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【13-010】影の銀行問題を考える(その4)

2013年12月 2日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

その3よりつづき

融資平台問題は、「中央」「地方」「銀行」が確信犯の出来レース

 もう一つ、影の銀行問題で、その出現と成長の要因を考えねばならないのが、地方政府の融資平台(プラットホーム)である。その根底には、「予算法」の予算の収支バランスと分税制の問題がある。

 地方には、財政の二つの不文律がある。赤字予算が認められないこと、そのため債券発行ができず、発行は財政部の代理発行に限られる。そこに1994年の分税制改革がからむ。

 表1および図1のように、税の種類で税収を中央と地方に分ける分税制実施前、財政収入の地方の比重は70%前後だった。しかし、分税制後には50%を下回る。そのため、中国が内陸開発に力を注いだ2000年代になり、地方の財政圧力が急激に高まった。今は、財政支出の80%以上が地方の支出である(図2参照)。

表1 中国の財政収入の出処区分

表1

図1 中国の財政収入に占める地方政府の比率推移

図1

図2 中国の財政支出に占める地方政府の比率推移

図2

 財政支出の分担表を見てもわかるように、教育、社会福祉、都市建設は地方政府の管轄である。さらにこの数年、中国は地方都市の新区投資、小都市建設、新農村建設や保障住宅の建設を強く進めている。その資金も地方の負担である。

表2 中国財政主要支出の中央政府と地方政府責任区分

表2

 一方で、地方には中央からの圧力がある。地方の税収、GDPの指標が指示され、それを考課される。その圧力下で、膨大な投資財源を確保しなければならないのが地方である。

 自ずと地方は企業家精神を持ち、「予算の縛り」から逃れるために、規制と管理が及ばないところで資金導入の会社、開発会社をつくることになる。それが融資平台である。

 中央は地方に税収を指示し、考課の圧力を加えるだけで十分である。それがあれば、本来、国債、地方債で賄うべき資金を、地方政府が融資平台を通じて調達する。逆に、地方も開き直る。自らの足元には、財源確保のための土地という宝がある。いざとなれば国の土地を処分し、債務を国の負担に付け替えるだけである。

 そこに、金利と貸付額の制限、さらに預金準備金の縛りの中で、危機感を持つ銀行が、収益拡大を狙い確信犯として加わる。銀行も「国の責任」を先読みして、政府保証や土地譲渡収入を担保に、地方への貸付を増やす。銀行はオンバランスでの貸付だけでなく、簿外で理財や信託の影の銀行資金を大量に地方に流し込んだ。地方政府も銀行も資金を出す企業も個人も、皆が国の土地、国の責任を頭の中に描いている。だから皆が確信犯である。

 融資平台は、中国の財政システムの歪の現れでもある。しかしその裏に、中央、地方、銀行、資金の出し手が国の責任を予見し、確信犯の「出来レース」をしている。これも影の銀行をとらえる上での重要な視点と考える。

なぜ融資平台の債務は拡大するのか

 銀監会(中国銀行業監督管理委員会)が発表した2013年6月末の地方政府債務は、銀行による融資平台への貸付が9.7兆元、財政部による地方債の代理発行が0.89兆元、城投債(融資平台が発行した建設債)の発行額が1.4兆元、信託借入が2.2兆元である。この限りでは影の銀行からの地方政府への資金流入は債務の4分の1ほどで、融資平台の問題は影の銀行に絡む問題でなく、銀行のオンバランスでの不良債権問題として取り上げられる問題である。

 しかし地方政府債務には、財政部の監査で把握できていない債務、迂回融資の不明朗な債務も多い。調査が進むごとに、負債は膨らみ、債務残高は2012年の地方財政予算収入の300%を超える。国が基準として考える3倍である。

 融資平台債務が膨張する背景には、制度の欠陥に「悪乗り」している者がいるからである。その一つは銀行であり、今一つは地方政府の幹部とその権力である。

 リーマンショック後、経済刺激策の4兆元の資金を取り込むため、地方政府は融資平台をフル回転させた。それに「悪乗り」したのが銀行でもある。

 地方への融資は安全と高い利息のうま味もある。必要なプロジェクト資金の数倍を融資平台に貸し付けることも日常的に行われていたと見られる。

 銀行のオンバランスでの業務が厳しく管理されても、理財資金が信託により融資平台に流れる。表の管理を厳しくすればするほど、理財、信託、私募基金の影の銀行資金の動きが活発になる。前にこの欄で述べた政府の発票(領収書)管理と裏経済の成長と同じ構図である。2012年、政府は銀行の融資平台への表の貸付を厳しく管理した。その結果、その年の信託資金の70%が融資平台に回っている。

