深夜にライブコマースの配信サイトにアクセスすると、数十時間連続で配信を続けながらも元気に商品を勧めるライブ配信者がいる。商品の特徴を繰り返し説明しながら、その合間に視聴者とのやりとりも忘れない。画面の隅にある小さな文字を見なければ、この配信者がデジタルヒューマンだと気付くのは難しいだろう。新華社が伝えた。
最近、「デジタルヒューマンによるライブコマース」が再び注目を集めており、多くの大手プラットフォームが次々とデジタルヒューマンの配信者を導入している。人工知能(AI)技術のサポートの下、低コストのデジタルヒューマンはEC業界の新たな競争分野になった。しかし、デジタルヒューマンによるライブコマースは、本当にブームを巻き起こすことができるのだろうか?
場所も事前のリハーサルも不要で、簡単な内容を入力すれば、すぐにライブ配信が始められる。低コストで配信者を「量産」する時代がすでにやって来ている。
調査会社の天眼査によると、2023年にはデジタルヒューマン・バーチャルヒューマン関連企業が99万3000社以上に達した。うち40万社以上は23年に設立された企業で、成長率は前年同期比42.3%に上る。
6月のショッピングイベント「618」期間中、多くのEC企業がデジタルヒューマンをプロモーション手段として活用した。京東のデータによると、同社のデジタルヒューマン「京東雲言犀」は5000を超えるブランドのライブ配信ルームに登場し、ライブ配信の累計時間が40万時間を超えた。視聴者は延べ1億人を超え、インタラクションの回数は500万回に達した。
市場調査会社の艾媒諮詢(iiMedia Research)のデータによると、23年に中国のデジタルヒューマンが牽引した関連産業の市場規模は3334億7000万元(1元=約20円)、コア市場規模は205億2000万元だったが、25年にはそれぞれ6402億7000万元と480億6000万元に達する見込みだ。
中国伝媒大学が発表した「2024中国バーチャルヒューマン・デジタルヒューマン影響力指数報告」によると、AI技術が幅広く応用されたことで、デジタルヒューマンの双方向コミュニケーションの能力、コンテンツ生成能力、スマート化レベルが大幅に向上した。同大学新聞学院の沈浩教授は「将来的にはデジタルヒューマンがAI技術を具象化した媒体になる可能性があり、より多くの分野で重要な役割を果たす可能性がある」と述べた。
天津霊境智遊科技有限公司の責任者である程洪志氏は「少なくとも数千元あれば、バーチャールキャラクターの全体的なデザインができる。これに一般的なライブ配信機材を合わせても1万元程度だ。デジタルヒューマンによるライブコマースはクリエイティブかつ革新的で、コストを抑えられるなどの優位性があり、中でも業者にとってはコストの安さが魅力となっている。人間の配信者のチームであれば育成費用やギャラが必要だが、デジタルヒューマンのライブコマースはパソコン1台と運営者1人のみで済むため、コストを大幅に引き下げることができる」と説明した。
デジタルヒューマンの優位性は明らかだが、実際にライブコマースに投入すると、なじまない部分があることも確かだ。デジタルヒューマンのライブコマースの画面では、「なんか変な感じがする」「配信者は生身の人間なのか」といったコメントがあふれ、多くの視聴者の心の声が目に見える形で現れている。視聴者の気持ちに寄り添うという人間の配信者の役割をデジタルヒューマンが代わって果たすのは難しいということだろう。
上海澄明則正(北京)弁護士事務所の劉慧磊弁護士は「従来のライブコマースと異なり、デジタルヒューマンが加わることで法的責任がどこに帰属するかが曖昧になる。製品の製造者や経営者と、AIデジタルヒューマンの運営者や技術提供者について、製品に対する責任の違いを法律で明確にし、責任の境界をはっきりさせることで、消費者の権利が効果的に保護され、技術の良好な発展を導くことができる」と述べた。
程氏は「ライブ配信プラットフォームに対し、消費者に向けた注意事項を目立つ場所に明示させ、デジタルヒューマンであるとの告知を義務付ける必要がある。また、ライブコマース運営者の資格審査を強化し、関係者のブラックリスト制度を構築することも重要だ」と提起した。