第1節 概要
国家ハイテク産業開発区は中国「タイマツ計画」の重要な構成要素であり、中国におけるさまざまなサイエンスパーク・ハイテクパークの中で最も重要な基盤的なパークである。国家ハイテク産業開発区は、知 識の集結と開放的な環境を備え、中国の科学技術と経済の実力と地域的な特性を生かし、科学技術の研究成果を最大限に生産力に転換するために設立された。国 内と海外市場に向けた中国のハイテク産業を発展させるための集中エリアとして機能している。
1991~1992年に、53の国家級のハイテク産業開発区が国務院の承認を得て建設されてきたが、2007年3月、江蘇省に設けられていた「寧波ハイテク産業開発区」が地方(省)レ ベルから国家級へと昇格されたことにより、2008年12月現在で54の国家ハイテク産業開発区が存在している。
国家ハイテク産業開発区の設立は中国ハイテク産業の育成や振興、産業構造の改革、伝統的な産業の発展、国際的な競争力の増強を狙った重大な戦略である。ゼロからの出発であったが、タ イマツ計画が実施された20年間、政府主導による段階的かつ戦略的な拡大策によって前例を見ない高成長が続いた。2005年12月現在の統計によると、寧 波を除く53の国家ハイテク産業開発区の工業生産高の増加率、利潤、納税、及び輸出で得た外貨は、それぞれ全国のハイテク産業合計の41.5%、42%、39.5%、46.2%であった。また、国 家ハイテク産業開発区の1人当たりのGDPは1万ドルに達し、研究開発費の投入は全国平均の9倍に上った。
ちなみに、2006年12月に開催された「全国ハイテク産業発展会議」では、中国のハイテク産業の発展は、「第11次5カ年計画」の最初の年となる2006年によいスタートを切り、ハ イテク産業の増加額は前年同期比20%増の9400億元以上になると予想された。
国家ハイテク産業開発区の役割については、当初、①ハイテク産業発展の基地、②伝統産業へのハイテク及び商品の拡大、③改革開放の窓口、④改革を推進するための実験地域、⑤科学技術と経済の緊密な融合、科 学技術の研究成果の産業化の推進、技術イノベーションなどのモデル地域、⑥社会主義の現代文明の新都市、⑦ハイテク実業家を育成する学校といったものが定められていた。
しかし、2006年1月に開催された「全国科学技術大会」 [1] では、温家宝首相が国家ハイテク産業開発区の役割について、「四位一体」と言う新たな位置づけを明言した。四位とは、① 技術の進歩と自らのイノベーション能力を強化する「重要な運営ステージ」、② 経済構造の調整や成長方式の転換を実現する「強力なエンジン」、③ハイテク産業の国際競争への参入をサポートする「サービス・プ ラットフォーム」、④ハイテク産業の世界における戦略的な「 ハイテク産業制覇の最前線」と言う内容である。これによって、国家ハイテク産業開発区の新たな方向性が明確にされ、中 国におけるハイテク産業の育成や集積からイノベーションの集積や国際化へと発展することが期待されている。
中国科学技術部タイマツハイテク産業開発センター責任者の梁桂は以下のように述べている。
ハイテク産業に関する国際的な定義はその産業における研究開発の集約度が根拠となっているが、各国における集約度の高い産業が必ずしも一致するとは限らない。各 ハイテク産業開発区は理論に絞られることなく、あくまでも中国のハイテク産業政策に沿って、各地方における産業の優位性や振興の方向性からハイテク産業の定義づけを行えばよい。国 家ハイテク産業開発区は中国経済の持続的な発展を牽引するものになるであろう [2] 。
2008年10月現在、54の国家ハイテク産業開発区の合計面積は中国全土の1万分の3にもなっていないが、そこで創出されるGDPは中国全体の7.1%を占めている。アメリカのシリコンバレーなど、世 界の代表的なサイエンスパークを参考にしつつ作り上げてきた中国国家ハイテク産業開発区は、前述した新たな位置づけで「2次創業」と言う段階に突入しており、今日、世 界一流のサイエンスパークを目指すための取り組みが中国各地で展開されている。
[1] 中国「全国科学技術大会」は中国共産党中央委員会書記処に直轄され、全国規模の各分野の学会、領域別の協会、研究会、及 び地方レベルの学会等より構成される「中国科学技術協会」が企画・運営し、中国の指導者トップをはじめとする科学技術関係者が一堂に会する国家級の大会である。国家最高科学技術賞、国家自然科学賞、国 家技術発明賞、国家科学技術進歩賞、国際科学技術合作賞の授与式が行われる大会でもある。
[2] 梁桂「世界一流のサイエンステクノパークを建設する国際フォーラムに寄せて」(2007年6月7日)。