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【14-001】影の銀行問題を考える(その5)

2014年 1月 6日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

その4よりつづき

影の銀行問題には、日本の中国情報の問題も潜む

 影の銀行には、実体経済補完の役割があると述べた。融資平台(プラットホーム)債務(以下、平台債務)も地方の就業率の圧力の産物である。だが日本ではリスクのみが語られることが多い。影の銀行問題には、日本の中国情報の問題も潜むが、それは稿を改めて述べたい。

 影の銀行は、一般参加者も参加して構成されている。その多くは普通の経済活動を営む人、企業でもある。銀行理財のように、正規業務が形を変えただけの要素もある。

 中国の金融事情は日本とは異なる。前に影の銀行を整理して述べたが、その中に典当というものがある。日本でいう質屋であり、中国には6800社の典当があるが、中国ではその利用者の70%が中小企業となっている。中国の影の銀行を読むには、金融事情の違いを考えることが大切だと思う。

 とは言うものの、影の銀行の中で、何が起きているかがわかりにくいのも事実である。しかも規模が巨大である。人民銀行の計算では、規模は28.8兆元だ。中を覗けば、胡散臭い動きも見える。理財裁判や基金破綻の噂も飛び交う。鬼城(ゴーストタウン)の映像も衝撃的に放映される。幽霊建物だから説得力があり、バブル破綻を連想させる。

 住む人もまばらな鬼城は財政のムダ、地方負債増大の原因の一つだが、実は幽霊建物には、騒がれる程の大きな損失はない面もある。コンクリートだけで中は空洞の建物も多い。内装も消防工事も電気工事もなく、逆に土地価格が上がり、含み益が出て銀行が担保物件を手放さない幽霊建物もあることは既に述べた。それらを考えずに鬼城をクローズアップすれば、影の銀行問題はより大きくなるだけである。

影の銀行問題の核心は融資平台債務、だがリスクの取り上げられ方が短絡的

 テレビで鬼城の映像を見て、日本では「中国もいよいよ問題ですね、バブル崩壊ですね、終わりですね」と、にんまりしながら話す人もいる。

 2013年6月末の中国の銀行総資産残高は144.25兆元。半年の銀行純利益は7531億元である。これに対し、6月末の商業銀行不良貸付残高は5395億元、不良貸付率は0.96%である。しかし、多くの人はそれを素直には受け止めない。中国の統計は怪しい、不良債権を隠していると考えるからだ。確かに、隠れた不良債権も多いと思う。理財や信託資金が融資平台にいくら回っているかも調査途上だ。準融資平台債務の拡がりもわかりにくい。しかし、不良債権が公表の2倍でも、銀行の貸倒れ損失準備金の範囲内である。

 一方、影の銀行は全体がシステム的に、証券化で動いているのではなく、個別的で、問題は限定的でもある。問題が起きても天価(最も高い値)を狙ったお金持ちが嘆き、理財投資で少し高い利息を期待した企業や個人が頭を冷やし、そのお金が銀行預金に戻るだけである。

 表向きは、銀行は理財の保証をしていないが、実際には保証の理財も多い。動揺が中小企業金融に影響を与えるが、国の制度整備も幾分かは進むし、より多くの利益を稼げる影の銀行への資金流入は、大きくは落ち込まない。元来、中小企業にとって、表の資金調達が難しい国なので、企業も社会もそれに慣れている。

 影の銀行リスクで残るのは、平台債務である。それが不良化すれば、不良貸付率は0.96%どころではない。償還不能の理財や信託が拡大すれば、一気に不安は拡がる。

 影の銀行の多くの論述も、平台債務のデフォルトを論の核心に据える。しかし、リスクの捉え方が短絡的だ。「デフォルト前後」の記述があいまいで、強引に鬼城を金融不安、世界への危機の連鎖に結び付けているようにも思える。「デフォルト前」とは、デフォルトが有るのか、それを回避する手段が有るかであり、それに対し「デフォルト後」とは、デフォルトの可能性が高い場合、国がどう対処し、その力が備わっているかである。その二つを語らずに、「もしデフォルトすれば」というだけで危機に導かれているのが、影の銀行リスクである。

平台債務は地方政府責任債務でもある

 地方債務のリスクを読むには、以下の3点を考えることが重要である。

1) 平台債務の資金が何に使われ、それに地方政府がどう絡んでいるのか
2) 中国の土地価格の上昇と地方政府の土地財政がいつまで続くのか
3) 地方債務に国が責任を持つのか、責任を持つ場合、返済財源は何なのか

の3点である。

 先ず平台債務と地方政府の関係である。平台債務の全容解明は困難である。債務の申告も進みにくい。理由は、規律違反と不正関与で、申告すれば地方幹部に責任が及ぶからである。だが、申告しなければ国の責任から除外される。地方政府にはそのジレンマもある。

 本来、国債や地方債で賄う債務が平台債務だが、債務拡大の背景には、先に述べたことと、事業会社、投資会社としての地方政府の存在がある。筆者が懇意にする経済技術開発区政府は、中央企業が行うロシア森林資源開発に投資し、役人がロシアに出張している。

