第26号:日中の再生医学・再生医療
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中国クローン技術の展望

2008年11月

石徳順

石徳順(Shi DeShun):中国広西大学動物繁殖研究所 副所長

1962年11月生まれ、1991年アイルランド・ダブリン大学で博士学位を取得、現在。主として動物クローン、遺伝子組み換えクローン及び体外受精等の技術の研究と開発活動に従事、前後してウシ卵母細胞体外成熟、体外受精と胚早期発生の理論を向上させ、発展させている。また、効率の高いウシ体外受精の手順を確立し、試験管子ウシを合計230余頭繁殖させ、技術はさまざまの項目で世界をリードする水準に達している。この他、世界で最初の受精卵冷凍保存の試験管ウシと体細胞クローンスイギュウ、中国最初の試験管スイギュウと胚胎細胞クローンウシの研究に成功した。前後して論文160余編を発表、専門著書2冊、教材2冊の編集に参加し、省クラス科学技術進歩賞一、二、三等賞をそれぞれ1項目、国家科学技術進歩二等賞を1項目受賞している。前後して突出した貢献をした中青年専門家、「五一」労働メダル等の栄誉称号を獲得している。中国農工民主党広西チワン族自治区委員会副主任委員、広西政治協商委員会常務委員等の職務を兼任している。前後して国の863計画の重大特別項目の課題4項目、国家自然科学基金の課題2項目、その他の各種課題10余項目において主要責任者となっている。作出に成功した体細胞クローンスイギュウは、米国人によってここ2年間で注目に値する17項目の科学技術の成果と計画に挙げられている。

 「クローン」という言葉はギリシャ語の「klon」に由来するものであり、もともとの意味は挿し木、すなわち無性繁殖を意味する。動物クローンとは、動物が有性生殖の方式を経ずに親と同じ遺伝情報を持つ後代を直接獲得する過程を指すもので、単為活性化生殖、割球分離と培養、胚分割及び核移植等が含まれる。通常、すべての非受精方式の繁殖によって得られた動物は、いずれもクローン動物と称され、クローン動物を生み出す方法をクローン技術と称する。自然条件下において、クローンは動物・植物・微生物界に幅広く存在している。高等哺乳動物の一卵性双生児も一種の自然のクローンである。高等哺乳動物において、核移植はクローン動物を生産する最も有効な技術であり、用いるドナー細胞の供給源に基づき、さらに胚胎細胞クローン、胎児細胞クローンと成年動物体細胞クローンの3つの大きなタイプに分けられる。

 動物クローン技術は、動物育種・科学実験及び発育生物学等の基礎理論問題の研究にとって、いずれも重要な意義を有している。第一に、遺伝的に優れた個体を大量に増殖させ、動物育種の進展を大きく加速化させることが可能である。第二に、遺伝子組み換え動物の後代の数を拡大し、遺伝子組み換え動物生産の効率を向上させることが可能である。第三に、胚子性別鑑定、再クローンを通じ、性別を予め知る大量の動物の後代を産出することが可能であり、性別コントロールにとって重要な実践的意義を有する。第四に、希少動物及び絶滅危惧動物の繁殖拡大と種の保護に用いることが可能である。第五に、実験動物に対する生物医学研究の特殊な必要を満たし、実験の正確性を高める。この他に、この技術を基礎として多くの極めて重要な基礎的問題、例えば動物個体発生の核質相互作用の関係、細胞核の脱分化とリプログラミングの問題及び再構築胚のミトコンドリアの変化、細胞の老化等の問題を研究することが可能である。

 動物クローン技術の重大な意義に基づき、中国の科学者は、これについて多くの研究活動を行い、一連の研究成果を取得するとともに、この技術の整備及び応用のために引続きたゆまぬ努力をしている。

一、中国クローン技術の発展の歩み

 中国のクローン技術は、前世紀の60年代から70年代に始まった。中国の著名な実験胚学者である童第周教授は、胞胚細胞を用いて魚類の核移植を行い、70年代に属間及び種間の核移植魚を作出し、その後の動物クローン技術のために基礎を築いた。

