第167号
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中国のEC発展の新たな動向(その2)

2020年8月11日 裘涵(阿里巴巴商学院副教授、浙江省現代互聯網研究院執行院長)、杜楽芸(阿里巴巴商学院大学院生)

その1よりつづき)

三、産業間:C2Mがメイド・イン・チャイナを逆方向で促進

 2018年は産業のインターネットが飛躍的な成長を遂げた年となった。同年9月、馬氏はコンピューティング会議で、「新製造の中核はデータで、製造業とサービス業の完璧な融合」と述べた。「ニューリテール」を足掛かりに、今後は「新製造」がアリババの「5大新戦略」を牽引することになりそうだ。アリババは現在、モノのインターネット技術と消費者のパーソナライゼーションビッグデータを通して、供給と需要をデジタル化して、中国の製造業の変革を促進することを試みており、Made In InternetやC2M(Customer-to-Manufacturer)などのスタイルを誕生させた。

 Made In Internetとは、ビッグデータを基礎とした構造で、インターネットとビッグデータによるエネルギー注入を通して消費者のニーズを満たし、新しい消費のニーズを生み出す。C2Mとは消費者が製造を逆方向で促進し、ユーザーを中心とすることを強調、パーソナライゼーションのニーズに基づいて生産を計画し、工場の伝統的な生産要素の生産率を向上させ、各方面の価値を最大化させるというスタイルだ。ビッグデータを通して、リーン生産方式を実現するというのが、アリババが期待する新製造のニューリテールに対するエネルギー注入でもある。

3.1淘工場:Made In Internetによりサプライチェーンにエネルギー注入

「淘工場」は、阿里1688とアリババクラウドが共同で構築した新製造のシェアリングプラットフォームだ。淘工場は淘宝の売り手と工場を繋ぐプラットフォームだ。中小工場にソフトウェア・ハードウェアサービスを提供して、そのデジタル化の高度化をサポートし、それを基礎に、工場に淘宝のショップからの小ロットの注文をたくさん提供することで、製造と消費を結び合わせ、製造の分野の大規模、かつ効果的な協同を実現している。

 現在、淘工場を通して、80-100人規模の伝統的な工場なら2日ほどで高度化を実現することができ、ハードウェアに必要なコストは3-5万元程度だ。淘工場は既に、たくさんの伝統的な工場が、「低コスト」で「スピーディー」にデジタル化工場にモデル転換することができるようサポートするカギとなる能力を備えるようになっているのだ。アリババの淘工場事業部の袁煒部長によると、淘工場には現在、工場約2万7,000社が進出し、その数は毎月1,000-2,000社のペースで増えている。

 馬氏によると、「今後の製造業はMade In Internetとなり、今後の製造業を牽引するのはデータだ」。淘工場の中核業務はマッチングで、ビッグデータを通して資源とマッチングさせ、1,000万軒に迫る淘宝のショップのさまざまなニーズを満たし、さまざまなタイプの注文を、それにマッチした工場に提供する。また、淘宝のショップの高い要求は、工場に商品の品質向上を逆方向で促すため、工場に対する抑制力となり、工場はサービスに対する意識や、そのチェックメカニズムを強化することにつながる。このように、Made In Internetの本質は、インターネットがもたらすデータの透明化を通して、生産能力の協同效率を最大化させることであることが分かる。

3.2淘宝心選:消費データを活用して中国の新製造を促進するC2M

 C2Mとは、ユーザーがメーカーと直接繋がるスタイルで、C2C、B2B、B2CなどのECのスタイルに続く、新たなスマート型ECスタイルだ。C2Mなら、消費者はプラットフォームを通して直接注文することができ、一方の工場は、消費者からオーダーメイド型の注文を受け取り、オーダーに基づいてデザイン、仕入れ、生産、出荷を実施する。主に純フレキシブル生産、小ロットで大量の注文に対するサプライチェーンのクイックレスポンスが含まれる。C2Mのこの種の逆方向のサプライチェーンビジネススタイルが現在、ECの発展の流れとなっており、網易の網易厳選、考拉工場店、アリババの淘宝心選、聚劃算などは、いずれもこの分野で積極的なチャレンジを行っている。

