【07-008】科学技術グローバル化する中での中日連携の位置づけ~「日中R&D連携シンポジウム」基調講演~
沈 文慶(国家自然科学基金委員会副主任) 2007年12月20日
※本稿は、国家自然科学基金委員会・沈文慶副主任が2007年11月16日(独)科学技術振興機構JST中国総合研究センター主催の「日中R&D連携シン ポジウム」で行われた講演をまとめたものです。「日中R&D連携シンポジウム」プロシーディングの刊行に先立ってJST中国総合研究センターのホームペー ジで紹介します。なお、「日中R&D連携シンポジウム」プロシーディングは2007年度中に発行する予定です。
イノベーションを視野に急進展する中国の基礎研究
まず、中国国家自然科学基金委員会を代表して、日本科学技術振興機構中国総合研究センター主催の日中両国研究開発分野協力シンポジウムが開催されたこと に祝意を表したいと思います。中国総合研究センターが設立後2年足らずの間に中日両国科学技術界の交流と協力を推進する過程で努力され、成果を上げたこと を称賛します。
科学技術のグローバル化は既に現代の科学技術発展における時代の流れとなっています。人類が環境、エネルギー、健康と病気、及び重大な科学の最先端問題で 挑戦に立ち向かおうとしている時、一国ではややもすれば力が思うに任せず、二国間と多国間、国境を超えた学際的な科学協力は科学の進歩とイノベーションを 促す重要な形式となっています。大型科学装置に代表される国際的なビッグサイエンス・プロジェクト、それに地球変動、防災・災害軽減及び世界的な病気を ターゲットとする大型科学研究計画がこうした動きに拍車を掛けました。同時に、科学研究の国際化により、各国の科学技術イノベーション体系は科学技術資源 を効果的に整理統合し、優位性の相互補完を実現し、また、相互に依存する科学研究ネットワークが築かれました。
日本科学技術振興機構中国総合研究センターの招きにより、科学技術のグローバル化における中日科学協力というテーマについて、中国の基礎研究の発展と国際 的な科学協力を促進する中国国家自然科学基金委員会の役割と結び付け、自身の見解を述べる機会が得られたことを非常に嬉しく思います。
御存知のように、科学技術は幅広い内在的要素を含む概念であり、基礎研究、技術革新、試験・開発、技術移転等の科学技術事業のプロセス全体に及びます。 今日の講演で討論する内容は主に基礎研究分野に集中しています。技術開発は今日、科学研究は明日、人材養成は明後日とはよく言われる言葉ですが、中国国家 自然科学基金委員会は明日と明後日に一層の関心を寄せています。
1986年の設立以来、中国が基礎研究に資金を助成する主要ルートの1つとして、中国国家自然科学基金委員会は国の基礎研究能力を磨き、充実させること に力を注いできました。同時に又、科学技術グローバル化の流れに順応し、二国間と多国間の科学協力関係を幅広く確立・発展させ、地域的、世界的な科学研究 計画に積極的に参画し、中国の科学者が世界の科学技術イノベーションの中で積極的役割を発揮するよう促してきました。
科学資金助成機関として、中国国家自然科学基金委員会は自国のイノベーション体系を構築・整備すると同時に、国際科学界と共同で挑戦に立ち向かうという 重大な責任を担っていることを痛感しています。指摘すべきなのは、一定の科学技術力とかなりの科学的基礎を備えた国の科学技術システムは国際科学技術協力 を効果的に繰り広げる土台だということです。科学技術グローバル化の流れに順応し、二国間と多国間の協力に幅広く参画し、世界の科学技術イノベーション体 系の中で重要な役割を発揮するよう努力することは、国の科学技術システムの完備につながります。1つの成熟した国の科学技術システムについて言うなら、両 者は互いに補い合い、発展するものであり、少しでも欠かすことができません。
1、中国の基礎研究の能力が著しく向上する
