第66号:感染症予防研究
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中国におけるヒトエンテロウイルス71型の研究

2012年 3月13日

李 琦涵

李 琦涵 (Li Qihan):中国医学科学院医学生物学研究所 所長

北京協和医学院教授、博士課程指導教員、雲南省重大感染症ワクチン研究開発重点実験室主任。1957年3月生まれ。中国協和医科大学、微生物学博士。1992~1995年、米国マサチューセッツ工科大学生物学科で博士後研究員。1998年、国家「百千万人材工程」の第一・第二段階に入選。2000年、中国協和医科大学、博士課程指導教員に招聘。主な研究分野はウイルス免疫学、ウイルスと宿主の相互作用、ウイルス性ワクチンの研究及び開発。これまでに国家「863」計画、国家自然科学基金、国家重大科学技術特別事業、国家重点基礎研究発展計画(973計画)、国家新薬研究基金等の事業、国家人事部・衛生部・教育部の事業、中米CIPRA事業サブテーマ等、20以上の事業を主宰。国内外の学術誌に論文150本以上を発表。専門書・訳書8冊を監修、専門書5冊の編集に関与。


郭 素傑(Guo Sujie):中国医学科学院北京協和医学院 博士、研究生

2006年、内モンゴル内蒙古医学院卒業、修士号取得(免疫学)。2009年~現在、中国医学科学院及び北京協和医学院免疫学、博士研究生。主に、ヒトエンテロウイルス71型の神経系への感染に関する研究に従事。

 ヒトエンテロウイルス71型(Human enterovirus 71,HEV71)は手足口病によく見られる病原体である。1969年に米国カリフォルニアで中枢神経症状を呈した乳児の糞便から初めて分離された。HEV71は一般的に症状は軽いが、重症化すると深刻な神経系感染や呼吸・循環機能障害を引き起こし、手足口病に罹患した子供の主な死因となっている。このため、ポリオウイルスが撲滅された現在、このウイルスは最も重要な向神経性エンテロウイルスと認識されている。近年、HEV71感染を主とする手足口病の大規模流行が東アジア、東南アジアで数回発生している。中国大陸では、手足口病は1981年に上海で初めて見られ、その後大多数の省で報告された。この多くは散発例で死亡例はなかった。その後は、1998年にHEV71が広東省で報告されたのを皮切りに、続く5-10年間は中国の南部の省でのみ流行した。2004年以降、HEV71の流行は加速し、中部・北部地域へ拡大した。2008年の流行が特に注目されたのは、HEV71が手足口病の大規模流行の主な病原体であり、5-11月に合計128人が死に至り、深刻な公衆衛生問題となったためである。2008年5月、中国衛生部はこのウイルスを丙類感染症に分類して管理することを決定した。

1. HEV71のゲノム及びゲノムコード産物の概括

 HEV71は小型RNAウイルス科エンテロウイルス属に分類され、ウイルス粒子は正二十面体の対称な立体球形構造を呈し、直径は20-30nmでエンベロープを持たない。ゲノムは一本鎖プラス鎖RNAで約7,404-7,406個のヌクレオチドを含む。HEV71のゲノムはヌクレオチド6,579個のオープンリーディングフレームを1個含むのみで、両側は5′/3′非翻訳領域(Untranslated region,UTR)で、3′末端にヌクレオチド82個のポリアデニル酸(poly A)尾部を1個持つ。宿主細胞の中で、ウイルスゲノムのRNAは、最初に2,193アミノ酸のポリプロテイン1個を翻訳し、その後翻訳されたウイルスのプロテアーゼが3個の前駆体タンパク質P1、P2、P3に切断され、さらに11種類の構造タンパク質または非構造タンパク質に加水分解される。このうち、P1前駆体タンパク質はウイルスの構造タンパク質VP1、VP2、VP3、VP4に最終的に分解され、4種類の構造タンパク質がバンニングされてウイルス外殻が形成される。P2前駆体タンパク質は最終的に2A、2B、2Cに、P3前駆体タンパク質は最終的に3A、VPg(3B)、3C、3Dに分解されるが、いずれもウイルスの非構造タンパク質である。

