「嫦娥1号」における衛星技術の成果と宇宙探査の展望
「嫦娥1号」における衛星技術の成果と宇宙探査の展望
(衛星「嫦娥1号」総設計師)
人類の宇宙飛行活動は一般的に人工衛星、有人宇宙飛行および宇宙探査の3大分野に分けられる。宇宙探査は一般的に地球から月までの距離と同じか、より離れた宇宙で展開される宇宙飛行活動を指す。
最初の人工衛星「東方紅1号」が打ち上げられ、「神舟5号」が初めて有人宇宙飛行をしてから、2007年に「嫦娥1号」月探査衛星が月周回探査を順調に実現するに至って、我が国中国は既に宇宙飛行の3大分野における進展を成し遂げている。
1.衛星「嫦娥1号」の研究開発と打ち上げのプロセス
(1)研究開発プロセス
衛星「嫦娥1号」の研究開発は月探査第1期プロジェクトの核心部分であった。衛星「嫦娥1号」プロジェクトは、2004年2月に国務院から正式な回答を 得て立ち上がった。2004年4月、空間技術研究院(宇宙技術研究院)は正式なプロジェクト発足の承認を得、作業を始動した。2003年から2004年4 月までは、基本設計段階であった。2004年5月から2005年11月までは、初期モデル設計段階であった。2005年12月から2007年1月までは、 正式モデルの研究開発段階であった。もとは2007年4月に打ち上げる予定であったが、後に打ち上げ日時を調整し、2007年10月24日に打ち上げた。 2007年11月7日に、「嫦娥1号」は月の周回軌道に入り、大量の科学探査データを回収した。正式なプロジェクト発足から研究開発の全てのプロセスに費 やしたのは、わずか33カ月であった。独自のイノベーションによって得た技術を多く採用した斬新な宇宙飛行機器として、「嫦娥1号」が最初の飛行に成功し たばかりでなく、このような短時間に研究開発を成し遂げたのは宇宙飛行機器の研究開発史上では稀なことであった。
(2)打ち上げ記録
2007年10月24日、最初に選定したランチ・ウィンドウ(打ち上げ可能時間帯)の初日、ウィンドウが開くと同時に打ち上げられ、正確に軌道に乗っ た。2007年10月31日、3度目の近地点での軌道変更も成功し、地球・月遷移軌道に入った。2007年11月2日、地球・月遷移軌道の途中で修正を 行ったが、もともと3度修正する予定であったものを1度に改めた。2007年11月5日、順調に月周回軌道に入り、2007年11月7日、作業軌道に入っ た。2007年11月20日、有効負荷システムを起動した。
2007年11月26日、温家宝首相が「嫦娥1号」衛星の最初の月面画像公開セレモニーを主宰した。2007年12月12日、胡錦濤総書記が初の月探査プロジェクト成功祝賀大会を主宰した。
2.「嫦娥1号」の概要
月周回探査プロジェクトの科学的目標は月面の立体画像を採取することと月面における有用元素の含有量と物質類型ごとの分布の特徴を分析することであった。
「嫦娥1号」プロジェクト目標は、地球から月に行き、月周回探査を行うことであった。よって、月周回探査のために重要な技術面での進展、月探査衛星の研究開発および打ち上げ、月周回探査宇宙飛行プロジェクトシステムの確立が不可欠だった。
「嫦娥1号」は中国の長年にわたる衛星開発経験を十分に活かすと同時に独自のイノベーションを十分に強調し、多くの新技術を大胆に採用することで、月周回 探査という目標の実現を保証した。「嫦娥1号」には9つのサブシステムが含まれるが、それはサービスシステムと有効負荷システムの2つの部分に分けること ができる。サービスシステムには、構造、熱制御、誘導ナビゲーションとコントロール(GNC)、推進システム、電力供給システム、データ管理システム、観 測コントロールデータ伝送システム、指向性アンテナシステムが含まれる。一方、有効負荷システムには5種、8台の科学探査器械および1セットの有効負荷 データ管理システムが含まれる。この他、プロジェクトの研究開発の需要から、総体サブシステムと総合テストサブシステムも設置されており、衛星の研究開発 作業には合計11のサブシステムがある。
3.海外の同種月探査機器の水準との比較
