第115号
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ナノバイオテクノロジーの医学における応用(その2)

2016年 4月27日

楊慧:河北大学基礎医学院

丁良:河北大学基礎医学院

岳志蓮:Intelligent Polymer Research Institute, University of Wollongong

その1よりつづき)

1.1.1 ナノ医薬品のタイプ

 以下の部分では主に高分子ナノ医薬品について紹介する。現在のところ、ナノ医薬品の輸送に用いられるキャリアは主にポリマーである[12]。ポリマーには主に以下の長所がある。すなわち、分子量が大きく、EPR効果があるためキャリアとして用いると薬物を病巣に長時間留めることができ、薬効を延長することができる。ポリマーの物理的・化学的性質及び自己分解能を調節することで薬物の徐放又は放出制御の目的を満たすことができる。機能化しやすく、標的作用又は放出制御機能を持つ成分をポリマー粒子の表面に結合させることができる。また、調節可能な生分解性により、薬物放出後の高分子キャリア材料が臓器内で蓄積されることによる副作用を回避することができる。

1.1.1.1 ポリマー結合薬剤

 ポリマー結合薬剤は高分子プロドラッグとも言い、その生物活性は結合する低分子薬剤が病巣で適切な時間に放出されるかどうかによって決まる。従来の低分子医薬品は、水中溶解性や安定性に劣り、体内で迅速に分解され、副作用が大きい等、投薬過程で多くの問題に遭遇した。ポリマー結合薬剤では化学的架橋の安定した薬物分子を採用し、低分子医薬品を分解可能な化学結合によってポリマーの骨格に結合させることで、ナノ粒子の体内循環において不必要な薬物漏出を効果的に回避することができる。また、例えばpHや酵素等に敏感な化学結合等、病変部環境に敏感な様々な化学結合を選択することで、腫瘍組織又は腫瘍細胞内の放出制御性を実現できたことは、物理的相互作用によってキャリアを封入するナノ医薬品にさらなるアドバンテージを付与した。よく見られるポリマーの骨格には、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグルタミン酸(PGA)及びN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)がある。Duncanら[13]はHPMA結合抗腫瘍薬を開発し、現在、臨床試験のフェーズ1とフェーズ2の段階にある。化学療法に用いる薬物は、Gly-Phe-Leu-Gly結合をポリマーの骨格に付与したものである。細胞内リソソームの酵素分解作用により、結合された抗腫瘍薬が効果的に放出され、細胞内に薬を届けるという要求を達成する。また、ポリマーの骨格にgalactoseを結合させるとこれらナノ医薬品の肝臓標的性を効果的に高めることができる[14]

1.1.1.2 ポリマー・タンパク質結合体

 ポリエチレングリコールと多糖は、高分子タンパク質共有結合体の作製によく用いられる。FDAの認可を受け、臨床で使用できるポリマー・タンパク質結合体のほとんどはポリエチレングリコールで作製されたものである(PEGylation)。PEGylationはタンパク質の水溶性及び安定性を高めることができ、それに相応する免疫原性及び抗原性を低減することができるため、体内における薬物の循環半減期を延長することができる[15,16]。例えば、ロシュ社の生産するPEGasys®(Peginterferon Alfa-2a)は血清中インターフェロンの半減期を50~70倍高めることができる[17]。高分子タンパク質結合体の作製方法には、官能基を有する高分子鎖とタンパク質の活性部位を直接連結する方法と、タンパク質との特異的結合作用を持つ分子をまずは共有結合によって高分子と結合させ、それから高分子とタンパク質の特異的結合を実現する方法とがある。現在、焦点となっているテーマの一つは、治療作用のあるタンパク質と触媒作用のある酵素等の生物特異性タンパク質について、高分子と結合した後にいかに生物学的機能を維持するかという問題である。