 アリババの淘宝心選を例にすると、「人」を中心とし、C2Mのデザイナーがデザインする商品を活用して、商品の差別化を実現している。淘宝心選のオフラインの実店舗は、消費者により近い「触角」で、ユーザーの買い物をめぐる習慣を黙々と観察し、オフラインとオンラインのデータを融合することにより、産業チェーン上の各企業に対してエンパワーメントする。淘宝心選は伝統的な製造業の産業チェーン上の各企業へのエネルギー注入を基礎に、ブランド、アフターサービス、物流などのECのフルリンケージソリューションを提供し、アリババのニューリテール、新淘宝スタイルの実施、生活・インテリア・消費の高度化、実店舗の小売の高度化などの一連の重要なミッションを担っている。

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図5:淘宝心選のオフライン店舗

四、業界間:垣根を超えた融合で「新種」が続々誕生

 中国では近年、業界の垣根を超えた融合とイノベーションが現在のECの発展の新たな動向となっている。ソーシャルECやネット有名人経済、ライブコマ―スなどの新スタイルが続々と登場したほか、多くの新しい企業の誕生を促進している。

 ビッグデータ時代において、淘宝はビッグデータ技術に基づくパーソナライズレコメンダーを活用して利用者が目に見て増加している。そして、淘宝は、一般的なECプラットフォームからすでに消費者のコミュニティへと変化している。淘宝は10年前と比べると破壊的変化が起きており、今の淘宝は既にECに属する「新種」となっている。今後は、各産業が革新的スタイルでの融合が進むにつれ、各イノベーション要素が入り混じりながら変化し、EC業界ではさらに多くの「新種」が誕生すると同時に、中国のECは消費EC時代から産業EC時代への転換が推進されていくことになりそうだ。

4.1ソーシャルECの「新顔」:拼多多

 2015年創立のソーシャルECプラットフォーム・拼多多は3年足らずの間に、利用者が月間のべ400億人という驚くべき規模に達し、共同購入システム系のソーシャルECの先導役となった。QuestMobileのデータによると、2017年10年と2018年10月のMAU(月間アクティブユーザー数)を比較すると、拼多多は6700万人、淘宝は6,200万人、京東は2,600万人、唯品会は1,200万、天猫は1,000万人それぞれ増えている[3]。2019年10月24日、米国株式市場における取引終了時点で、拼多多の時価総額は464億ドルに達し、アリババ、騰訊(テンセント)、美団に次いで中国で4番目に大きなインターネット企業となった。京東の同日の取引終了での時価総額は、拼多多よりも16億ドル少ない448億ドルだった。

 淘宝、天猫、京東などのECプラットフォームが長期的に、中国のオンライン小売の分野で絶対的主導権を握っている中で、拼多多はなぜわずか2-3年という短い期間で、アリババ、京東と並んで3強の一角を担うまでの力を持つようになったのだろうか?拼多多の成功は、スマートフォンやモバイルインターネットが中国で普及していることや拼多多の第一段階の戦略・「四五戦略(40-50歳の層、4、5線都市、4、5線ブランドの商品)」、さらに、同プラットフォームはソーシャルECで、SNSを十分に活用していることと関係がある。拼多多は共同購入スタイルを採用して、「EC+SNS」、「共同購入+低価格+SNS」という組み合わせを実現している。ユーザーは友人や家族、近所の人たちと一緒に、商品を低価格で共同購入することができる。もっと安く商品を購入したいという思いで、ユーザーは積極的に中国最大のSNS「微信(WeChat)」で、商品の情報を転送し、共同購入を促す。拼多多は、淘宝や京東などのプラットフォームのように、巨額の資金を投じて、ユーザーゲットに躍起になる必要はなく、独自のソーシャルECのスタイルを確立している。

