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【15-001】「揺一揺 (ヤオイヤオ)」、「掃一掃(サオイサオ)」-ことばから見る中国社会

2015年 3月 4日

河崎みゆき

河崎みゆき:上海交通大学日本語学科日本語教師、
応用言語学(文学)博士

略歴

國學院大學文学部大学院修士、華中科技大学中文系応用言語学博士学位取得
1989年、千葉県社会福祉協議会中国帰国者センターで日本語を教える。2005年2月より華中科技大学日本語学科で8年半日本語を教え、現在、上海交通大学日本語学科日本語教師。専 門は日本語教育および中国社会言語学。

 3月2日から大学の授業もはじまった。旧暦で新年を迎える中国ではこの日が初仕事の先生たちの間から「新年好!」という新年の挨拶も聞かれた。日本とは時差のある時間で中国は動いている。

 冬休みを過ごしていた東京で、2月18日の夜、中国中央電視台がyoutubeを使って全世界に向けて放送した「春節晩会」(中国の紅白歌合戦)を見た。この番組を見ながら、携帯通信アプリ・微信(ウィチャット)やチャットルームQQ(後述)を通して学生たちや中国の友人たちから「春節快楽(春節おめでとう)!」「羊年吉祥」などの年賀メッセージを受け取った。今回は中国のSNSツールの流行廃りやその周辺のことばとして「揺一揺(ヤオイヤオ)」、「掃一掃(サオイサオ)」を取り上げたい。

春節晩会と「揺一揺(ヤオイヤオ)」

 昔ほど面白くないとも言われる春節晩会だが、それでも一番高い地域では90%以上の高視聴率を誇る国民的番組であり、元日におせち料理を食べる日本と違って大晦日の夜に家族そろってご馳走(年飯)を食べ新しい年を迎える習慣の中国の家庭のなくてはならない風景となっている。今年はその春晩(春節晩会)が携帯アプリ・微信の「揺一揺(ふるふる、シェイク)」機能と連携して、「お年玉」がもらえるというプロモーションを展開し、番組の画面上に何度も「揺一揺」の画面が現れた。私もどきどきしながらスマホを振ってみた。

 この機能は同時に振る人を見つける位置同定機能であり、アプリを持つ人同士が互いの登録情報を簡単に交換するための機能である。わたしは「お年玉」にはありつけなかったが、8000キロ離れた中東の男性の連絡先とアイコンが現れてびっくりした。実際に当選したお金は微信銭包(お財布)の中にチャージされ、開発元のテンセント社(Tencent 腾讯)のサービスを利用させるようになっていたようだ。

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写真1 微信「揺一揺(ヤオイヤオ)」の画面

中国のスマートフォンの普及状況とネットアクセス方法の変化

 中国最大のポータルサイト新浪によれば、2014年中国のスマホユーザーは世界一の5億人を越え注1)、国家統計局が2月26日に発表したここ4年の固定(PC)ネット回線ユーザーとモバイル回線ユーザーの推移の図をみると、2010年には固定回線使用が12,629万ユーザー、モバイルが4,705ユーザーであったが4年後の2014年末には20,048万と58,524万に逆転している。多くの人々が携帯(スマホ)やiPadによるモバイル端末ネット接続に移行していることがわかる。

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国家統計局「2014年国民経済と社会发展統計公報」(2015年2月26日)図14より注2)

微信(WeChat:ウィチャット)

 微信(WeChat)は「中国のLINE」といえばわかりやすいと思うが、LINEより機能が多く、いまや現代中国を代表するSNSとなっている(開発は華中科技大学の卒業生)。学生たちや自分自身の利用状況からいっても、瞬く間に情報通信のツールとしてQQや微博(ウェイボー)に取って代わってきたことを感じる。中国SNSの栄枯衰勢に驚くばかりである。

 微信の人気の理由は、無料通話を含めた通信機能以外に、facebookやツイッター、昨年秋からはLINEもアクセス禁止となっている中国にあってfacebookと同じくタイムライン機能があって写真やリンクをアップし、「いいね」やコメントをもらえるソーシャルネットワークの楽しさ便利さにあるだろう。