 HEV71の5′UTRには741-743個のヌクレオチドがある。この領域には6個のステムループ構造があると推測される。ステムループIはウイルスRNAの合成に重要であり、ステムループII-VIにはウイルスmRNAの翻訳を導くうえで重要な内部リボソーム導入部位(Internal ribosome entry sites,IRES)があり、これらステムループ構造の維持はウイルスの安定に重要である。2A、3Cタンパク質(2Apro、3Cpro)は小型RNAウイルスを翻訳するプロテアーゼであり、ウイルスのポリプロテインの切断と加工に重要であり、宿主のさまざまな機構も抑制する。HEV71の2Aproはプロテアーゼ活性のみならず、プロテアーゼ活性とは別に転写活性を持つ。3CproはRNA結合活性とプロテアーゼ活性の両方を同時に持ち、ウイルスのポリプロテインを酵素分解・加工できる上に3Dとの相互作用において5′UTRを助け、ウイルスのRNA複製に作用する。小型RNAウイルスの2B及びその前駆体2BCは、主にウイルスの初期エンドソームの複製及びウイルス粒子の形成に作用する。最近の研究によれば、EV71 2Bタンパク質にはイオンチャネルとしての特性があり、ウイルスの生活環に重要な役割を果たす。HEV71 3Dには、RNAに依存するRNAポリメラーゼ(3Dpol)活性があり、ウイルスの複製においてRNAの延伸を実現する。小型RNAウイルスの3A及びその前駆体タンパク質3ABは、主にウイルスのRNA複製に作用する。VPgはウイルスのプラス鎖RNAの5′末端と結合することから、プラス鎖及びマイナス鎖RNAの合成によるプライマーである。3′UTRはマイナス鎖RNAの合成の起点からpolyAと関係する。

 ウイルスのVP1遺伝子配列に基づき、HEV71はA、B(B1-5)、C(C1-5)の3つの遺伝子型と10個の亜型に分けられる。1998年~2010年の中国大陸のHEV71流行は2つの段階に分けられる。すなわち、1998年~2004年の深セン及び上海の分離株はクレードC4bに分類され、発症率及び死亡率のいずれも低く、クレードC4bの消失とほとんど同時にクレードC4aが出現し、2003年から流行し始めた。2003年~2004年は、クレードC4bからC4aへの転換ステージである。HEV71は変異し続けるウイルスである。研究の結果、1997年以降のアジア太平洋地域におけるアウトブレイクの大部分のウイルス株、すなわち遺伝子型B3、C2、B4、C4には、型を越えた、及び/または同じ型の中での遺伝子再構成が生じている。再構成時に切断される遺伝子座はランダムに生じるものではなく、国・地域の分離株により異なる。また、遺伝子領域には再構成ユニットとして再構成し得るものもある。再構成は、新たな遺伝子座を獲得して高い多様性を持つ最も速い方法であり、ウイルスの特性(感染特性及び病原性)を変化し得る。再構成以外では、台湾の研究者が1998年から2003年の流行株を研究して配列のドリフト現象(他のウイルスから1組のヌクレオチド配列を獲得すること)及び陽性選択現象を見出した。陽性選択とは、新型ウイルス発生のもう一つの重要な機構である。HEV71の5′UTR、ウイルス表面のたんぱく質のいずれもヒトが免疫を選択する上での目標となり得ることから、すでにVP1の陽性選択遺伝子座がいくつか発見されている。このほか、3Dpolの誘導による複製忠実性の低さもヒトにおけるHEV71流行の多様性の原因となっている。ゲノムの遺伝学的変異によりウイルスの抗原性が変化することは、HEV71がヒトの免疫力から逃れ、新たな流行を引き起こすのに有利と考えられる。