長年の努力を経て、中国の国家科学技術システムが一応確立しまし た。特に改革開放以降、中国経済の急成長に伴い、科学技術イノベーション能力も著しく向上し、資金投入、サポート環境、研究開発(R&D)システ ムを含む国の科学技術イノベーション体系が次第に整いつつあり、国際科学技術協力に幅広く参画し、世界の科学技術イノベーションに寄与する基礎が築かれま した。
近年、中国では科学技術への資金投入が増え続け、科学研究の規模が拡大を続けており、世界の科学技術イノベーションと研究開発で既に重要な一翼を担って います。統計によれば、2006年、中国社会全体の研究開発支出総額は3,003億人民元で、世界第5位となり、研究開発への資金投入がGDPに占める割 合は1.42%に達しました。
1986年以来、中国国家自然科学基金委員会は国の投入資金約180億人民元を使い、計10万件余りのプロジェクトを助成しました。科学院系列を含む研 究所、大学及び地方の研究開発機関の科学技術者が資金援助を受けました。年度計算によれば、毎年7万人近くの科学技術者が科学基金助成プロジェクトの研究 に従事しています。この20年来ずっと、国家自然科学基金の経費は年平均25〜30%の伸びを維持しています。基金プロジェクトは一連の新しい学問分野と 優先研究分野の発展を促し、多くの若手科学者を育成し、一連の大型科学装置・施設の研究開発を推し進め、学問分野のバランスのとれた発展を促し、これによ り、中国の基礎研究能力が著しく向上しました。
次第に確立・完備しつつある国の科学技術イノベーション体系は、中国の科学界が国際科学協力を幅広く繰り広げ、世界の科学技術イノベーション体系の中で積極的な役割を発揮するための条件を作り出しました。
統計によれば、2005年、基礎研究の状況を主に反映するSCIに収録された中国の論文は68,226編に達し、世界のSCI論文総数の5.3%を占め ました。また、エンジニアリング科学の研究状況を反映するEIに収録された中国の論文は54,362編に達し、世界に占める割合は12.6%となります。 SCIに収録された中国の論文のうち、国際協力で生まれた共同執筆の論文は中国が発表した論文総数の24.8%を占め、中国科学者の協力パートナーは79 カ国・地域に及びます。共同執筆論文の中では、中国と日本の科学者による共同論文の数が増え続けており、2005年には2,575編に達しました。これは 米国の6,940編に次ぐものであり、中国の二国間科学技術協力における中日協力のウエートの大きさを十分に示しています。
2、中国の基礎研究は世界の科学技術イノベーション体系に徐々に溶け込みつつある
科学教育立国は中国政府の長期にわたる基本的な国策です。昨年、中国政府は「国家中長期科学技術発展計画要綱」(略称:『要綱』)を公表しまし た。「要綱」は今後15年間の中国の科学技術発展の指導方針を確定したものであり、2020年時点で、中国社会全体の研究開発への資金投入が国内総生産 (GDP)に占める割合は2.5%以上になる予定です。「要綱」は長期的視点に立ち、基礎研究を強化すべきことを特に強調しており、1.基礎科学の学問分 野を発展させるための配置を整える、2.基礎科学の最先端分野で、国の重大な戦略的要請を軸に、基礎科学の重大問題と重点分野について研究を繰り広げる、 3.研究実験の拠点を確立・整備し、ハイレベルの基礎研究陣を築くとの発展目標を打ち出しました。
このため、中国国家自然科学基金委員会も第11次5カ年計画期(2006〜10年)に、科学基金制度を整え、根源的なイノベーション環境を作り上げ、学 問分野のバランスのとれた発展を促進し、傑出したイノベーションの人材と団体を育て上げ、基礎研究全体の水準を引き上げ、幾つかの分野で突破口を開くこと を目指すとの目標を打ち出しました。2006〜2010年の期間中に、科学基金の毎年の資金助成プロジェクトの規模は10,000件前後となり、最先端の 学問分野と優先分野に1,800件の重点プロジェクトを割り振り、国の戦略目標に基づき、30件の重大研究プロジェクトを手配し、国の経済・社会と科学技 術の長期発展に関わる戦略的分野で15件の重大研究計画を組みます。
