中国科技創新政策解説
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【20-01】研究者の期待を背負う『Light: Science & Applications』

2020年2月20日 郭宸孜(中国科学院・長春光学精密機械・物理研究所 Light学術出版センター副編集長)、白雨虹(Light学術出版センター主任)

『Light: Science & Applications』(以下『Light』)は2012年に創刊され、2013年にはScience Citation Index(SCI)に登録され、現在、5年連続でインパクトファクターが13以上となっており、世界の光学の学術誌トップ3に入っている。創刊から7年間で、多くの重要なオリジナルの研究成果を掲載し、光学や関連分野に大きな影響を与える、世界公認の最先端光学術誌の一つだ。

『Light』の発展の道を振り返ることで、その三大理念を研究者やテクノロジー出版界に参考として共有したい。

一、創刊:研究者の期待を担って

 一流の科学技術専門誌を築き上げるためには、研究者のサポートに頼るだけでなく、研究者の信頼と期待を担えるようになる必要がある。これが『Light』の創刊時に掲げられた最も大きな目標だった。

『Light』は中国科学院の長春光学精密機械・物理研究所(以下、「長春光機研」)により創刊された。光学の分野は急速に発展しているにもかかわらず、『Light』創刊時、一流の光学学術誌はほとんどなく、その出版量も少なかった。そして、エンジニアリングや社会実装に向けた研究をめぐる出版も非常に限られていた。そのため、多くの光学研究者、特に光学エンジニアリング・応用系研究者は、重大な研究成果を最先端の光学学術誌に掲載してもらうすべがなく、光学領域でそれらの研究成果を広く知ってもらうことができないという悩みを抱えていた。

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写真1:中国科学院長春光学精密機械・物理研究所

 そこで、光学関連の研究結果を発表できる場を作り、科学研究における公平な競争を促進するという期待を担って、『Light』は創刊された。「基礎研究、エンジニアリングおよび社会実装を一体とした最先端の総合系光学学術誌を作り上げる」ことをその趣旨としている。創刊当初は発行部数にも限りがあったものの、『Light』は基礎研究、エンジニアリングおよび社会実装に関する成果を発表する多くの機会を提供し、基礎研究、応用研究・エンジニアリングなどに関する知識を全面的に理解できるようにすることで、光学関連領域の関係者にさらに広い視野を提供してきた。また、『Light』は、「重要な成果を優先して掲載する」という原則を徹底し、多くの研究者に重要な成果を『Light』で素早く発表できる優先権を与え、彼らが各分野の「新星」から、トップクラスの研究者へと飛躍していく様子を見守ってきた。

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写真2:学術誌『Light:Science and Applications』(長春光機研提供)

 世界の最先端の学術誌はこれまでずっと、欧米の伝統的な科学技術主要国の大手学術雑誌出版社や世界的に著名な学術組織が出版してきた。このような出版社や組織は非常に多くの研究者の支持を得ているため、研究者の要望に基づいてさらに新しい学術誌を創刊することができる。一方、『Light』は中国の一研究所によって出版されたものであり、初めこそ大きな影響力を発揮することはなかったものの、率先して現状を打破することができ、研究者の寄稿のサポートに頼ることなく、本当の意味で研究者のニーズに応えるようにすることで、研究者らの共感を呼んだ。

 もちろん、『Light』は、Nature Publishing Group(NPG、現在のSpringer Nature)と提携して出版するようになったことで、世界的に影響力を持つ学術誌になったという点も注目に値する。NPGとの提携により、創刊されて間もない頃に、『Light』に掲載された多くの文章が『Nature』や『Nature Photonics』などの世界で特に権威的な学術誌で大きく掲載されることにつながった。また、『Nature』、『Nature Photonics』、『Nature Communications』などの編集長、編集者は何度も研究者に『Light』を推薦してきた。光ファイバーセンサーの分野の第一人者であるLuc Thevenaz氏は『Nature Photonics』の当時の編集長・Rachel Won氏の推薦もあり、『Light』に重要な研究成果を提供した。また、『Light』編集部のメンバーは毎年定期的にNPGの本部を訪問して研修を受けるほか、『Nature』、『Nature Photonics』などの編集者を招いて、経験を伝授してもらい、『Light』の国際化チームの構築に取り組んでいる。その他、『Light』は、NPGのネットワーク、投稿、刊行、言語表現の推敲、原稿加工などのプラットフォームを十分に活用して、『Nature』の最高水準の原稿処理プロセス、加工の規範化、印刷、アートワークなどを吸収し、『Light』のコンテンツがハイクオリティになるよう取り組んでいる。

