【23-014】《全人代》中国科学技術部の再編について
JST北京事務所 2023年03月15日
1.概要
2023年3月5日から13日の間に開催された中国の全国人民代表大会(国会に相当)において、中国科学技術部の再編が可決された。
また、全人代と並行して国家機関としての科学技術部とは別に中国共産党に中央科技委員会を設立旨の発表もされた。
JST北京事務所が中国で活動する上での最大のカウンターパートである中国科学技術部の再編の概要とともに、全人代での再編案可決に至るまでの意思決定の過程を示す事例としても興味深く、以下に紹介する。
2.中国科学技術部について
中国科学技術部(MOST: Ministry of Science and Technology)は、科学技術活動について所掌する中国中央政府の一部門(日本の省に相当)であり、主に以下の事項を所掌している。
・ 国家のイノベーション主導の開発戦略の方針および科学技術の発展・国外の知的計画の導入と政策立案・実施。
・ 国家イノベーションシステムの建設と科学技術体制の改革を統一的に計画・推進し、関係部門と良好な技術革新インセンティブメカニズムを構築する。
・ 科学研究システム最適化、科学研究機構の改革・発展指導、企業の科学技術イノベーション能力向上の推進、科学技術軍民融合発展の推進、国家の重要な科学技術政策に係る諮問制度の設立推進。
・ 統一的な国家科学技術管理プラットフォームおよび科学研究プロジェクトの資金調整、評価、監督管理メカニズム等の構築。
3.国務院機構改革方案について
3月9日(木)午後3時から、科学技術部の再編事項を含む「国務院機構改革方案」が審議され、3月10日(金)に全人代で可決された。
(1)国務院機構改革方案が承認されるまでの経緯
①2022年10月16日~22日:中国共産党第二十回全国代表大会[ⅰ][ⅱ]
・党と国家の制度改革を深化させること、国家統治体系・統治能力の現代化の推進を決定。
②2023年2月26日~28日:中国共産党第二十回中央委員会第二次全体会議(二中全会)
・「党および国家機構改革方案」承認。
・「党および国家機構改革方案」の一部を第十四回全国人民代表会議第一次会議に提出することを承認。
③2023年3月7日:第十四回全国人民代表会議第一次会議
「国務院機構改革方案」の提出と説明
④2023年3月10日:第十四回全国人民代表会議第一次会議
「国務院機構改革方案」可決[ⅲ]
(2)国務院機構改革の趣旨
国務院機構改革方案の可決に先立つ2023年3月7日(火)、第十四回全国人民代表会議第一次会議において、国務委員兼国務院秘書長から全人代出席議員に対して、国務院機構改革方案の説明[1]ⅳがなされた。
この中には、国務院機構改革方案に先立ち2月に中国共産党第二十回中央委員会第二次全体会議(二中全会)で承認された「党および国家機構改革方案の主旨」についても述べられている。
【党および国家機構改革方案の主旨】
「党および国家機構改革方案」の要件は、中国共産党第二十回全国代表大会の精神を実践し、新時代の中国の特色ある社会主義に関する習近平思想を指針とし、中央集権化され、かつ統一された指導者の下、国家統治システムと統治能力の現代化を促進し、安定を維持しながら進歩を求め、「五位一体(※1)」と「四つの全面(※2)」の戦略的な配置を協調して推進する。
・ 新たな発展パターンを構築し、質の高い発展を促進する必要性に適応し、問題志向を堅持する。
・ 党中央委員会、全国人民代表大会、国務院、中国人民政治協商会議全国委員会を調整する。
・ 中央政府と地方政府を調整し、主要分野の制度改革を深める。
社会主義現代化に対する党の指導力を科学的で機能配分が最適化され制度が完備されることを推進することで、運用と管理をより効率的にする。
また、国務院の制度改革は、党と国家機関の改革の重要な課題である。焦点は科学技術、金融監督、データ管理、農村振興、知的財産権、高齢化対策等の重点分野における機構職責を最適化の上、政府機能の変革と法治政府の建設を加速させることである。
→より科学的な組織構成に再編することで、社会主義現代化における党の指導力を強化する。
(※1)五位一体[ⅴ]
国家建設の要諦を「経済、政治、文化、社会、生態文明(エコロジー)」に総括し、一体化した建設の展開を指す。2012年中国共産党第十八回全国代表大会で提起された概念であり、全面的な小康社会を築き上げるための布石ともなった。
(※2)四つの全面[ⅵ]
「小健社会の構築」、「改革の推進」、「依法治国の推進」、「党管理の厳格化」を「全面的に」進める改革の方針。「中国の夢」を実現するための戦略的配置であり総合的な思想。
2015年第十二期全国人民代表大会第三回会議開催直前に習近平総書記が提出。
