第64回CRCC研究会「中国の経済協力:現状と課題」/講師:北野 尚宏(2013年9月11日開催)
演題:「中国の経済協力:現状と課題」
開催日時・場所
2013年 9月11日(水)15:00-17:00
独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講演資料
「 中国の経済協力:現状と課題」( 5.28MB )
詳報
「 第64回研究会速報」( 6.60MB )
北野 尚宏(きたの なおひろ)氏:
国際協力機構研究所(JICA)副所長
略歴
1983年早稲田大学理工学部卒業(81~82年中国清華大学土木与環境工学系在籍)、97年コーネル大学大学院博士課程終了。83年海外経済協力基金採用、北京駐在員、国 際協力銀行開発金融研究所主任研究員、京都大学大学院経済学研究科助教授、同銀行開発第2部部長、独立行政法人国際協力機構(JICA)東・中央アジア部部長などを経て、2012年よりJICA研究所副所長。
主な著書に、「アジア諸国への経済協力」下村恭民、大橋英夫、日本国際問題研究所編『中国の対外援助』日本経済評論社2013年、「深化する中央アジアとの関係」関志雄、朱建栄、日本経済研究センター、清 華大学国情研究センター編『中国が変える世界秩序』日本経済評論社 2011年、「水環境政策の到達点と課題」森晶寿、植田和弘、山本裕美編著『中国の環境政策』京都大学学術出版会 2008年など。
対外援助目覚ましい中国
小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)
日本と海外諸国の対外援助、経済協力に詳しい北野尚宏・国際協力機構(JICA)研究所副所長が9月11日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、中 国が対外援助で目覚ましい実績を積み重ねている現状を詳しく紹介した。
北野氏によると、中国の対外援助額は右肩上がりで増え続けており、中国輸出入銀行の優遇借款を加えると2012年に約270億元(約4,300億円)に達している。世界銀行、アジア開発銀行、ア フリカ開発銀行などの国際機関や、途上国支援に熱心な先進諸国との関係強化の動きが今年になってから顕著になった。今年6月には李勇・前財政部副部長が国連工業開発機関(UNIDO)の事務局長に選出されている。
自らを発展途上にあるとして、対外援助政策においても南の国同士の援助(南南協力)というのが、中国の基本姿勢。しかし、中国に対する海外諸国・国際機関の期待は急速に高まっている。加えて、こ れまでの実績を基に対外援助の質を上げるため諸外国に学びたいという姿勢に中国が転換したことを、北野氏は新たな中国の動きの背景として指摘した。具体的には、国 際援助について十分な経験と知識を持つ人材の育成が伴っていないという現状を、日本を含めた対外援助の経験が深い国や国際機関との連携を重視しだした理由に挙げている。
2011年4月に中国が初めて公表した「対外援助白書」では、「援助相手国の自主発展能力の向上を支援する」ことが政策の柱の一つとして明記された。自 国の発展と周辺途上国の発展をバランスよく進めることを狙っている。メコン河流域国との経済協力では、広西チワン族自治区と雲南省という自国の辺境省の発展が密接不可分の関係となっているように...。ASEAN( 東南アジア諸国連合)諸国との経済協力は、同じ社会主義国であるベトナムが1995年にASEANに加盟したのがきっかけで始まった。「メコン河流域開発」は、2002年の第6回中国ASEAN首脳会議でできた「 包括的経済協力枠組み協定」に盛り込まれた優先協力分野の一つになっている。
現在、中国雲南省とラオス国境付近に橋を架け、交通路のネックを解消しようという第4メコン大橋建設工事が、中国とタイのジョイントベンチャーによって進行中。これが完成すれば、雲南省の省都・昆 明からラオス国内を経由してタイのバンコクまでメコン河を船で渡らずに行けるようになる。さらに昆明とバンコクを結ぶ鉄道の計画も進んでいる。2011年には中国・A SEAN対話関係樹立20周年記念首脳会議で新たな行動計画(2011-2015年)が合意され、北京に中国・ASEANセンターが設立された。日本アセアンセンターが東京に設立されたのは1981年だから、3 0年の時間差がある。しかし、今や中国の追い上げが急速なため、対ASEAN援助で日本が突出した状況とは言えなくなっている、と北野氏は指摘した。
氏は、アフリカ諸国に対する中国の経済支援についても詳しく紹介した。中国はアフリカ諸国を、資源と原材料の供給地として重要視するだけでなく、貿易や海外工事請負に潜在力のある市場とみなし、さ らには国際開発協力実施によって大国としての責任を示す重要な舞台と見ている。アフリカで支援活動に従事する中国人は50~100万人といわれるが、在アフリカ各国の中国大使館でも正確な数字は把握できていないという。
また、氏は中央アジア5カ国(カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、トルクメニスタン)との経済技術協力の現状も詳しく語った。資源が豊富にあるかどうかで、5 カ国に対する援助に差がないのが特徴という。中央アジア諸国に対する援助の延長に、将来は欧州、南アジア、中近東との経済協力を見据えた大きな構想がある、との見方も明らかにした。
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