鉄鋼スラグヤードにおける粉塵モニタリング法の研究と抑制対策の提案
2014年11月04日 王文美1 張 寧1 曹 陽2 張 君2(1.天津市環境保護科学研究院,2.天津迪蘭奥特環保科技開発有限公司)
1 はじめに
鉄鋼スラグの再利用率は、鉄鋼業界のクリーン生産評価システムにおける指標のひとつであり、冶金企業が循環経済、資源の総合的な利用を実現し、省エネ・排出削減を推進する上でも重要である。しかし、鉄鋼スラグの処理および尾鉱の貯蔵においては、粉塵の発生が避けられない。ゆえに、鉄鋼スラグの加工プロセスおよびヤードが環境にもたらす影響をいかに抑制するかは、近年の冶金企業の持続可能な発展において、早急に解决が必要な問題の1つとなっている。
天津市環境保護科学研究院は、天津市の大型鉄鋼合弁企業と提携し、現状モニタリングとモデリング分析を組み合わせた方法を採用、鉄鋼スラグヤードの非点源汚染に関する定量分析を実施し、企業の汚染抑制強化、環境管理体系の改善に向け、理論的基盤を築いた。
2 企業の概況および鉄鋼スラグ処理の現状
同企業は製鉄、製鋼、鋳造、圧延を一体化させた大型鉄鋼企業であり、主な製品は連鋳スラブ、ねじれ無し冷間・熱間圧延線材、中厚板、棒材および熱延鋼板などである。鉄鋼スラグの生産量は年間約100万トン。主な成分は表2-1を参照のこと。
項目 | 成分 | |||||
検出された成分 | CaO | SiO2 | MgO | TFe | Al2O3 | MnO |
質量分率 ω(B)10-2 | 38.13 | 14.43 | 12.72 | 12.34 | 5.64 | 1.58 |
鉄鋼スラグの処理における粉塵汚染を減らすため、既存のスラグヤードで現場モニタリングを行い、エリア内における実際の粉塵発生状況を分析、粉塵汚染に影響を及ぼす主な要素およびその程度に基づき、防塵装置の建設および環境管理の強化に向けた要求を提起し、理論的データを通じて実践的な指導をするという重要な役割を果たした。
3 鉄鋼スラグ粉塵汚染の分析
現場の実際の状況に基づき、鉄鋼スラグの加工および鉄鋼スラグヤードの単位時間当たりの汚染物質排出量確定の指導方法に、都市の粒子状物質汚染防止研究分野で使われる筐体物質収支の原理を採用した。具体的な原理および設計プランは以下の通り。
3.1 筐体物質収支
質量保存則に基づくと、大気空間内にある単一の筐体内の汚染物質の総量は一般的に、3つの要素によって決まる。すなわち、空間内の排出源の実際の排出量、筐体の側面を通じた汚染物質の流入量と流出量だ。これは次の公式で表すことができる:
M=Q+MU-MB
うち:M——筐体内の汚染物質の総量;
Q——筐体内の排出源からの実際の排出量;
MU——風上から流入する汚染物質の総質量,
MB——風下から流出する汚染物質の総質量。
3.2 分析プラン
筐体の物質収支原理および河東区の既存鉄鋼スラグヤードの実際の状況に基づき、現場モニタリングおよび単位時間当たりの汚染物質排出量の分析プランを以下のように確定した:
(1)既存エリアの平面配置に基づき、エリア内に6×5の格子点を設定。環境モニタリング部門に委託し、異なる気象条件および環境保護措置下におけるTSPおよびPM10の現状モニタリングを実施;
(2)筐体物質収支の原理に基づき、モデリング分析を通じてユニット内の汚染物質の実際の排出量を計算;
(3)エリアの総排出量を計算、異なる生産技術およびモニタリング条件下における汚染物質の排出の変化を計算、粉塵の主な影響要素および程度を分析。
3.3 粉塵汚染の分析結果
現状モニタリングデータを使って計算した、エリア内の各ポイントのPM10とTSPの実際の排出量については、表3-1を参照のこと。
日付 | TSPの排出量推計値(kg/h) | PM10の排出量推計値(kg/h) | ||
磁気分離・ スクリーニング |
ヤード | 磁気分離・ スクリーニング |
ヤード | |
