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【22-029】《科学技術インフラ》中国四大総合国家科学センターについて(その1)

JST北京事務所 2022年05月30日

1.概要

 中国では、最先端の研究を実施するために、各地方政府による研究センターやハイテクパークが建設され、中央政府や企業からも多額の研究資金が投入されており、優秀な人材の確保や企業の誘致を互いに競っている。

 そして、最先端の研究を実施するために必要となる大規模な研究施設を設置するには多額の経費を要するため、そのような大規模な研究施設を「国家重大科学技術基礎施設(註:基礎施設=インフラ)」と称し、それらの設立と共用を強力に推進していることを以前紹介した。[1]

 特に中央政府が国際的な科学技術分野における競争のための重要な科学技術インフラとして、上海、北京、合肥、深圳に「国家総合科学センター」を建設し、重要科学技術インフラを含む先端的な研究基礎施設を集約の上、優秀な人材と世界トップレベルの研究機関を誘致している。

 今回、その中国四大総合国家科学センターの概要を紹介する。

2.上海張江総合国家科学センターについて

(1)環境

 上海東部市街地の浦東新区にあり、地下鉄や路線バスが多く交通至便である。

(2)概況

 2016年2月、国家発展改革委員会及び科学技術部は、上海張江地区を中心に、総合国家科学センターを建設することに同意した。

 上海が世界的な影響力を持つ科学技術イノベーションセンターの建設を加速するにあたり、中国の学際領域におけるイノベーションの水源となり、科学技術の総合的な実力を向上させ、国家を代表しハイレベルで世界の科学技術競争と協力に参加することを重要な任務としている。

 上海の重大科学技術基礎施設は、2009年に建設された3.5GeVの上海光源(第一期)を代表として、以下に示す多くの科学技術基礎施設が含まれ、世界で最も集約が進んでいる。

 そして上海市は、「上海市科学技術イノベーション行動計画」を制定し、脳知能、エネルギー領域、ナノ科学等の先端的学際研究を推進している。

(3)建設状況

区分 施設等(例示)
大規模
科学技術装置
上海光源一期、上海光源二期(十二五)
国家蛋白質科学研究施設(国家蛋白质科学研究设施)(十一五)
超強超高速レーザー装置(超强超快激光装置)
活細胞結像台(活细胞成像台)
軟X線自由電子レーザー装置(软X射线自由电子激光装置)
硬X線自由電子レーザー装置(硬X射线自由电子激光装置)(十三五)
活細胞構造と機能結像(活细胞结构与功能成像)
海底科学観測網(海底科学观测网)(十二五)
高効率低炭素ガスタービン試験装置(高效低碳燃气轮机试验装置)(十二五)
ナノスピンと磁気学線ステーション(纳米自旋与磁学线站)
動力学研線ステーション(运力学研宄线站)
陽子治療装置の加速器システム(质子治疗装置的加速器系统)、他
上海市科学技術
イノベーション
行動計画
脳知能科学技術行動計画(类脑智能科技行动计划)
エネルギー領域科学技術行動計画(能源领域科技行动计划)
ナノ科学技術行動計画(纳米科技行动计划)、他
科学技術
イノベーションプラットフォーム
張江実験室(张江实验室)
李政道研究所
国際人類表現型イノベーションセンター(国际人类表型组创新中心)
中米協力幹細胞医学研究センター(中美合作干細胞医学研究中心)
上海トランスレーショナル医学研究センター(上海转化医学研究中心)(十二五)、等
高等教育機関 上海科学技術大学(上海科技大学)
中国科学院上海高等研究院(中国科学院上海高等研究院)
中国科学院上海生命科学研究院(中国科学院上海生命科学研究院)
中国航空研究院上海分院(中国航空研究院上海分院)
復旦大学 張江キャンパス(复旦大学 张江校区)
上海交通大学 張江キャンパス(上海交通大学 张江校区)、等

3.安徽合肥総合国家科学センターについて

(1)概況

 安徽省政府と中国科学院が共同で建設を進め、2017年1月に合肥総合国家科学センターとして承認された。

 エネルギー、情報、材料、生命科学、環境の4分野に焦点を当て、学際研究や産業変革を図る技術・戦略的振興産業の育成を図り、科学研究のトップを走りイノベーションによる経済発展の原動力となるよう力点を置いている。

 1990年に建設された合肥シンクロトン放射光源を代表として、また定常強磁場実験装置、スーパートカマク装置、各融合実験炉等の核心的な研究装置や量子技術等のプロジェクトにより大規模科学装置の集積センターとなった。

 大規模研究装置と学際研究フロントの深い融合を推進し、分野を跨ぐ協同イノベーションネットワークを構築し、総合国家科学センターの新たな体系を模索している。

 また、各研究施設を4階層(コア層、中間層、外層、連携層)に分類し、それぞれの任務を明確にしている。

(2)建設状況

区分 施設等(例示)
核心層 任務:
大規模科学装置の新設および既存装置の性能と開放度を向上させる。

実験室(研究所):
シンクロトン放射国家実験室(同步辐射国家实验室)
量子情報科学国家実験室(量子信息科学国家实验室)
新エネルギー国立実験室(新能源国家实验室)

大規模科学装置:
中国超電導トカマク実験装置(中国超导托卡马克实验装置)(EAST)
定常強磁場実験装置(稳态强磁场实验装置)(SHMFF)
シンクロトン放射実験装置(同步辐射实验装置)
中国核融合工学実験炉(中国聚变工程实验堆)(CFETR)(十三五)
合肥先進光源(合肥先进光源)(HALS)
大気環境立体探査実験研究施設(大气环境立体探测实验研究设施)(AE0S)

中間層 任務:
世界一流のイノベーション型大学・研究機構の建設。

大学・研究機構:
中国科学技術大学(中国科学技术大学)
合肥工業大学(合肥工业大学)
中国科学院合肥物質科学研究院等(中科院合肥物质科学研究院等)

研究フロント学際研究プラットフォーム・共通技術研究開発プラットフォーム:
天地一体化情報ネットワーク合肥センター(天地一体化信息网络合肥中心)
合肥マイクロスケール物質科学国家研究センター(合肥微尺度物质科学国家研究中心)
国家新世代人工知能開放イノベーションプラットフォーム(国家新一代人工智能开放创新平台)
地球・空間科学フロント研究センター等(地球和空间科学前沿研究中心等)

周辺層 任務:
地方経済社会の発展にとって重大な要求に向けた国際競争力の強い産業クラスターを形成。

 中国科学技術大学先端技術研究院(中国科学技术大学先进技术研究院)
中国科学院合肥技術イノベーション工学研究院等のハイエンド技術イノベーションプラットフォーム(中国科学院合肥技术创新工程院等高端技术新平台)

連動層 任務:
大型科学技術行動計画の実施

 量子通信・コンピューター研究等の重大科学技術プロジェクト・重大科学技術専門プロジェクト(量子通信与计算机研究等重大科研项目和重大科技专项)

その2 へつづく)


1.北京便り2021年06月22日付「【21-039】《科学技術インフラ》中国の国家重大科学技術基礎施設について」(その1)~(その3)