2. HEV71の感染機構の研究

 HEV71が細胞に進入するプロセスには、ウイルスの細胞表面への付着、レセプターとの結合、エンドサイトーシス経路を通じた取り込み等の段階がある。ウイルス感染の早期段階では、さまざまなタイプの細胞のHEV71レセプターがウイルスの細胞進入プロセスに関わる。2009年にはP-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(P-selectin glycoprotein ligand-1,PSGL-1)が、HEV71が白血球に感染する際のレセプターであることが報告された。これは、人体の各組織に広く発現するスカベンジャーレセプターB2(Scavenger receptor B2, SCARB2)がHEV71の全身感染を引き起こすレセプターである可能性を示唆する。また、シアル酸(2,6)連結ガラクトース(Sialic acid (2-6)-linked galactose, SA-α2,6 Gal)はHEV71の胃、腸管、呼吸器官への感染レセプターであることも示している。HEV71の感染初期に、クラスリンに導かれるエンドサイトーシスはHEV71のエンドサイトーシスの主な経路である。エンドサイトーシスの過程においては、エンドソームの低いpH値がHEV71の進入に重要であり、エンドサイトーシス小胞の酸性化作用によりウイルスのカプシド転移が引き起こされ、かつ、ウイルスのRNA放出を触発して細胞質に進入し、HEV71RNAの複製が始まる。最近の研究により、ヒトの細胞表面のAnnexin II蛋白はカプシドVP1を介してHEV71ウイルス粒子と結合し、EV71感染を促進し得ることが見出されている。

 ポリオウイルスが細胞に感染する際は粗面小胞体、ゴルジ体、リソソーム膜の再構成による小胞形成を誘導することができ、これがウイルスRNAの合成場所となる。HEV71も類似の機構を利用してゲノムRNAの複製を行うことが推測される。研究によれば、HEV71は細胞感染後にオートファジーを誘導し、細胞質に大量の自食胞及び自食胞様小胞を集め得ることから、自食胞様小胞もHEV71の複製領域と考えられる。また、EV71 2CのN末端もRNAとの膜結合活性が存在し、小胞体膜上のRTNを構成するReticulon3と相互に作用し、かつ、ウイルスRNAと結合して複製複合物を形成するため、HEV71の早期複製と翻訳において必須である。台湾の研究者は、HEV71 5′UTRと相互作用を持ち得るタンパク質11個を鑑定した。その結果、このうちN-ras上流タンパク質(N-ras upstream protein,Unr)、Poly(rC)結合タンパク質(PCBP) 1、2及びポリピリミジントラクト結合タンパク質(Polypyrimidine tract-binding protein,PTB-) 1、2は、小型RNAウイルスの5′UTRと相互に作用してウイルスの複製を調整し得る。ヘテロ核リボヌクレオタンパク質(Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein,hnRNP)Kは、HEV71 5′UTRのステムループI-II、IVとの相互作用によりウイルスの複製に関与する。

 ウイルスのプロテアーゼはウイルスタンパク質の加工に非常に重要である。ウイルスもこれらプロテアーゼを利用して主な宿主のタンパク質を切断し、宿主の機構を抑制することで、宿主細胞の中で効果的な複製及び翻訳を行うことができる。感染初期の段階では、ウイルスのプロテアーゼ2Aproは真核細胞の翻訳開始因子eIF4GIを、3Cproは翻訳開始因子eIF4GIIを切断できる。3Cproはその前駆体----核局在化シグナルを含む3CD′または3CDを通じて細胞核に進入し、細胞DNAの複製と関係する酵素及びタンパク質を大量に切断することで核因子CstF-64を切断し、宿主のmRNA前駆体の3′末端の加工及びポリアデニル化を阻害する。これら作用を通じて、最終的には宿主細胞の遺伝子発現を抑制し、翻訳機構を遮断することは、ウイルスRNAによる、IRES誘導によるキャップ非依存性翻訳に役立つ。hnRNP A1及びFUSE結合タンパク質(Far upstream element binding protein,FBP)1、2はいずれもIRESトランス作用因子であり、hnRNP A1はHEV71 IRES依存性翻訳の開始と調整に関わる。FBP2は5′UTRステム-ループ構造のI-II領域、II-III領域、V-VI領域及び結合領域に作用し、HEV71 IRESのマイナス調節タンパク質と考えられる。FBP1はHEV71 5′UTRの結合領域にしか作用しない。

