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【25-014】「空中充電」の可能性を広げる新技術

王禹涵(科技日報記者) 2025年02月14日

 飛行中のドローンや移動中のスマートロボットが空中で充電される。そんなSF小説のような光景が現実になろうとしている。

 西安電子科技大学の李竜教授率いる研究チームと、中国科学院院士(アカデミー会員)で東南大学の崔鉄軍教授率いる研究チームが、自己適応型のワイヤレス充電技術を共同で開発した。この技術ではWi-Fiのようなワイヤレス伝送方式を用い、無線エネルギーをリアルタイムで効率的に動的な端末機器に集中・伝送し、センシング、コンピューティング、通信のバッテリーレス給電を実現する。

 李氏は「この研究はワイヤレスエネルギー伝送・センシング・通信の統合に向けた模索であり、将来的には人工知能(AI)と物のインターネット(IoT)を組み合わせたAIoT(人工知能IoT)センサー機器へのワイヤレス給電を実現したい」と説明した。関連論文はこのほど、学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された。

移動しながら充電が可能

 ドローンは空撮や物流・配送、農業散布、緊急救助など、複数分野への応用が進んでいる。また、ロボットやウェアラブルデバイスなどのスマート機器も人々の生活に浸透しているが、バッテリーの持続時間がさらなる発展の足かせとなっている。これらのスマートデバイスに対し、どのようにして信頼性が高く、長時間にわたりエネルギーを供給し続けるかが、技術面での大きな課題となっている。

 ワイヤレスエネルギー伝送技術のブレイクスルーが実現すれば、将来のスマート機器にはバッテリーや充電器が不要になる可能性がある。

 李氏は「近距離の高精度無線測位や自己適応型ワイヤレスエネルギー伝送、効率的なワイヤレスエネルギー収集といった課題に対し、2周波共用メタサーフェス、畳み込みニューラルネットワーク近距離測位に基づいた自己適応型ワイヤレスエネルギー伝送ネットワークを構築した。同ネットワークは、ターゲット位置検出とビーム制御を同時に行いながら、自己適応追跡のワイヤレスエネルギー伝送を実現している」と説明した。

 従来のワイヤレス充電技術は主に、近距離、接触型の電磁誘導方式に依存しており、その効率や適用範囲は、空間、距離、環境、機器などの要因によって制約されていた。

 李氏らのチームが研究する電磁メタサーフェスのラジアル型ワイヤレスエネルギー伝送と受信技術は、そのボトルネックを打破することが期待される。この技術は「スマートブレイン」のようで、ターゲット検出と環境との相互作用を通じて、電磁波の伝送パラメーターをスマート調整し、周囲の環境変化や機器のリアルタイムなエネルギー需要に合わせ、ワイヤレスエネルギー伝送の効率を高め、高精度かつ効率的に機器にエネルギーを伝送することができるようになっている。

 従来のワイヤレス充電とは違い、自己適応追跡のワイヤレスエネルギー伝送技術を使うと、ドローンやスマートロボットといった端末機器が移動している時にも、安定的かつ効果的に非接触型のワイヤレス充電を行うことができる。チームメンバーで西安電子科技大学の博士課程生の夏得校氏は「この技術は、電磁メタサーフェスのワイヤレスエネルギー伝送分野におけるイノベーションとブレイクスルーを成し遂げるもので、情報メタサーフェスの研究をスマート化、多機能化へと進展させるだろう」と説明した。

センチメートルレベルの追跡と測位

 空中充電を実現する上で、移動中のスマート機器をどのようにして高精度で測位するかというのが重要な鍵となる。

 研究者は、メタサーフェスのエネルギー受信・整流の過程で発生した第2次高調波を測位信号としてフィードバックし、メタサーフェス時空間符号化技術と畳み込みニューラルネットワークを組み合わせ、シングル・インプット・シングル・アウトプット(SISO)システムにおいて、3センチメートルの分解能の近距離測位精度を初めて実現した。

 研究者によると、デュアル周波数アンテナのプログラム可能なメタサーフェスを構築し、全二重通信での放射制御とターゲット位置検出に用いた。さらに、ワイヤレス給電に用いるセンサー端末も設計し、高周波エネルギーの効率的な収集と直流への変換を行い、バッテリーレスで環境データの検出と計算を行い、検出したデータをブルートゥースでアップロードできるようにした。最終的には、デュアル周波数メタサーフェスアレイを利用して、端末機器から発信された測位信号を時空間符号化した。そして、ネットワークのトレーニングを事前に実施したうえで、畳み込みニューラルネットワーク端末を通じて、スピーディーな分類と高精度な位置情報取得を実現した。

 夏氏は「このシステムにおいて、メタサーフェスはターゲットに対する高精度な測位を行うだけでなく、常に変化する環境やターゲットに合わせ、柔軟にエネルギーを集中させ、追跡型の空中エネルギー伝送を実現できる」と説明した。

 ワイヤレス充電技術の見通しが明るく、大規模生産と技術の向上により、その応用コストは徐々に低下していくだろう。経済的なワイヤレス充電技術ができれば、大規模スマート倉庫や埋め込み型医療機器、「低空経済」(低空域飛行活動による経済形態)などの分野に、より便利な充電ソリューションを提供することができる。

 李氏は「私たちの研究は、情報メタマテリアル技術を導入することで、非接触型のエネルギーと情報の同時伝送を実現するための効率的で実行可能なソリューションを提供している。この模索は学術的視野を広げるだけでなく、ワイヤレス充電技術の将来の応用シーンにおける実践と普及を加速させるものだ。自己適応型ワイヤレスエネルギー伝送技術は今後、6Gモノのインターネット(IoT)や情報メタサーフェス、スマートドローンといった業界を発展させるものとして期待されており、応用のポテンシャルを秘めている」と語った。


※本稿は、科技日報「新技术为隔空充电提供更多可能」(2025年1月16日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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