第167号
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畑で育つ野菜からもマイクロプラスチック粒子を検出

2020年8月26日 張 曄(科技日報記者)

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画像提供:視覚中国

 植物の主根から側根へと枝分かれしている所が根で最も弱い部分で、変形しやすい物質であるマイクロプラスチック粒子はその部分を通り抜け、木部道管を通って茎や葉の組織へと流れていく。

 プラスチック汚染というと、廃棄された農業用ビニールや捨てられたビニール袋などを連想するだろう。しかし、工業、生活汚水、海、大気はどれも大量のプラスチック成分を含んでおり、プラスチック汚染が現在、地球表層全体の生態系にとって、非常に大きな脅威となっている。

 廃棄プラスチックは、物理的、化学的、生物的過程で破片となり体積が小さくなり、プラスチック粒子となる。研究者は、直径が5ミリ以下のプラスチック断片や粒子を「マイクロプラスチック」と呼んでいる。実際には、マイクロプラスチックの大きさは数ミリのものから、数マイクロメートルのものまである。

 山東省の煙台海岸帯研究所と中国科学院南京土壌研究所の駱永明氏のチームが行った最新の研究では、マイクロプラスチックは、農作物によって吸収され、人が食べる部分にまで達するという結果が出た。実験では、土を使わずに栽培したレタス、側根が発達した小麦、世界中で栽培されているトウモロコシなどもマイクロプラスチック粒子を吸収することが証明されている。

 関連の論文は最近、「Nature Sustainability」電子版に掲載された。この研究は、植物がプラスチックを吸収することは有り得ないというこれまでの見方を根底から覆すもので、世界的に学界の注目を集めている。

 では、プラスチック粒子はどのように植物の内部に入り込むのだろう? 植物内部に入り込んだプラスチックはどんな結果を引き起こすのだろう?

土壌のプラスチック粒子はどこから?

 科学誌「サイエンス」に以前発表されたある研究成果によると、研究者は模型のシミュレーションにより、2019年から2040年までの間に、約7,700万トンのプラスチックが地上に廃棄されると予想されている。

「2013年から、当チームはすでに土壌のプラスチック粒子汚染の問題を研究している」という駱氏は取材に対して、「研究の結果、土壌のプラスチック粒子は、主に農業用マルチシート、廃棄されたプラスチック製品、企業が排出、輸送する過程で漏れた物質、工業・生活汚水、有機肥料、タイヤの摩擦、大気沈降物、海洋潮汐など、たくさんの発生源があることが分かった。それらプラスチックは、日光や雨などにさらされて風化し、さまざまな大きさの破片となる。マイクロプラスチックはそのようにして、土壌に大量に含まれるようになる」と説明する。

 その他、土壌生物の存在も、プラスチックが土壌における拡散範囲を広げる原因となっている。土壌動物はプラスチック、特にマイクロプラスチックの二次分解や移動・拡散に影響を与える。例えば、ミミズは、土壌の表面のマイクロプラスチック粒子が土深くに移動する過程で、重要な役割を果たす。ミミズの土壌における活動において、その体内に入ったマイクロプラスチック粒子は、表面吸着、排泄、死体など、いろんな形式で他の場所に拡散する。ミミズの活動で土の中にできる隙間も、マイクロプラスチックの二次拡散につながる。そのようなマイクロプラスチックの移動により、他の土壌生物も汚染物に接触する可能性がある。

マイクロメートル級のプラスチック粒子が根から吸収可能

 従来の学術的観点では、植物は根系から土壌の水や養分を吸収するものの、プラスチックのような粒子状物質が植物の中に入り込むことはないと考えられてきた。

 植物の表面の気孔は非常に小さいため、直径50ナノメートル以下の粒子状物質でなければ植物の中に入り込むことはできないと考える学者も多い。では、土壌においてスケールがより大きく、より一般的なサブミクロン級、またはマイクロメートル級のプラスチック粒子が植物の中に入り込むことはないのだろうか?

 分析の結果、駱氏は入り込む可能性は非常に大きいと見ている。その理由は、プラスチックは、変形する物質であるからだ。植物の主根から側根に枝分かれしている所が根で最も弱い部分で、その表皮は非常に薄く、穴も比較的大きい。比較的小さいプラスチック粒子なら、その部分を通り抜け、木部道管を通って茎や葉の組織へと流れていく。

 同時に、植物の根系が水分を吸収する時、水の蒸散作用により、土壌の微粒子が植物の中に入り込む。この水からの圧力は、サブミクロン級のプラスチック粒子にとっては軽視することのできない力となる。

 だが、マイクロプラスチック粒子が植物の中に入り込むことを、どのように観測し、証明するかは、科学的問題だ。プロジェクトチームはまず、プラスチック粒子の大きさの範囲を0.2~10マイクロメートルと定め、レタス、小麦、トウモロコシの3種類の植物を選んで、マイクロプラスチック粒子を大量に含む液体肥料の入った水、廃水、砂状の土壌でそれぞれ栽培し、その変化を観察した。

