【16-33】増加続く中国の知財訴訟件数 日中韓特許庁シンポジウム開催

2016年12月27日  小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

 日中韓3カ国で知的財産制度の運用を担う行政官と研究者が3カ国共通の課題について意見を交わす日中韓特許庁シンポジウムが12月9日、小田原市のホテルで開かれた。

 日本、中国、韓国は、知的財産基本法施行(日本、2003年)、国家知的財産権戦略要綱発表(中国、2008年)、知識財産基本法施行(韓国、2011年)など、3カ国それぞれ近年、知財戦略を強化している。シンポジウムでは、特に、特許申請件数や知財訴訟件数などの増加や、知財専門家の増員などから明確にみてとれる中国の変化の激しさが、浮き彫りになった。

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日中韓特許庁シンポジウム

 馬文霞 中国国家知識産権局専利復審委員会行政訴訟処長によると、中国では専利復審委員会が拒絶査定不服審判や特許無効審判を担う。この決定を不服とする出願者や当事者は北京市の場合、北京知識産権法院に提訴できる。北京知識産権法院というのは、全人代常務委員会の決定を受けて最高人民法院(日本の最高裁判所に相当)が2014年11月、初の知的財産権専門の裁判所として設立した。裁判所としては、中級人民法院と同格で、日本の地方裁判所に相当する。

 同じ年の12月に広州知識産権法院と上海知識産権法院も設立された。北京知識産権法院が北京市を管轄としているように、広州知識産権法院は広東省、上海知識産権法院は上海市を管轄区域としている。北京市、広東省、上海市以外の区域は従来通り、人民法院が担当している。

 これら一審に相当する裁判所の決定にもし不服があれば、高級人民法院に上訴する道(二審)がある。馬処長は、一審、二審合わせた中国の知財訴訟件数は毎年10%以上増え続けており、2015年には、刑事、行政、民事訴訟を合わせると提訴件数で14万9,238件、結審件数で14万2,077件に上る、という数字を示した。この中で最も多いのは民事訴訟。全体の提訴件数中、83.76%を占め、前年に比べ14.5%増と伸び率も最も大きい。

 馬処長によると、民事訴訟の一審新規提訴件数で最も多いのは著作権関係で、約60%を占める。続いて多いのは商標登録関係で約22%、次いで特許関係約10%、不正競争約2%となっている。行政訴訟の一審新規提訴件数は、トップが商標登録関係で約53%、次いで外国関連の約31%、特許関係の約12%と続く。一方、刑事訴訟の一審新規提訴件数は、地的財産権侵害罪がトップで、約48%を占める(件数では4,913件)。次いで模倣品・粗悪品の製造販売の約36%(同3,925件)、違法事業活動の約18%(1,923件)という順だ。

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馬文霞 中国国家知識産権局専利復審委員会行政訴訟処長

 民事訴訟の多さから容易に想像できるように、特許出願数の伸びも顕著だ。シンポジウム主催者の1人としてあいさつした申長雨 中国国家知識産権局長は、2015年に受理した特許申請が110万2,000件で前年に比べ18.7%増となったことを紹介した。国家知識産権局の職員1万4,000人、うち審査官1万1,000人で対応しているという。受理件数の増加に対して、審査の質向上と期間短縮が求められているとともに、審査官の能力向上のため人材育成が急がれている現実も認めた。

 申局長はまた、特許を担保に600億元を超える融資が実現し、2万以上の中小企業の資金需要を満たしている現状も紹介し、知財活用面での進展についても強調している。

 短期間で中国が知財保護・活用の実績を上げていることは、日本側登壇者にも強い印象を与えた。基調講演に加え、パネルディスカッションの司会も務めた高林龍 早稲田大学法学部教授は、「日本が約30万件であるのに対し、100万を超える特許申請がある中国はどのようにして厳格な審査を可能にしているのか」と驚きを隠さなかった。

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高林龍 早稲田大学法学部教授

 日本は、2002年に知的財産戦略大綱を策定し、翌03年に知的財産基本法を施行、05年に知的財産高等裁判所を設立という形で、知財の保護と活用を推進してきた。韓国は1998年に特許法院を設立している。特許、実用新案、商標、意匠など産業財産権に関する審決取消訴訟を扱うアジアで初めての専門法院だった。2016年からは侵害訴訟も扱うようになった。

 これに対し、中国の取り組みは遅れ、国家知的財産権戦略要綱が発表されたのが2008年。知財を専門とする裁判所である知識産権法院の設立は2014年だ。しかし、対応の速さはめざましい。高林氏は、特に司法分野の取り組み強化を指摘している。「中国の特許侵害訴訟件数は、日本と比べ驚くほど多い。さらに知財専門裁判官の数の多さが目を引く。日本の知的財産高等裁判所は、裁判官が16人であるのに対し、中国は北京知識産権法院だけで42人の知財専門裁判官がいる」と、人材育成の観点から見ただけでも、中国が知財の保護・活用を強化している現状に注意を促した。

 高林氏は、日中韓3カ国の特許出願件数の合計が、世界全体の約57%に上ることなどを挙げ、人材育成に加え、審査・審判のやり方、機械化への対応などの面で、3カ国が協力を進める意義を強調していた。

 このシンポジウムは、12月7,8日同じ会場で開かれた日中、日韓、日中韓特許庁長官会合に併せて開かれた。3カ国の協力を強化する狙いから日中韓特許庁長官会合では、特許無効審判制度に関する比較研究結果を承認し、公表することで合意した。また、日中特許庁長官会合では、意匠の国際登録に関するハーグ協定加入を目指す中国国家知識産権局に対し、特許庁が経験を共有し、一層の協力をするほか、知的財産に関わる人材育成機関同士の協力体制を拡充することでも合意している。


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