4.中国科学技術部の再編について
上記国務院機構改革方案の提出と説明を受け、3月9日(木)午後3時から、国務院機構改革方案が審議され、3月10日(金)に全人代で可決された。そのうち中国科学技術部の再編については以下のとおり。
(1)他部(省)への移管業務
科学技術部は、新型挙国体制の推進、科学技術イノベーションの全チェーン管理の最適化、科学技術成果の実用化の促進、科学技術と経済社会の発展両立等の機能強化を促進し、戦略立案、体制改革、資源調整、総合調整、政策法規、監督検査等のマクロ管理責任を強化し、国家基礎研究および応用基礎研究、国家実験室の建設、国家科学技術重大プロジェクト、国家技術移転システムの建設、科学技術成果移転および産学研の結合、地域科学技術イノベーションシステムの建設、科学技術監督評価システムの建設、科学研究信用の建設、国際科学技術協力、科学技術人材組織の建設、国家科学技術表彰等の関連職責は、引き続き国務院の構成部門とする。
(2)中央財政科学技術計画の調整
科学技術予算の分配・使用メカニズムの改革を深化させ、中央財政科学技術計画の執行と研究基金専門管理機関の管理体制を充実し、科学技術部の中央財政科学技術計画(特別プロジェクト、基金等)の協調管理や科学研究プロジェクト資金の協調評価等の職責を調整する。
・ 再編後の科学技術部は個別の科学研究プロジェクトの審査・管理に参加しない。
・ 主に研究基金専門管理機関の運用管理に対して指導監督する。
・ 科学研究プロジェクト全体の実施状況に対する監督・検査、科学研究成果の評価を強化する。
【研究基金専門管理機関[ⅶ]】
科学技術部が主導し、財政部、発展改革委員会等の関連部門が参加する府省横断会議制度(合同会議)にて選定される。
研究基金専門管理機関は、研究基金専門管理機関が各プロジェクトの申請、プロジェクト組織の審査、プロセス管理及び研究終了の検収等を行い、目標の達成に責任を持つ。
(3)科学技術部所属機関の他部(省)への移管
(4)その他国家中央機関の再編
1) 国家データ局の設立(国家発展・改革委員会所属)
国家発展・改革委員会が担う統一的な計画によるデジタル経済発展の推進、国家ビッグデータ戦略の実施、データに係る基礎制度整備の推進、デジタルインフラ整備の推進等
2) 国家知的財産権局(国家市場監督管理総局所属から国務院直属機関に)
イノベーション型国家建設の推進、質の高い発展の推進、高レベルの対外開放の内在的需要の拡大に対応し、知的財産権強国建設の推進を加速させる。
なお、商標、特許等の分野の法律執行の職責は引き続き市場監督管理の総合法律執行チームが担当し、関連法令の執行に関する業務は国家知的財産権局の専門指導を受ける。
3) 中央国家機関の各部門の人員編成
統一的に5%削減。当該削減人員を主に重点分野の業務に割り当て。
移行期間は5年間とする。
4) その他
金融活動の監督強化、農村振興、高齢化社会対応、人民の投書・来訪活動の強化・改善を目的とした組織改編。
5.中国共産党中央科技委員会の設立発表
上記3月7日に行われた「国務院機構改革方案」の説明では、全人代に先立ち2023年2月26日~28日に行われた中国共産党第二十回中央委員会第二次全体会議(二中全会)で承認された「党および国家機構改革方案」を受け、全人代が審議・承認の権限を持つ国家機関としての科学技術部の再編とは別に、上位組織である中国共産党の機関としての「中央科学技術委員会」を設立することにも触れられている。(事務局は科学技術部)
「党および国家機構改革方案」の精神に基づき、科学技術部の戦略計画、体制改革、資源統一計画、総合協調、政策法規、監督検査などのマクロ管理職責を強化し、新型挙国体制の健全化、科学技術イノベーションチェーン管理の最適化、科学技術成果の転化促進、科学技術と経済社会の発展の両立促進を推進する旨が説明されている。
全人代における「国務院機構改革方案」の可決を受け、今後「中央科学技術委員会」の詳細について中国共産党により決定され公表されるものと思われる。
以上
ⅰ. 新華社 2022年10月28日付「中国共産党第20回党大会報告全文(添付ファイル)」
ⅱ. 北京便り 2022年11月4日付「《二十大》中国共産党第二十回全国代表大会報告-科学技術関係-」
ⅲ. 新华社 2023年3月10日付"第十四届全国人民代表大会第一次会议关于国务院机构改革方案的决定"
ⅳ. 中华人民共和国中央人民政府 2023年3月7日"关于国务院机构改革方案的说明"
ⅴ. 2018年3月24日付「No.022 キーワードチャイナ 五位一体&放水养鱼」
ⅵ. 人民中国 2015年3月13日付「「四つの全面」を正しく理解するには」
ⅶ. 北京便り 2021年8月13日付「中国の中央財政科学技術計画について(全体概要)」