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【13-007】外国企業による中国企業の買収(その5)

2013年 5月10日

康 石

康 石(Kang Shi):
中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士

上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

(五)ファンドによるM&A

一、中国におけるファンド投資の歴史

 1980年代ごろからアメリカにおいて本格的に現れ始めたプライベート・エクイティ・ファンド(Private Equity Fund、以下、「PEファンド」といいます。)による投資方法は、比較的早い段階から中国でも広がるようになり、今は「全民PE」とも言われるほど、PEブームが中国において起きています。現在中国国内で活躍しているPEファンド(即ち、中国への投資をメインにするファンド)には、Carlyle、TPG、KKR、Bain Capitalなどの欧米系の巨大ファンド以外にも、弘毅、中信資本、建銀国際、復星等中国国内で集めたファンドをメインに運用している国内系のファンドもあります。

 外国の資本がPEファンド経由で中国に投資する場合、従来から、オフショア(中国国外)にPEファンドを設立し、中国企業の外国に設立されたホールディングカンパニーに投資し、投資先からのエグジットもオフショアで行われる方式(中国語では、「二頭在外」と言われています。)を主に採用してきましたが、今現在もかかる方式が主流であるといえます。これは、諸外国でよく使われている有限パートナーシップ形態でPEファンドを設立するための法整備が中国では遅れていたこと、また、中国企業に投資した場合は、当該企業を売却したり又は上場させたりすることにより投資先からエグジットすることに、商務部門や証券監督管理部門等の中国当局の認可が必要であることから、かかる認可を回避し、エグジットを容易するためにオフショアで投資・エグジットするほうがより便利であることなどの原因に基づくものです。

二、PEファンド関連法制の整備

 PEファンドの設立及びPEファンドによる投資を便利にするための法整備はこの十数年間行われてきましたが、重要な法令としては、中国のベンチャーキャピタル法とも言われている「外商投資創業投資企業管理規定」(2003年1月1日施行)があります。但し、創業投資企業を設立するには、比較的に高い資本金を比較的に短い期間中に払い込むことが要求されていること(同規定第6条、第13条)、外国必需投資家に対する要件が厳しいこと(同規定第7条)、外商創業投資企業による上場会社への投資は認められていないこと(同規定第3条)などにより、やはり使い勝手がよくないとの問題点がありました。特に非法人形態を取る外商創業投資企業の場合は、従来はタックスパススルーの優遇を受けていたが、2011年からかかる優遇がなくなったため、外商創業投資企業の形態のメリットはほぼなくなったと言われています。有限パートナーシップ(Limited Partnership)を可能とする「パートナーシップ企業法」の改正(2007年6月1日施行)等の法改正の後、「外国企業又は個人による中国国内におけるパートナーシップ企業設立管理規則」(2010年3月1日施行)、「外商投資パートナーシップ企業登記管理規定」(2010年3月1日施行)等の公布により、現在は、商務部門の認可を必要とせず、中国国内においてパートナーシップ形態によるPEファンドを、外国企業・個人と中国企業・個人が投資設立することが認められるようになりました(但し、かかるファンドのGPを中外合弁の形で設立する場合は、かかるGP設立には商務部門の認可を必要とします。)。

 最近では、外国のファンドがGP(無限責任組合員)となって中国国内で人民元ファンドを募集設立することを可能にするための法改正が、上海、天津、北京、重慶、シンセン等の地域で試験的に行われています。また、外国GPによるファンドでの投資が5%未満である場合は、当該ファンド(中国法上、適格外商投資持分投資企業と言われています。)に人民元ファンドの待遇を与えようとの動きがありましたが(すなわち、外国投資家による外貨出資がファンド募集金額の全体の5%未満であり、他に募集した資金が人民元である場合、当該ファンドは外資として取り扱われないため、外商投資ガイドライン、外商投資の際の審査許認可等の制限を受けないようになる)、このようなやり方は、国家発展改革委員会の通知により否定されたと言われています。

 なお、諸外国では基本的に規制されていないPEファンドに対しても、中国では届出等による規制を課す流れになっていること、また、中国の国家発展改革委員会と中国証券監督管理委員会が、お互いにPEファンドやベンチャーキャピタルファンドを含む私募ファンドに対する管轄権を行使するため争っていることから各部門が公布した規定間に矛盾点があるなどの中国の独特の事情がある点にも留意する必要があります。

三、ファンドによるM&A取引の特色

 ファンドがM&A取引を行う場合は、ファンドの特殊性に基づく一定の特色があります。

 まず、ファンドは一般的に一定期間(ファンドによって異なりますが、一般的に7年から12年のほうが多いです。)のみ存続するため、ファンドが投資先に投資する際には、一定期間後に投資先からエグジットすることを前提にしています。エグジットの方法には、対象企業を上場させる方法、対象会社と第三者を合併させる方法、対象会社のほかの株主やその他第三者に持分を売却する方法がメインです。中国では現在上場審査制度の改革が行われており、一時的に新規上場を認めないなどの出来事もあるため、上場によるエグジットが段々難しくなっており、他のPEファンドに持分を売却するいわゆるPEの二次的市場におけるエグジットが注目されています。また、ファンドが売主になる場合は、買主に対して対象会社に関する表明保証を行わず、よって、表明保証の違反も含めて、補償責任を買主に対して行わないことが一般的です(ファンドは、一定期間後は解散するため、表明保証や補償責任を負う主体が存在しないことが主な理由です)。

 次に、ファンドはその投資家に対してリターンを分配することを確保するため、投資先企業に対して厳しい業績目標を要求し、かかる目標を達成できない場合、一定のペナルティ(例えば、投資先企業の既存株主の持分を希釈し、ファンドの投資先企業における持分比率を増やすなど)を課すことがあります。

 最後に、ファンドは、主に、金融、財務、投資等に詳しい少人数の人がパートナーシップを組成し、投資家から預けられた資金を運用しているため、一般企業と異なり、投資対象となる企業の産業に詳しい人材を多く抱えていないのが一般的です。従って、ファンドが投資する場合は、外部からマネージメントを募集し、対象会社にマネージメントを派遣することは一部見られてはいますが、対象会社の元のマネージメントをキープすることがより一般的であるといえます。



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