北京便り
トップ  > コラム&リポート 北京便り >  File No.21-021

【21-021】《NSFC》国家自然科学基金委員会の改革への取り組み(2)

JST北京事務所 2021年03月12日

2020年公募における改革

 国家自然科学基金委員会(NSFC)は、前回 お伝えした2018年12月の「改革の要点」、2019年度公募における改革に続き、2020年の公募ガイドにおいて、以下の改革を行うことを示した[1]

1.オリジナリティの強い探索プログラムの実施

 ・このプログラムについては、以前、ご紹介した[2]

2.経費の使用における「請負制」の実施

 ・「国家傑出青年科学基金プロジェクト」において「請負制」[3]を試験的に導入する。直接経費と間接経費の区分をなくす。申請時に予算案の提出が求められず、研究代表者は規定の範囲内で経費を自主的に使用することができる。

3.一部プロジェクトにおける経費支援メカニズムの調整

 ・60機関で知力集中型研究と純理論基礎研究において間接経費の割合を高くして試行した経験を踏まえ、2020年からは全機関を対象に「青年科学基金プロジェクト」と「国家傑出青年科学基金プロジェクト」「イノベーション研究グループプロジェクト」の間接経費の比率を高めて公募する。

  〇「青年科学基金プロジェクト」[4]

  ◆支援期間3年 直接経費24万元 間接経費6万元

  ◆支援期間1年 直接経費8万元 間接経費2万元

  〇「優秀青年科学基金プロジェクト」[5]

  ◆支援期間3年 直接経費120万元 間接経費30万元

  〇「イノベーション研究グループプロジェクト」[6]

  ◆支援期間5年 直接経費1,000万元 間接経費200万元(数学と管理科学は、直接経費670万元 間接経費170万元)

4.「責任、信用、貢献」(RCC:Responsibility, Credibility, Contribution)重視の評価制度を施行

 ・次回、詳述する。

5.申請コードの改革

 ・工学・材料科学と情報科学において3段階のコードを2段階に整理

6.その他

 上記のほか、2019年の改革で示された以下の改革が継続・拡大して推進されている。

(1)分類しての申請と評価の対象分野の拡大

 ・科学の課題の属性に応じて、申請者が4つのタイプのいずれかを選択して申請し、NSFCがそれに応じた評価と管理の体制を確立する試みをすべての「一般プロジェクト」と「重点プロジェクト」で実施。

 ・なお、「国家自然科学基金委員会2019年度部門決算」[7]によれば、2019年度「一般プロジェクト」公募において、同委員会の一級分野分類コードによる17分野(一級分野分類コード全体の18.09%に相当)で実施されたこの申請方式において、「①(新しい発想での)探索を奨励し、突出したオリジナリティを目指す」は、2018年(36.52%[8])に比べて比率が低下し、申請件数、採択件数が12.63%、10.71%。「②(世界の科学の)最前線にフォーカス、独自の新しい道を切り拓く」は44.19%と50.99%に、「③(国家や経済の)ニーズに応えボトルネックを突破する」は、34.54%と30.70%、「④(分野横断的な)共通性を志向し、分野の融合を図る」は8.64%と7.6%になった。申請者と評価者の4分類に対する理解が深まることと改革が求めているものについて、一層の周知と解説が必要だとしている。

(参考)2020年の公募ガイドで示されている2019年度「重点プロジェクト」の生命科学分野の応募採択状況
※総申請件数は635件、総申請件数に対する採択率は18.11%。
出典:《重点项目 生命科学部》国家自然科学基金委员会
類型 受理件数 比率 採択件数 採択率
「(新しい発想での)探索を奨励し、突出したオリジナリティを目指す」 109 17.78% 18 16.51%
「(世界の科学の最前線に)フォーカス、独自の新しい道を切り拓く」 281 45.84% 63 22.42%
「(国家や経済の)ニーズに応えボトルネックを突破する」 194 31.65% 30 15.46%
「(分野横断的な)共通性を志向し、分野の融合を図る」 29 4.73% 4 13.79%
613   115 18.76%

(2)プロジェクト申請数の調整

 

(3)人材支援制度の改革

 ・2019年公募の改革に関連して紹介した(5)人材支援制度の改革、(7)香港・マカオ地区研究者への申請の開放の推進[9]

(4)申請の簡素化

 

(5)研究倫理遵守の強化

 なお、2019年度公募分まで英文の公募ガイドラインが掲載されていたサイトに、2020年の英文ガイドラインは掲載されていない[10]

2020年における機構改革

 また、2020年には、分野横断・融合を促進するための機構改革も行っている。NSFCの組織は、分野別に科学部と呼ぶ部署を設置しているが、2020年11月末に従来の分野別の8つの科学部に加え、学際科学部を設置した。このことは、同年11月29日に開催された学際科学ハイエンド学術フォーラムで発表された。同フォーラムには、計算数学、人工知能、生物物理、人間工学、量子コンピューティング、ナノバイオロジー、地磁気、脳科学、材料学等の専門家が参加した。学際科学部では、人材育成を重視し、分野のバランス・レイアウトを最適化し、学際的研究の特性に適した資金管理メカニズムの確立を目指すという[11]


1. 《2020年度国家自然科学基金改革挙措》国家自然科学基金委员会

2. 「国家自然科学委員会、新プログラムで独創的な探索研究の支援強化」Science Portal China〈北京便り〉2019年12月26日

3. 従来から定額により研究費を配賦していたが、今回の改革により更に直接経費と間接経費の区分を廃止して柔軟性を高めたことを表現しており、法律用語としての請負とは異なる。

4. 《青年科学基金项目》国家自然科学基金委员会

5. 《优秀青年科学基金项目》国家自然科学基金委员会

6. 《创新研究群体项目》国家自然科学基金委员会

7. 《国家自然科学基金委员会 2019 年度部门决算》国家自然科学基金委员会

8. 資料中に、申請件数か採択件数かの記載なし。採択件数か。

9. 「《NSFC》国家自然科学基金委員会の改革への取り組み」Science Portal China〈北京便り〉2021年02月15日

10. NSFC Guide to Programs 2019, 国家自然科学基金委员会

11. 《国家自然科学基金委员会交叉科学高端学术论坛在京召开》国家自然科学基金委员会