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【16-001】毒舌(ドゥショウ)、娘娘腔(ニヤンニャンチャン):LGBTに対する社会認識の変化について―ことばから見る中国社会

2016年 4月19日

河崎みゆき

河崎みゆき:上海交通大学日本語学科常勤講師
國學院大學文学部大学院修士
華中科技大学中文系応用言語学博士学位取得

略歴

1989年、千葉県社会福祉協議会中国帰国者センターで日本語を教える。2005年2月より華中科技大学日本語学科で8年半日本語を教え、現在、上海交通大学日本語学科常勤講師。専門は日本語教育および中国社会言語学。日本語ジェンダー学会評議員

 マイナス6度にも下がったと言われる上海にも花咲き、鳥は鳴く温かな春がやってきた。 今回のテーマは、「毒舌」と言うことばや、中国のLGBT(性的少数者)に対する昨今の社会認識の変化について、話題なっている人物を取り上げながら考察したい。

毒舌(ドゥショウ)

 近年、「毒舌」ということばが、日本と同じような意味で使われるようになった。「毒舌電影(辛口映画批評)」や「毒舌奶奶(毒舌ばあさん)」のようにだ。私は、これは日本語由来であろうと睨んでいたところ、最近になって、中国版ウィキペディア「百度百科」にも解説が現れ、1934年にドナルドダックに使われたが、1996年に「名探偵コナン」の中で使用された日本語由来の言葉であると説明がされている[1]。中国語にはもともと「赤口毒舌」の成語もあるが、日本語の毒舌にあたることばは、「心口直爽(はっきりものを言う)」とか「刀子嘴豆腐心(ナイフのようなものいい、豆腐のようなやさしい心)」などの表現があり、毒舌という言葉を単独で使うことはなかったからだ。中国人の言語研究者にも聞いたが、やはりここ2年ぐらいから使用が聞かれるようになったと言っていた。

 この「毒舌」の代表的人物として、金星氏の存在は大きいだろう。例えば北京テレビの番組でも「金星さんといえば、毒舌を連想する人が多いのではないでしょうか」と女性司会者が紹介している。[2]

写真

写真1 テレビで審査員をつとめる「金星」氏

 金星(姓が金、名前が星)氏は2014年に人気を博したダンスコンテスト番組「中国好舞踏」における3名の審査員の1人として、辛口かつ暖かいコメントで人気を博した。それ以前からも数々の番組に出演、私も名前は知っていたが、こうした番組で審査員として、専門的で的確なコメント、そして厳しい中に温かさや、真実を感じさせる人柄に、テレビの前の中年女性から絶大な支持を得て人気が出たと言われている。

 「媽媽咪呀(ママミーヤ)」という既婚女性(ママ)が歌などの自分の才能を披露する勝ち抜き番組でも審査員をし、昨年は、「金星秀(チンシンショー)」というトーク番組も始まり語りのうまさの認知度はいよいよ増している。

 彼女は、実は1995年に性別適合手術をした元男性(現女性)で、女性との結婚歴もある。現在ドイツ人の夫と、養子縁組で得た3人の子どものお母さんでもある。1967年に中国東北・瀋陽に生まれ、今年で49才だ。中国内外でも有名な舞踏家で、欧米に国費留学生として学び、現在上海に「上海金星現代舞踏団」という中国唯一の民間舞踊団を抱える。2006年英国の大学から名誉博士号も授与されている。[4]

 彼女の辛口コメントに真実と、優しさを感じるのは、苦労した人ならではの人生の深みと、卓越した踊り手、教師としての知識や技能に裏打ちされているからだろう。

 トーク番組「金星秀」では、スターとの対談や、独特の切り口で本人の体験も交えた世相を切るコーナーや微博(中国ツイッター)で集めた読者の悩みに快刀乱麻のように回答していくコーナーの小気味よさが人気を博している。「ママミーヤ」では、毒舌の面は控えられ、既婚女性たちの夢を応援し、その美貌や優雅な身のこなしも含め、美輪明宏氏的役割を果たしていると言える。ここでは、とくに金星氏の人生の軌跡や、ラベル付けをするつもりではなく、「金星現象」に、やはり中国社会の一つの変化を感じるということを指摘したいだけだ。

