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幹細胞研究国家重大科学研究計画『12・5』特定計画

2012年5月 科学技術部

概要

 「幹細胞研究国家重大科学研究計画『12・5』特定計画」は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)をはじめとする肝細胞研究に中国が力を入れていることを強調する一方で、「欧米の科学技術先進国と比べて、独創的イノベーション能力と画期的成果においてまだ一定の差がある」現状も認めている。

  この研究計画では、「幹細胞の基礎・前臨床研究」の加速と、「幹細胞臨床治療の新技術開発と疾病治療レベルの向上」を図るための細かな目標が掲げられている。さらに「優秀な外国人科学者と優秀な在外華人学者を吸引」、「中国の研究者が国際協力に参加することを支援」など、国際協力の重要性もうたっている。


幹細胞研究国家重大科学研究計画「12・5」特定計画

一、情勢と需要

 幹細胞は自己複製能と多分化能を有する細胞集団として、多種類の細胞に分化し、生命体の各種複雑な組織と器官を形成することができる。幹細胞およびその分化製品は、人体の重要組織・器官の損傷の修復および心血管疾患、代謝性疾患、神経系疾患、血液疾患、自己免疫疾患など重要疾患の治療に新しい手段を提供する。幹細胞治療を中心とする再生医療は、薬物治療、外科治療に次ぐもう1種の疾患治療法となり、新しい医療革命の中核となるであろう。幹細胞と再生医療の研究における戦略的布陣を強化することは、わが国の国民健康システム構築にとって極めて重要である。

 幹細胞と再生医療研究はすでに各国政府、科学技術界、企業、大衆の高い関心を集めており、米国、日本などの先進国は、いずれも国家科学技術戦略計画の重要な開発分野に位置づけ、幹細胞発生調節、幹細胞整備技術、幹細胞臨床応用などの領域に重点を置いている。多くの国は幹細胞の研究開発へ投資を増やし続け、製薬企業も幹細胞と再生医療の研究・応用への投資を次第に拡大している。

 幹細胞の多能性を調節する分子ネットワークおよび多能性を維持する基本法則に対する理解を踏まえて、研究者たちは、胚性幹細胞の体外培養に適する条件を発見し、マウス、ラット、アカゲザルおよびヒトの胚性幹細胞株を確立してきた。米、英両国では、網膜黄斑変性症、脊髄損傷などを含む疾患に及ぶ1部の胚性幹細胞の臨床利用研究計画を承認した。

 わが国政府は幹細胞研究を極めて重視している。「11・5」期間中、973計画、863計画と発生・生殖研究国家重大科学研究計画は、幹細胞の基礎研究、コア技術と資源プラットフォーム整備を強力に支援し、幹細胞の研究および成果移転と応用において、次の一連の代表的な成果を挙げた。マウスの人工多能性幹細胞(iPS細胞)の発生全能性を世界で初めて検証したこと、体細胞リプログラミング開始の分子機構を最初に解明したこと、ラットとブタのiPS細胞を初めて作成したこと、iPS細胞の転換率を高める有効的な方法を発見したこと、幹細胞性の分子マーカーなどを同定したこと、一連の治療用幹細胞製品と組織工学製品を開発したこと、幹細胞自己複製の促進やiPS細胞誘導の改善および幹細胞分化効率の向上に貢献する小分子化合物の選別と研究に成功したこと、臨床応用により適合するヒト胚性幹細胞(ES細胞)系を作成したこと、ES細胞の自己複製を調節する新しい転写因子を発見したことである。幹細胞研究分野でのわが国の国際影響力は、著しく高まっている。

 ただし、欧米の科学技術先進国と比べて、わが国の幹細胞研究は、独創的イノベーション能力と画期的成果においてまだ一定の差がある。幹細胞と再生医療研究分野で解決が急がれる課題に対して、幹細胞の多能性維持とリプログラミングの分子機構、幹細胞と微小環境の相互作用、幹細胞分化誘導と分化転換、幹細胞の実用化応用研究とコア技術などの面でブレークスルーを図るための努力が必要であり、とりわけ将来の幹細胞の臨床と展開応用に用いられるコア技術への支援に重点を置かなければならない。

