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【22-030】《科学技術インフラ》中国四大総合国家科学センターについて(その2)

JST北京事務所 2022年05月30日

その1 よりつづき)

4.北京懐柔総合国家科学センターについて

(1)環境

面積:100.9平方キロメートル(内、懐柔区68.3平方キロメートル、密雲区32.7平方キロメートル)

 北京市中心部から北東に鉄道・自動車で一時間程。万里の長城ふもとの風光明媚な立地に大学や企業の研究施設、インキュベーションセンターに加え、国際会議場や文化施設が複合的に集約されている。

 また、同センターに進出した企業に対して、法人税(直接税)や付加価値税(間接税)の納付額に応じた補助金の仕組みが整備されている。

 なお生活面においても今後5年間で約27,000戸の住居が整備され、進学実績の高い北京市内の小中学校の分校等も複数設置し、研究者が安心して生活できる環境を提供している。

(2)概況

 2017年5月、国家発展改革委員会および科学技術部が、「北京総合国家科学センター」(通称:北京市科学城)を建設することを承認した。

 これを受け、北京市と中国科学院により建設が進められ、2020年までに初歩的な建設が完成し、2030年までに世界をリードする科学的発見と重大な先端技術のブレイクスルーを果たす新たなエンジンとなり、国家戦略に合致する世界級の独創的なイノベーションの中核となり、また北京市の高品質な発展を推進する新たなエンジンとなり、2050年まで世界一流の科学センターとなり、世界における中国の科学技術強国としての核心的な支柱になることを目標としている。

 北京総合国家科学センターは首都に立地しており、同地区に存在するイノベーション資源の総合的な優位性を活用し、特に物質科学、空間科学、大気環境科学および地球科学等の先端科学分野の基礎研究と独創的イノベーションに焦点を当てている。

 第一に「マルチスケール・マルチモーダル生物医学イメージング施設」、「総合極端条件実験装置」、「宇宙環境地盤総合観測網(子午線プロジェクト二期)」等を含む国際的にリードするレベルを有する大規模科学技術インフラを強力に配置し、同センターの発展の基礎を提供する。

 第二に大規模科学技術インフラのクラスター化に際して、国家実験室の基準で物質科学実験室および空間科学実験室を建設し、また生命科学、大気環境科学、地球科学等の分野で高水準かつハイレベルな新型研究機構を設立する。

 第三に、同センターは科学的な配置と協同イノベーション学際研究のプラットフォームであり、脳認知機構スペクトラムとニューロコンピューティングの学際研究プラットフォーム、京津冀(編者註:北京(京)、天津(津)、冀東(河北省東部)を一体的な経済圏としてとらえた通称)大気環境と物理化学の先端学際研究プラットフォーム等、先端学際科学分野でのブレイクスルーの進展に注力している。

 第四に、国際化され科学研究に適した人材が居住する国際人材社区を構築し(編者註:社区とは、都市部の基礎的な行政区画の単位であり、日本の町内会の規模感に近い)、中国科学院大学、清華大学、北京大学等の「双一流」大学と重大科学計画に依拠し、ハイエンドな科学技術人材を同センターで育成・招へいし、科学を主導できる高度な人材を養成する。

(3)建設状況

区分 施設等
大規模
科学技術施設
・高エネルギーシンクロトロン光源(高能同步辐射光源)
・総合極端条件実験装置(综合极端条件实验装置)
・地球データシミュレーター(地球系统数值模拟器)
・宇宙環境地盤総合観測網(子午線プロジェクト二期)(空间环境地基综合监测网(子午工程二期))
・マルチスケール・マルチモーダル生物医学イメージング(多模态跨尺度生物医学成像)
・自由電子レーザー等(自由电子激光等)
重点実験室 ・多相複雑システム国家重点実験室(多相复杂系统国家重点实验室)
・物質科学実験室と空間科学実験室(物質科学実験室と空間科学実験室)
・分子ナノ構造とナノ技術院の重点実験室(分子纳米结构与纳米技术院重点实验室)
・先進的なエネルギーの動カの重点実験室等(先进能源动カ重点实验室等)
協同イノベーション学際研究プラットフォーム(协同创新交叉研究平台) ・脳認知機構スペクトラム・ニューロコンピューティングの学際研究プラットフォーム(脑认知功能图谱与类脑智能交叉研究平台)
・京津冀大気環境・物理化学の先端学際研究プラットフォーム等(京津冀大气环境与物理化学前沿交叉研究平台等)

