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【20-029】《新型コロナウイルス》中国の研究開発の状況について

JST北京事務所 2020年5月19日

 新型コロナウイルス対策に関連した研究開発の状況について、3月の政府の記者会見[1]をはじめ、何度か報告してきた。4月14日にも研究開発の状況を中心とした記者会見が行われており、その概要は以下のとおりである[2]。若干の補足情報とともにお伝えする。

 今回の対策のための一連の研究開発の取組などを契機として、中国では、"核心キーテクノロジー攻略新型挙国体制"("关键核心技术攻关的新型举国体制" [3])といった言葉も見られる。

1.ワクチンについて

 ・ 不活化ワクチン、核酸ワクチン、組換え蛋白ワクチンとアデノウイルスベクターワクチン、弱毒化インフルエンザウイルスベクターワクチンの5種類について研究開発を推進中。

 ・ アデノウイルスベクターワクチンに関しては、陳薇院士(中国軍事科学院軍事医学研究院研究員)チームによる臨床研究が行われていたが、すでに3月末に第1期の臨床試験を完了し、4月9日から第2期の臨床試験のボランティアを募集開始した。世界で初めて第2期臨床研究を開始した新型コロナウイルス対策のワクチンである。なお、第2期臨床試験には、84歳の退役軍人もボランティアとして参加したという[4]。最終的には、数千人規模の第3期臨床試験が必要。

 ・ 不活化ワクチンに関して、4月12日、13日に連続して、国家薬品監督管理局が臨床試験の計画を承認した。12日には、中国生物技術股份有限公司の武漢生物製品研究所と中国科学院武漢ウイルス研究所が共同申請した計画が承認され、13日には、北京科興中維生物技術有限公司の計画が承認された。なお、後者の開発に際しての動物実験の結果については、中国医学科学院医学実験動物研究所秦川所長のとりまとめでScience誌に掲載された。投稿原稿の公開段階で新型コロナウイルスワクチンの動物実験データの公表としては、世界初と言われている[5]

 ・ 他の種類のワクチンについても、動物実験、安全性評価実験等が実施されている。4月、5月に臨床試験の申請が相次ぐだろうとの見通しが示されている。なお、核酸ワクチンについては、米国で3月にmRNAワクチン、4月に米国でDNAワクチンの臨床試験が開始されている[6]

 ・ ワクチンに関しては、その後、中国疾病予防対策センター高福主任は、再流行があった場合などに、9月には臨床試験中のワクチンを例えば医療スタッフへの緊急使用が可能との見通しを示している。一般の健康な人には年明けに接種が可能になるであろうとの見通しだ[7]

2.医薬品・治療法の開発について

 ・ 医薬品や治療法に関して、累計27プロジェクトを展開。医療機関、大学、研究所、企業等152機関が参加。武漢の第一線での対応に当たった機関は47。研究者3,200人が参加、多くの院士を含むプロジェクトの責任研究者たちも武漢臨床治療の第一線で活躍した。

 ・ 今まで一連の成果が得られている。承認を得て臨床へ展開されている4種類の医薬品、指導的な見解や専門家の共通認識が得られている5件を含む10以上の成果が、診療ガイドラインに採用されている。治療効果も得られている。

 ・ 薬剤については、既存の医薬品の新しい用法を見つける"老薬新用"の考えで研究が進められた。漢方薬の併用も効果を上げた("三薬三方"と言われている。"三薬"が金花清感颗粒、連花清瘟颗粒和胶囊、血必浄注射液。"三方"が清肺排毒湯、化湿敗毒方、宣肺敗毒方)。

 ・ 医薬品の承認にあたっては、緊急事態への対応のため、現場の臨床専門家を中心とする専門家、企業や研究開発期間と医薬監督局が連絡を密にする体制がとられた。

 ・ 幹細胞治療は200例、回復期血漿を用いた治療は700例行われ、効果が見られた。モノクロなール抗体等の研究も進められている。その後、4月28日には抗体医薬品開発の公募が行われた。回復患者の血漿中の抗体を用いた治療が効果的だったことから産業化を目指すものであり、3ヶ月で抗体の評価を行い、1年以内に臨床試験を申請することを目指した公募だ[8]

3.国際協力

 ・ 国際ジャーナルでの学術論文の発表を通じた経験と成果の世界との共有のほか、学術的な交流と共同の検討を行っている国・地域は140を超える。

 ・ 日本で開発されたファビピラビルの活用等は国際的な科学技術の成果であり、対策プロジェクトグループは、積極的に国際協力ルートを開拓し、進めていこうとしている。

4.国家自然科学基金委員会(NSFC)の支援プロジェクト

 ・ NSFCが1月に公募を開始したことをお伝えした[9]が、このほか、中国の研究者を対象として、新型コロナウイルス感染症に関して純粋な医薬分野に限定されない領域を対象として、5月20日までの期限で新しいアイデアの公募を実施している[10]。NSFCでは、これらのアイデアを整理・分析し、関連研究の次の重点をどうするか検討する基礎としたいとのこと。(提案されたアイデアに対して、NSFCが、今回、直ちに研究費を支援するものではない。)


[1] 2020年3月11日 北京便り「新型コロナウイルスに関連した医薬品・治療法の開発状況等について」等

[2] 国务院联防联控机制2020年4月14日新闻发布会介绍新冠肺炎药物研发、疫苗研制等科研攻关进展情况

[3] 完善关键核心技术攻关的新型举国体制

[4] 「新型コロナウイルスワクチン治験に参加した84歳の「老兵士」

[5] 《科学》首发动物实验结果:京企产新冠疫苗安全有效
首个新冠疫苗动物实验数据出炉|科技抗疫

[6] 2020年4月28日 日経電子版「新型コロナ収束のカギ、治療薬・ワクチンはいつ?
中美两国正在研发的疫苗,有什么区别?

[7] 疾控中心主任高福:中国或在九月研发出紧急使用的新冠疫苗

[8] 科技部关于发布新型冠状病毒中和抗体产品研发应急项目申报指南的通知
新型冠状病毒中和抗体产品研发应急项目申报指南

[9] 2020年2月13日 北京便り「新型コロナウイルスによる肺炎に対応した研究プロジェクト等

[10] 国家自然科学基金委员会关于征集"新型冠状病毒"相关科学研究创新思路的通知