2008-10-08 | 34.38 | 5.42 | 15.59 | 1.80 |
2008-10-09 | 103.19 | 4.01 | 40.00 | 2.09 |
2008-10-10 | 79.44 | 2.89 | 43.32 | 2.34 |
3.4 影響要素および影響の程度
(1)風速
ヤード内の粉塵は、ある程度風速の影響を受ける。粒子が移動するのは、風速が十分に大きく、風力が粒子状物質の重力と粘着力を上回る場合のみとなる。風洞試験の結果[1]、移動するために必要な摩擦速度閾値が最小だったのは粒径70~100μmの粒子状物質で、70μm未満の場合、移動に必要な摩擦速度閾値は、粒径の減少に伴い逆に増大した。風洞実験における、粒子状物質の粒径と摩擦速度閾値の関係については、表3-2を参照のこと。
番号 | 粒径(mm) | 風速閾値u*t(cm/s) | 風速(m/s) |
1 | 2 | 100 | 17.3 |
2 | 1 | 76 | 13.1 |
3 | 0.5 | 58 | 10.0 |
4 | 0.25 | 43 | 7.43 |
表から分かるように、0.25mm前後の粒子状物質が移動するには、7.43m/sの風速が必要となる。天津市の1971~2004年の年平均風速は約2.25m/s[2]であり、風速7m/s以上となることは少ない。ここから推測するに、鉄鋼スラグヤードが排出する粒子状物質は0.25mm以下の粒子状物質が主と見られる。モニタリング結果のPM10とTSPの濃度から作成した統計図表は、図3-3および3-4を参照のこと。
图3-3 TSP濃度に対する風速の影響
图3-4 PM10濃度に対する風速の影響
上図から分かるように、バックグラウンド地点のモニタリング結果には、風速が増しても大きな変化はなく、風速とヤードの粉塵には大きな関係性がないことを示している。
(2)含水率
散水措置を講じ、粒子状物質の含水率を高めることは、粉塵抑制の効果的な措置の1つである。異なる含水率における防塵試験の効果[3]は、表3-3を参照のこと。
注:Mcは散水後の含水率(%),Muは散水前の含水率(%),CEは抑制效率。 | |||
CE(%) | Mc/Mu(含水率) | CE(%) | Mc/Mu(含水率) |
10 | 1.05 | 70 | 1.83 |
20 | 1.12 | 75 | 2.00 |
30 | 1.20 | 80 | 2.24 |
40 | 1.29 | 85 | 2.58 |
50 | 1.41 | 90 | 3.16 |
60 | 1.58 | 95 | 4.47 |
65 | 1.69 | 99 | 10.00 |
上の図3-3および3-4の変化曲線から分かるように、散水措置を講じた後、汚染物質の濃度曲線は大幅に下降し、各ポイントの濃度も顕著に低下した。各モニタリングポイントのTSPおよびPM10の平均濃度の減少状況については、表3-4を参照のこと。
モニタリングポイント | 位置 | TSP 減少率 | PM10 減少率 |
1# | 二次スクリーニング | 38.8~39.9 | 21.5~23.6 |
2# | スクリーニング | 35.4~39.6 | 21.0~22.4 |
3# | 磁気分離 | 34.1~40.6 | 23.0~32.3 |
4# | 鉄鋼スラグヤード | 34.0~39.3 | 18.0~30.3 |
表3-4から分かるように、鉄鋼スラグの含水率を高めることは、効果的な粉塵抑制措置であり、鉄鋼スラグヤードの粉塵汚染防止に大きな役割を果たす。
4 主な防塵措置および效果の分析
4.1 汚染物質排出方式の転換
