第116回CRCC研究会「『SUPER CHINA』-中華復興の夢と課題」(2018年4月20日開催)
「『SUPER CHINA』-中華復興の夢と課題」
開催日時:2018年4月20日(金)15:00~17:00
言 語:日本語
会 場:科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講 師:周 瑋生 氏
講演資料:「 『SUPER CHINA』-中華復興の夢と課題」( 5.22MB )
講演詳報:「 第116回CRCC研究会講演詳報」( 4.42MB )
非排他、非独占の日中韓協力を 周瑋生立命館大学教授が提言
小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
日中双方の科学技術政策に詳しい周瑋生立命館大学政策科学部教授が4月20日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンター主催の研究会で講演し、中国の現状と課題を率直、詳細に語ったうえで、日中の協力が双方にとって大きな意義があることを強調した。特にエネルギーと環境問題での協力の重要性を指摘し、5年前に同じ研究会で提言した「東アジア低炭素共同体構築」をはじめとする共同プロジェクトを韓国も含めた日中韓3カ国で推進する必要もあらためて訴えた。
周氏はまず、4000年以上にわたる中国の歴史を概説した上で、中国はかつての「先進国」から「途上国」(後進国)に転落し、世界に遅れをとってしまった。その要因について、内外の視点からいろいろな分析があるが、統治制度の時代遅れ、政治社会システムの腐敗など内的要因、世界との交流の断絶、特に18世紀後半の英国で始まった産業革命による世界の激変を読み取れず、自己満足的な鎖国政策を続けてしまった、と分析した。
続いて、習近平政権が掲げる「中国復興の夢」の将来像とその実現に向けて中国が直面している課題を詳しく解説した。「腐敗問題」、「貧富格差問題」、「民族問題」、「生態環境破壊問題」、「資源制約問題」を「内憂」に挙げ、加えて「外部紛争」と「大規模な気候変化」という二つの「外患」への対応を迫られている現状を説明した。
米国を超える前に日本に学べ
「国外からの関心が高い大気汚染より深刻」として氏が挙げたのが、水質汚濁、土壌汚染、砂漠化などの生態環境に関わる問題。これらの対応が遅れている理由として、汚染の度合いが目に見え、先進国の経験に学ぶことが比較的容易な大気汚染との違いを指摘した。これら遅れている生態環境問題の解決には、日本をはじめとする経験豊富な国の協力が必要との強い期待も示した。省エネ対策も優先的に取り組まなければならない課題に挙げ、この分野でも日本との協力の余地が大きいことを強調した。
「一帯一路」構想の重要性を説明する中でも、排他的な構想ではないことを強調するのに、日本との長いつながりを例に挙げた。中国で生まれ、1500年後に日本でも使われ始めた漢字は、周辺国、とりわけ日本の貢献があって今のような漢字文化に発展した。「一帯一路」も同じで、多国の協力が必要不可欠である。お互い協力して得られる利益を大きくすることがやるべき仕事だ、と氏は力説した。
技術には賞味期限がある。知的所有権を守るために技術を海外へ移転しないと、もったいないし、市場は待ってくれない。世界最大な炭素排出取引市場で二酸化炭素削減に取り組む中国に日本が積極的に進出し、連携しないと、遅れてしまうのではないか...。周氏はこうした見解を示し、日本企業の積極的な対応を促した。中国が力を入れているアフリカ諸国との協力を例に挙げ、優れた省エネ技術を持つ日本が中国と第3国で協力することの効果を訴えた。
非零和、非排他、互恵多鳥的協力を
「一帯一路」構想について周氏は、「非排他性」、「非独占性(非競合性)、「非零和」、「互恵多鳥」といった特徴を挙げ、これらが世界中に存在する孔子学院の特徴とほとんど重なることを紹介した。孔子学院は、現在148カ国・地域に525ある。周氏は2005年に日本で最初に設置された立命館孔子学院の初代院長を務めている。
「非零和」は、「私の利益は、あなたの損失ではない」、「互恵多鳥」は「私に利益があればあなたに利益がある」の意味。孔子学院は相手国から申請がない限り設立されず、中国政府が一方的に押しつけてつくったものはない。こうした事実を挙げ、周氏は、プロパガンダや洗脳のためという一部の指摘が当たらないとの主張を繰り返した。
最後に周氏は、近々、東京で開催が予定されている日中韓サミットに向けて、次のようなプロジェクトを提言した。
- 東アジア低炭素共同体プロジェクト
- 日中韓炭素排出量取引制度創設プロジェクト
- 日中韓原発安全保障システム構築プロジェクト
- 日中韓循環経済モデル基地事業の深化プロジェクト
- 日中農村地帯分散型汚水処理と「トイレ革命」事業
- 一帯一路文化言語多様性普及推進機構設立
(写真 CRCC編集部)
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周 瑋生(しゅう いせい)氏: 立命館大学政策科学部 教授
略歴/著書
82年 浙江大学工学部卒業、95年京都大学博士後期課程修了、工学博士号取得。専門はエネルギー環境政策学、シ ステム科学、政策工学。95年新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究員、: : 98年地球環境産業技術研究機構(RITE)主任研究員を経て、99年立命館大学法学部准教授,0 2年政策科学部教授に。これまで立命館孔子学院初代学院長(現在名誉院長),立 命館サステイナビリティ学研究センター(RCS)初代センター長、大阪大学サステイナビリティ・サイエンス研究機構特任教授、中国浙江大学等複数大学の客員教授、RITE研究顧問等を歴任。著書(共著)に「 地球を救うシナリオ―C O2削減戦略」(日刊工業新聞社)、「現代政策科学」(岩波出版社)、「地球温暖化防止の課題と展望」(法律文化社)、「都市・農村連携と低炭素社会のエコデザイン」(技報堂出版)、「 サステイナビリティ学入門」(法律文化出版社)、「東アジア連携の道をひらくー脱炭素社会・エネルギー・食料」(花伝社)等。全日本華僑華人聯合会初代会長(現在栄誉会長)。