二、基本構想と発展目標

(一)基本構想

 幹細胞研究の深化と展開応用促進を全体目標にし、幹細胞研究資源を改善・統合し、優れたイノベーション能力を有するハイレベルの研究チームを養成し、幹細胞の基礎・前臨床研究を加速する。幹細胞の基本理論研究でブレークスルーを取得し、一連の臨床レベルの幹細胞製品と幹細胞を標的とする薬物を開発・普及し、幹細胞の臨床応用基準づくり、幹細胞臨床治療の新技術開発と疾病治療レベルの向上へ基礎理論上で支援を行う。

(二)発展目標

 幹細胞の多能性、分化誘導、リプログラミングの分子機構を研究し、重大疾患の幹細胞治療法を探求し、幹細胞性の獲得、維持と転換に関わる調節機構で重点的にブレークスルーを取得する。微小環境と幹細胞の相互作用法則を解明する。大型動物と非ヒト霊長類を特徴とした幹細胞の前臨床研究に用いる重要疾患モデルおよび関連の評価方法を研究する。心臓、肝臓、膵臓などの臓器の重大疾患に対して、大きな臨床需要がある人工臓器を開発する。幹細胞を用いた再生・修復治療のメカニズムを解明し、幹細胞応用領域のコア技術で重大なブレークスルーを取得する。倫理基準、規範に符合する幹細胞臨床治療評価システムの構築を推進する。

三、主要任務

(一)細胞リプログラミング研究

 体細胞核移植(SCNT)、iPS細胞、分化転換などの技術を利用して機能細胞を獲得し、発生生物学、幹細胞研究と再生医療分野で抱える肝心な技術難題に解答する。

 細胞リプログラミング過程の研究。SCNT、iPSなど多種のリプログラミング過程を比較し、細胞リプログラミング過程の精細マップを描く。リプログラミングに関与する各種シグナルの統一協調の作用方式を解明する。正確な数学モデルを作成し、細胞リプログラミングの動的過程をシミュレーションして分析する。

 細胞リプログラミング調節機構の研究。遺伝子発現、タンパク質発現、ノンコーディングRNA、DNAメチル化、ヒストン修飾など多数の重要な調節ポイントを研究する。これらの調節可能な段取りによってリプログラミングの効率を高め、次世代のリプログラミングツールを開発する。

 系譜のリプログラミングと細胞の型チェンジ研究。体細胞系譜のリプログラミング過程とその調節機構を研究する。細胞の型チェンジを通じて、機能を有し、そして治療に用いられる細胞もしくは組織を獲得する。転換・分化して得た組織と器官の安全性と有効性を評価する。

 リプログラミング技術を利用して疾患の細胞モデルを構築する。リプログラミング技術を利用して患者体細胞由来の多能性幹細胞を作り、疾患の体外モデルとする。遺伝子修飾およびリプログラミング技術など多種の方法を踏まえて、大型動物と非ヒト霊長類の疾患の細胞モデルを構築し、重要疾患の幹細胞治療と薬品開発研究へ応用する。

(二)幹細胞の自己複製と多能性維持のメカニズム研究および新しい種の多能性幹細胞の作成

 幹細胞の自己複製、多能性維持の分子ネットワークと調節機構を研究し、理論上でブレークスルーを取得し、新技術を用いて新型の多能性幹細胞株と新しい種の多能性幹細胞株を作成する。

 幹細胞の自己複製と多能性維持のメカニズム研究。分子生物学、生物化学、細胞生物学など多種のツールで幹細胞自己複製維持の条件を研究する。幹細胞特有のノンコーディングRNAを含む多種の分子マーカーを分離・同定し、幹細胞の自己複製に関係する特有のエピジェネティック状態を検査・測定する。幹細胞多能性評価の基準を制定する。各種の由来と発生能の異なる幹細胞の遺伝子とタンパク質の発現プロファイルを比較する。転写後修飾などによる幹細胞自己複製の調節手段を研究し、各生物種の特有の自己複製維持のチャンネルを探求し、進化過程における幹細胞の自己複製維持の進化ルートなどを比較する。

