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第131回中国研究会「エネルギー環境分野における日中の二国間協力と第三国協力について」(2019年11月29日開催)

「エネルギー環境分野における日中の二国間協力と第三国協力について」

開催日時: 2019年11月29日(金)15:00~17:00

言  語: 日本語

会  場: 科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講  師: 周瑋生: 立命館大学政策科学部 教授

講演資料:「 第131回中国研究会講演資料」( PDFファイル 4.9MB )

講演詳報:「 第131回中国研究会講演詳報」( PDFファイル 5.18MB )

日中、日中韓、日中米間の協力強化 周瑋生氏がエネルギー環境分野で提言

小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 日本での研究生活が四半世紀を超す周瑋生立命館大学政策科学部教授が11月29日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンターで講演し、エネルギー・環境分野での日中二国間、さらに韓国あるいは米国を加えた三国間協力を積極的に進めるべきだと提言した。

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浦江県の生活ゴミ削減で成果

 日中間の協力が既にうまくいっている例として周氏が紹介したのは、浙江省浦江県で進む環境調和型のまちづくり事業。浦江県は稲作発祥の地としても知られる歴史ある地域で、農業5%、工業55%、観光など第三次産業40%という産業構造を持つ。工業では全国70%というシェアを誇る水晶加工が有名。水晶加工による廃水が水質悪化の大きな原因になっていた。周氏は、汚濁水や生活ゴミがあふれるわずか5年前の町の姿と共に、日中協力により見違えるような変貌を示した現在の様子を写した写真を示した。

 その上で生活ゴミ対策が短期間で大きな成果を上げた理由を詳しく紹介した。腐敗するゴミと焼却できるゴミの分別を徹底するため、2種類の回収ケースが用いられたが、そこに一つの工夫がこらされている。管理責任を負う共産党員の名前と、そこにゴミを捨てる利用者の名前がはりつけてあるのだ。決められたケースにきちんとゴミを捨てないとすぐに分かるため、その効果はてきめん。今や浦江県は中国全土の生活ゴミ処理のモデル地域となっている。周氏によると「9月に、日中環境経済専門家20人から成る訪問団を引率し現地に案内したら、『ゴミ一つ見当たらない。日本よりきれいだ』と日本人専門家に感心された」。

 この計画で中心的な役割を果たしたのは、立命館大学で周教授の教えを受けた中国人元留学生。日本で得た知識を活用してモデル事業化を果たし、実績を基に浦江県以外の地域、さらには外国にも普及させることを狙って起業し、上場を狙っている。一方、モデル事業化には、まだ欠けているものがあることも周氏は認めた。「理念、技術の面で経験豊富な日本と協力し、利得のある事業展開を図れば、お互いに発展していける。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献できる」と、さらなる日中協力を氏は提言した。具体的な協力としては、生活ゴミからつくる有機肥料による有機農業の発展を挙げている。ゴミ分別までは対応できているが、その後の処理技術が整備されていない上海市の例を挙げ、都市の規模に応じたゴミ収集・分別・処理システムの開発での協力も提案した。

アスベスト対策も重要な協力対象に

 さらに周氏が強調したのは、日中協力の分野がゴミ処理に限らないこと。農業分野、医療・福祉・介護分野、文化産業分野も、日中協力の成果が期待できるとしている。特に詳しく話したのがアスベスト対策。アスベストはじん肺、肺線維症、肺がんなど深刻な健康被害をもたらすことが明らかになったため、日本や米国では既に使用が禁止されている。しかし、中国は使用禁止になってなく、最大の消費国。周氏は6、7年前から帰国するたびに使用禁止にするよう呼びかけているが、代替品がないという理由で特に地方では大量使用が続いている。

 「これから大きな被害が出て来るだろう」。周氏は、アスベスト対策が今後、重要な日中協力対象として浮上してくる可能性を指摘した。

原発・資源廃棄物で日中韓協力不可欠

 続いて周氏が提案したのは、日中韓3カ国のこれからの協力。周氏は昨年4月の科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンター主催研究会でも、日中韓協力の重要性を強調している。「日中韓は仲良くするしかない。仲良くしないとどの国にとってもよいことはない。中期的には、仲良くなると信じている」。今回の講演でも周氏は持論を繰り返した。

 周氏が、具体的に挙げたのが、原発問題。中国、韓国、日本の沿岸に運転中あるいは建設中、計画中、停止中の原発がひしめいている地図をまず示した。運転中は79基(総出力7,856万キロワット)、建設中は20基(総出力225万キロワット)、計画中58基(総出力7,264万キロワット)。これらが、中国、朝鮮半島、日本列島の沿岸部に集中している。

