。非政府機関からの収入は36%であった。近年政府は高等教育に対する資金投入を増大しているが、大学の教育経費が多くなって、消極的な姿勢は根本的に変わっていない。

 また大学生による学費滞納もますます深刻になっており、元来経営が苦しい大学の財政的圧力となっている。大学の定員拡大によって非常に多くの学生が高等教育を受けることができるようになった。しかし中国における都市と農村の格差は深刻であり、経済レベルの発展もアンバランスとなっている。相当数の困窮学生が高い学費を支払えない状況にある。報道によると某省の大学生による未払学費が3億元に達しているという。ほとんどすべての大学において学費滞納が多かれ少なかれ存在する。

 以上のことを考えれば、中国の大学が短期間で資金難を克服することは難しい。この点で中国の大学が外国の大学と大きく異なっている。将来的に正面から向き合わねばならない問題である。学生数の増加と教育・教学資源の逼迫という矛盾は今後も長期的に存在するだろう。

 中国の大学は運営資金の面で余裕がないため、大学経営者は限られた運営資金を短期的かつ経済的で速やかに効果が期待できるプロジェクトに投じようとする。潜在的な教学経費に対する投資は疎かになり、教育環境の改善や優秀な教師陣の育成なども軽んじられる。中国における大学運営資金をホールケーキに例えるなら、大きさの決まったホールケーキは教学経費や非教学経費といった、異なる大きさの部分に切り分けられる。非教学経費が大きくなれば教学経費は必然的に小さくなる。大学経営において人件費、ガス、水、電気、空調といった公益費は節約のしようがない支出である。これらは大学を健全に運営するために絶対必要な条件である。節約が可能なのは教学経費しかない。教学経費に関する基準を掲げることによって制度として優先的に教学経費というケーキを切り分けることができる。残されたケーキをどのように配分しようが教学経費という部分には大きな影響は生じない。同基準の導入は大学校長による従来の経費配分方式を徹底的に改めさせた。一部の大学は検討していた拡大計画の撤回や各分野における経費削減に踏み切ってでもトップダウン的に教学経費を確保するようになった。同基準は大学が限られた経費を優先的に教学経費のために取り分けるように、また教学経費を重点的に確保するように導いている。中国の大学における主要な役割を確立する上で大きな効果を上げていることに間違いはない。

 教育の質を重視することは中国の大学にとって永遠の課題である。また中国の高等教育の発展過程における変わらないテーマである。教学経費に関しては多くの問題が存在するが、教学経費の強化によってもたらされる主要な効果は、後戻りのできない発展のために必須であることは疑いようがない。これこそが中国の大学における実情に合致した重要な手法であり、中国の大学経費の特徴と密接に関連していると言える。

(3)教学経費に対する評価を改善するための提案

 教学経費の評価における欠点として、第一に明確な定義付けがなく中身が不明瞭であるために生じる不正確な統計結果、第二に中身が不明瞭ゆえの非統一的な統計基準 を挙げることができる。今後の教学経費に対する評価において、継続的に評価の基準、形式、手法を改善し、教学経費が効果的に確保されるようにしなければならない。

1. 教学経費の費目を科学的に定義

 教学経費とその費目に関する研究を積極的に推し進め、正確で科学的な定義付けを行う必要がある。そうすれば経費と教育の関連性、さらには経費の増加と教育の質の向上との関連性を明白にすることができる。また大学の会計制度改革とも関連して教学経費の構成を正しく規定すべきである。何が教学経費で、何が非教学経費であるかが一目で分かるようになれば、統計基準は統一されるだろう。これらは教学経費の評価を実施するための前提条件である。

2. 教学経費に関する基準の法制化

 以前の大学運営において教学経費が軽んじられてきたのは、主に基準が法制化されていなかったためである。国家が教育経費に関する基準を法制化したため多大な教育経費が学校に対して交付されるようになったが、どれだけの資金が教学経費に振り分けられたかは不明である。中国の大学における教学経費は依然として総経費という枠内に制限されている。つまり「状況に応じて判断」という原則の下で教学経費が配分されている。予算配分の過程において責任者は大学の健全な運営を第一に考える。次いで余力の範囲内で教学経費の増減を検討するのである。教学経費は大学教育における実際のコストを表しておらず変動性が大きいと言える。別の点として現行の教学経費に対する評価は、教育部からの1通の行政文書に基づいている。それは学費を基準としており、学費の25%以上とすることが定められている。大学は学費以外に政府からの多額の交付金や各界からの寄付などを受け取っている。これら資金の一部も教学経費に振り分けるべきである。教育こそが大学の主な役割なのである。前述の行政文書には法的効力がないことも危惧される。

