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省エネ車で中国自動車業界をリードする北京汽車

2018年7月12日

陳選

陳 選(チン セン):フリーライター

略歴

 1982年、 吉林大学日本語科卒、1986年、中国社会科学院大学院日本研究所修士課程卒、中国国際信託投資公司( CITIC)勤務。1989年来日、北海道大学法学部大学院修士課程卒、大 手商社長年勤務。中国自動車メーカーのビジネスアドバイザーでもあった。

 北京汽車集団有限公司(略称「北京汽車」)は中国では歴史のある自動車メーカーの一つで、1958年に北京で設立され、現在、集団全体で13万人の従業員を抱えている。そ の他の国有中国自動車メーカーと同様、北京汽車は完成車(乗用車、商用車、省エネ自動車)や部品製造を手がけている大型企業グループである。

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北京順義区にある北京汽車本社ビル。その大きさやモダンな外観、および空港に近い為、「空港の第4ターミナル」とも揶揄されている。

 北京汽車は中国自動車業界では数多くの伝説を作ってきた。1958年に北京汽車は一台目の乗用車を製造し、その後、中国最初の軍用ジープ「BJ212」、中型トラック「BJ130」を量産した。こ の二車種は、北京汽車の代表的な商品として、1990年代迄に中国人によく知られるものであった。そして80年代で中国自動車業界において米国AMC(のちクライスラーに吸収)と 中国最初の自動車合弁会社である北京ジープ汽車有限公司を設立した。

 世界の自動車メーカーとの繋がりで言えば、北京汽車は、韓国の現代自動車とドイツのダイムラーベンツと、それぞれ合弁会社を設立し、両社の販売台数は順調に伸びている。また、2 008年に世界を席巻した金融危機の際に、経営不振に喘いでいた北欧の名門自動車メーカーSAABのコア生産ノウハウ、技術と設備を買収した。

 2016年、北京汽車の販売台数は285万台、中国自動車業界では五番目のメーカーという位置であったが、2017年に251万台にまで落ちた。し かし中国自動車市場における省エネ車の販売台数ではBYDと首位を争っており、省エネ車の販売台数が10.3万台、前年比97.4%増で、中国のEV市場におけるシェアが24%に達した。

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2017年中国市場新エネルギー車販売上位メーカー

(出所:第一電動汽車網)

 伝統のある目玉商品の北京ジープも復活し2.7万台を販売し、前年比倍増になった。

 一方、子会社の商用車メーカーである北京福田汽車は元々山東省の田舎で農業用車を製造する農業機械のメーカーであったが、1990年代に本社が北京に移り北京汽車に入ってから、大きく発展してきた。現 在では国内指折りの上位商用車メーカーとなり、北京汽車の販売台数を支える大黒柱である。市場がやや縮小傾向の2017年にも同社の商用車の販売台数は二桁の伸びで52.68万台であった。

将来の北京汽車のあるべき姿

 伝統的な内燃自動車の開発、販売では、目立っていない北京汽車は、近年来、省エネ、新エネルギー車分野では驚くほど躍進している。次世代自動車の自動運転、省エネ・新エネルギー、イ ンターネット技術等を生かしてコネクテッドカーに集約させる一体化の車は間違いなく次世代の新型自動車の主流になろうとする流れの中で、北京汽車はこの分野で様々な大きなアクションを起こしている。

1)省エネ・新エネルギー分野で「新エネルギー化」を次世代自動車の起爆剤とする

 北京市政府に所属する国有企業として、北京汽車は北京が「全国の科学・技術のイノベーションの中心」である地理的な優位を十分に生かそうとしている。北京汽車が公表した「『新』動未来宣言」で「 未来の自動車の姿は自動運転プラス新エネルギーであろう。カレンダーが2018年になったところで、我々は自動車業界の未来をはっきりと読み取ることができ、自動車の進化の終点がすぐ目の前にあるため、ラ ストスパートをかけるべき時期が既に来ている。」と言っている。

 2017年、北京汽車南方生産基地および省エネ車発展基地と定められる昌河汽車は新エネルギー車を生産する資質を持ち、江西省九江で計画している10万台の生産能力を有する工場の鍬入れ式を行った。新 工場竣工後、昌河汽車は純電動自動車とプラグインハイブリッド自動車を両輪として生産を予定するという。

 2018年2月23日に北京汽車とダイムラーベンツは119 億元を投入し、共同で北京ベンツの高級車および省エネ車の生産基地を建設すると発表した。

 3月1日に国家新エネルギー自動車技術イノベーションセンターは設立された。このセンターに関与するのが21社で中心メンバーが北京汽車である。

 3月8日にダイムラーの全額出資子会社、ダイムラーグレーターチャイナ投資有限公司 は北京汽車傘下の北京汽車新エネルギー公司の3.93%の持株を購入し、株主になった。こ れを契機に両社は省エネ車製造分野での戦略合作が更に深まるであろう。

 一方、意外なことに水素使用の燃料電池車の開発にも注力し、国内自動車メーカーの中では先頭を走っている一社である。

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(北京福田汽車が開発した水素を使用した燃料電池車)

2)イノベーションによる自主ブランドのグレードアップ

 北京汽車は「全ラインアップの新エネルギー化」の実現により自主ブランドの差別化を図り、純電動自動車分野で業界をリードする優位を保ちながら、プ ラグインハイブリッド分野でもブレークスルーを図ろうとしている。一方、世界一流の企業と協力のチャンスを探しながらも、Baidu、小 米等ITとインターネット業界の国内トップ企業と関連領域での協業を積極的に求めて、コネクテッドカー、自動運転等の自動車AI化を進めている。

 昌河汽車が製造しようとする次世代の自動車は省エネのみならず「人」をキーワードとし車を移動外出の手段としてだけでなく、事務処理、医療、移動教育等の仕事場の延長や、音楽、ゲ ーム等レジャーと娯楽をも目的とするものである。

 北京汽車はSAABの新バージョンD50を乗用車市場でのシェア拡大の突破口とし、コネクテッド化、新エネルギー化等による一体化の新型SUVの発売により、S AABを次世代の車の代表格の商品と位置付けている。また、自主ブランドの差別化を図り、北京ジープの品質向上をも目指そうとしている。

 自動運転の分野でも商品化を急ピーチで進めている。SAABの新バージョンD50に既にL0級の自動運転補助システムを搭載し今年上半期にL1級自動運転補助システム搭載車種の量産が始まり、更 に来年にはL2級自動運転補助システム搭載の車種の量産が開始し、L3級自動運転補助システムも開発中で、2020年に量産予定である。商 用車メーカーの福田汽車が開発した自動運転技術使用のトラックは自動運転システムの搭載車両として国内で商用車自動運転の路上走行試験の許可を得た唯一のものになっている。

 また、コネクテッドシステム分野で中国国内の複数のIT企業と共同開発を行っている。

 次世代自動車の開発、製造で中国自動車業界をリードしている北京汽車は、今後、どのようなサプライズを見せてどのような面白い車を提供してくれるのか、楽しみにしている。

(本文で引用しているデータ、数字等は、北京汽車のホームページやネット自動車新聞によるものである。)

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