第157号
トップ  > 科学技術トピック>  第157号 >  ゴミ分別産業チェーンの再構築

ゴミ分別産業チェーンの再構築

2019年10月29日 姜璇(『中国新聞週刊』記者)/江瑞(翻訳)

人口の急激な増加に伴いゴミの排出量が急増する中国。都市がゴミに「包囲」されるなか、その処理方法にも頭を悩ませている。様々な課題を前に、産業チェーンの再構築は実現できるのか。

 中国全土でごみ分別が急速に拡大している。6月6日、住宅・都市農村建設部、発展改革委員会、生態環境部など9部門は、2019年より全国の地級以上の都市で生活ごみの分別を全面実施し、2025年までにこれらの都市で生活ごみ分別処理システムの基盤を確立することを決定した。

 政策の後押しを受け、ごみ分別や固体廃棄物処理関連株は軒並み値を上げている。Wind〔中国の金融情報サービス〕ごみ分類指数が統計をとっている15の上場企業のデータをみると、ここ4日の営業日において、上げ幅は累計10%超、怡球資源と龍馬環衛はストップ高、格林美、盈峰環境、上海環境はいずれも5%超の上げ幅を記録した。

生活ごみはどこへいくのか

 生活ごみを満載した青いダンプカーが、魯家山ごみ焼却発電所へ続く一方通行路を進んでいく。ダンプカーがプラットホームに姿を表すと、投入扉がゆっくりと開きはじめ、車は後部を向けて停まる。運転手がボタンを押すと、ダンプがゆっくりとせり上がり、ごみがごみピットに滑り落ちていく......。

 これは取材で2017年7月に北京市門頭溝区の魯家山ごみ焼却発電所を訪れた際に目撃した光景だ。同ごみ焼却発電所は首鋼集団傘下の北京首鋼生物質能源科技有限公司が2010年に建てたもので、目下、北京最大のごみ焼却発電施設の1つになっている。1日の処理能力は、北京で1日に排出されるごみの約8分の1の量だ。

 ごみピット上方に吊るされているオレンジ色のクレーンが、絶えずごみをかき混ぜひっくり返し、ごみを発酵させる。1週間ほどかけて十分に発酵させられたごみは、クレーンでごみ投入ホッパーに移され、給塵機を経由して一定量ずつ焼却炉に供給され、乾燥、点火、燃焼の工程に続く。

「焼却炉内で生じた高温の排煙が下方の余熱ボイラーに入ると、ボイラーの伝熱面と熱交換をする過程で中の水を加熱し、高温の蒸気を発生させます。この蒸気がパイプを伝わってタービンに入り、蒸気タービン発電機を回して発電し、ブースターステーションを経て送電網に送られます」。北京首鋼生物質能源科技有限公司総経理助理の趙樹明はごみ焼却発電の仕組みをこう説明した。

 一般的に、十分な焼却を経たごみは、排ガス、飛灰、スラグの3種類の残留物を排出する。趙樹明の説明によると、排煙に脱酸、脱硝、集塵処理、つまり、酸性の気体を除去し、粉塵の粒子状物質と残留ダイオキシンを吸着する処理を施した結果残るのが飛灰だ。飛灰は危険廃棄物で、北京市は、処分する際は市指定の企業(金隅集団)に持ち込むよう求めている。スラグは回収後、道路舗装用の骨材・路盤材料や道路の縁石などの建築材料として活用することができる。

 現在、世界的におこなわれている都市生活ごみの主な処理方法は、埋立て、焼却、堆肥化の3つだ。埋立ては最も早くから最も広範囲でおこなわれている方法で、1930~1940年代には、アメリカで「衛生埋立法」が公布されたほどだ。処理量が多く、投資及び運営コストも比較的安く済む。埋立てはまた、中国における都市生活ごみの主要処理方法でもあり、ごみの約60%はこの方法で処理されている。

 中国では人口の急激な増加に伴い、ごみの排出量も急増しており、ごみの処理が問題化するなか、都市がごみに「包囲」される現象も珍しいものではなくなっている。

 住宅・都市農村建設部が2018年に発表した『中国都市建設統計年鑑』によると、生活ごみの排出量は2010年以降右肩上がりで、2016年には2億tを超え、前年比6.81%増の2億400万tに、2017年には前年比5.82%増の約2億1,600万tに達している。

 生活ごみ無害化に占める埋立処理の割合は、地域別に見ると東低・中西高の様相を呈している。埋立てというごみ処理の方法は、中国国内、特に東部の都市では明らかに弊害となる。その理由は、第一に直接埋立地に運んで埋め立てる処理法は、大量の土地資源と再生可能資源の無駄使いであること。第二に、中国の生ごみは含水率が高く、腐敗し浸出液や埋立地ガスといった二次汚染につながりやすいことが挙げられる。

