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【21-031】中国、月面研究拠点の建設計画を本格的に始動

JST北京事務所 2021年04月12日

 中国とロシアが月面研究ステーションの共同建設をめぐり、3月9日にMOUに調印した。これを含めて、中国月探査プロジェクト総設計士である呉偉仁院士は、この頃開催の中国「両会」(衆議院・参議院会議=国会相当)の際にこれからの中国の月探査について紹介した。中国新聞網が伝えた。以下その概要をまとめる。

「昨年12月17日に月土壌サンプルを持ち返した嫦娥5号の帰還をもって、中国月探査プロジェクトの前期ミッション『周回・着陸・帰還』(フェーズⅠ~Ⅲ)は無事完了した。これからの月探査に関して、嫦娥6号による月南極でのサンプリング・持ち帰り、嫦娥7号による月の南極での精密調査、嫦娥8号による月探測・応用および月面でのコア技術実証というステップに分けて進む月探査プロジェクトフェーズⅣは既に実施プランの論証がすでに完了し、そして将来、月の南極に国際月面研究ステーションを設置するよう計画を立てている」と、呉院士が伝えた。呉院士は、「広大な宇宙の探索は人類共通の夢であり、世界各国とともに連合して月面研究ステーションを建設し、人類の知識のフロンティアを広げていきたい。」と述べている。

 月面研究ステーション建設を含める中国の今後の月探査について、呉院士より具体的に以下の点が紹介された。

・ 月面研究ステーションの建設に関して、中露両国はステーション建設工程図の作成、建設の企画、論証、設計、製作、実施及運営等で協力する。また、地球と同じく、月の南極は白夜現象もあると考えられ、ステーションの立地先とした[1]

・ 月面研究ステーションの建設に伴い、月面への有人着陸も企画も進められている。そして、有人着陸の実施に向けて、より強大なパワーをもつロケットの開発のほか、科学・エンジニアリング試験の実施に備え、宙飛行士の選抜は、従来のパイロットだけでなく、研究者とエンジニアまでも対象を広げていく。

・ 月面での構造物建造に3Dプリント技術の導入も考えられる。

 なお、呉偉仁院士は、2019年の中国科学技術大学での講演において、月面研究ステーションに関して、2022年もしくは2023年にも実験を行うことを準備していると述べている[2]。これが上述の計画に相当すると考えられる。一方、次に紹介する本年2月のテレビ番組では、中国の月探査プロジェクト副指揮官でもある呉艶華国家航天局副局長から、2019年のフランスとの合意文書に基づき、嫦娥6号のミッションを2023~2024年に実施するとの説明がなされている。

 今年の旧暦大みそかのテレビ番組に呉偉仁院士、呉艶華副局長ら4人の関係者が出演した。呉艶華副局長は、嫦娥6号について上述のとおり述べたほか、嫦娥7号、嫦娥8号のミッションを関係国家、国際機関とともに月面研究ステーション建設初期段階の基本能力の共同論証あるいはコア技術の検証の機会としたいと述べている。番組では、ロシアが10月に月の南極付近で新しい月着陸技術を試し、月の土壌や空間層を調べ水の痕跡を探す計画やインドの月南極での着陸計画、米国のアルテミス計画が紹介されている。呉偉仁院士はこの番組で、月の南極に研究ステーションを建設できれば、長時間の地球のダイナミックかつ全方位で安定的な観測、月の鉱物の採集、月をスプリングボードとしてより遠くの観測が可能だと語っている。


1. 月の自転は地球の28日に相当するため、14日間の昼が続き、14日間の夜が続く。月表面の最低温度は-180℃と認識されていたが、嫦娥4号は初めて-190℃を測定しており、観測機器にとって過酷な条件である。月の南極何位89度の地域では、地球の180日間連続してある程度の日照が得られれば、-100℃以下にならない環境下で研究者や機器設備の連続的な活動により望ましい状況になる。
参考:《中国探月工程总师吴伟仁回母校展望航天事业未来十年,我们在月球南极建个科研站》中国科学技术大学新闻网, 2019年03月18日

2. 同上。

関連リンク

中国探月工程总师详解月球科研站如何建?载人登月如何开展?_中国新闻网, 2021年03月11日

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