この企業の儲運分公司(貯蔵・輸送を担う別会社)の既存の鉄鋼スラグ処理・加工装置は全て屋外に設置されているため、鉄鋼スラグ加工プロセスの粉塵排出と鉄鋼スラグヤードが、エリア全体の非特定汚染源を形成している。既存のヤードに対する現状モニタリングの結果、粉塵を発生する主な鉄鋼スラグの加工プロセスは磁気分離とスクリーニングで、これらのプロセスにおける粉塵発生量がエリアの全排出量の60%以上を占めていた。このため、企業が新たに鉄鋼スラグ加工処理ラインを建設する場合は、全て室内設計を採用し、磁気分離・スクリーニングの設備にパルス式バグフィルタを取り付け、負圧操作乾式集塵法を採用することで、磁気分離・スクリーニングによる粉塵を収集・浄化し、汚染物質の排出方式を変えることで、粉塵の無秩序な排出を減らすことができる。
パルス式バグフィルタは1950年代に開発された集塵設備で、装置本体はパルス弁、噴射管、インデューサー、コントローラなどからなる[4]。その主なメリットは次の通り[5]:
(1)集塵率が高く、99%以上に達する;
(2)集塵率が粉塵の比抵抗、濃度、粒度の影響を受けない;
(3)コンパートメント構造を採用できる。設計に余裕を持たせ、順番に集塵器のメンテナンスを行えば、通常の生産に影響を及ぼさない;
(4)細塵の効果的な収集が可能で、鉄鋼スラグ粉塵汚染の、粒子状物質の粒径が小さいという特徴にも適する。
4.2 鉄鋼スラグの含水率を高める
新たに建設した鉄鋼スラグヤードに、自動噴水防塵装置を設置し、定期的に散水することで、スラグの含水率を高め、粉塵を抑制することができる。散水に使う水は、工場内の水を再利用し、粉塵汚染を抑えると同時にクリーン生産の水準を高めることができる。
4.3 新築のヤードに防風・防塵ネットを増設
防風・防塵ネットは、ここ数年広く使用されている防塵装置で、様々な屋外の貯炭場、鉱石ヤード、スラグヤードおよび建設現場で使用できる。主に空気力学原理を利用しており、ネットを通じて外からの空気の流動方向を変え、ネット内で上下に運動する渦を形成し、風速を下げ、强風を弱風に変えることで、新たな空気の流れを作る。粉塵の高さを50%~60%下げ、防塵效果は65%~90%に達する。現在、すでに山西、河南など、石炭資源が豊富な省市以および宝鋼、上鋼などの大型鉄鋼企業内で幅広く応用されている。
張家港浦項不銹鋼有限公司のステンレス工場、宝山鉄鋼公司および上海宝鋼不銹鋼分公司などの企業における防風・防塵ネットの使用状況について調査研究・分析を行った結果、韓国鉄鋼大手ポスコの授権機関である北京錦鑫盛大科技発展有限公司に、新設の鉄鋼スラグヤードの防風・防塵ネットの設計・施工を委託することが決定した。防塵率は75%以上に達する。
4.4 路面の硬化
実地調査により、儲運分公司の工場エリア内はいずれも未舗装の道路であり、輸送に伴って発生する道路の粉塵も、エリア内全体の粉塵汚染を深刻化させる主な要因の1つであることが分かった。路面を硬化させる措置を講じることで、粉塵汚染の影響をある程度軽減させることができる。
5 結論
伝統的な鉄鋼スラグ加工および貯蔵は、粉塵汚染を招きやすい。モデリング分析により、各生産プロセスおよび鉄鋼スラグヤードの異なる影響条件下における汚染物質排出濃度の変化を分析することで、企業の環境保護措置の妥当性を大幅に高め、鉄鋼スラグ処理および再利用における環境コストを効果的に削減し、企業の経済成長と環境保護の調和の取れた発展を推進した。
主要参考文献:
- [1] 宣捷,「低層大気中固体粒子運動及其物理模擬」『環境科学学報』第18巻第4期,1998年:P350-355;
- [2] 孫玫玲,韓素芹,姚青等「天津市城区静風与汚染物濃度変化規律的分析」『気象与環境学報』第23巻第2期,2007年:P21-24;
- [3] 田寧寧,王凱軍,呉穎等「探討利用市区浅層地下水噴洒道路」『中国給水排水』18巻10期,2002年:P78-80;
- [4] 張殿印、張学義『除塵技術手冊』第1版,北京:冶金工業出版社,2002年2月,P134-146;
- [5] 唐平、曹先艶,趙由才等『冶金過程廃気汚染控制与資源化』第1版,北京:冶金工業出版社,2008年9月,P284-297。