 新型の多能性幹細胞を確立する。mRNA、タンパク質もしくは小分子化合物誘導など各種のツールを利用して、新型の多能性幹細胞を作成する。リプログラミングもしくはその他の発生生物学ツールを使って、新しい生物種の中で安定的な多能性幹細胞株を作成する。材料科学、生体力学を結合して、新材料の開発、幹細胞の大量培養を行う。新型の培養システムを開発し、臨床治療や薬物開発などの需要を満たす幹細胞を安定的に培養する。

(三)幹細胞分化誘導とその調節機構研究

 幹細胞が特定の種類の細胞へ分化するための条件を研究し、胚性幹細胞、iPS細胞および成体幹細胞を細胞療法に使える機能細胞へ分化するように誘導する。材料科学と組織工学技術を結合して、機能的人工組織・器官を開発する。

 幹細胞分化誘導機構の研究。胚葉分化理論をもとに、幹細胞分化誘導の分子機構を研究する。発生生物学をもとに、幹細胞の体内外での分化過程を研究する。重要な調節エレメント、転写プログラム、エピジェネティックネットワークによる幹細胞分化調節のメカニズムを明らかにする。計算生物学、システム生物学などの方法を利用して、幹細胞分化誘導の数学モデルを構築する。小分子化合物、mRNAあるいはタンパク質を利用して、新型の分化誘導技術を開発し、幹細胞を機能細胞へ効率的に誘導する。

 幹細胞から組織・器官への分化誘導に関する研究。材料科学、物理学、化学などの技術を結合し、幹細胞を神経、網膜、胸腺、膵島など特定の機能を有する組織や器官へ分化誘導する。発生生物学、胚操作などを結合して、大型動物からヒトの重要な組織と器官を生成する。

(四)幹細胞と微小環境の相互作用研究

 幹細胞と微小環境の相互作用をめぐって、新しい幹細胞多能性を発見し、微細環境と幹細胞の増殖分化調節などの分子機構を探求する。

 成体幹細胞の分離・同定。成体幹細胞自己複製維持の分子機構を研究し、成体幹細胞を分離・培養し、安定した細胞株を作り、成体幹細胞の増殖と分化能力を包括的に測定し、体内外微小環境の幹細胞自己複製および分化能力に対する影響を比較する。

 幹細胞の微小環境研究。プロテオミクス、構造生物学などのツールを使って幹細胞微小環境の重要構成成分を分離・同定する。微小環境と幹細胞の相互作用、および幹細胞の自己複製と分化を調節する機構を研究する。

(五)幹細胞前臨床研究

 臨床レベルの幹細胞株作成と幹細胞バンク作成を基礎に、幹細胞を大規模に培養増殖かつ分化誘導し、特定の機能細胞を分離・同定・精製する。理想的疾患モデルを選定し、標準化した細胞移植、機能評価および催奇性や発がん性などのリスク評価を行う。

 臨床レベルの幹細胞作成と幹細胞バンク作成。幹細胞の基礎研究成果を利用し、生物製剤の関連規定と臨床応用の実需に応じ、統一的、規範的で明確な臨床レベルの幹細胞基準を作成する。基準に基づき、化学生物学、細胞生物学、材料科学などの技術を結合して、安全でクリーンな幹細胞培養方法を開発する。異なる方法、異なる由来の多様な臨床レベル幹細胞株を作成し、前臨床研究のために豊富な資源を提供する。幹細胞資源をより良く貯蔵、管理、利用と共有することをめざし、国家級の臨床幹細胞バンクを構築する。

 重要疾患動物モデルの作成。神経変性疾患、代謝性疾患、心血管疾患などヒトの重要疾患に対して、自然選択、薬物誘導、遺伝子改変などの既存の動物モデル作成方法を最適化し、新しい疾患動物モデルを作成し、大型動物と非ヒト霊長類動物の疾患モデルを重点的に開発する。生物種ごとに、動物モデルの標準化評価システムを構築する。