「日本が原発をゼロにしたとしても、安全だろうか? 周囲の国で事故が起きたら日本に限らずそれぞれが影響を受ける。この地域の原発は1国だけの問題ではない」。周氏はこのように語り、3国が協力して原発安全保障システムの構築を図る必要を強調した。さらに「(仮に)原発を継続するかやめるかどうかを決定する際にも、基本となることはどの国にとっても同じ」と、安全分野のほか、人材、技術面での3国の協力を提言した。

 もう一つ周氏が挙げた協力プロジェクトは、資源廃棄物のグローバルリサイクルシステムの構築。廃棄物は種類によって国内で処理できるものと国際協力で処理しなければならないものがある。日中韓サミットですでに「日中韓循環経済モデル基地」の設立が合意されている事実を挙げた上で周氏は、「広域循環型社会の構築を目標に3国は連携すべきだ」と提言した。

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日中米、気候変動問題では運命共同体

 気候変動問題について周氏は、米国を加えた日中米3国の協力が特に必要とされていることを強調した。トランプ政権のパリ協定離脱で米国に対する国際社会の目は厳しいが、「日中米は共通の利益とリスクを持つ運命共同体。率先して協力すべきだ」というのが氏の主張だ。

「地球温暖化の懸念は中国が広める『でっちあげ』」。トランプ政権が、パリ協定の離脱理由の一つとして主張していることに対しては、「事実と違う」と周氏は明確に否定した。一方、米国の二酸化炭素(CO2)排出量の経年変化を示すさまざまなグラフを示し、米国のCO2排出量は近年減り続けていることを評価している。国民一人当たりの排出量や国内総生産(GDP)に対する排出比率など示すグラフでは、中国は米国同様、近年の減少が顕著。日本が3国の中で国民一人当たり、GDP比ともCO2排出量は最も少ないが、その差は急速に縮まっている。これはGDP当たりのエネルギー消費量が、エネルギー効率を高める技術の向上で米国、中国とも減少していることによる。2014年時点でGDP当たりのエネルギー消費量で中国は日本の1.9倍、米国は1.4倍まで差を縮めている。

 こうしたデータを基に日本に対して周氏は次のように提言した。「米中両国、特に中国の技術は日本の水準に近づいている。日本の技術がいつまでも最先端とはいえない。日本はCO2排出量削減に関わる技術を産業化して、世界に進出すべきだ」

 周氏は日中、日中韓、日中米間の協力を提案する前に、日中関係の現状と中国側の基本認識についても考え方を明らかにした。日中両国間の貿易量は年間3,000億ドルを超え、人の往来は1,200万人に達し、毎週1,000便以上の直行便が行き交う。こうした数字を示し周氏は、「中日関係の発展は、かつてより有利な条件に恵まれている。中日の経済貿易における実務協力は大きな潜在力がある」との見方を明らかにした。

(写真 CRSC編集部)

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周瑋生

周 瑋生(しゅう いせい)氏: 立命館大学政策科学部 教授

略歴

82年 浙江大学工学部卒業、95年京都大学博士後期課程修了、工学博士号取得。専門はエネルギー環境政策学、システム科学、政策工学、サステナビリティ学。95年新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究員、98年地球環境産業技術研究機構(RITE)主任研究員を経て、99年立命館大学法学部准教授,02年政策科学部教授に。これまで立命館孔子学院初代学院長(現在名誉院長),立命館サステイナビリティ学研究センター(RCS)初代センター長、大阪大学サステイナビリティ・サイエンス研究機構特任教授、浙江大学、北京大学等複数大学の客員教授、RITE研究顧問、一般社団法人国際3E研究院院長等を歴任。総じて経済発展、エネルギー安定供給と環境保全に資する様々な経済的社会的または技術的な対策を分析・評価し、公平性、効率性や地域特性を加味した最適な環境戦略を求めることにより持続可能な発展及び広域低炭素社会実現のための国際的な提言に結びつける研究を行っています。

著書

「 地球を救うシナリオ―C O2削減戦略」(日刊工業新聞社)、「現代政策科学」(岩波出版社)、「地球温暖化防止の課題と展望」(法律文化社)、「都市・農村連携と低炭素社会のエコデザイン」(技報堂出版)、「 サステイナビリティ学入門」(法律文化出版社)、「東アジア連携の道をひらくー脱炭素社会・エネルギー・食料」(花伝社)、「一帯一路からユーラシア新秩序の道」(日本評論社)等。全日本華僑華人聯合会初代会長(現在名誉会長)。