4.2ネット有名人がECとコラボ:ネット有名人経済が盛り上がりを見せる

 モバイルインターネットが発展を続けるにつれて、数多くのセルフメディアが台頭し、それに伴ってネット有名人が登場、年々勢力を拡大している。ネット有名人によるライブ配信とECのコラボという経済スタイルが台頭するのに伴い、「ネット有名人経済」はライブ配信やECを通して販売を行い、そのフォロワーらの間で人気になり、成長を遂げている。

 艾瑞諮詢(iResearch)のデータによると、2015年、中国のネット有名人経済の売上高は前年比47.3%増の1兆1,218億7,000万元規模に達した。そして、2018年、その規模は2兆元を突破した。ネット有名人は今、オンライン上のSNSやライブ配信、ゲーム、ECだけでなく、オフラインの実体産業にまで勢力を拡大し、各分野に浸透している[4]

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図6:ネット有名人経済の構造

4.2.1中国を代表するネット有名人プラットフォーム:如涵控股

 如涵控股(Ruhnn Holdings)は、米ナスダックに上場した初のネット有名人プラットフォームで、「ライブコマースのパイオニア」と呼ばれている。如涵控股は数多くのネット有名人と、「ネット有名人はもっぱらPRを行い、当社はビジネスをもっぱら行う」という提携スタイルを築き、ネット有名人がECの商品販売、広告代理、クロスメディアなどの分野でビジネス的価値を発揮するようサポートし、人気ネット有名人を育てている。そして、データ分析能力、サプライチェーン後方サポート、企業のオペレーション・マネジメントなどをよりどころに、如涵に所属する3人の「トップネット有名人」は年間売上高が1億元を超えるようになっている。

 如涵の三大中核業務は、「ネット有名人のマネジメント」、「マーケティング・PR」、「EC業務」だ。利益を上げるための手段は2つあり、1つ目は商品の販売で、オンラインショップでオリジナルの女性服や化粧品、靴、ハンドバッグなどの商品を販売する。2つ目はサービスの提供で、ブランドやオンラインショップ、その他の業者にキー・オピニオン・リーダー(KOL)による商品販売や広告サービスを提供する。

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図7:2019年10月、7時間の淘宝ライブで売上が6,000万元に達した張大奕さん(ライブ配信のスクリーンショット)

 如涵では中国のナンバー1ライブコマーサー「張大奕」が誕生した。張さんは、中国の若い女性なら誰でも知っている「大物ネット有名人、カリスマライブコマーサー、如涵控股のCMO(最高マーケティング責任者)、ブランド・BIG EVEの創始者」だ。2019年の「ダブル11」当日、「ネット有名人経済」のパイオニアとしての如涵は、一日のGMV(流通取引総額)が6億元を超えた。そして、張さんは一人で、なんとそのうちの3億元以上を占めた。張さんのほか、同プラットフォームはライブコマーサー100人以上と契約し、育成している。個性と魅力を備える女性を見つけては、同プラットフォームは店舗のサプライチェーンサービスを提供し、SNSを通して彼女たちの影響力を拡大させている。そして、一方の女性ネット有名人も、自身の魅力を存分に発揮してフォロワーに商品を販売し、得た利益を山分けしている。

 ライブコマーサーの入れ替わりも激しく、新ヒーロー、新スタイルが次々と登場している。例えば、張さんがわずか2年の間に、「カリスマライブコマーサー」の座に駆け上がっていると驚嘆している間に、「淘宝ライブにおけるナンバー1ライブコマーサー」と呼ばれる薇婭さんも登場。彼女は2018年に27億元という奇跡的な売上高記録をたたき出した。また、抖音(Tiktok)や小紅書などの新しいプラットフォームが登場し、同分野の細分化も進んでいる。そして、そこで活躍するネット有名人も途切れることなく登場し、新しいパフォーマンススタイルも続出し、ライブコマーサーらが熾烈な競争を繰り広げている。