 私も冬休みをすごす東京で友人と食べた美しい和食の写真などをアップし、学生たちなどから多くの「いいね」や「好吃(美味しそう)」などのコメントをもらった。また今の裕福な中国の友人や学生たちの年飯(おせち料理)や、東京に留学した学生が春節時期の日本で爆買の親戚家族を案内している写真、世界で活躍する卒業生の様子、また昨年は出産ラッシュで中国各地からアップされてくる赤ちゃん写真を眺め楽しんだ。

 微信の伸び率は開発したテンセント社が2014 年第三季度総合業績でアクティブユーザーは4.68億アカウント、前年比で39%の増加と公表している。注3)

 このほかネットでレストランや映画を探し、予約をし、微信とリンクされた電子マネーで決済をすませれば、割引でチケットが買え、共同購入で安く食事をすることができる。私は携帯による電子マネー決済はどうしても安心ならないのでこの機能を利用していないが、割引特典が大きいから是非中国の若者のように使いこなしたらどうかと教え子に勧められている。

 微信の快進撃は今年の春節晩会画面に現れた「揺一揺(ヤオイヤオ)」からも見て取れる。

 携帯を振って「お年玉」をもらおうと延べ110億回振られ、振りすぎて画面のガラスを割ってしまった人もいるそうだ。注4)微信と銀行カードをリンクさせていない私に春節晩会のお年玉が入るわけはなかったわけだ。

テンセント社のQQ

 中国のSNSといえば、2005年に私が中国で日本語を教え始めてすぐPCに学生が入れてくれたのが同じく微信の開発元であるテンセント(騰訊)社のチャットソフトQQだった。学生たち一人ひとり、あるいはクラスのグループチャットを使って個人的な連絡、授業の連絡、またQQメールで作文など提出物など資料や写真のやり取り、比較的大きなファイルの送受信もできるため便利に使ってきた。ビデオ通話も国際間のやり取りも無料で、昨年12月に中国から日本留学中の学生の博士論文のアドバイスも無料通話機能で行ったこともある。文明の進歩に驚くとともに、QQを持たない日本の友人や家族とは高い国際電話代を払って電話回線で話すしかないことももどかしく思えた。

中国版ツイッター微博(ウェイボー)から微信へ 

 学生や中国人の友人たちとの通信では王者の位置に何年も君臨していたQQだが、2011年頃からは、微博(ウェイボー)=中国版ツイッターの登場のおかげで微博に時間を割くことも増えてきた。微博の魅力は何と言っても有名人をフォローしたり、知らない人をフォローすることによって親しくなったり、数秒前に起きた事故やニュースをすぐさまキャッチできることにあっただろう。日本人でも若手コラムニスト加藤嘉一氏には150万人、女優の蒼井空さんに1500万人を越える中国人フォロワーがついた。学生たちもまた微博を楽しみ、私のアカウントをフォローしてくれ微博のメッセージ機能を通して連絡を取りあうこともでき、日本におけるツイッターよりビデオ画像もふんだんに流れてくる微博(ウェイボー)の栄光はそのまま続くかのように思えた。

 ところがCNNIC(中国インターネット情報センター)の調査結果によれば、微博(ウェイボー)のユーザー数は2014年に前年比で11.4%減少し、減少傾向は続いており(p43)携帯電子マネー決済が73.2% 伸びている一方で、微博(ウェイボー)は急激に減速していること注5)注6)を学生たちや友人たちの動きからも感じる。不特定多数への情報拡大の影響が大きい微博では当局の管理も厳しく、実体は物売り広告のごみフォロワーの増加など注7)が興味を失わせている原因だろう。

 そのほか、facebookのソーシャル機能を持たせた「人人網」注8)というSNSでも2012年ごろまでは賑やかなコミュニケーションが繰り広げられたが、久しぶりに見てみると今は閑古鳥、増えてきたSNSのあれこれに水遣りをする人はどんどんと減り注9)、微信が中国人の交流ツールとして最も愛されていることを感じる。