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写真3、写真4:Nature Publish Group本部での研修(長春光機研提供)

二、地位の確立:科学の本質を発掘

 一流の学術誌を築き上げるためには、研究トレンドにスポットを当てるだけでなく、科学の本質を発掘し、ブレイクスルーのような科学成果をPRできるよう導かなければならない。これが、『Light』の柱となる発展の方向性の一つだ。

『Light』は創刊されて以降、「科学の本質と成果の影響力」を常にその指針とし、盲目的にトレンドを追いかけるのではなく、研究成果が「重要な科学的問題を解決したか」、「人々の生活と大きな関係があるか」などに注目することで、重要な学術成果を発掘してPRし、科学研究を一歩踏み込んで牽引してきた。例えば、「デジタルコーディングとプログラム化可能なメタマテリアル」という研究課題を設けてリードしてきたのは典型的な例の一つといえる。メタマテリアルは今世紀初めの重大な科学的ブレイクスルーで、負屈折、パーフェクトイメージング、透明マントなど、多くの関連研究が生まれた。それまで、世界ではメタマテリアルパラメータでメタマテリアルを表現するというのが一般的で、主に混交構造を設計して、さまざまな機能を持たせるメタマテリアルを実現していた。そのため、2014年に、東南大学の崔鉄軍教授が率いるチームがデジタルコーディングを使ってメタマテリアルを表現するというアイデアを発表しようとしていた時、メタマテリアルをめぐる主流観念とは異なっていたため、世界的に権威ある学術誌で発表することはできなかった。しかし、独自の視点を持つ『Light』は、このアイデアを発表する場をすぐに設け、その後も崔教授の関連研究成果を次々に掲載したほか、国際会議での発表で重点的にPRした。その結果、こうした画期的なアイデアが『Light』に掲載されてから5年もしないうちに、SCIで500回以上引用され、ネイチャーやサイエンスの姉妹紙など国際的な学術誌でも次々と紹介され、メタマテリアルと情報科学の領域融合の基礎を築き、人工知能メタマテリアルをさらに成長させてきた。今後は情報分野や産業の構造に変革をもたらすような影響を及ぼすと見られている。こうした一連の成果は、米国光学会(OSA)のJournal of the Optical Society of America (JOSA)が選出する2019年の重大光学成果、ESIのホットペーパー(SCIに収録された論文1,000本から1本のみ選出)、中国国家自然科学二等賞(中国で最も重要な科学研究賞で国家主席が授与)を受賞した。

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写真5:東南大学の崔鉄軍教授の投稿論文(長春光機研提供)

 また、『Light』は社会的ニーズを常に重視しており、光ファイバーのその場観察をめぐる重大なブレイクスルー(新エネ車に搭載するスーパー・キャパシタの航続能力のリアルタイム測定を実現すると期待されている)、高輝度青色発光ダイオード(2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏が2012年に『Light』で発表)、光学ビッグデータストレージ(その後この特許が数億ドルの金額で某IT企業大手に譲渡される)など人々の生活と関係のある重要な成果を掲載してきた。『Light』は数十億人が注目している事について、小さな進展であっても低く評価してはいけないと、肝に銘じている。

 世界でトレンドとなっている多くの分野に対して、『Light』は非常に慎重な姿勢を示している。その理由は多くの研究はすでにボトルネックに直面しており、注目を浴びている領域で成果を発表していても、科学的課題を解決することが出来なければ社会に対する大きなインパクトを与えるわけでもないからだ。このような分野に関して、『Light』はボトルネックを打破することを期待しており、単にトレンドになっているからという理由だけで、インパクトファクターの高い内容として掲載することに走ることは決してしない。

三、奮闘:研究者によりよいサービスを

 一流の学術専門誌を築き上げるためには、文章だけを重視するのではなく、論文を超えて、科学研究にもサービスを提供して、その価値を高めなければならない。これが『Light』が近年、取り組んでいる目標だ。