4.2.2 淘宝で売上ナンバー1のライブコマーサー:李佳琦

「口紅王子」と呼ばれる李佳琦さんは、大人気のライブコマ―サーの代表格。これまでに口紅販売で5分間に1万5,000本という記録的な売り上げを達成したことがある。彼が「Oh My God」と商品を絶賛すると、魔法の言葉のように商品が飛ぶように売れ、それがネット上で真似られ、数千万人規模のネットユーザーがアリババ傘下のライブコマース・淘宝ライブに押し寄せるようになった。2019今年の「ダブル11」には、李さんのライブ配信ルームのオンライン視聴者数が、のべ4,315万3,600人に達した。李さんが大人気になっている背後には、実際には淘宝ライブ、快手、抖音などの背後にあるフォロワーへの商品販売効率、サプライチェーンの速度、新ブランド台頭などの変革がある。李さんのライブ配信ルームでは、5分で売上高100万元というのは「日常茶飯事」である。

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図8:ライブ配信による口紅販売で対戦した「口紅王子」の李佳琦さんと馬氏。結果は馬氏の完敗だった

 2018年に淘宝が始めた「スーパーIP」計画では、淘宝の外部で人気となっているネット有名人を呼び込み、淘宝の内部のアクセス数を分配して、それらネット有名人がそこでスピーディーに成長できるようサポートしている。「口紅王子」の李さんも抖音でフォロワー数を急速に伸ばした後に淘宝に進出し、躍進したのだった。淘宝ライブは、強大なライブ配信サプライチェーンをよりどころに、ライブコマ―スの分野で快手や抖音を抑えて首位に立っている。QuestMobileの統計によると、スマホアプリ・淘宝のユーザーの約3%が淘宝ライブを利用している。淘宝ライブの責任者・趙圓圓氏は、「少なくとも3年以内に、淘宝ライブは5,000億元規模の取引額をもたらすだろう」と予測している[5]

 中国でライブコマースが台頭するにつれ、ますます多くのブランドがネット有名人を起用してマーケティングを進めている。ECプラットフォームもネット有名人の力を借りて、コンテンツを通してそのフォロワーに商品を販売している。このようなネット有名人+ECというウィンウィンのスタイルが業者にとって最も効果的なマーケティングの手段となっている。

4.3消費ECから産業ECへ:今後10年の中国にあるチャンス

 現在、中国のECの発展が新しい時代に突入していることは、ソーシャルECプラットフォームやライブコマースなどの新業態が台頭していること、さらに、オンラインとオフラインの融合とイノベーションが進んでいること、産業の川上・川下が垂直一体化した産業ECの急速な台頭に現れている。

 消費ECがEC発展の「前半戦」における使命を果たし、今後は産業ECが、その「後半戦」の使命を担うことになる。産業ECは今後、オンライン貿易市場、インターネット金融市場、デジタルサービス市場で、巨大な発展のスペースを開拓していくことになる。消費ECと異なり、産業ECが消費ECに勝るより多くの価値を実現するためには、産業企業を主体とし、産業企業の産業基礎をよりどころに、産業とインターネット、産業と金融を融合させ、ECビジネス業態を利用して、伝統的なバリューチェーンと産業チェーンを統合、革新、拡大し、伝統的な産業のイノベーションと高度化を実現する必要がある。このように、アリババをはじめとする中国のEC企業の「後半戦」のパフォーマンスに対する期待は高まるばかりだ。

(おわり)

参考文献:

3. QuestMobile 发布的《中国移动互联网2018年度大报告》[EB/OL]

4. 艾瑞咨询发布的《2018中国网红经济发展洞察报告》[EB/OL]

5. QuestMobile 发布的《6.18电商大报告