中国が世界初の量子科学実験衛星「墨子号」の打ち上げに成功し、人類は衛星・地上間の量子通信を実現し、天地一体化量子暗号通信・科学実験システムを構築できるようになった。人民日報が伝えた。
◆量子と量子通信とは?
量子は物理世界で最小の、分割不可能な基本単位だ。つまり世界全てが量子で出来ていると言っても過言ではない。量子には、量子重ね合わせ状態、量子もつれという奇妙な特性がある。量子衛星首席科学者、中国科学院院士の潘建偉氏は「量子重ね合わせとは、孫悟空の分身術のようなものだ。一人の孫悟空が同時に複数の場所に姿を現すとき、分身らは孫悟空の重ね合わせ状態だ。日常生活において、私たちは同時に2ヶ所に姿を現すことができないが、量子の世界ではミクロな客体として多くの場所に同時に出現できる。量子もつれとは、もつれ合う2つの量子が心のつながる双子のようになることだ。どれほど遠く離れていても、兄の状態に変化が生じれば、弟の状態にも同じ変化が生じる」と説明した。
量子のこの2種類の特性に対する認識が深まっていくとともに、実用的な新技術も開発されている。量子通信がそのうちの一つだ。マイクロ電子技術を基礎とするコンピュータ技術の従来の情報伝送は盗聴されやすいが、量子物理と情報技術を組み合わせることで、革命的な手段により情報の暗号化・保存・伝送が可能になり、情報の安全が守られる。量子は分割できず、複製できないため、暗号を解除することができない。
◆なぜ量子衛星を打ち上げるのか?
潘氏は「光ファイバーは損耗するため、光ファイバーで長距離量子通信を実現するには大きな課題がある」と指摘した。科学者は、真空であれば光が損耗することはないと意識した。全世界をカバーする広域量子暗号通信を実現するためには、衛星による中継が必要だ。
潘氏のチームは2005年、13キロの自由空間量子もつれ・暗号伝送実験に成功した。光子が大気圏を通過した後も、その量子状態が効果的に維持されることを証明し、衛星・地球間の量子通信の実現性を裏付けた。その後の数年間に渡る一連の実験は、量子衛星の打ち上げの技術的基礎を固めた。
潘氏は「こうすることで、衛星打ち上げを妨げる要素を取り除き、数千キロの量子通信が実現可能になった。量子衛星があれば、マクロな距離でいわゆる量子力学の非極限性、つまり遠隔怪作用を検証できる。実験室内で繰り返し確認されている理論が、宇宙でも実現できるかを調べることが可能だ」と述べた。
◆実験内容は?
量子衛星は主に衛星・地上間の高速量子暗号通信実験、広域量子通信ネットワーク実験、衛星・地上間の量子もつれ通信実験、衛星・地上間の量子テレポーテーション実験という4つの科学実験を行う。うち衛星・地上間の高速量子暗号通信実験は、衛星から地上に暗号を伝送することで、衛星と地上間の量子暗号を軸とする機密通信試験を実現する。量子暗号の生成後、双方は機密通信が可能になる。この過程はすでに原理上、絶対に盗聴できず、暗号を解除できないことが証明されている。そのため通信の全過程が無条件で安全になる。
◆15年後に一般家庭に普及か
潘氏は、量子通信は電話の普及と同じく、徐々に、大々的に広まると予想している。「量子通信はまず、国防・金融・行政・科学研究などに利用され、その後は一般人に広く利用される」と語った。
潘氏は個人的な意見として、量子通信技術の普及に関する、次のような「タイムスケジュール」を示した。約5年後に多くの機密部門で使用開始され、約10年後に金融業や銀行などの大手機関で使用開始され、15年後に一般世帯に進出する。「すべての家、携帯電話に、量子暗号チップが内蔵されるようになるかもしれない。口座振替、電子口座などの機密に関する操作で、盗用もしくは攻撃を懸念する必要がなくなる。量子ネットワークの構築後、人々はすべての情報漏えいを懸念する必要がなくなり、悪意ある攻撃や詐欺行為も回避できるようになる」という。