 日本においても美輪氏やオネエキャラの芸能人のテレビなどでの歯に衣着せぬ物言いが人気を得ることによってLGBTの方たちへの関心、理解を深めてきたといえるのではないだろうか。

 「一个符号和她背后的社会变迁(一つの記号と彼女の背景にある社会的変遷)」[3]と言う文章では、金星氏が手術をした1990年代では、性別適合手術が一般的ではなく、世間の人を大いに驚かす出来事であったことが書かれている。

 おそらく氏が長い差別的な視線や言論と戦ってこられたことは間違いないだろう。数日前に微信(中国LINE)でみたタイの性別適合手術者に関する一般の人のコメントでも、金星氏を「人妖(レンヤオ)=化け物、変態」と呼んでいる者を見かけた。手術当初の好奇や軽蔑の入り混じった世間の噂がいかなるものであったか想像に難くない。

 それでも、氏が毅然として番組にでてこられるのは、個人の尊厳と、率いる現代舞踊団の維持のためである。

娘娘腔(ニヤンニャンチャン)

 さて、筆者がこのようにオネエ現象に注目してきたのは、自身の博論のテーマである「中国語の役割語」の一部として中国の女性ことば[5]や「娘娘腔(ニヤンニヤンチャン:オネエことば)」にも注目したためである。(中国のオネエことば研究について、ご興味のある方は、拙論の概要をご覧いただきたい。女性ことばを利用しながら、歴史的には、男性の女装などの伝統、宮刑(去勢手術)を受けた宦官たちのイメージと結びついていること、古典劇の「反串」と呼ばれる女形の現象、最近の映画やドラマに現れるオネエことばや現象につてなどについて指摘している。また、娘娘腔(ニヤンニャンチャン)は、ことばだけでなく、「オネエ的な人そのもの」をもさすことばである。[6]

 また、筆者が2005年から中国の大学で日本語を教え始めて以来、メディアでの同性愛者のカミングアウトを見てきており、2010年に日本語の教科書として、学生たちと検討し、導入した教科書に、ディスカッションの一つのテーマとして「同性愛」というテーマがあり、授業を通しても学生たちの考えもこの5〜6年で変化してきたことを見ているからである。

同性愛者への理解

 中国の同性愛者数の統計は、2004年以来オフィシャルに公表されたデータはなく、それもエイズ罹患者と絡めた記事で男性同性愛者数は500万から1000万人ほどであろうと言われている[7] 。また、インターネット動画サイトにアップされている「五分でわかる中国同性愛」という短いビデオ[8]では、おそらく2800万人であろうと指摘している。この動画の製作者はM小陽となっているが、最後の画面に「同性愛者はみなさんの理解を求めている」というアピールが流れ、公共広告性が高く、内容も客観的にわかりやすく要領を得た編集がなされているところからみれば、支持組織が啓発的に作成したのではないかと考えられる。

 このビデオによれば、中国全土に約2800万人の同性愛者たちがいて、さまざまな職業に就き、その男女それぞれ偽装婚や親のプレッシャーから出産をしている人たちもいるという。また、インターネットの時代、男性同性愛者用のアプリ「接客帝(jack'd)」があり、交流サイト「飛賛」などがあることを紹介している。