1.1.1.3 RNAナノ粒子

 医薬品開発の歴史を振り返ると、化学薬品とタンパク質医薬品はすでに地位が確立しているため、RNA医薬品又はRNAを標的とした医薬品の開発が第3のマイルストーンとなるだろう。RNAは、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)により構成されるリボ核酸高分子である。ワトソン・クリック型DNA塩基対(A-T,G-C)の二重らせん構造と異なり、RNAの二次構造には二重環相互作用のような非典型的な塩基対がしばしば出現する。ボトムアップ方式である「自己組織化」技術にはテンプレート法及び非テンプレート法が含まれ、これら技術を通じて、RNA分子は生物学的機能を持ったさまざまな種類のナノ構造を構築することができる。RNAナノ治療薬の特異性は、そのフレーム、リガンド及び治療剤のいずれもRNAで構成されている点であり、その均一なナノスケールサイズや良好な生体適合性、低毒性及び標的特異性により、人体内での応用に有利な上に正常な臓器内で蓄積しない[18]ため、がん治療の参考となる知見を提供している。

 Guoら[19]は1986年にPhi29 DNAパッケージングモーターを構築し、これは現在のところ、最も強大なバイオモーターとなっている、1987年、Guoら[20]はPhi29バクテリオファージにおいてpRNA(Packaging ribonucleic acid,pRNA)によって駆動されるナノモーターを発表した。このナノモーターの機能はDNAを封入し、かつ、DNAをウイルスカプシドに輸送するというもので、ATPはこれらRNAモーターにエネルギーを提供する。その後、Guoの研究チームはpRNA分子を改造することで二量体、三量体及び六量体のナノ粒子を構築できることを証明し、これによってRNAナノ技術が開拓された[21,22]。この技術を利用して、当該研究チームは一連の多機能RNAナノ治療薬を開発した。これら治療薬は腫瘍の標的治療に使用できる上に、正常な組織を損傷しない。例えば、Rychahouら[23]はPhi29バクテリオファージから派生し、その複製DNAによって新たなバクテリオファージと関係するRNAモーターをパッケージングしたもの(packaging RNA)のコードDNAにより形成される、3つのチャネルの交差する多機能ナノ粒子を作製し、これらのDNA構造により形成されるナノ粒子を用いて結腸がん細胞の転移があるマウスモデルを攻撃した結果、これらの多機能ナノ粒子により結腸がん細胞の転移を治療できることが分かった[23-26]。Haqueらはさらに構造を改変させたRNAフラグメントを利用して、4つもの治療及び診断モジュールを持たせ、超安定性X型RNAナノ粒子を構築した。これらRNAナノ粒子にはサイレンシング遺伝子の低分子干渉RNA、遺伝子表現を制御するmicro-RNA、がん細胞を標的とするアプタマー、又は化学反応を促すリボザイムを組み込むことができる[27]

1.1.1.4 固体ポリマーナノ粒子

 固体ポリマーナノ粒子の作製方法は、モノマーを重合させてポリマーナノ粒子にするものと、ポリマーを作製した後に分散・自己組織化を経て固体ポリマーナノ粒子を形成するものがある。よく見られる高分子キャリアにはポリ(アルキルシアノアクリレート)、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-グリコール酸)、並びにキトサンやアルブミン等の天然の高分子化合物がある。薬物は物理的吸着又は化学的結合によりキャリアに導入される。Abraxane®はFDAの認可を取得した初めてのポリマーナノ粒子医薬品であり、乳がん、肺がん及びすい臓がんの治療に用いられ、アルブミンナノ粒子と結合したpaclitaxelにより組成され、大きさは約130nmである[28]。ポリマーナノ粒子には薬物キャリアとして生体適合性と生分解性が要求されるほか、単分散性も良好でなければならない。ナノ粒子の表面にPEGをグラフトすると分散性と体内循環の安定性を効果的に強化できる。このほか、多機能ナノ粒子を開発して標的指向性を高めることも研究の焦点となっている。