 教学経費についても教育経費のような基準の法制化が必要である。筆者は教育部に委託された研究課題である「中華人民共和国学校法」および「高等教育機関の運営基準」を完成させた際、「中華人民共和国教育法」および「中国教育改革・発展要綱」を提案し国家予算における教育関連費の割合を規定した。今後登場する「中華人民共和国学校法」は、各レベルの学校が振り分けるべき教学経費の割合を規定すべきである。また教育コストに応じた教学経費の最低拠出基準を定め、大学経費の使用範囲や支出構成を規範化すべきである。大学が他の分野で費用を抑えてでも教学経費を確保するように指導しなければならない。法制化や制度化によって大学の各種支出を規制し、現在見られるような配分や支出における随意性を廃止する必要がある。

3. 全面的な監督制度の確立

 これまで大学の教学経費に関する具体的な金額は不明であった。投入額は大学経営者の判断に任されていた。投入資金が少なくても明らかにされることはなく、監督機関も存在しない。公共財産の運用原則に違反しているとしか言いようがない。

 周知のとおり中国の大学は学生から学費を徴収している。しかし大学の主な資金源は国家からの交付金である。公共機関である大学の財務は公共財産の部類に入る。大学財務は公共性を反映し、市民の意思や公共政策に根ざしているべきである。透明性が高い方法で公開され、民主的かつ法治的な手順で適正化されていなければならない。また各界からの監督を受けるような体制が必要である。「中華人民共和国高等教育法」第44条は、「高等教育機関における運営水準や教育の質は、教育行政部門による監督や同組織による評価を受けなければならない」と規定している。教学経費の投入を確保するために適切な監督制度を確立する必要がある。大学が十分な教学経費を投入するよう促すと共に、教育という主要な役割を果たしていくよう見届けるべきである。

 大学の教学経費の実態が公開されることによって社会全体から監督を受けるような多元的な監督制度を試してみるべきである。

 一つの要素として教師と学生による健全な監督制度を確立することができる。教師と学生は大学における二大利益主体であり、互いに直接の監督者でもある。特に中国の大学ではコスト分担制度を採用しており、学生は多額の学費を納めなければならない。学生は自らが納めた学費が教育のために用いられているかを監督する権利がある。

 別の要素として政府による健全な監督体制を確立することができる。政府は多額の交付金を高等教育の発展のために拠出しているが、大学側は学生を教育するために交付金を有効利用しているだろうか。政府は大学に対する主要な投資者として大学における教学経費の実態を監督すべきである。また得られた情報を社会に対して公表し、学生が大学を選択する際に参考にできるようにすべきである。さらに政府は大学に対して教学経費の金額に関する規定を満たすよう強制することによって、教学経費に関する基準を有効なものにできる。

 加えて市場による健全な監督制度を確立することもできる。中国では大学における本科教育の業務水準に対する評価を通して教学経費の運用状況を監督している。しかし評価主体が大学の主管機関である中国教育部であるため、政府主導による行政監督に属している。高等教育や高等教育機関は政府の行政力の管轄下にあり、政府が高等教育に関する資源の分配や教育の質に関する基準を管理している。現段階で大学に関する各方面の権利は市場に供給されていない。「選手が審判も兼ねている状態」であり、公正性の面では十分ではない。高等教育の分野においては真の市場競争が形成されておらず、インタビューに応じた大学も市場競争に伴う圧力、原動力、活力などを感じていない。大学は政府に対してのみ責任を負っており、学生や父兄の利益を十分には考慮していない。教学経費の基準への対応は数学的ゲームに過ぎず、学生が真の益を得るには至っていない。市場による監督制度を導入し、大学が市場の原則に基づいて教学経費への投入額を増大するよう促すべきである。大学が教学経費を重視することによって教育の質を向上させた場合、社会的評価が上がり同大学を選択する学生が増加するようでなければならない。また大学も多くの学生を引き付けることによって、より多くの交付金や学費収入を得られるようにすべきである。こうして良いサイクルが完成する。このようなサイクルこそが中国の大学における教学経費による評価が目指している最終的な目標である。

注釈:① 文中における大学とは本科以上の各種高等教育機関を指す。