 HEV71は、さまざまな細胞のシグナル変換経路を標的にできることから、宿主細胞における生存と増殖に役立つ。感染の早期段階においては、HEV71はシグナル経路PI3K/Akt及びMAPK/ERKsをリン酸化し、下流のGSK3βを下方制御して宿主細胞のアポトーシスを回避させ得ることから、ウイルスの生存と複製に役立つ。MEK1-ERKシグナル経路はHEV71複製サイクルにおいても重要な役割を果たす。血管平滑筋細胞において、HEV71はp38MAPK、JNK、PDGFR/PI3K/Akt経路を通じてNF-κBの活性化を開始し、血管細胞附着分子-1の発現を誘導できることから、HEV71由来の血管炎で重要な役割を果たす。HEV71感染はE3ユビキチンリガーゼTRIM(Tripartite motif)38の分解を誘導し得ることから、感染に役立つ可能性がある。

 microRNAは、mRNAの分解またはmRNAによる翻訳の抑制により、ウイルス感染において重要な制御作用を果たす。HEV71に感染したHep2細胞においては、さまざまなmicroRNAが代謝、生体内作用、細胞間連絡、神経学的プロセス、免疫反応、細胞死/アポトーシス等を上方制御または下方制御している。

3. HEV71の神経系及び免疫細胞への感染に関する研究

 HEV71は気道、消化管及び密接な接触を通じて体のほとんどの組織器官に感染し得る。HEV71の感染による手足口病患者では、5歳未満の患者が無菌性髄膜炎、脳幹脳炎、小脳炎、急性弛緩性麻痺等の深刻な神経系合併症を引き起こしやすい。また、致死率の高い急性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群も、現時点では神経原性と考えられている。HEV71ゲノムの突然変異、再構成等の遺伝的変異によりHEV71の潜在的病原性が変化したことが、このウイルスの重症感染例が近年増加した原因だろう。分子疫学的解析の結果、重症感染との関係が考えられる遺伝子座がHEV71ゲノムからすでに多数見出されているが、裏付けにはさらなる実験及び臨床データが必要である。

 HEV71は直接感染または他の機構を通じて、神経系の炎症及び神経細胞の変性、壊死を引き起こす可能性がある。ウイルスは組織細胞を直接侵し、かつ大量の複製により細胞破壊をもたらす。重症患者では細胞の免疫機能のかく乱及びサイトカインの過度な発生を引き起こし、サイトカインの異常産物が中枢神経系の損傷における炎症反応の主な原因と考えられる。マウスの感染モデルでは、HEV71はマウスの脊髄、特に脊髄前角に感染し、その後逆行性軸索輸送により運搬され大脳に感染し、脳炎及び脳膜炎を引き起こす。Cdk5(サイクリン依存性キナーゼ5)はセリン/スレオニンキナーゼの一種であり、正常なニューロンの機能及び神経系の発育を調節できる上に、各種神経毒性による損傷において神経のアポトーシスを調節する重要な細胞のエフェクター分子である。HEV71はAblキナーゼの活性化によりCdk5をリン酸化かつ活性化し、神経細胞のアポトーシスを引き起こす。このようなアポトーシスの機構は神経細胞特異的である可能性があるため、HEV71感染の早期段階----ウイルスが宿主細胞の表面に付着したばかりの時点で始動する。神経芽細胞腫細胞株SK-N-SHの中では、リン酸化した非典型セリン/スレオニンキナーゼmTOR及びその標的タンパク質のp70S6キナーゼがHEV71によって誘導されるオートファジーと関係する。RTN族のメンバーRTN1CもHEV71感染ニューロンと関係するだろう。

 脳炎、脳膜炎等の急性中枢神経症の発症機構においては、シクロオキシゲナーゼ2及びその代謝産物のプロスタグランジンE2が神経毒性の主な媒介である。ラット大脳のアストロサイト中では、HEV71はc-Src、PDGFRを媒介してPI3K/Akt、MAPKシグナル経路を活性化し、炎性媒質を生じることで神経系に損傷をもたらす。一方、神経芽細胞腫細胞株SK-N-SH中では、HEV71はMEK1/2-p42/p44 MAPKカスケード反応によりNF-κBを誘導し、JNK依存バイパスにAP-1を誘導し、c-Src/EGFR/p42/p44 MAPK経路を介してCREB及びp300の活性化を誘導し、かつ、p38 MAPK下流の未知のルートを通じてシクロオキシゲナーゼ2遺伝子の発現を誘導し得る。HEV71はさらに、インテグリン(integrin)β1、上皮成長因子受容体(EGFR)、Rac1、NADPHオキシダーゼを介して酸化ストレスを誘導し、ウイルス性脳炎を含むさまざまな疾病の病理プロセスに関与する。