1.1.1.5 高分子ナノミセル

 低分子界面活性剤により形成される一般的なミセルは安定性に欠け、ドラッグデリバリーには適さない。一方、高分子ナノミセルは封入できる薬物量が多く、薬物の範囲も広く、安定性に優れ、体内の滞留時間が長い等の長所がある[29,30。難溶性薬物、高分子薬物及び遺伝子治療薬によく用いられるキャリアで標的指向型ドラッグデリバリーを実現できるものには幅広い応用が期待されている。高分子ナノミセルは、一般的には親水部と疎水部を持つ両親媒性ブロック共重合体が水中で自己組織化されることによって形成されるナノサイズのコア・シェル型ミセルであり、大きさは約20-100nmである。親水部の多くはPEGにより、疎水部の多くはポリ乳酸、ポリプロピレングリコール、ポリアミノ酸により組成される。現在、少なくとも6種類の高分子ナノミセルによる抗腫瘍薬の臨床研究が行われている。

 ナノ医薬品は将来性の大きい新型医薬品であり、疾病診断と治療の面で必ずや医薬分野に革命をもたらすだろう。だが、ナノ医薬品の基礎理論と製造技術は現時点ではまだ整備されていない。基礎理論においては、体内の組織分布、薬物動態学及び薬効、並びに薬物とキャリアの化学構造及び物理的性能の相互関係等を含むナノ医薬品の体内挙動に関する綿密かつ系統的な研究が不足している。また、製造技術に関しては、取り扱いが便利で、コストが低く、工業化が容易で拡大生産がしやすく、製品性能が安定している必要がある。このため、医薬分野におけるナノ技術にはさらに大量の研究が要求される。将来的には、薬物封入量の増加、標的指向効果及び薬物放出能力の向上、薬物過敏症の軽減等における研究が期待される[31]

1.2 ナノバイオ医用材料

 ナノバイオ医用材料はナノ材料とバイオ医用材料とをかけあわせたもので、ヒトのリハビリ過程において重要な役割を果たす。ナノバイオ医用材料は、創傷被覆材や人工皮膚、人工血管及び再生医療足場材料、組織修復のための高機能材料、臓器置換といった臨床上の差し迫った必要を解決することが予想される[32-34]上に、応用面ではすでに大きな潜在的価値があることが明らかになっている。

 足場材料は再生医療で重要な役割を果たす[35]。天然の細胞外基質構造を模倣して作製されたナノファイバー生分解性材料はすでに再生医療における修復及び再生で応用され始めている。軟骨の再生機能は有限であるため、軟骨再生医療の発展、特に高齢化社会により増加傾向にある大関節の骨関節炎分野[36]における進展には重要な意味がある。嵇偉平ら[37]は塑性変形及び化学処理の方法を採用してTi6A14V合金上に新型の多孔性ナノ結晶を作製し、in vitro実験によりナノTi6A14V合金表面における骨芽細胞の付着状況を研究した。その結果、一般的なチタン合金に比べ、ナノ表面のチタン合金では早くから骨芽細胞の仮足の伸展が良好であり、骨芽細胞の緊密な付着と早期融合を促し、細胞付着と関係するIntegrin β1のパフォーマンスも一般的なチタン合金より優れ、人工関節等の埋め込み型医療機器分野へのナノ技術の応用に新たな方向性をもたらした[37]。さらに、ナノ人工骨材料の体内埋め込み[38]によりさまざまな種類の骨欠損を穴埋めすることができ、その網状構造によって多数の新生骨細胞を生長させることができる。そして、穴埋めされたナノ骨材料は、最終的には全て生分解により消失し、骨欠損部分は新生骨組織に完全に取って代わる。現在、ナノ医用材料としてはハイドロキシアパタイト/ポリアミド66複合骨材料がすでに上市され、骨欠損の回復に良好な効果を示している。

 ナノ技術とバイオ医学の融合により医学界に全く新しいアイディアがもたらされ、医学分野における応用でも一定の成果をあげている。しかし、現時点ではほとんどの研究が動物実験の段階にあるため、大量の臨床試験がエビデンスとして必要とされている。また、ナノ材料の応用においては生体安全性の面でさらなる向上が待たれるため、この分野ではバイオ医学とナノ材料の研究者の間で協力関係を強め、より先端性のあるナノバイオ医用材料を作製することが求められている。

その3へつづく)

参考文献

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※本稿は楊慧、丁良、岳志蓮「納米生物技術在医学中的応用」(『生物技術通報』2016年1期、)を『生物技術通報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司