 さて次に、ここ数年の学生たちの反応についてだが、2010年当初は、教科書本文に、同性愛を「WHOでは、異常、倒錯、変態とはみなさず、治療の対象から外しています」とあるにもかかわらず、各グループで議論したものを発表してもらうなかで、「彼らは異常な人たちだから」というような発言があったり、「きれいな男性同士ならまだ受け入れられるが、それ以外は嫌だ」などと言った声が女子学生から出て、それはどういうことかと驚いた。が、よく聞いてみると主に日本のボーイズラブ漫画やドラマ、ハンサムな男性同士の恋愛ストーリーなどをみたからだということだった。2011年ぐらいの前任校での受容はそうしたレベルであった。それが、だんだんと自分は嫌であるけれども、理性的には受け入れられるし、授業が終わって就寝するまで自習室と呼ばれる、自習のために解放された教室へ勉強に行くと、キスをしている女子学生同士や、男子学生同士を見たことがあると、驚きながらもそれなりに受け止めている様子がみられるようになった。2013年に上海に移ってからは、明らかに時代も、都会という場所も経済力に伴う個人の自由量の増大も関係してか、少なくとも表面上、異常であるという認識を持つ人は殆どいないようになった。

パリお嬢さん

 香港フェニックステレビの番組「冷暖人生」2014年12月に取り上げられた老パリこと寧国風さんの人生を紹介したい。彼は、今年77歳、若いころ北京の優秀教師にも選ばれた中学校教師であったが、性的指向が同性であり、初めての男性がフランス大使館のコックであったため、当時北京の東単公園などにあった同性愛者のたまり場では「パリお嬢さん」と呼ばれ、人気者だったそうである。自分自身、母親には反対され、傷跡が今でも残るほど殴られ、「流氓罪(不良罪)」で三度牢獄に入れられ、仲間たちも自殺に追いやられたのだと語る。1997年になって新刑法が「流氓罪」を取り消し、同性愛は最早、罪ではなくなり、続いて2001年には精神疾患であることも否定され、「同志」という呼び方が、社会の上で、同性愛者を指す言葉として定着している。

 優秀な教師であったが、三度の投獄で職も失い年老いた「老パリ」は北京の地図を売り、生活保護をもらって四合院の片隅で生きている。

 当時を振り返り、「厳寒の時代だった。それを思えば、いまは春が訪れるのも近いと思う」と番組の終わりの方で語っている。

 実生活では、LGBTの方たちのカミングアウトはまだまだ楽ではなく、同性婚もまだ認められていないが、毒舌「金星」氏の活躍に、一時代前の人たちの厳寒の苦労にくらべ、春風が吹く時代になってきたと言えるのではないだろうか。


1. 毒舌@百科 http://baike.baidu.com/link?url=RnKDIz_tRKQRVxQzYnw7WfnzuKyxi2X3D9SILZ5USxDWxqfmy5VG9He2caNh__LTjjl2Kiwna7fa_jTsRyn3Fq

2. 「金星毒舌功力高强(金星毒舌のおかげ」2015-03-06 20:45, 北京テレビ http://v.qq.com/page/n/p/8/n0016axh1p8.html

3. 「金星,一个符号和她背后的社会变迁(金星、一つの記号と彼女の背後にある社会の変遷)」2016-03-05 王恺 http://cul.qq.com/a/20160305/027640.htm

4. 金星 http://baike.baidu.com/subview/3059/6528410.htm

5. 「中国の若い女性のことばを探る―中国男女口癖調査を中心に」学会誌(日本語とジェンダー)11号 http://www.gender.jp/journal/no11/09_kawasaki.html

6. 「中国語のオネエ言葉をめぐる現象と特質 」河崎みゆき 第14回日本語ジェンダー学会 www.gender.jp/journal/no14/05kawasaki.html

7. 「官方首次公布同性恋数据(初めての同性愛者数正式発表)」泉州晩報2004.12.7 http://msyy.qzwb.com/msyy/gb/content/2004-12/07/content_1455568.htm

8. 「5分钟让你了解中国同性恋 这也太直白了吧(5分でわかる中国同性愛)」http://www.iqiyi.com/v_19rrifvqpz.html

9. 「老“同志”的一生(老「同性愛者」の一生」フェニックステレビ『冷暖人生』2014-12-02放送 http://v.ifeng.com/news/society/201412/01ca8194-1dc5-4f67-8256-2d2e24b44afc.shtml#v_360zl#vfrm=2-3-0-1

10. 金星氏のモダンダンス「家」http://www.iqiyi.com/v_19rrh83sp4.html


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