 幹細胞治療の安全性と有効性評価。細胞内トレーサー技術、分子イメージング技術および新しい臨床医療ツールを結合して、幹細胞移植後の細胞生存率、移植片と宿主の適合状況、機能改善状況、催奇性・発がん性のリスク評価などに関する体系的な観測指標を制定・改善する。このような技術と指標によって、幹細胞臨床治療について体系的に評価し、実行可能な幹細胞移植治療提案を立てる。

(六)植物細胞の全能性と器官発生研究

 ホルモン、温度、照明などの細胞の脱分化・再分化を調節するメカニズム、植物細胞全能性の遺伝・進化機構、細胞全能性・器官分化のホルモン調節、植物生長点の維持、再生・器官発生に関わる遺伝機構とエピジェネティック機構、植物無配偶生殖の機構、植物形質転換の新技術などを体系的に研究し、植物が単一の体細胞から完全な植物体に発生するメカニズムを研究し、体内受精卵から完全な個体への発生機構の解明を加速する

 植物幹細胞と発生。分子生物学、生化学、機能ゲノム学および体外培養技術、体内トレーサー技術を結合して、異なる種、異なる部位に存在する植物幹細胞を分離・同定する。植物器官形成と発生過程における幹細胞の機能と役割を果たすコア遺伝子を解明する。器官形成における幹細胞の精密分化マップと調節機構を明らかにする。

 植物幹細胞の維持・分化調節機構。エピジェネティクス、ゲノム学およびバイオインフォマティクスなどの手法を利用して、植物幹細胞の維持・分化における環境因子、ホルモンと遺伝因子の統一協調関係を体系的に研究し、新しい調節遺伝子とエピジェネティック調節方法を発掘する。

 植物細胞の脱分化・再分化調節機構。植物細胞特有の脱分化・再分化というストレスモードをモデルにして、体細胞の脱分化・再分化における分子調節ネットワークに関する研究を行い、環境因子と遺伝物質の相互作用関係を解明し、植物のカルス、抵抗性などのストレス現象の調節機構を深く探求する。

四、保障措置

(一)トップダウン設計を強化し、特定研究計画を徹底的に実施する

 幹細胞研究重大科学研究計画を引き続き実施し、トップダウン設計と統一協調を強化し、「国家幹細胞研究指導協調委員会」の役割を十分に発揮させ、わが国の幹細胞基礎・応用研究事業を調整し、国の重大な戦略需要と世界の科学最先端に向かって、重大科学目標の指向力を強化し、プロジェクト首席科学者責任制とイノベーション奨励の評価メカニズムを改善し、体系的で独創的な重大成果の創出を促進する。

(二)基地建設を強化し、プロジェクト・基地・人材の結合を促進する

 幹細胞研究基地の建設を引き続き強化し、国家重点実験室など基地に依拠する科学研究プラットフォームの役割を十分に発揮し、プロジェクト・基地・人材の緊密な結合を促進する。科学技術資源の開放・共有メカニズムを強化し、科学技術資源の合理的配置と効率的利用を促進する。研究機構と臨床機関との提携を奨励し、幹細胞臨床研究基地と臨床実用化基地の建設に力を入れる。試験実施拠点を設立し、幹細胞展開研究と規範的利用を推進する。

(三)イノベーション人材の養成と誘致を強化する

 各種のハイレベル人材計画を十分に利用して、一群の国際的視野を持って幹細胞科学技術開発をリードできるハイレベルのリーダー人材を育成し、体制・メカニズムを刷新し、政策環境の最適化をはかり、保障措置を強化し、海外から優秀人材の誘致に力を入れ、世界一流レベルの幹細胞と再生医療研究チームを作り上げる。

(四)国際協力と科学普及を強化する

 優秀な外国人科学者と優秀な在外華人学者を吸引して、多様な形で幹細胞研究重大科学研究計画の実施に参加させ、わが国の研究者が国際協力に参加することと国際機関で任官することを支援し、国際協力計画の提案を奨励する。科学普及を重視し、科学精神を発揚し、科学普及事業を重大科学研究計画実施の目的と任務の一つに位置付け、全国民の科学リテラシーの向上を促進する。


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