「揺一揺(ヤオイヤオ)」、「掃一掃(サオイサオ)」

 「揺一揺」。動詞の間に一をおくと「ちょっと○○してみる」という意味になる。「揺一揺(ヤオイヤオ)」は「振って見る、振ってみて」というような意味になる。同じ微信の登録情報交換方法としてQRコードのスキャンがあり、「掃一掃(サオイサオ)」と呼ばれている。スキャンする(掃描サオミャオ)から生まれた用語だ。「揺一揺(ヤオイヤオ)」は上記のように春晩では延べ110億回振られ、一躍周知度もアップした。「掃一掃(サオイサオ)」では個人の登録交換だけではなく、企業やお店のQRコードをスキャンすることでお知らせを受け取ったり、お店の特典サービスを得られたりする。私は人民網、上海図書館の講座案内、上海の情報誌や日系スーパーなどからのお知らせを受け取るようにしている。上海図書館の日曜公開講座は微信を通じて申し込むこともできる。

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写真2 「掃一掃」の一例

 人類の歴史の中では、道具やその機能が増えるたびに名称や機能に付随する動作のことばも増える。羊年の今年は、どんなツールが生まれ、「揺一揺」、「掃一掃」の次にどんな用語や新しいことばが飛び出すのか。今年はどんな人たちと出会って掃一掃の交換をするのか。これも新学期の楽しみの一つだ。月を見上げながら農事が行われてきた中国では、春節の約2週間後の初めての満月の夜、元宵節を祝う(今年は3月5日)。ランタンが吊るされ、最後の花火があがり、湯円(タンユエン)という甘いお団子を食べ、その翌日から一年の農耕が始まる。

 今年は、上海交通大学では一足早く3月2日から新学期が始まったが、元宵節の街ではまた花火の音が聞こえるだろう。

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写真3 上海豫園 元宵節のランタン

※昨年末のワイタンで起きた年末カウントダウン事故とスモッグ抑制のために
花火ならびに豫園のランタン祭りは取りやめになり、豫園の観光客数も例年より減少、
やや静かな元宵節となった(3月6日)


注1)「中国智能手机用户为啥全球第一:人多!有钱(中国スマホユーザーがなぜ世界一になったのか。:人が多く、金を持っている)」

注2)国家統計局「2014年国民経済と社会发展統計公報」2015.2.26

注3)テンセント(腾讯)社公布 2014 年第三季度業績

注4)「除夕上演红包决战 春晚"揺一揺"达110亿次(大晦日の晩の春節晩会で演じられた「摇一摇」決戦、延べ110億回)」

注5)「中国互联网络发展状况统计报告(中国インターネット発展状況統計報告書)」 
CNNIC(中国インターネット情報センター)が年2回発布するネット使用状況の報告書(2015年1月公布第35次報告書)

注6)「我国微博用户达2.49亿 规模持续下滑(わが国の微博ユーザー2.49億、規模は下落を続けている)」『腾讯科技』

注7)「新浪微博举报 垃圾广告最多(新浪微博への通報 ごみ広告への不満が最多(1500万件に上る)」北京日報2013年7月5日

注8)人人網 2005年12月、清華大学天津大学の学生たち数名が立ち上げた大学生のソーシャルネットワーク。機能はフェイスブックを踏襲しており、当初は「校内網」と呼んでいたが、2009年に「人人網」に改称。facebookがアクセス禁止の中国で人気を集め、2011年にはニューヨーク証券取引所に上場するまでに成長。だが微博や微信の登場に押され2014年第四期の営業収益は1500万米ドル~1700万米ドルで前年に比べ44.6%~51.1%ほど業績が下降、2015年2月サイト内メッセージ機能を停止することを通告した(すべてのサービスを停止したわけではない)。

注9)「人人网谢幕:被时代抛弃or虚惊一场?(人人網の幕引き:時代に捨てられたorどっきり?)」2015年02月03日。