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【14-03】1970年前後の日本に酷似 早川英男・元日銀局長が中国の経済状況分析

2014年 1月29日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

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 元日銀調査統計局長で現在、富士通総研経済研究所エグゼクティブ・フェローの早川英男氏が1月27日、日本記者クラブで記者会見し、「 日本が10年以上かかった高度成長から安定成長への移行を一挙にやろうとしている」など中国が進めようとしている経済政策の困難さを指摘した。

 中国の経済成長率は2011年に10%を割り込み、2012、13年と7%台が続いた。さらにシャドーバンキングの存在に対する不安がこれに加わり、日 本国内でも中国経済の先行きに対する懸念の声が高まっている。しかし、早川氏は「7%への経済成長率低下もシャドーバンキングの問題も、中 国の銀行が抱える不良債権の少なさや中国政府の財政能力の余力から見てたいした問題ではない」との見方を示した。中国が直面するより大きな課題として氏は、「高度成長から安定的な中成長への移行」を挙げた。 

 農村に余剰労働力があるうちは、生産性の低いこの労働力を生産性の高い都市に移動するだけで経済成長は高まる。しかし、農村の余剰労働力は無限にあるわけではない。いずれどこかで終わる―。英 国の経済学者であるアーサー・ルイスが提唱した「ルイスの転換点」という概念を引いて、早川氏は「2010年前後に、中国はルイスの転換点という峠を越えた」と断じた。

 氏によると、ルイスの転換点を越えた中国の現況は日本の1970年前後に似ており、日本では当時、「ルイスの転換点」以後に現れるとされる不況と賃金上昇が起きている。公害の深刻化、都市の過密化、地 域格差さらには福祉行政の不十分さに対する批判も高まった。田中角栄首相(当時)による地方公共事業を初めとするバラマキ政策や、老 人医療の無料化など国民の人気取り政策だけでは日本経済は破綻してしまうということで、中曽根康弘首相(当時)が、行革、行財政効率化を進め、財政赤字の拡大に歯止めをかけた。

 早川氏は、「こうした高度経済成長から中成長への移行が10年以上の時間をかけて行われたのに対し、李克強首相が掲げる経済政策は、田中角栄的政策と中曽根康弘的政策が一緒に入っているようなもの」と 評し、中国の取り組みに懸念を示した。

 早川氏の記者会見は「2014年の経済展望―アベノミクス、異次元金融緩和と日本経済」と題して、日本記者クラブ主催で行われた。

 主題に則した話としては「国民に自信と希望を与えた点が最大の成果」とアベノミクスを持ち上げたものの、日本経済の先行きには厳しい指摘も多い。まず、最近の景気回復基調に対しては「 金融緩和の効果以上に、一昨年のミニ景気後退からの自律反転と公共投資の増加に負うところが大きい」としている。さらに「目先の見通しこそ明るいものの、より長い目で見ると深刻な問題を抱えている。異 次元金融緩和からの『出口』には多くの困難が予想されるが、その備えはできていない」「財政赤字については日本が際だって悪い。デフレ脱却や経済成長だけでは解決できず、赤 字拡大の主因である社会保障改革への取り組みが喫緊の課題」「金融緩和に支えられた財政出動ばかりが目立ち、成長戦略が立ち後れ気味のアベノミクスの現状は危うい。財政負担を控える一方で、構 造改革により潜在成長力を高める方向へと転換が必要」と、厳しい評価、注文が続いた。

 海外経済については「各地域がそれぞれの課題を抱え、高成長は望みがたいが、先進国中心に成長率は幾分高まる見通し。米国債のデフォルト(債務不履行)、ユーロ解体、中 国バブル崩壊といった破局的事態に陥る確率は小さい」としている。

日本記者クラブ関連サイト

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