第153号
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ビッグサイエンス、応用に照準―中国初のスパコンハイテクパーク

2019年6月13日 王延斌(科技日報記者)/楊佰才(科技日報特派員)

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華為のチップが、済南スパコンセンターで大規模に応用されている。画像は済南スパコンセンターハイテクパーク内にある華為のチップ展示エリアで写真を撮影する男性(画像は同センター提供)。

 中国国家スパコン済南センター・ハイテクパークが5月にオープンし、中国科学院や国家国家並行計算機工程技術研究センターの院士や専門家、華為(ファーウェイ)や海爾(ハイアール)、聯想(レノボ)などのリーディングカンパニーの代表が、その歴史的瞬間に立ち会った。

 世界のスパコン界で、スパコンをメインとしたハイテクパークは、中国国家スパコン済南センター・ハイテクパークが初めてとなり、スパコンを他の産業で活用するための重要な架け橋となる。同パークを通して、中国のスパコン界の専門家は何を模索し、どんな変革をもたらしてくれるのだろうか?

何でも計算できるスパコンが国家スパコン済南センターでさらにレベルアップ

 済南市内から車を東に30分ほど走らせ、右に曲がると、「国家スパコン済南センター」と石に刻まれた文字が見えてきた。同パークの「主役」である11万平方メートルの円柱型のスパコンセンターメインビルと10万平方メートルの科学研究ビル4棟は、「神速」のスパコンと同じように、わずか108日間という驚異的な速さで完成した。

「自主性」というのが、同センターの売りで、これまでずっと、その一挙一動が、中国の人々の注目を集めてきた。

 8年前にはすでに中国初の全て中国製のCPUとシステムソフトウェアを採用して作られた1ペタフロップの計算能力を持つスパコンが済南スパコンセンターでお披露目された。それにより、中国は独自アーキテクチャのシステムで1ペタフロップを突破した米国、日本に続く世界で3番目の国となった。そして、昨年、「さらに、ハイスペックで、速く、能力の高い」神威E級プロトタイプが同センターで完成。そのCPU、ネットワークチップセット、メモリー・管理システムなどのコアデバイス全てが中国製で、研究開発全体の指標が世界トップクラスとなっている。

「自主性」はスパコン「国産化」にあるのではなく、その応用にある。スパコンの応用に関して、同センターの潘景山副センター長は、「天でも、地でも、人でも、将来は何でも計算できるようになる」と話す。

 神威·藍光スパコンから神威E級プロトタイプに至るまでの間に、計算速度が3-4倍になっただけでなく、その応用分野も、気候・気象予報、大気圏・深海、地底の探測、生命科学、天体物理、航空・宇宙飛行、さらに、インターネット、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、人工知能、DNAシークエンシング、金融計算、先進製造技術、現代海洋研究などの分野まで拡大した。潘副センター長は、「済南の大明湖の上空にある雲がいつ雨雲になって、雨が降り、どのくらいの雨量になるかも計算できる」と説明する。

 山東省コンピューターサイエンスセンター(国家スパコン済南センター)の楊美紅センター長によると、神威E級プロトタイプは、初めて国産のスパコン上に、人工知能ソフトウェアエコシステムを構築し、神威のディープラーニングライブラリとフレームワークに基づいて、囲碁システムや医療画像認識、機械翻訳など、人工知能の応用を大規模に展開している。そのうち、機械翻訳への応用のデータ規模、並行規模、訓練速度は世界トップレベルに達している。

 国家スパコン済南センターハイテクパークが完成したのを弾みに、中国のスパコンはそこでさらに進歩を加速させ、科学研究機関やリーディングカンパニーと密接に連携しながら、ビッグサイエンス工学と応用産業の分野で力を発揮している。

需要も実力もある「スパコン」が産業での応用をサポート

 中国初のスパコンをメインとしたハイテクパークが山東省済南市で誕生したのはなぜなのだろうか?

