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【14-004】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(Ⅸ)

2014年 1月29日

金 振

金 振(JIN Zhen):公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動・エネルギーエリア研究員

 1976年、中国吉林省生まれ。 1999年、中国東北師範大学卒業。2000年、日本留学。2004年、大 阪教育大学大学院教育法学修士。2006年、京都大学大学院法学修士。2009年、京 都大学大学院法学博士。2009年、電力中央研究所協力研究員。2012年、地球環境戦略研究機関特任研究員。2013年4月より現職。

4.大気汚染防止関連政策

(3) 産業規制政策

 中国政府が大気汚染対策重点区域、重点規制地域を指定し、より厳しい工業廃ガス排出基準を適用している点については既に述べた。以下では、それ以外の産業規制政策について紹介する。

(3.3) 新規事業の抑制政策

 新規事業の抑制政策とは、発電、鉄鋼、セメント、石油化学、化学工業等、大気汚染リスクの高い業種(以下、抑制業種)の無秩序な規模拡大を防ぐために導入した制度であり、新 規事業の許認可要件を厳格に設定し、地域によっては許可しない、あるいは許認可枠を制限するような規制が行われている。背景には、環 境負荷の大きい産業規模そのものを抑制することによって環境問題を解決しようとする発想がある。その典型例が、火力発電部門において実施している「上大圧小」制度である。

「上大圧小」制度

 「上大圧小」とは小規模、または環境基準を満たさない火力発電所を強制的に閉鎖し、省エネ性能や環境性能の高い大規模火力発電設備(30万kW以上の設備)の導入を推奨するために導入した制度である。第 11次5カ年計画において掲げた省エネ目標および汚染物質総量削減目標の実現に向けた重点政策として2007年により導入した。強制閉鎖の対象は表1の通りである。

表1 「上大圧小」制度における強制閉鎖の対象

図

(典拠:国務院通達「关于加快关停小火电机组的若干意见(小規模火力発電設備の閉鎖を促進するための諸意見)(国初[2007]2号)」)

 そのほか、本制度では、大規模火力発電設備の導入を促進するため、新規事業の許認可と小規模発電設備の淘汰実績をリンクさせる仕組みを導入している。つまり、一 定容量の小規模発電設備の淘汰を前提とした大規模設備新規計画については、国は優先的に許認可を付与し、国家電力発展計画への編入を認める便宜を図る(表2)。中国の場合、新規発電設備は、国 家電力発展計画に盛り込まれて初めて事業化が認められる。小規模発電設備の淘汰を前提としない事業計画は、仮に、それが国の推奨する大規模設備であっても事業化が遅れる可能性がある。このような手続的運用には、事 業者に大規模設備の導入を義務付ける事実上の規制効果がある。

表2 新規設備の優先認定に必要な閉鎖設備容量

図

(典拠:国務院通達「关于加快关停小火电机组的若干意见(小規模火力発電設備の閉鎖を促進するための諸意見)(国初[2007]2号)」)

 注意しなければならないのは、そもそも「上大圧小」は、30万kW級以下の新規設備の導入は認めない、あるいは強制閉鎖を前提としない大規模新規発電設備の導入を一切禁止する制度ではない。しかし、大 気汚染問題の深刻化を受け、2012年の「重点区域大気汚染防止第12次5カ年計画」(以下、重点区域計画)は、47都市(重点規制地域)における新規火力発電所の設置は、「上大圧小」制度に基づいたものか、あ るいは「コジェネレーション技術」を搭載したもの以外は基本的に認めない方針を決めた。この方針によって、重点地域における「上大圧小」制度は、小 規模設備の淘汰を前提とした大規模発電設備しか認めない運用に変わった。

「同量置換」制度

 発電部門以外、例えば、鉄鋼、セメント、石油化学部門においても、新規事業の許認可と設備淘汰の実績をリンクさせる運用があり、「上大圧小」制度と同じく、設 備の強制淘汰を前提としない新規事業は認めない方針は共通している。しかし、設備淘汰に関する判断基準は少し異なる。まず、国が地域ごとに設定した設備容量キャップを考慮しなければならない。例えば、大 気汚染対策が急がれる天津、上海、遼寧省などの地域では地域全体で導入できる鉄鋼生産設備容量は規制されており、事業者が新規設備投資を行うためには、同じ容量分の設備を閉鎖しなければならない。これを「 同量置換」制度という。鉄鋼分野のほか、セメントや石油化学分野においても設備容量規制があり(表3)、同量置換制度が適用される。

表3 生産設備容量の総量規制地域

図

(典拠:重点区域大気汚染防止第12次5カ年計画)

「減量置換」制度

 同量置換制度のほか、「減量置換」制度も重要な規制手法のひとつである。周知のとおり、中国では、汚染物質総量排出削減制度を実施しており、地域ごとに絶対量削減義務が課されている。「減量置換」制 度とは、SO2やNOxなどの汚染物質の削減量に応じて新規設備の導入を認める規制手法である。例えば、年間SO2排出量1万トン相当の新規設備の許可を得るためには、重点区域では1.5万トン、重 点規制地域および大気質基準に達していない都市では2万トンの削減実績が求められる(一般地域における置換割合は1:1)。

 このように、中国では大気汚染対策として、「上大圧小」、「同量置換」、「減量置換」など厳しい産業規制手法が導入されている。いずれも、手続的運用による大気汚染対策として位置付けることができる。