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書籍紹介:『世界を読み解く経済思想の授業』(日本実業出版社,2015年8月)

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書籍名:世界を読み解く経済思想の授業

  • 著 者: 田中 修
  • 出版社: 日本実業出版社
  • I S BN: 978-4-534-05303-9
  • 定 価: 1,700円+税
  • 頁 数: 310
  • 判 型: A5
  • 発行日: 2015年8月刊

書評:「世界を読み解く経済思想の授業」田中修 日本実業出版社

倉澤 治雄(中国総合研究交流センター

 そもそも「経済」とは何か。「凡天下国家を治むるを経済と云、世を経(おさ)め民を済(すく)ふ義なり」という言葉通り、「世を治めて民を救う」ことである。しかるにあまたの経済学が栄枯盛衰を重ねている間に、「いつのまにか倫理の問題は忘れられてしまったように見えます」と著者は問題提起する。「民を済う」どころか、少数の富裕層が富の半分以上を占有している世界の現状に、アメリカ型資本主義モデルの矛盾を著者は見る。そしてリーマンショックを経て、アメリカ型の資本主義モデルが「最善でないことが分かった」今、「倫理」をどこに求めるか、スミス・ケインズからピケティ・スティグリッツに至る経済思想の渉猟が始まる。

 序章の「経済危機へのまなざし」には、「経済には倫理と強い精神力が必要である」とサブタイトルが付けられているように、本書は一貫して金融や経済での「倫理」の問題を提起し続ける。経済思想をたどる旅は「主流派経済学の攻防」「異端派から見た現代社会」「さまざまな資本主義」「米・独・仏の資本主義」を概観したあと、「日本資本主義の倫理」に行き着く。戦時体制を含めた「日本資本主義の歩み」をたどったあと、「日本モデル」のリスクがどこにあるのか分析する。

 「バブル発生・崩壊から現在に至るまでの30年近くの知的怠慢のなかで、既存の大企業の多くの経営者からはアニマル・スピリット、企業家精神、士魂が失われ、日本の経済・社会は長い停滞に陥っています」と日本経済の現状に警鐘を鳴らす。「日本の社会システムに適応した経済・市場のあり方を考える」上で、「日本人・日本社会の根底を流れている倫理観にも、我々は再度眼を向ける必要があります」と「日本人の倫理観」の根源を江戸時代にさかのぼって分析する。

 著者は日本経済の活力を取り戻すためには教育改革の重要性をとくに上げているが、教育や人材育成には長い時間がかかることから、「現在の組織内の中堅人材を再教育することが喫緊な課題となってくるでしょう」と述べる。要は今の戦力を鍛えなおす事でしか、目の前の「停滞」を乗り切ることは出来ないというのが著者の結論でもあるのだろう。

 本書では著者の専門である中国の「経済思想」についても、各章の末尾に欧米と対比する形でまとめられており、中国経済を世界の経済思想の中に位置づけるユニークな一冊となっている。