 国家的側面から見ると、中国初の「新旧の原動力の転換」をテーマにした地域発展戦略を実施する山東省は省全体が「新旧原動力転換総合試験区」に指定されており、特に済南市、青島市、煙台市は「三大核心都市」だ。山東省の産業構造は偏っており、新旧の原動力の入れ替えが必要で、「スパコンにより、技術を牽引し、プロジェクトをサポートし、産業を活性化させる」スタイルを必要としていた。

 また、済南市には、大きなスパコン応用市場と需要がある。例えば、済南ハイテクパークには、バイオ医薬企業2,200社以上が入居しており、中国全土の都市で最も多い1,300以上の新薬が開発されてきた。それら企業はスパコンを切実に必要としている。国家人類遺伝資源ビッグデータ山東省イノベーションセンターは、米誌フォーチュンが毎年発表している世界トップ企業500社に入る製薬企業や世界トップクラスのバイオ医薬科学研究機関のために、標本データ公共サービスプラットフォームを構築している。同プラットホームもスパコンをベースに構築されている。済南の量子通信試験網は、世界最大規模で実際に応用された都市圏量子通信ネットワークだ。量子テクノロジーの発展の面で、済南市は当初の川上の科学研究開発から、発展して川下の産業と融合するようになったのにも、スパコンが一役買っている。

 さらに視点を広くして山東省全体を見ると、青島海洋科学・技術試験ポイント国家実験室を代表とする国家レベルの研究開発機関が現在台頭しており、「透明海洋」、「藍色生命」、「深藍大脳」などの(海洋科学)ビッグサイエンス問題をめぐり、海洋E級計算生態を建設するための拠点、要地、主戦場を提供している。山東省の新旧の原動力入れ替えにより確立された十大戦略性産業のうち、バイオ医薬、海洋産業、現代農業、現代製造業、現代サービス業などの重点産業は、スパコンを切実に必要としている。

 上記の科学プロジェクトは一般の人にとっては少し遠い存在と感じるかもしれないが、同センターと(音声技術・AI技術の)科大訊飛、(鉄道車両メーカーの)中国中車、海爾、(トラック製造の)重汽などの業界のリーディングカンパニーとの提携により、「現代優勢産業群と人工知能」を融合させて発展するという山東省の計画が着実に実施され、「演算法も生産力」であることが示されている。楊センター長は、「海爾は今後、スパコンハイテクパーク内にスマートハウス研究院を設置し、人工知能の製品応用、研究開発を進める計画だ。多くのリーディングカンパニーが現在、コンピューター関連の研究開発と使用を済南で実施する強い意欲を示している」とする。

スパコンのエコシステム構築に積極的にチャレンジ

 2009年から2018年までの10年間、中国のスパコンは、数字、ハードウェアを重視する段階を経験し、中国のスパコンは、世界最速ランキングで11回にわたって世界一になり、ゴードン・ベル賞を6度受賞し、計算速度の世界ランキング「TOP500」に入ったスパコンの数は米国を超えることもあったが、応用のエコシステムという面ではまだ大きな差をつけられたままだ。

 潘副センター長は、「以前のスパコン1.0の段階から2.0の段階に移行したカギは、スパコンが科学研究から産業へと移行し、スパコンのエコシステムが構築された、つまりスパコンのハイテクパークができ、産業集積が進んだことにある」との見方を示す。

 現在、同パークは、ノーベル賞受賞者1人、院士チーム16チームを招聘している。そのうち、華為や(クラウドやビッグデータなどの)浪潮(Inspur)などの世界一流企業と提携して構築された人工知能研究センターは、「チップ--ハッシュレート--枠組み--応用」という独自の人工知能産業エコシステムを構築する計画だ。また、済南量子技術研究院と一歩踏み込んだ提携を実施し、世界初の量子レーザーレーダー、世界初の量子暗号を使った商用セキュリティスマホ、量子の分野の核心的チップなどの研究開発、生産のために、強力な「ハッシュレート」を活用したサポートを提供する。さらに、中国科学院や西安電子科技大学、米国ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校、オーストラリアのフリンダース大学などの大学と共同でスパコンエコシステム実験室を設置する計画だ。

 同パークの発足セレモニーで、中国科学院の院士・陳国良氏は、「同セレモニーで、複数のリーディングカンパニーや科学研究機関、大学などが、国家スパコン済南センターと戦略的提携協議に調印する。オープンで、共有型のスパコン生態を構築し、『スパコン+現代優勢産業群』という構想を推進し、産業の新原動力を育成するための積極的なチャレンジで、済南スパコンセンターの中国のスパコン生態建設者としての責任感が示されている」と語った。

 先行してチャレンジしていくためには、責任感だけでなく、知恵が必要となる。同パークは既に、「スパコン・人工知能産業技術研究院」を立ち上げている。これは、山東省初の「大学でもなく、科学研究機関でもなく、企業でもなく、事業機関でもない」ばかりか、行政ランクもなく、独自に運営、管理するプロジェクトとなっている。


※本稿は、科技日報「瞄准大科学大応用 我国首箇超算科技園掀起蓋頭」(2019年5月21日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。