 駱氏は、「レタスは、西洋料理において最もよく使われている野菜で、基本的に、土を使わない栽培スタイルが多く採用されている。一方で小麦やトウモロコシの側根は非常に発達しており、人間の主要な食料、家畜の主な飼料となっている」と語った。

 そして、「当チームは、蛍光標識、走査電子顕微鏡、イメージングという、3種類の観測方法を利用した。植物内に元々ある蛍光色素と混乱することがないように、2種類の蛍光標識をプラスチック粒子上で使い、プラスチック粒子が植物内の道管に吸収されると、すぐに観測することができるようにした。走査電子顕微鏡とイメージングの方法は、植物のCTスキャンと言うこともできる。電子顕微鏡は、エネルギー分散を通して、植物内の物質の成分を測定することもできる」と説明する。

 それら3種類の観測方法を検証するために、プロジェクトチームは、成長した植物の茎を切断し、中から出てきた溢泌液を分析して、最後にそこからマイクロプラスチック粒子が含まれることを確認した。

植物が"食べた"プラスチックは食物連鎖で伝達

 植物に吸収されたプラスチック粒子は食物連鎖を通じて伝わっていくことに疑問の余地はない。

 駱氏は、「レタスは、広く食用にされている野菜で、理論的に見て、プラスチック粒子はレタスを通して直接人体の内部に入り込む。研究所では、海で魚に飲み込まれたプラスチック粒子よりも、野菜の中のプラスチック粒子のほうが人体に入り込んで、循環しやすいことが観察された。それは、魚の体内のプラスチック粒子は主に、内臓に集中しており、筋肉組織の中には浸透していないからだ」と説明する。

 小麦やトウモロコシにおけるプラスチック粒子の移動の軌跡はまだはっきりとは解明されていない。駱氏は、「プラスチック粒子が、小麦の実など、植物の実や種子に入り込むかはまだ確認できていない。しかし、トウモロコシの茎は、一般的な家畜のサイレージであるため、プラスチック粒子が食物を通して間接的に動物の体内に入り込むことが予想できる」と懸念を示している。

 現在、この研究は、マイクロプラスチック粒子が植物の中に入り込むことを証明しただけで、プラスチックが植物の中に入り込んだ後の物理的、化学的変化や循環の過程などの研究が今進められている。

 駱氏によると、「プラスチックはポリマーで、一般的なものにはポリエチレン、ポリプロピレンなどがある。それら重合体の主な成分は、炭素や水素などだ。普通の状況下では、炭素や水素が直接人体に危害を及ぼすことはないが、マイクロプラスチック粒子が有機汚染物、病原微生物、重金属ベクターになることは、紛れもない事実だ」。

 2008年6月1日から、中国では、買い物用のレジ袋が一律有料化され、それを無料で提供することはできなくなった。最近、中国国家発展改革委員会など9つの組織・機関は共同で、非生分解性レジ袋の使用を明確に禁止することを発表した。

 駱氏は、「根本的に使い捨てのプラスチック製品の使用を減らしたり、禁止したりすることが必要で、代替技術、製品の研究開発を加速させなければならない。環境保護は、一般の人が参加しなければ成し遂げることが難しい。そのため、プラスチック汚染の改善には、政策、技術のほか、一般の人々にかかっている」と指摘する。

〔関連資料〕土の中に埋められたたばこの吸い殻が植物の成長に影響

 たばこの吸い殻のポイ捨てがマナー違反であることは多く人が認識しているが、たばこの吸い殻が陸地の生態系を大きく乱すことはあまり知られていない。

 多くの喫煙者は、たばこの吸い殻はすぐに生物によって分解されると考えている。しかし、実際には、たばこのフィルターは、バイオプラスチックでできており、分解されるのには、数年、ひいては数十年もかかる。世界で毎年、数え切れないほどのたばこの吸い殻が捨てられているが、ある実験では、普通のたばこの吸い殻が土の中に埋められ、十数年経っても腐敗せず、植物の成長を大きく阻むことが分かっている。

 ある研究によると、たばこのプラスチックフィルターは、ホソムギやミツバグサの成長を阻むことが分かっている。ミツバグサは、ミツバチにとって非常に重要であるほか、ディーゼル車の排気ガスを吸収することもできる。ホソムギは牧草で、家畜の餌に非常に適している。

 研究者が温室で行ったある実験で、普通のたばこのフィルターが、ホソムギ(多年生ホソムギ)やミツバグサ(シロツメクサ)の成長・生育に与える影響を検証した。すると、21日後、たばこのフィルターが入った植木鉢で成長したミツバグサは種が27%減少し、発芽したホソムギの種も10%減った。一定量のたばこのフィルタが存在する環境下で、ミツバグサの若い枝の長さは28%短くなり、ホソムギの若い枝の長さも13%短くなった。

 また、重さを測ると、実験サンプルのミツバグサの根の数は、通常の半分しかなかった。研究者は、たばこのフィルターのプラスチックゴミは、根が水分を吸収するのを妨げる。その他、研究では、実験用の植物のクロロフィルの含量が非常にアンバランスで、そのような現象は通常、干ばつの時にしか発生しない。


※本稿は、科技日報「種在田里的作物可能也在"吃"塑料」(2020年7月31日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。