※中国科学院第十三期五カ年計画で指定された科学教育インフラ11施設、北京市が支援し中国科学院・北京大学・清華大学による学際研究プラットフォーム13施設を建設。

イノベーション環境建設 ・雁栖国際社区(雁栖国际社区)

5.大湾区(深圳)総合国家科学センターについて

(1)概況

 2010年8月、「中国共産党中央国務院の深圳「中国特色ある社会主義先行モデル区」建設の指示に関する意見」にて深圳を本拠地とする総合国家科学センターの建設を明確にし、粤港澳(広東・香港・マカオ)大湾区における国際科学イノベーションセンター建設の主軸としている。「中国特色ある社会主義先行モデル区」建設の任務として、科学技術・金融・教育等の良質なイノベーション資源を集中させ、「0から1」の基礎研究を強化し、核心技術の「ボトルネック」および戦略的振興産業の発展の面でのブレイクスルー実現を目指している。

(2)建設状況

区分 施設等
大科学装置 将来のネットワークインフラ施設(未来网络基础设施)
深圳国家遺伝子バンク(深圳国家基因库)
国家スーパーコンピューティング深センセンター(国家超级计算算深圳中心)
宇宙環境地上シミュレーション装置深セン拡張施設(空间环境地面模拟装置深圳拓展设施)
宇宙重力波検出地上シミュレーション装置(空间引力波探測地面模拟装置)
脳シミュレーション・脳分析施設(脑模拟与脑解析设施)
合成生物学研究施設(合成生物研究设施)
マルチモーダルクロススケール生物医学イメージング装置(多模态跨尺度生物医学成像装置)
材料ゲノムプラットフォーム(材料基因组平台)
重点実験室 鵬城実験室、深圳湾実験室
最前線学際研究プラットフォーム(前沿交叉研究平台) 生物学研究プラットフォーム(生物学研究平台)
脳認知機能スペクトル・類脳知能学際研究プラットフォーム(脑认知功能图谱与类脑智能交叉研究平台)
正確な医学・ビッグデータの研究フロント線学際研究プラットフォーム(精准医学与大数据前沿交叉研究平台)
大学 中山大学深圳キャンパス、中国科学院深圳理工大学等
オープンイノベーション
(开发创新)
総合国家科学センターオープンイノベーション先導区(综合性国家科学中心开放创新先导区)

6.四大国家総合科学センターの状況について

 四大国家総合科学センターは、大規模科学施設、国家重点実験室と研究フロントの学際研究としてのプラットフォームとして顕著な成果を得ている。

 一例として、上海国家総合科学センターの中心部にある上海光源は、世界トップクラスの研究者を集め、物理・材料・生命科学の面での急速な発展を促している。

 物理・化学等の伝統的な意味での単一分野に較べて、研究フロントにおいては、学科間の垣根を乗り越えた学際的研究が盛んとなっている。このような研究を支えるための拠点として、四大国家総合科学センターの役割は大きい。

7.出典

・ 清華大学出版社 中国科协创新战略研究院著 "中国科学技术与工程指标(2020)"

・ 科学中国2021年2月期"我国四大综合性国家科学中心的建设路径及思考"

・ 北京怀柔综合性国家科学中心 小册子

・ 北京市怀柔区投资促进服务中心 "怀柔区促进区域经济发展财政政策"

(おわり)


本稿は、2021年10月21日付 《科学技術インフラ》北京懐柔総合国家科学センターについて を加筆再構成したものである。

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