1958年8月17日、アメリカが人類の歴史上初めての月探査機「パイオニア号」を打ち上げ、それから半世紀近くの間に海外では合計100余りの 月探査機が打ち上げられた。アメリカとソ連の最初の何回かの月探査計画はいずれも失敗に終わり、日本の最初の月探査計画では予定の軌道衛星を切り離すミッ ションを成し遂げられなかった。「嫦娥1号」は中国初の月探査計画であるが、見事ミッションを成功させている。
2000年以降に打ち上げられた月周回探査機器、あるいは各国が打ち上げを予定している月周回探査機器と比較すると、科学的目標と作業軌道は基本的に同じ だが、それぞれに特色がある。「嫦娥1号」の発射重量とドライ重量の比率、負荷とドライ重量の比率、エネルギーシステムと作業寿命などの指標はすべて同種 の国際水準に達している。さらに、「嫦娥1号」の誘導、ナビゲーションとコントロール能力および精度、深宇宙大アンテナの支持がない状態での遠隔観測コン トロールの精度、熱制御などの水準は、国際的にみても先進的な位置にある。
「嫦娥1号」は完全に独自の技術に依拠しており、中国独自の研究開発によって完成したものである。「嫦娥1号」の研究開発は、成熟した技術を十分に継承し ながらも大胆なイノベーションを繰り返し行い、課題を重点的に克服すると同時にシステム設計の合理化を進め、イノベーションを集積することによってはじめ て、このように早期に大きな成功をおさめることができたのである。全体的な作業構想および実践が独自のイノベーション精神を十分に体現している。中国初の 月周回探査機として、その技術水準は世界の先進的な同種月探査機の列に連なるのに十分である。
4.「嫦娥1号」衛星におけるイノベーション
「嫦娥1号」衛星におけるイノベーションは12の面に概括することができる。すなわち、総体的な合理化設計、軌道設計、誘導ナビゲーションとコントロー ル、熱制御設計、遠隔観測コントロール通信、広角機械走査指向性アンテナ、衛星全体の自主管理、有効負荷システム、電力供給システム、推進システム、構造 設計、総合テスト設計などである。目下、衛星全体と各サブシステムのイノベーションは初期の統計で合計44項目である。2007年末までに、「嫦娥1号」 および各サブシステムで既に申請を受理された特許は合計で20件あり、37件は現在申請中で、今後もより多くの特許項目を整理・申告する予定である。
地球周回衛星とは異なり、「嫦娥1号」では軌道設計、推進システムの設計、誘導と制御の設計、熱制御の設計、月食問題、電源システムの設計、観測コント ロール問題、有効負荷の研究開発、データのインバースプロブレム、地上検証など多くの新たな問題を何としても解決しなければならなかった。
この他、中国は海外に観測コントロールステーションを持っていないため、多体運動関係によって決定される飛行プロセスで「嫦娥1号」はある特定の時間帯に 観測コントロールからは不可視のアーク上にある。衛星の安全を確保するために、衛星および各サブシステムにはより高い知能と優れた自律性が必要であった。 飛行ミッションを成功させるために、これまでの地球周回衛星と比べて、衛星全体およびサブシステムの機能を強化し、性能を格段に向上させなければならな かった。このために「嫦娥1号」の研究開発チームは多くの努力をし、その努力によって知的所有権のある一連の新技術を獲得した。これらの関連技術における 進展は今後の宇宙探査のための素晴らしい基礎を打ち立てている。
5.今後の発展についての展望
「嫦娥1号」には1機の予備衛星があり、現在改良を進めているが、それによって軌道を修正し、有効負荷システムの水準をさらに高め、第2期プロ ジェクトのための関連技術の実験を展開し、よりよい効果を発揮させるべく取り組んでいる。第2期プロジェクトでは「着陸探査機および巡視探査機」を打ち上 げ、月面に対して高精度の探査を行う予定である。第3期プロジェクトでは「帰還(回収)」という目標を実現する予定である。すなわち、月のサンプルを採集 して地球への持ち帰りを実現することである。関連部門は現在火星・小惑星探査を含めた宇宙探査の将来の発展計画を研究しているところである。
衛星「嫦娥1号」は我が国の宇宙開発事業における第3の一里塚であり、未来の宇宙探査事業の出発点でもある。我々は将来直面するであろう各種の技術上の困難を克服する自信も能力もあり、中国としての特色ある宇宙探査の道を歩んでいくであろう。