 2011年から、『Light』は、OSA、欧州レーザー協会、米国ロチェスター大学などと共同でLight Conferences国際会議をこれまで9回開催し、米国や英国、ドイツ、中国、日本など30ヶ国以上から3,000人以上が参加する、世界の光学研究領域のビッグイベントとなった。国際会議を開催することで、研究者が交流、協力、意見交換するプラットフォームを構築し、それにより幾つもの大規模科学研究協力の事例が生まれた。例えば、Light Conferencesを通して、「郭春雷 中・米連合光子実験室」が設立され、フェムト秒レーザーと物質相互作用をめぐる最先端研究を展開している。わずか3年で、中国内外の科学研究者60人以上を招聘し、研究開発費は合わせて約6,000万元(約10億円)に達している。2018年4月、『Light』を刊行する長春光機研は、Light Conferenceを通して、ドイツ国立科学アカデミー、全米技術アカデミー、ロシア科学アカデミーの会員であるDieter Bimberg教授と協力することで合意し、共同で『Bimberg中・独グリーンフォトニクス研究センター』を設立した。半導体レーザーやレーザーレーダー、情報光源などをめぐる研究成果の技術移転、産業化などを促進している。Light Conferencesを活用して、米国ミネソタ大学、ロシア科学アカデミー、米国ジョージア大学、プリンストン大学、長春光機研、清華大学、オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学(RMIT大学)など、世界の一流科学研究機関も強力な連携を展開している。また、それら科学研究をめぐる国際的な連携を通して得られた成果により、さらに多くの世界の研究者が『Light』に注目するようになっている。

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写真6:Light Conference 2018における曹健林『Light』編集長(前科学技術部副部長)の講演(長春光機研提供)

 2014年から、『Light』は、シドニーをはじめシンガポール、ロンドン、パリ、北京、上海、香港地区、台南、ロチェスター、エディンバラなどに事務所を次々と設置し、世界一流の科学研究機関や第一線の研究者と密接に連携している。各事務所は、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン、シンガポール国立大学、ロチェスター大学、シドニー工科大学、香港城市大学、北京大学、復旦大学などの名門校に設置され、シンガポールアカデミーの会員・洪明輝氏やオーストラリアのマルコムマッキントッシュ最優秀物理科学者賞を受賞した中国系研究者・金大勇氏、長江学者の郭春雷氏など一流の研究者が責任者となっている。彼らは『Light』のPerspective、News & Views、Historical Overviewなどの企画を担当し、『Light』の多元化に大きく寄与している。また、24時間時差なしの業務を実現し、多くの研究者が、『Light』の編集者らと密接に交流できるようになっている。世界中の『Light』の事務所を通して、『Light』は、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)と共同で「光と光技術の国際年」、「国際光デー」などの関連の行事を企画し、光学研究や光学の普及を促進してきた。現在、『Light』は国際光デーのゴールデンパートナーで、光学の普及や光学コミュニティの拡大に大きく寄与している。

 さらに、『Light』は、「Rising Stars of Light」賞やLight若手研究者賞、Lightベストオーサー賞、Lightベスト審査者賞、Lightベスト編集委員賞、Lightベスト読者賞など数多くの賞を設立し、光学コミュニティを激励してきた。これら賞の受賞者は近年、重要な研究成果を挙げ、世界で知られるようになっているのみならず、『Light』の発展を支える中核のエネルギーとなり、『Light』に高いレベルの原稿を提供している。

 いつの頃からか、研究者コミュニティが学術誌を生んだ。そして今、『Light』が研究者のために学術誌を生み出し、その模索の道は今も続いている。『Light』の経験を通して、学術専門誌は、研究者や科学研究と互いに補い合い、共に刺激し合うことが可能であることを教えてくれている。今後、研究者によりよいサービスを提供することで、『Light』をめぐる緊密な研究者コニュニティが構築され、研究者たちの画期的なアイデアがLight Conferencesで誕生し、『Light』を架け橋とした研究者サークルの連携により一流の研究成果が生まれ、そして、彼らが執筆する最先端の科学技術論文が『Light』で発表され、最後に、『Light』の名前が付く賞を受賞して異彩を放つことを願っている。『Light』の研究者コミュニティを通して、一人でも多くの研究者が学術誌事業に加わるようになり、研究者のために、さらにハイクオリティで、バラエティーに富んだ出版を実現し、『Light』のブランド価値が最大限高められることを願っている。

 そのような素晴らしいビジョンを実現するためには、『Light』、研究者、世界の同業者らが共に努力する必要がある。


※本稿は、『Light』誌が2019年10月3日にNHKの「おはよう日本」および「Web特集:『科学雑誌で主導権を握れ』中国の新戦略に日本は・・・」に取り上げられ、その後科学技術振興機構(JST)の寄稿依頼を受け、学術誌の設立や運営管理等に関する内容を整理したものである。

※本稿は、中国科技期刊編輯学会基金項目NO.2019cessp3-4「培育世界一流科技期刊路径探索」の助成を受けて作成したものである。

関連サイト

おはよう日本: 『科学雑誌』の国際競争,2019年10月3日

Web特集: 『科学雑誌で主導権を握れ』中国の新戦略に日本は・・・,2019年10月8日