科学に国境はなく、ましてや現代の科学は幅広い国際的な参画と協力から離れることができません。中国国家自然科学基金委員会は自国の科学界が二国間と多国間の科学交流・協力に幅広く参画するよう促すことに努力してきました。
中国国家自然科学基金委員会はこれまでに37カ国・地域の研究資金助成機関及び科学研究機関と計66件の協力協定を締結しました。科学者同士が関係を結 び、交流を行い、協力を進めるのを促進するため、人員の相互訪問、二国間のシンポジウム、夏期講習班、人員の研修、共同研究、中国での国際会議開催など様 々な形式の資金助成ルートを提供してきました。過去20年間で、中国国家自然科学基金委員会は共同研究、中国での国際会議開催、人的交流等を含む各種の国 際協力・交流プロジェクト計24,972件に助成を行い、資金助成の経費は8億人民元に達します。
現在、中国国家自然科学基金委員会と日本科学技術振興機構及び日本学術振興会の協力は活発で実り豊かな時期に差し掛かり、二国間の科学協力関係は成熟し、健全で、発展が深まる新たな段階に入りつつあります。
私達と日本学術振興会(JSPS)は1990年代に正式な協力関係を確立しました。長年の間に、双方はルート開拓と資金助成の面で中日両国の科学者が協力 を進めるための好ましい環境を作り出しました。現在、双方のリーダーが毎年顔を合わせるメカニズムがずっと維持されており、双方は常に両国の科学協力につ いて評価を下し、政策提言を出すことができます。
2004年、中国国家自然科学基金委員会と日本科学技術振興機構(JST)は二国間の共同研究計画を正式にスタートさせました。日本科学技術振興機構は 「国際戦略協力計画」を策定しました。スタートは遅かったのですが、一気に成功を収めたと言えます。現在、双方の共同研究計画は順調な進展を見せ、顕著な 成果が上がり、また、共同申請、独立審査、二国間協議、共同助成、共同研究のメカニズムが一応確立されました。
この数年間に、双方は計13件の共同研究プロジェクトに資金を助成しました。第1期プロジェクトは水、大気、エネルギー、第2期プロジェクトは生活環境 が健康に及ぼす影響及び環境にやさしい新エネルギー、第3期プロジェクトは流域生態系での持続可能な発展についての環境アセスメント及び保護技術にそれぞ れ関係したものです。今年募集・審査している分野は持続可能なエネルギー利用の基礎研究です。中国側の共同研究機関は科学院及び清華大学、北京大学等の有 名校であり、一方、日本側の研究スタッフも同様に研究機関と有名大学から参加しており、例えば東京大学、東京工業大学、産業技術総合研究所等です。
私が特に注目しているのは、中国側の多くのプロジェクトの統括科学者が日本での留学経験や勤務経験を持ち、多くのプロジェクトが同窓間や師弟間で進められ ていることです。今日、両国科学技術界の間にあるこうした師弟の情義、協力の友情は別に珍しいものではありません。最近、日本科学技術振興機構中国総合研 究センターの馬場さんが中国国家自然科学基金委員会を訪れた際、副主任の朱道本教授は科学者間の友情と協力について話をされました。
近年、中国国家自然科学基金委員会の支援の下、中国の科学者はヒトゲノム計画、アジアモンスーン研究、大洋総合ボーリング計画、地球変動など多くの国際科学研究計画に幅広く参画しています。
長期にわたり、中国国家自然科学基金委員会は国際科学界が注目し、環境、エネルギー、健康に波及する地球変動、ヒトゲノム、新エネルギー等の分野を科学基 金の優先的な助成分野と位置付け、中国の科学者がこれらの二国間及び多国間の科学協力に参画するのを奨励・支援してきました。上記の分野は持続可能な発展 と人類の健康に関係するものです。中国の科学者は地球変動に関係する世界気候研究計画、国際岩石圏−生物圏計画、地球環境変動のヒューマンファクター計 画、生物多様性等の計画に全面的に参画し、古環境変遷、アジアモンスーン、水資源と水循環、炭素循環及び地球の気候変動が中国の社会・経済に与える影響等 についての研究を進めています。私達と日本科学技術振興機構の共同研究計画のテーマは環境とエネルギーです。