 中国は産官の境目がおぼろげである。政府が事業を経営すれば債務も拡大する。今年の十八届三中全会で行政改革が話題になったが、政府事業は大きな政府の原因でもある。政府が事業を行えば、民間の参入は制限され、制限のために許可項目が増え、役人の数も減らない。筆者もいつも体験するが、地方政府の末端では、ばからしくなる申請や許可、わけのわからない、乱れた費用徴収が多すぎる。

 政府は認めていないが、2013年6月末の地方債務残高は推定20~25兆元とも見られる。銀監会などの調査データから、その内訳は、銀行の平台貸付が9.7兆元、財政部による債券代理発行が0.89兆元、城投債発行残高が1.4兆元、信託資金導入が2.2兆元、準融資平台を含めたBTや延払工事等のその他債務が残りであるが、これはまだ明確ではない。

図1

 債券の財政部代理発行は僅かなので、地方債務額と平台債務額はほぼ同じである。国家審計署の報告では、2009年末の平台債務は11.42兆元なので、調査進展と新規増で債務が一気に拡大した。地方債務が25兆元の場合、2012年のGDPの48.2%である。

 2011年6月の国家審計報告では、2010年末の全国の省、市、県の3級地方政府の債務残高のうち、政府保証の債務割合が62%、政府担保提供の債務割合が22%、政府が責任に関与する債務が16%なので、つまり平台債務は地方政府責任債務でもある。

 ただし、その中には規則違反、腐敗、偽抵当などの犯罪が絡む債務もあり、本来の目的に使用されず流出した資金もあり、平台債務の100%が政府の責任でもない。

土地財政が続き、土地価格も上昇を続ける

 地方債務の調査が進み、地方の土地財政の実態が明らかになった。2012年の4省と17省都の調査では、土地収入で返済約束の債務比率は55%であった。土地(使用権)譲渡収入は、2000年には地方政府予算収入の9%であったが、2011年は63%、2012年は47%で、土地に依存する土地財政でもある。土地使用権料は言葉を変えれば土地税である。税金と同じで土地価格を維持し、税収を維持、増大させたい心理も働き土地価格の上昇を助ける。

図2

 地方債務リスクとは、土地で債務返済が可能か、土地価格の上昇が続くかでもあり、土地財政が続けばデフォルトは無いが、その雲行きは怪しい。2012年の債務返済と利息額は土地収入の1.25倍で、期限到来債務の75%の償還が延期され、今年も同程度の延期が見込まれる。もっとも、意図的に借り換えを続けている債務も多いが―。地方債務が20兆元の場合、年6%の金利では、昨年の土地譲渡収入で利息も払えない。この先2年、平台債務は償還ピークを迎える。乱開発での土地譲渡規制が強くなれば、デフォルトも現実味を帯びる。

 しかし一方、土地財政を続けざるを得ない中国の事情もある。一つは、農民の都市市民化である。中国は6億を超える農村人口を3億にする計画だ。そのため、新農村建設で農業効率化を進めている。都市化率は現在53%で先進国の70%に比べ低い。しかも53%には都市農民工を含む。例えば山東省煙台市の人口は現在640万人、都市化率は56.8%で都市人口は約360万人。2015年の都市化率は63%、都市人口は440万人、2020年の都市化率は70%、都市人口が500万人とそれぞれ予測される。

 農民工は都市貧民と言われ、戸籍問題が絡み、都市での身分がない。2.5億の農民工、ことに80后(80年以後の生まれ)の多数は都会の生活を望むが、彼らが大都会で暮らすには、戸籍と住宅と教育の問題がある。しかし内陸小都市では、夢の実現も可能だ。富士康などの有力企業が、内陸で工場を建設すれば、20~30万人の小都市が生まれる。都市市民化コストは一人10万元と試算され、3億人なら30兆元だ。まず、彼らの住む土地とインフラ建設が必要で、地方政府はそれを土地財政と借金で賄う以外にない。

 一方沿海部でも、広州や深圳などの大都会の周辺地域の都市開発は途上である。筆者がよく行く、珠江デルタの珠海や江門の郊外区は、今も古い住宅が密集し、大雨の度に市街地道路が冠水する。旧市街の住宅面積は30年前とあまり変わらない。上海などの大都会だけを見ていれば解らないが、沿海部ですら、今も新しい住宅を夢見る人も多い。

 旧市街の再開発は大変困難である。中国は広大な土地を有するので、むしろ郊外に新区、新市街を建設する方が早い場合もある。今年7月、国家発展改革委員会は12省都の新市街地建設調査をしたが、そこに55の新市街、新区建設計画があることが判明した。うち瀋陽には13、武漢には11の計画がそれぞれある。

 また12省に144の地方重点都市があり、そこに200の新市街建設が進む。さらに下部の61の県級都市でも67の新市街建設計画があり、中には旧市街の住民数と新市街の計画住民数が変わらず、どう考えても鬼城化することが歴然としている計画さえある。

 中国では、3億農民の都市市民化と都市再開発が続く。日本では中国バブル崩壊が盛んに議論されるが、これが続く限り、開発の多くが実需で崩壊はない。土地価格は上昇し、地方の土地財政も維持される。もっとも土地財政とともに地方債務もさらに増大するが―。

 今年、9月末までの全国300都市の土地譲渡収入は2.1兆元、前年同期の70%増である。ゆえに土地収入は、地方債務の返済財源として、一定の役割を果たし続ける。

図3

(その6へつづく)



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