 埋立てはより現実的な苦境に立たされている。中国国内のごみ埋立地のほとんどは、閉鎖の危機に直面しているのだ。しかし、それは必ずしも埋立てというごみ処理法に対する否定を意味するわけではない。国務院発展研究センター資源・環境政策研究所研究員の程会強によると、現在アメリカで最も主流なごみ処理方法は依然として埋立てであり、分別された有機ごみを埋め立てたあとその処理場を封鎖し、数年かけて腐植土を生成するのだという。腐葉土は肥料として優れているし、ごみ焼却場を一休みさせることもできる。ただし、中国のようにごみがきちんと分別されずごちゃまぜに埋め立てられてしまうと、土地の再利用は難しくなるそうだ。

 ごみによる「包囲」問題を解消するためには、埋立てや堆肥化より焼却のほうが、敷地面積も少なくて済み、処理効率も高い。しかもごみ焼却で生じる熱エネルギーを回収して発電をすることもできる。ごみ焼却発電は長年にわたる政策支援と産業自体の発展により、徐々に規模を拡大させてきた。

『中国生活ごみ焼却発電産業発展報告』(2017公衆版)で公表されている2016年の通年データをみると、2016年末時点で、全国27の省(区、市)において273のごみ焼却発電施設が稼働中であり、年間売電量は233億kWh、年間ごみ処理量は約1億456万t、ごみ焼却発電設備の設置規模、発電量は共に世界一となっている。

 2016年以降、固体廃棄物処理に関する政策が続々と打ち出され、ごみ焼却発電産業への支援は手厚さを増してきた。国家発展改革委員会と住宅・都市農村建設部が共同で発表した「『第13次五カ年計画』全国都市部生活ごみ無害化処理施設建設計画」では、今後5年間におけるごみ焼却事業の発展目標が明示されているが、そこでは、2020年までに、ごみの総排出量が4億tを、焼却処理されるごみが全体の50%を、1日あたりの平均焼却処理能力が59万tをそれぞれ超えるという予測がなされている。

経済的負荷、環境負荷

 ごみ焼却発電施設が年々全国に拡大していくにつれ、用地選定をめぐる紛争がしばしば発生し、「NIMBY〔ニンビー〕症候群」問題に注目が集まっている。

『中国新聞週刊]では2010年、北京市昌平区にある阿蘇衛ごみ焼却場に関する追跡レポートをおこなった。阿蘇衛ごみ焼却場建設計画は住民の強い反对で中断(6年後に建設再開)したが、ごみの混合焼却から明らかになった環境に対する現実的・潜在的・長期的な危険性をきっかけに、ごみ焼却をめぐる論争は激化し、社会全体がごみの混合焼却問題及び焼却場建設に対する「NIMBY」問題に注目するようになった。

 ごみ焼却推進派は、工程や技術といった条件が整いさえすれば、ごみの混合焼却に危険性はないということを、詳細なデータから証明できるとしている。これに対し、反対派も根拠となるデータを示し、ごみ焼却場の汚染物質の排出に関する情報公開が不十分であるのは、ごみの混合焼却の危険性が深刻だからに他ならないと主張している。

 環境負荷の観点からみると、中国における生活ごみの混合収集及び混合焼却・混合埋立てという廃棄物処理メカニズムは持続可能性を備えておらず、地方ごとにごみの中継ステーションで二次分別をおこなうなどしている。これについて、中国人民大学環境学院教授で環境政策・環境計画研究所所長の宋国君は、古紙や紙箱のような再生資源は一旦汚染されてしまったらリサイクルは不可能になるとし、混合収集してから分別するのは極めて難しく、分別が不可能になることを指摘。その結果、最終的なごみ処理量の増大を招き、ごみ処理コストを大幅に引き上げると分析している。

「生活ごみの管理効果評価基準には減量化、無害化、資源化の他、無害化を前提とした低コスト化を加え、ごみ処理に過剰な財政投入は避けるべきです」。『中国都市生活ごみ管理状況評価報告』〔以下『評価報告』〕の調査・発表を指揮した宋国君はこう述べる。

 2015年に中国人民大学国家発展・戦略研究院が発表した『評価報告』では、ごみ処理に伴う社会的コストは、実際には統計資料が示す末端処理コストをはるかに上回っており、生活ごみ処理の社会的コストが低く見積もられていることが既に指摘されていた。

 現状はというと、目下、ごみ処理に伴う費用は主に財政が負担している。ごみの焼却施設や埋立処分施設は多くが国有企業、特に地方国有企業で、民営企業の場合はBOT方式で運営に参画していることが多い。

 同時に、国はごみ焼却発電施設に対し、広範囲に及ぶ助成を実施している。その主な内容は、ごみ処理費用助成と売電価格補助の2つだ。ごみ処理費用助成とは、処理するごみに対し1トン単位で政府が一定の助成金を出す制度で、各地方の助成金は1トンあたり80元~180元と様々だ。一方、売電価格補助とは、ごみ焼却による発電の売電価格は全国統一の基準価格が1kWhあたり0.65元に定められているが、ごみ焼却発電に対し、1kWhあたり現地の火力発電基準価格+0.25元/度の基準で助成金を出す制度だ。