中国国家自然科学基金委員会は従来から生命科学の最先端分野の研究を大いに重視しており、中国の科学者がヒトゲノム、ヒト脳研究、ヒト肝臓プロテオームなど多くの国際生物学研究計画に積極的に参画するよう奨励し、資金を助成してきました。
近年、中国国家自然科学基金委員会と関係部門から資金の助成を受け、中国の科学者は大型装置の設計、用地選定、機器の製造・研究面で米国、ドイツ、イタリ ア、日本及び韓国と幅広い交流・協力を進めています。中国の科学者は欧州核研究センターのハドロンコライダー検出器の基幹部品に関する開発・製造活動に参 加しました。例えばCMSとATLASの国際協力です。また、中国の科学者は日本やイタリア等の科学者と協力し、青海チベット高原に国際宇宙線観測所を建 設し、宇宙線と天体粒子物理の最先端のテーマ研究を進めています。
近年、中国政府は中国医学・漢方薬協力計画、大亜湾ニュートリノ実験及び新エネルギー協力計画を含む多くの大規模な国際科学技術協力計画をスタートさせ ました。同時に又、中国は高エネルギー物理、天文学、地球変動等の分野の多くの国家級実験室と実験装置を対外開放しており、これを踏まえ、多くの二国間及 び多国間の共同研究プロジェクトを繰り広げています。
中国の科学技術イノベーション体系は世界に目を向けた開放的なシステムです。中国国家自然科学基金委員会は引き続き科学界の資源共有を奨励・推進すると ともに、中国の科学者が各国の科学者と協力し、世界の科学技術イノベーションの中で積極的役割を果たすよう奨励していきます。日増しに完備しつつある中国 の科学技術イノベーション体系と次第に向上しつつある科学技術イノベーション能力により、中国の科学者が世界の科学技術イノベーションにおいて一層大きな 役割を果たすものと私は信じます。各国の研究資金助成機関とより緊密な協力を繰り広げ、地域と世界の持続可能な発展及び社会進歩のために一層大きな貢献を することを願っています。
3、中国の科学界は国際科学界と共同で人類が直面する挑戦に対処していく
近年、各国政府の科学技術部門及び科学資金助成機関の間で協力が徐々に深まっています。各国指導者は科学発展戦略とその政策・計画等の面での対話に力を入 れています。地球的規模の問題に立ち向かい、優先分野を選択する面での科学界の交流と協力も日増しに活発化しています。今年、私はここにおられる多くの科 学者及び科学技術界のリーダーと何度も顔を合わせました。こうした多くのレベルでの交流と意思疎通は私達の相互理解を深め、良好な個人的関係を築いただけ でなく、科学技術管理部門、資金助成機関及び研究機関の間における協力も促しました。
この場で私は、科学資金助成機関の地域協力面での進展状況を特に紹介したいと思います。アジア各国の科学技術の急速な発展に伴い、アジアは世界の科学の 枠組みにおいて米国と欧州に次ぐ第3の極となりつつあります。統計によれば、中国と日本のSCI論文は既にアジアのSCI論文総数の70%を占めていま す。この数年来、中国国家自然科学基金委員会、韓国科学財団、日本学術振興会3者の協力が絶えず深まっています。3者が共同で設けたアジア研究助成機関会 合のメカニズムは3者のリーダーに定期的な意思疎通の機会を提供し、3国の科学者が共に関心を寄せる分野、特に地域的及び世界的な科学問題に焦点を合わせ て協力を繰り広げるための条件を作り出しました。また、優先的な資金助成分野の選択、資金助成政策、プロジェクト管理等の面における3国科学資金助成機関 の交流と協力が強化されました。2004年、3者はA3フォーサイト研究計画を共同で立ち上げ、3国科学者の共に関心を寄せる分野での多角的な交流と協力 を促しました。2007年、A3フォーサイト研究計画の研究分野は地球変動です。今年、3国の科学者は更に新たな研究テーマとなる先進素材について研究を 進め、来年の共同研究計画に備えることになっています。