80年代、哺乳動物移植技術の発展にともない、胚胎細胞クローンマウス、クローンヒツジ、クローンウシ、クローンブタ及びクローンウサギの誕生に成功しており、中国の科学者もその後に従い、哺乳動物細胞核移植の研究活動を進めていった。1990年、中国科学院発育生物学研究所の杜淼教授が指導した研究チームは、中国で初めてのクローン哺乳動物である胚胎細胞クローンウサギをクローニングにより作出することに成功した。1年後、西北農林科学技術大学の張涌教授が中国最初の胚胎細胞クローンヤギの研究に成功するとともに、ヤギ胚胎細胞の連続5代クローンを完成させ、若干の胚胎細胞継代クローンヤギを獲得した。1995年7月14日、こちらのチーム及び華南師範大学の譚麗玲教授が協力して、16~32の細胞段階の体外受精胚子割球をドナー細胞とし、体外成熟卵母細胞をレシピエント細胞として、中国で最初の胚胎細胞クローンウシを作出することに成功した。その後、中国農業科学院牧畜研究所の朱裕鼎教授が指導する研究チームも1996年に胚胎クローンウシを作出した。同年、湖南医科大学の盧光琇教授が指導した課題チームが中国最初の胚胎クローンマウス6匹の作出に成功し、西北農業科学技術大学の竇忠英教授が指導した研究チームも中国最初の胚胎細胞クローンブタの作出に成功した。これまでで、中国は合計してウサギ、ヤギ、ウシ、マウスとブタの5種類の胚胎細胞クローン動物を作出している。

 1997年、世界で最初の例となった体細胞クローン動物のヒツジの「ドリー」が誕生したことは、中国科学者に体細胞クローンの巨大な応用の前途を目にさせるとともに、直ちに関連の研究活動を行うようにさせた。1999年10月15日、中国科学院発育生物学研究所の杜淼教授は揚州大学と協力し、1匹の成年転移肝表面抗原遺伝子のヤギ卵巣顆粒細胞をドナー細胞として、クローニングによって中国で最初の体細胞クローン動物である体細胞クローンヤギを作出した。翌年5月2日及び16日、杜淼教授が指導した研究チームは、クローニングによって出産後19個月の遺伝子組み換えヤギそれぞれ1匹の耳皮膚繊維芽細胞と卵巣顆粒細胞からの体細胞クローンヤギ2匹を作出することに再度成功した。これと同時に、西北農林科学技術大学の張涌教授が指導した研究チームも2000年の6月16日と22日に体細胞クローンヤギ2匹をクローニングによって作出することに成功した。

 体細胞クローンヤギの中国における成功は、この技術のその他の動物における研究の進展を加速化させた。2001年初頭、中国農業大学の陳永福教授が指導した研究チームはニュージーランド農業研究所と協力して、ニュージーランドで生産された体細胞クローンウシの胚胎を中国に持ち帰って移植し、体細胞クローンウシ1頭を獲得したが、乳を飲ませたときに気管を詰まらせて死亡してしまった。2001年11月、山東莱陽農学院は日本からクローン胚胎を導入して移植し、全黒色のクローンウシ2頭を作出した。中国科学院動物研究所の陳大元教授が指導した研究チームは、230個のクローン胚胎をレセプタウシ112頭の子宮内に移植、26頭のウシが妊娠、14頭が中途流産し、妊娠期間が到来したレセプタウシ12頭が2002年1月18日から2月11日にかけて中国で最初の自主研究の体細胞クローン子ウシを合計14頭生んだ。その後、体細胞クローンウシは中国農業大学等の多くの機関が作出に成功するとともに、すでに産業化の段階に入っている。

 2004年11月、こちらのチームは、除核、ドナー細胞培養と融合方法を改善し、世界で最初の体細胞クローンスイギュウの研究に成功した。翌年3月、世界で最初の成年体細胞クローンスイギュウがまた広西大学で誕生し、広西大学をして現在のところ唯一の体細胞クローンスイギュウの獲得に成功した研究機関とさせた。2005年2月24日、北京大学生命科学院は中国最初の体細胞クローンマウスの研究に成功、2005年8月5日、中国農業大学の李寧教授が指導した研究チームがまた中国最初の体細胞クローンブタの研究に成功、中国最初の体細胞クローンウサギも2006年に中国農業科学院北京牧畜獣医研究所の李善剛博士によって研究に成功、2007年9月14日、世界で最初の遺伝子組み換えクローンウサギがまた上海交通大学と中国農業科学院北京牧畜獣医研究所の共同研究に成功した。これまでで、中国は6種類の体細胞クローン動物の作出に成功している。

二、中国クローン技術の現状

中国のクローン技術は数十年の発展を経て、その技術体系はすでに基本的に整備されており、この技術をマスターしているチームも絶えず増えており、関連する研究活動も絶えず深化している。