 政府は生活ごみの最終処分を以前より重視するようになっているが、現実問題として「経済的コスト」と「環境保護コスト」をいかに計算するかのほうが必要性が高いように思える。さもなければ、政策は足かせを抱えたり、頓挫したりしてしまうだろう。

固体廃棄物処理産業チェーン

 ごみ分別の開始による直接的効果は、「乾いたごみ(その他一般ごみ)」が減少し、「水分の多いごみ(生ごみ)」の分別処理量及び「リサイクル可能なもの(資源ごみ)」の回収利用量が増加したことだ。ごみ分別の影響が最も大きかったのは、従来のごみ処理方法に対する革新であり、ごみの種類と特性及び地域の条件に応じて、環境に適した処理方法を選ばなければならないという意識が芽生えたことだ、と程会強は感じている。

 「河北省での実地調査から戻ってきたばかりなのですが、県の多くは依然として埋立てが主です」。程会強の認識では、経済条件の差により、大まかに言って、東部は建設・運営コストが相対的に高い焼却が主、西部は埋立てが主であるという。ただ、埋立て、焼却、堆肥化の3つの処理方法の間に上下の区別はないということは強調しておきたい。

 ごみ分別は固体廃棄物処理産業チェーンにどんな影響を及ぼすのだろうか。業界関係者の多くは、ごみ分別において発生元の減量をおこなうことで、最終的に埋立て、焼却処分されるごみの量は減り、ごみ焼却による発電等の縮小につながると考えている。その一方、分別・運搬するための環境衛生施設や飲食店ごみの処理、再生資源利用セクターの市場ニーズが誘発されるだろうとも考えている。

 いくつかの研究機構が最近発表した報告書では、ごみ分別がごみ分別サービス市場や、飲食店ごみ・再生資源の循環利用にプラスに働くことが指摘されている。

 国盛証券は、ごみ分別は収集、運搬から処理に至るまで都市全体でおこなわれるものであり、その産業チェーンにおいては、環境衛生、中継輸送、飲食店ごみの処理、ごみ焼却に市場ニーズがあるとしている。例えば環境衛生分野では、ごみ分別収集装置や分別輸送専用車両へのニーズが新たに生じるとみている。

 東呉証券は最新の研究報告書の中で、生活ごみ全体に占める生ゴミの量を仮に56%とすると、ごみ分別が全国に広まった暁には、生ごみ処理分野で約3,800億元の投資市場が新たに生まれる可能性があると述べている。

 招商証券環境産業首席アナリストの朱純陽は、産業チェーンへの影響が最も大きいのは、一般ごみを水分のある・なしで分別したことだと述べている。いわゆる飲食店ごみ〔事業系一般廃棄物の厨芥〕と生ごみ〔家庭系一般廃棄物の生ごみ〕は発生源の異なる2つの市場であり、飲食店ごみに関しては、中国で2011~2015年にかけて、合計100以上の都市(区)を5グループに分け回収のパイロット事業をおこなったものの、満足いく成果が得られなかった。対照的に、生ごみ処理事業の伸びしろとニーズは大きく、しかもまだ本格的な市場形成がなされていないことから、市場としての可能性はより大きいと言える。

 飲食店ごみなどの固体廃棄物の嫌気性消化を主な事業とする艾爾旺公司チーフサイエンティストの単明煥によると、水分の多い生ごみは、微生物による嫌気性消化を通じて無害化処理をおこなうと同時に、再生可能エネルギー(バイオガス)を得ることができる。残りは焼却処分する。発生源による分別は、資源回収がしやすくなるだけでなく、処理の際に最も適した嫌気性消化法を選ぶことを可能にし、さらにはその他のごみの焼却発電効率を高めることにもつながる。

 現在、市場で比較的高値で買い取られているダンボール箱、これに次ぐ高値の新聞紙や飲料水のびん類などを除くと、ステンレスの缶類、アルミ付き紙容器、酒びんなど買取価格の極めて低い「無価値ごみ」は、大量に廃棄されているのが現状だ。この「無価値」な再生可能資源ごみをいかに回収するかが業界で注目を集めている。関係者によると、現在、各地方では試験事業をおこない、「無価値」ごみの分別段階におけるデータの詳細化や、政府による助成金といった方法で、「無価値」ごみの回収が「金にならない」という状況の解消に乗り出している。

 生活ごみの発生源に目を転じると、分別における最大の難題は、人々に分別の習慣がまだ身についていないということ、そして、政府のトップダウン設計や責任体系を再構築する必要があるということだ。また、処分段階では、生活ごみ関連のハード面の整備と管理の不徹底問題のみならず、付帯する産業チェーンの形成も待たれる。ごみ産業が「金にならない」現状を打破し、産業チェーンのさらなる再構築を進めていかなければならない。

image

上海天馬再生能源有限公司内で、レバーを操り、投下されたばかりのごみをならしている作業員。「乾いたごみ」はここで4~5日発酵させると、燃焼効率が大幅に上がる。 撮影/『中国新聞週刊』記者 賀斌

image

生活ごみの排出量は増える一方で人々の分別の習慣もまだ追いついていない。


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年11月号(Vol.93)より転載したものである。