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【19-32】高被引用論文著者数でも中国2位に浮上 クラリベイト・アナリティクス社分析

2019年11月22日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 国際情報サービス会社「クラリベイト・アナリティクス社」は11月19日、論文が他の研究者に引用された数が特に多い研究者6,217人を「高被引用論文著者リスト2019年版」として発表した。高被引用論文著者が最も多い国は米国で、2,737人と44%を占めている。今年の特徴は、中国が英国を抜いて2位に浮上したこと。数も2018年の482人から636人と大幅に増えた。中国は2017年に4位から3位に順位を上げたが、躍進はとまらず、数はこの発表が始まった2014年に比べると3倍に増えている。

高被引用論文著者の選出国・地域
(クラリベイト・アナリティクス社プレスリリースから)
高被引用論文著者数 割合
米国 2,737 44.0%
中国 636 10.2%
英国 517 8.3%
ドイツ 327 5.3%
オーストラリア 271 4.4%
カナダ 183 2.9%
オランダ 164 2.6%
フランス 156 2.5%
スイス 155 2.5%
スペイン 116 1.9%

オーストラリアも躍進

 分析の基になったのは、クラリベイト・アナリティクス社が持つ世界最大の論文引用索引・研究情報プラットフォーム「Web of Science」の膨大な論文データ。2008年から2018年の11年間に他の研究者に引用された回数がその研究分野でトップ1%に入る論文を複数発表し、後続の研究に大きな影響を与えている科学者、社会科学者が選ばれている。中国以外で目を引くのは、オーストラリアの躍進ぶり。2014年に80人だったのが、2018年には245人、さらに2019年には271人と増え続けている。国・地域別の比較は、研究者の国籍によるものではなく、研究者の第一所属機関(Primary affiliation)が所在する国となっている。オーストラリアの躍進は、国内出身者の活躍に加え、研究機関が他の国・地域の高被引用論文著者を積極的に採用しているため、とクラリベイト・アナリティクス社はみている。

際立つ米国の強さ

 高被引用論文著者を数多く抱えている機関をみると、上位は米国の大学、研究所が圧倒的に多い。1位はハーバード大学の203人、2位はスタンフォード大学の103人で、上位20機関中、米国が14を占める。その中で、中国科学院が101人と3位に入っており、清華大学も19位(42人)に食い込んでいる中国の存在が目立つ。残りは英国の3機関、ドイツの1機関で、これら四つの国にオーストラリアを加えた上位5カ国だけに、高被引用論文著者6,217人の72%が集中している。

「高被引用論文著者の所属機関」(研究者が申告する所属機関・組織)
(クラリベイト・アナリティクス社プレスリリースから)
高被引用論文著者所属機関名 国・地域 高被引用論文著者数
ハーバード大学 米国 203
スタンフォード大学 米国 103
中国科学院 中国 101
マックス・プランク研究所 ドイツ 73
ブロード研究所 米国 60
カリフォルニア大学バークレー校 米国 58
セントルイス・ワシントン大学 米国 55
マサチューセッツ工科大学(MIT) 米国 54
メモリアル・スローン・ケタリング癌センター 米国 54
カリフォルニア大学サンディエゴ校 米国 54
デューク大学 米国 54
カリフォルニア大学ロサンゼルス校 米国 52
イェール大学 米国 51
ケンブリッジ大学 英国 50
コロンビア大学 米国 47
ジョンズ・ホプキンズ大学 米国 45
オックスフォード大学 英国 44
コーネル大学 米国 42
清華大学 中国 42
ロンドン大学 英国 40

日本の低迷あらためて明らかに

 日本については、近年、高被引用論文数の国・地域別比較で順位の低落が目立っている。今回の発表でもあらためて低迷ぶりが裏付けられた形だ。2017年には高被引用論文著者として選ばれたのは72人で、2014年に比べ半減している。クラリベイト・アナリティクスによると、2018年には91人、今回2019年は98人と増えてはいる。しかし、トップの米国の2,737人にははるかに及ばず、中国の636人に比べても6分の1以下だ。

 国・地域別順位も2014年の5位から2015年には8位に下がり、2016年、2017年は辛くも10位にとどまっていたのが、2018年には13位に落ちている。今回11位に上がったが、10位内には入れなかった。日本国内の機関で最も多くの高被引用論文著者が選ばれたのは東京大学だが、12人にとどまる。上位3機関のハーバード大学(203人)、スタンフォード大学(103人)、中国科学院(101人)はもとより、19位の清華大学(42人)に比べても、見劣りは明らかだ。

日本の機関別高被引用論文著者数(2019年)
(クラリベイト・アナリティクス提供)
研究機関名 人数
東京大学 12
物質・材料研究機構 10
京都大学 9
理化学研究所 9
産業技術総合研究所 5
名古屋大学 5
国立がんセンター 5
東北大学 4
東京理科大学 3
大阪大学 3
奈良先端科学技術大学院大学 2
首都大学東京 2
東京工業大学 2
室蘭工業大学 2
国際農林水産業研究センター 2
岡山大学 2
慶応義塾大学 2
農業・食品産業技術総合研究機構、ノベルクリスタルテクノロジー、千葉大学、国立環境研究所、徳島大学、九州大学、近畿大学、順天堂大学、上智大学、高知工科大学、岩手県立大学、京都府立大学、北海道大学、総合地球環境学研究所、名古屋医療センター、ヤクルト中央研究所、立命館大学、信州大学、国立天文台(19研究機関) 1

 日本国内では、現在2021年度から5年間の科学技術・イノベーション政策の基本を定める「第6期科学技術基本計画」の策定作業が進む。11月6日に開かれた文部科学省科学技術・学術政策研究所主催のシンポジウム「第6期科学技術基本計画に向けて日本の未来像を展望する」で基調講演した濵口道成科学技術振興機構理事長は、日本の現状について次のような厳しい見方を示している。

「研究者数で見ると日本は世界で3番目に多い国であるにもかかわらず、論文数で比較すると近年、国別順位の低下が顕著。人口100万人当たりの博士号取得者数が減少しているのは、米国、ドイツ、フランス、英国、韓国、中国といった主要国の中で日本だけだ」

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シンポジウム「第6期科学技術基本計画に向けて日本の未来像を展望する」で基調講演する濵口道成科学技術振興機構理事長(11月6日、文部科学省)

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