資源、環境、エネルギー及び自然災害、病気の予防・治療等、人類が直面する共通の挑戦に立ち向かう上で、科学資金助成機関は辞退することが許されない責 任を負っています。中国国家自然科学基金委員会は引き続き地球変動を含む世界が共に関心を寄せる研究分野を優先的な助成分野とし、中国の科学者が地域と世 界の科学協力に参画することを奨励・支援します。
日本学術振興会の積極的な提唱の下、より多くのアジアの国々が参加する科学資金助成機関リーダー会合が近々開催されます。アジア科学界のリーダーによる 今回の地域的会合はアジア各国科学界の交流と協力を一段と強化することになろうと私達は信じています。中国国家自然科学基金委員会の朱作言副主任がこの会 合に出席する予定です。
4、中日科学協力についての幾つかの提案
中国唐代の大詩人、李白は「千里の目を窮めんと欲し 更に上る一層の楼」と言っています。科学界は中日善隣友好の高所から中日科学協力の発展を見据えるべ きです。中日科学協力を一段と深めるには、中日善隣友好の大局に着目する知恵を持ち、また、科学の発展動向と学問分野の最前線を把握する能力を持ち、戦略 と現実の2つのレベルで同時に中日科学協力を推進しなければなりません。
中日両国の科学技術発展はそれぞれに特色があり、相互補完性が強く、ウィンウィンの枠組みを築くことが完全に可能であり、且つ徐々に築かれつつありま す。中日の科学技術協力は現実性の他、戦略性も備え、二国間にとっての重要な意義を持つ他、地域的及び世界的な影響も持っています。中国国家自然科学基金 委員会は従来から楽観的かつ積極的な態度で臨んでおり、全力を挙げて両国の科学交流・協力を推進します。
中国は世界最大の発展途上国です。中国の相対的優位性は世界最大の高等教育システムを備え、世界で最も豊かな人的資源を有することであり、大学体制と科 学院体制において充実した科学研究システムが築かれました。同時に、中国経済の持続的高成長が科学技術に大きな発展の余地を与えました。中国政府が経済の 長期高成長を踏まえて打ち出した全面・協調・持続可能の科学的発展観は中国経済の健全で、速やかな、安定した発展に保証を与えるものです。同時に又、環 境、エネルギー、資源等に関係する急いで解決しなければならない多くの科学的・技術的問題を科学技術界に突き付けることになりました。最近、イノベーショ ン型国家を築くとの全体目標及び「国家中長期科学・技術発展計画要綱」の重点任務と要求に従い、中国の国家科学技術部は「第11次5カ年計画期における国 際科学技術協力実施要綱」(2006〜2010年)を打ち出しました。この実施要綱に基づき、第11次5カ年計画期間中、中国は国際科学技術協力において 科学技術グローバル化の流れに順応し、協力分野を更に開拓し、新たな協力方式を模索するとともに、国際的なビッグサイエンス計画と同プロジェクトに積極的 に参画することになります。
日本は世界第2位の経済大国であり、科学技術強国です。日本の科学技術発展の相対的優位性は政府も企業も多額の資金投入を行い、完全に成熟した教育・科 学研究体制を備え、また、長い間に蓄積した科学研究・管理の経験を有することです。最近、日本政府も科学・技術に一段と依拠して国のイノベーション能力を 高める決意を固め、一連の措置を講じつつあります。国際化戦略は日本のイノベーション戦略の重要な一環と言うべきです。
見てわかるように、発展戦略において、双方が科学技術のグローバル化に焦点を合わせ、科学技術発展と国際協力の戦略を定めたことは期せずして一致しており、互いに恩恵を受け、利益を得ることができます。
科学技術のグローバル化を背景に、中日両国は共通の利益がますます増大し、また、共同で対処する必要のある多くの重大な科学的課題に直面しています。両 国の指導者は既に戦略的互恵関係を築くことでコンセンサスを得ました。双方の科学界は大勢に順応し、中日科学技術協力を新たな歴史的段階に推し進めるべき です。
中国が基礎研究に資金を助成する主要な科学助成機関−−国家自然科学基金委員会の副主任として、また、1人の物理学者として、私は日本側の科学管理機関及び科学者と一緒に努力を払い、両国の科学技術協力関係の全面的な発展を共に促すことを願っています。