 ウシの体細胞クローンは、中国で近年発展速度が最も速い動物クローン技術の一つとなっている。2002年に体細胞クローンウシの作出を自主的に完成させて以来、すでに10に近い組織が体細胞クローンウシを作出している。これらの組織には中国科学院動物研究所、中国農業大学広西大学、青島農業大学、西北農業大学、内蒙古大学、北京錦繍大地公司、新疆金牛公司等が含まれる。その中では、中国農業大学が確立している技術体系が最も完備しており、前後してすでに100余頭の体細胞クローンウシを作出し、その内30余頭は遺伝子組み換えのクローンウシであり、一部は産乳量が最高20トンに達するトップクラスの乳牛である。作出した体細胞クローンウシは正常な繁殖または再クローンを通じてすでに後代を作出しており、牧畜生産において徐々に重要な役割を果たしている。

 ブタの体細胞クローン技術は2005年に中国農業大学によって研究が成功したものであるが、進展は極めて急速である。東北農業大学は2006年に前後して体細胞クローンブタ3頭と緑色蛍光タンパク質遺伝子組み換えクローンブタを作出した。2007年、上海交通大学広西大学も前後して体細胞クローンブタを作出した。特に2008年、ブタ体細胞クローンの成果はことのほか顕著である。5月15日、華南農業大学と中国農業大学が協力し、クローンブタ5頭を作出した。10月11日、深圳華大遺伝子研究院は8頭のハンドメイドクローンブタを獲得し、ブタのクローン方法をさらに簡便なものにした。また特筆すべきこととしては、中国農業大学の李寧教授が指導した研究チームが、合計して20頭の遺伝子組み換えクローンブタを作出し、かつクローン平均効率は1.8%に達し、現在の国際的最高水準にあることである。

 ヒツジのクローン技術はすでに中国においてもかなり成熟している。中国科学院発育生物学研究所、揚州大学と西北農林科学技術大学に続いて、上海遺伝子組み換え動物研究センター、内蒙古大学と山東農業大学は、いずれも前後して体細胞クローンヤギと遺伝子組み換えクローンヤギを作出している。特に2005年、中国科学院動物研究所は山東臨沂盛能奶牛胚胎工程公司と協力し、山東臨沂において普通ヤギを用いてクローニングによりアジア(南江)黄羊を作出し、絶滅危惧物種保護のために基礎を打ち固めた。

 この他、中国科学院はクローン効率をいかにして向上させるかということを巡って、体細胞クローンのメカニズムの面においてもまた多くの研究活動を行い、DNAメチル化の水準及びヒストンアセチル化水準とクローン効率との関係を初歩的にはっきりさせ、レセプタ細胞質糸粒体のクローン胚胎発育過程における役割を確定し、若干のクローン効率と関連する遺伝子をクローニングし、国際刊行物に幾つかの高水準の学術論文を発表している。

三、中国クローン技術研究開発の環境と雰囲気

 中国のクローン技術がこのような長足の進歩を遂げたのは、国民の認識と政府の支持があったためだ。

 2005年3月、第59回国連総会は「国連のヒトクローンに関する宣言」を承認、採択し、幹細胞研究に用いるヒト胚胎クローンを含む一切の形式のヒトクローンを禁止することを各国政府に促した。この4年の長きにわたって論争されてきた議題に合計191の国が投票に参加した。この法的拘束力を持たない宣言は賛成84票、反対34票、棄権37票で採択された。中国、英国、ベルギー、シンガポール、フランス、インド、韓国等の治療を目的とするクローンに賛成する国は反対票を投じた。なぜならば、これらの国は、治療を目的としたクローンという先進技術は様々な治療が困難な病気、例えばガン、糖尿病等の治療のために希望を見出しうると見なしたからである。「クローン人間には反対するが、治療目的のクローンには反対すべきではない」というのが中国の国民と政府の共通認識である。従って、「863」計画、「973」計画、国家自然科学基金を含め、中国の幾つかの主な科学技術計画に対し、「第十次五カ年計画」が始まってからいずれも大量の経費が投入され、クローン技術に関係する研究活動を支持するのに用いられている。その内の一部の研究課題、例えば「バイオリアクター」、「組織器官工学」等のようにクローン技術と間接的に関係するものであるが、これらの課題の研究活動の進展もまた動物クローン技術の発展を大きく推進している。

 中国の国民はクローン技術について非常に関心を寄せるとともに、クローン技術の研究に対して全力で支持している。中国農業大学李寧教授の研究チームは、企業から千万元近くの資金援助を獲得しており、私が展開したクローンウサギの研究もかつて民間からの個人的支持を得ていた。