 影の銀行資金の多くは、人民銀行、銀監会など国の金融監督部門に管理されていない。

 その手軽さが「悪乗り」に拍車を掛ける。募集数49人以下の私募基金は人民銀行の批准は不要で、商業銀行の判断で募集できる。株配資や理財は個人も数千元から5万元程度の資金で購入できる。

 財政部の監査が進むにつれ、地方債務の拡がりが大きいことがわかった。監査を入念にすれば「新しい債務と債務者」が現れてくる。

 例えば、地方政府は地方国有企業を支配下に置く。融資平台ではない国有企業を使った迂回融資も増えている。準融資平台であり、国の管理の抜け穴でもある。

 地方政府の交通インフラ、保障住宅建設の公共プロジェクトで、地方国有企業によるBT方式(建設後引き渡し)の建設、立替資金工事、延払方式等を活用した結果、融資平台外の地方債務も大きくなっている。管理されていない中で資金の受け皿が広がれば、そこに幹部の不正、利益誘導の機会も膨らむ。そこに面子が加われば「悪乗り」は加熱する。

 また、これまで把握されなかった、地方政府末端の郷鎮政府債務がある。郷鎮政府融資平台の債務も意外に大きく、地方政府債務の5~6%を占めると見られている。

 郷鎮政府は省や市に比べ、返済財源が乏しく、自転車操業で借り換えを繰り返さざるを得ない。国の監査が進み出したとは言え、隠された債務もまだ多いと見られ、融資平台とはどこまでを言うのかさえも明確なものにはなっていない。債務を持つ全国の融資平台は1万以上とも、4万を超えるとも言われる。

 今、地方政府債務は20~25兆元とも見られるが、これも定かではない。

影の銀行リスクのとらえ方

 影の銀行の要素の多くが、中国経済の成長過程での旺盛な資金需要と金融ニーズを満たすために出現した。だから実体経済に必要不可欠なものとして機能しているものも多い。

 銀行理財も、個人や企業の預金が理財に移り、さらに貸付や投資に変形したものでもあり、本来の銀行システムが形を変えただけでもある。

 影の銀行のしくみは単純である。問題となるのは奥行きが見えないことと、管理されない中で資金が大量に動き、運用ルールに問題が起きて胡散臭さがつきまとうからである。

 そこに投資の自己責任に慣れない一般個人も絡むので問題が深刻化する。

 筆者の身近でも理財を購入する人は、元金保障のない理財でも、それを認識せずに購入している。銀行窓口の対応に問題もあり、元金割れの場合に訴訟が起きるのも当然である。

 今、中国政府は発行人民元と流通人民元の大きな差を追及している。国外に不法に持ち出された人民元が想像以上に大きいためである。影の銀行には、闇送金、闇両替などの地下銀行もあり、そのために問題指摘の声も大きくなる。

 しかし、闇の存在、そのダーティさとリスクの連鎖とは別である。不透明ゆえにリスクが高いのであれば、大きな裏経済の中で動く、中国経済そのものもリスクが高いことになるが、現実には、中国は安定した高い成長を続けている。中国経済のリスクを声高く叫んだ人は、二十数年の高成長と自身が述べたリスクの矛盾を説明しなければならないだろう。

 理財や信託も、証券化で転々としているのではない。成長率低下、自転車操業の理財や問題基金の破綻、ゴーストタウン程度では、リーマンショックの連鎖は起きない。せいぜい株式市場が低迷し、個人や企業に損失が発生する程度である。ハイリスクとハイリターンを好み、金融理財や芸術品理財で天価(価格の暴騰)の大儲けを狙ったお金持ちに損失が発生し、彼らが落胆する程度である。理財や信託のリスクが大きくなれば、資金が銀行預金に戻るだけで、金融システムの混乱には至らない。一時の混乱は起きても、それで企業、個人への金融が収縮することにはならない。より高い金利を稼げる影の銀行には、多くの資金の流入口がある。現に日本の都銀も系列を通じて影の銀行に加担している。また、公的保証や民営銀行整備などの中小企業金融制度の整備も少しは進む。

 何かを機に金融不安が発生した場合にリスクが連鎖すると言うなら、その何かとは中国経済の突然の急激かつ大規模な混乱以外にない。

 ある日突然の急激な中国経済の崩壊、それは非現実的でもある。そんな心配をするなら、催眠術にかかっているようなアベノミクスの先行きを心配する方が現実的でもある。

 しかし一方で大きな地方債務問題もある。

 影の銀行の問題は、3つの観点から語られることが多い。

 地方政府のデフォルト、それによる銀行や信託会社の破綻、その複合での信用収縮の発生と世界への危機の連鎖である。デフォルトがなければ銀行破綻も信用収縮も危機の連鎖もない。だからそのポイントは、地方政府の債務不履行が発生するのかにつきる。

 煎じ詰めれば影の銀行リスクとは、地方政府の債務が金融不安発生の何かになるのかでもある。次回は地方債務のリスクについて考えたい。



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