このため、幾つかの提案を出します。
第1に、双方の科学技術部門は大所高所に立ち、戦略的大局の観点から両国の科学技術協力関係の発展を把握すべきです。両国科学技術管理部門の指導者の相 互訪問を一段と強化し、協力政策、協力モデル等の戦略レベルでの意思疎通を強化します。双方の科学技術管理部門は常に顔を合わせ、管理機関、政策制定部 門、計画部門の交流を一層拡大し、双方の既存の各種メカニズムを利用して、戦略、計画、プロジェクト管理のレベルにおける相互間の理解と協力を深めるべき です。例えば、グローバルな重大科学プロジェクト、研究計画への参画に関する科学研究管理部門の意思疎通と協議です。
第2に、環境やエネルギー等の分野における双方の協力を一段と深化させ、科学の発展に基づき、双方の協力の中身を適時に充実・拡大します。現在、中日双方 の科学技術協力はより幅広い分野、より深いレベルへと発展しつつあります。双方は協力の分野と資金助成の規模を適時に拡大することを考慮でき、例えば生命 科学の最先端の学問分野及び天文学、高エネルギー物理学等の基礎学問分野です。
第3に、人的交流を引き続き拡大し、両国の科学技術協力の基礎を固めます。幅広い人的交流は二国間の科学技術協力を確立する基礎となります。二国間の学術 シンポジウムと講習班に対する資金助成を一段と拡大し、特に両国の若手科学者同士の交流を促進することを提案します。
第4に、地域的、多角的な科学協力における双方の科学界及び科学者の意思疎通を強化し、重大な科学プロジェクトと前期の研究開発における双方の交流・協力 を強化し、中日間の高いレベル、高いスタートラインでの科学協力を引き続き支援します。これには世界的、地域的な二国間又は多国間の大型国際研究計画への 共同参画についての協議と協力に力を入れることが含まれます。地域的、多角的な科学技術協力を共同で推進し、アジア、さらには世界の科学技術の発展のた め、また、地域的、世界的な科学問題の解決のため、共に貢献しましょう。
双方の科学技術管理部門と科学資金助成機関は中国の科学者と日本側の科学者が協力し、双方が共に関心を寄せる、地域的、世界的な意義を持つ科学問題・分野 で共同研究を繰り広げるのを引き続き奨励・支援すべきであり、同時に又、プロジェクトの共同立ち上げ、共同申請、共同助成、共同研究の新たなモデルを更に 深化させねばなりません。
今年は中日国交正常化35周年に当たります。日本科学技術振興機構中国総合研究センターがシンポジウムを開催し、中日科学技術協力の問題を研究討論する のは、戦略と政策の面で二国間協力の推進と深化を考える機会を私達に与えるものです。こうしたシンポジウムの開催は中日科学界の理解と交流を推し進め、中 日さらにはアジア各国の科学技術協力と共同発展を促進する上で現実と戦略の二重の意義を持っています。
中日両国の科学技術協力を着実に推し進め、中国の温家宝首相が今年日本を訪問した時に打ち出した「平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展」の中日関係発展目標を実現するため、共に努力しようではありませんか。
ご静聴、有り難うございました。
沈 文慶(スン・ウェンチィン):
文慶国家自然科学基金委員会副主任
略歴
清華大学エンジニアリング物理学部卒業。
中国科学院蘭州近代物理学研究所研究員・博士指導教官、西ドイツ国家重イオンセンター客員学者、中国科学院上海原子核研究所研究員・博士指導教官、中国科 学院上海分院院長を経て、現在、国 家自然科学基金委員会副主任、上海市科技協会主席。中国科学院上海原子核研究所研究員・博士指導教官を兼務。
国家主要基礎研究プロジェクト「放射性イオンビーム物理学・天体核物理学」首席科学者。第10期中国人民政治協商会議委員。1999年中国科学院院士。全国中年・青年優秀科学者称号、国 家及び中国科学院科学自然科学賞、科学技術進歩賞等受賞。