 この他、中国が展開しているクローン技術の研究及び開発の最も有利な条件は、労苦を厭わない多くの学生と豊富な人的資源を擁していることである。クローンは時間を費やす、骨の折れる、かつ技術性が極めて高い仕事であり、多くの熟練した技術要員を要する。中国は過去10年間、大量の動物クローン技術の研究と開発に従事する人材を養成しており、これらの人材はクローン技術が中国において急速な発展をすることを促すであろう。

四、中国クローン技術の展望

 中国は人口が多い大国であり、資源は非常に不足している。どのようにして限りのある資源を利用し、さらに多くの動物性蛋白質を生産して人民の必要を満たすかは、中国動物科学者たちが研究、解決を必要とする主要な問題である。この問題を解決するためには、一方で現有の優良な家畜群に対して急速な繁殖拡大を行う必要があり、もう一方で優良な生産性状の遺伝子を凝集させ、さらに優良な家畜・家禽の新品種を育て、飼料の利用と転化の効率を向上させる必要がある。このために、中国は期間を15年とする「トランスジェネリック生物新品種育成」の重大科学技術計画をスタートさせることになっており、クローン技術はこの科学技術計画の実施の過程において、重要な役割を果たすであろう。

 クローン技術の意義は数頭の優秀な動物個体を複製することだけではなく、さらに重要なのは技術の手段として、遺伝子組み換え等の技術と結び付け、動物遺伝子組み換えの効率を高め、動物の定向的遺伝改良を実現することである。この目標をめぐって、中国の科学者はすでに多くの仕事を行っており、トランスラクトフェリン、ラクトアルブミン、リゾチームとエリスロポエチン等の遺伝子の多くのクローンウシ、クローンヒツジとクローンブタを作出している。これらの研究成果は、クローン技術をして将来の中国経済社会発展の進行過程において、ますます重要な役割を発揮させるであろう。

「再生医学」もまた中国クローン技術応用の一つの重要な要素となるであろう。環境汚染の程度が激しさを増すようになるのにともない、人々の器質性病変の疾病はますます多くなっており、これらの疾病の治療に用いる細胞と器官のニーズはますます大きくなっている。体細胞クローンを通じ、患者自身の細胞を用いて必要な幹細胞、終末細胞または器官をクローニングすることが可能となる。このようになると、細胞と器官の由来という問題を解決することが可能となるだけでなく、移植拒絶の問題を解決することも可能となる。中国の「863」と「973」計画はいずれも当該分野において重点的な資金援助を行うとともに、すでに段階的に研究成果をあげている。

 絶滅危惧動物の保護も中国クローン技術応用の一つの側面となるであろう。異種クローニングを通じ、絶滅危惧動物の繁殖と群拡大の速度を速め、当該種の絶滅に直面している環境を改めることが可能となる。条件が整えば、絶滅した種を回復させることさえ可能となる。例えば、氷河の底に埋まってすでに絶滅している動物の体細胞を取り出し、クローニングを通じて彼らを地球上に再現させるであろう。中国の研究者はこの面においても多くの仕事を行っている。中国科学院動物研究所の陳大元教授が提出したクローンパンダ計画は、早期植え付け妊娠の成果を挙げている。

 中国クローン技術は、すでに世界の先進的水準に達している長足の進歩を遂げているが、依然として多くの課題があり、将来の研究と開発を絶えず完璧なものとしていくことが必要である。中国クローン技術の将来の研究は、主として次の3つである。一つ目は、クローン基礎理論の研究であり、なぜクローン動物の受胎率、生存率が低く、流産率、死亡率が高いのかといった一連の問題をはっきりさせることである。二つ目は、如何にしてドナー細胞を「若い」状態に回復させるかを研究することである。現在多くの研究が、クローン動物の生理状態がドナー動物の年齢に関係するようである。従って、ドナー細胞の生理状態を如何にして変更させるかが、動物クローン技術の今後の応用のキーポイントとなる。三つ目は、ドナー核タイプとレシピエント細胞質のタイプ組合せの問題である。現在得られている「種間」クローン動物は、ドナー細胞とレシピエント細胞の染色体数が基本的に同じである(コイとフナの間の属間クローンウオを含めて、染色体はいずれも100本である)。真の異種クローンを実現しようとするなら、必ずドナー核タイプとレシピエント細胞質のタイプ組合せの問題を研究して解決しなければならず、そうすることによって初めてクローン技術の動物育種と絶滅危惧動物保護における壮大な役割を果たすことが可能となるのである。

 要するに、中国のクローン技術には課題が依然として存在しているものの、その前途は限りなく雄大である。