 HEV71は、免疫細胞、リンパ節、脾臓等の免疫器官に感染し得る。上述の白血球、樹状突起細胞以外にJurkat T細胞でもHEV71はFasLを増殖させT細胞のアポトーシスを発現かつ促進し得る。HEV71は単球細胞株THP-1に感染し得るが、亜中和濃度の抗-HEV71抗体の存在下では、Fcγレセプターは抗体依存性増強作用を導いて単球細胞に対するHEV71の感染性を拡大し得る。レチノイン酸誘導遺伝子−I(Retinoid acid-inducible gene I,RIG-I)は、RNAウイルスに対し免疫識別を行う際に重要な細胞内モデル識別レセプターであり、I型インターフェロンの反応を励起してウイルス免疫を誘導し得る。HEV71の感染の際、3Cproは機能性RIG-I複合物の立体配座を破壊し、かつ、IRF9を切断してI型インターフェロン媒介による自然由来の抗ウイルス免疫反応を抑制するため、ウイルスの複製に役立つ。3Cproはさらに、アダプタータンパク質TRIF(TIR domain-containing adaptor inducing beta interferon)を介してTLR3の媒介する抗ウイルス免疫反応を抑制し得る。

4. HEV71の予防・治療に関する研究

 HEV71の流行に対しては、効果的な予防及び治療措置が迫られており、治療に使える医薬品がすでに何種類か開発されている。①ライノウイルス3Cpro抑制剤Rupintrivir(AG7088)はHEV71に対しても一定の抑制効果を持つが、最近の構造研究によれば、RupintrivirのC末端とEV71 3Cproは互いに適応しないことから、Rupintrivirにさらに修飾を施せば、HEV71治療に臨床使用できるかもしれない。②中国科学院の研究者はキク科ヒレギク属植物ラゲラプテロドンタ(Laggera pterodonta)の葉から抽出した2種類のO-メチル化フラボノイド、クリソプレネチン(chrysosplenetin)及びペンデュレチン(penduletin)がEV71に強い抑制作用を有し、作用機構がウイルスのRNA複製抑制と関係することを発見した。③中国医学科学院の研究者はヒガンバナ科のアルカロイド、リコリン(Lycorine)がHEV71ゲノムの翻訳段階におけるウイルスのポリプロテイン延長を抑制し、ウイルス感染による細胞変性効果(CPE)を軽減し、感染マウスの死亡率を下げることを見出した。④台湾の研究者は漢方生薬、七葉一枝花(シチヨウイッシカ)(Paris polyphylla Smith)にHEV71に対する抗ウイルス複製効果があることを見出した。IC50はリバビリン(Ribavirin)の12.5-23%であった。

 効果的な抗HEV71薬剤はまだ存在しないため、効果的なワクチンの開発が制御措置における最初の選択である。1975年、ブルガリアでHEV71が流行していた間にHEV71の全ウイルスを用いた不活化ワクチンが製造された。このワクチンは1-4歳の子供に良好な耐性及び免疫原性を付与した。しかし、この地域ではその後大規模流行が発生していない上に、ワクチン抗原に対する標準実験を定量化していないため、臨床効果に対するさらなる評価はまだ行われていない。近年、ウイルスタンパク質VP1を主な免疫原とする再構成ワクチンやウイルス様粒子ワクチン等も多くの研究機関により研究されているが、いずれも抗原性は不活化ワクチンに及ばない。2010年末、中国食品薬品検定研究院が構築したHEV71ワクチンの抗原含有量及び中和抗体標準を基礎に、中国食品薬品監督管理局(SFDA)は、当該機関を含む3団体によるHEV71ワクチンの臨床研究入りを承認し、現在はいずれも第2期臨床研究段階に入っているが、HEV71は亜型が多く、この20年で急速に変異している。一方、不活化ワクチンは往々にして同じ型のウイルス感染にしか効果を発揮せず、異なる型のウイルスに対する効果は劣る。異なる亜型のHEV71間にも交差抗原基は存在することから、交差保護は可能ではあるが、ウイルスの変異に対する研究を強化し、抗原性及び遺伝学的変異を明らかにし、感染の進展や株の変異に伴い、ワクチン株を更新する必要がある。