【08-101】中国科学技術論文統計結果の発表を受けて
寺岡 伸章(中国総合研究センター シニアフェロー) 2008年1月20日
中国科学技術部傘下の科学技術情報研究所が2007年11月15日に発表した「中国科学技術論文統計結果2007」によると、中国人による国際 の主要雑誌への発表論文数は17.2万報で世界の論文数の8.4%を占めるようになり、前年比で12.4%の大幅増加となった。国際序列も英国及び日本を 抜き、4位から米国に次ぐ2位に躍り出た。中国の高度経済成長の勢いは、論文製造でも表れている。年間20%以上の研究開発費増加の効果が効いているとみ ることもできる。
(強い研究分野)
一方、中国が強い研究分野は何であろうか。上記統計結果によると、97年1月から07年8月発表の論文で、各々の分野での被引用数を比較した国際序列の上位を並べると以下のとおりである。10位以内を示す。
分野 | 材料 | 数学 | 工学 | 化学 | 物理 | 計算機 | 地学 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
序列 | 4 | 5 | 6 | 6 | 8 | 8 | 9 |
材料、数学、工学、化学、物理の順番だ。ナノテクでは論文数が日本、米国を抜いたというデータもあるとおり、材料分野での健闘が光る。数学は学問の王様で あるので、この好順位は将来の科学全般の押し上げに期待が持てる。工学と化学は、実用重視の中国伝統の表れとも評価できよう。
(弱い研究分野)
弱い分野を並べると次のとおりである。19位以下を示す。
分野 | 免疫 | 精神 心理学 |
農学 | 宇宙 | 神経行動 科学 |
分子生物 遺伝学 |
臨床医学 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
序列 | 23 | 21 | 21 | 20 | 20 | 19 | 19 |
生命科学分野がずらりと並んでいる。生命科学での立ち遅れは、バイオは21世紀の基幹産業といわれているだけに、政策当局者としては頭が痛いとこ ろである。また、中国は有人宇宙飛行を成功させているが、論文で比較すると宇宙分野は世界20位と低迷している。少し意外な気がする。
(国内比較)
国際論文数が多い地域を上位から並べると以下のとおり。
地域 | 北京 | 上海 | 江蘇 | 浙江 | 湖北 | 陝西 | 遼寧 | 広東 | 山東 |
---|
北京と上海はベスト2である他、ほとんどの地域は沿海岸地域である。陝西が唯一の内陸地域となった。経済成長が著しい長江流域が4省も入っているのは注目に値する。
(国際協力)
海外との国際協力を見てみよう。06年SCI収録論文の中で国際協力の論文数は18846報で、全体の21.9%。中国人研究者が第一著者である論文数を各国別に比較すると以下のとおりだ。
協力国 | 米国 | 日本 | 英国 | ドイツ | カナダ | オーストラリア |
---|---|---|---|---|---|---|
序列 | 4155 | 1595 | 939 | 752 | 649 | 621 |
米国のトップは予想できたが、日本は2位に付けている。特定の国に極度に依存したがらない中国から見ると、日本との協力関係を強化するのは作戦の一つであ るとも言えるかもしれない。今後の一層の日中研究協力に期待したいものである。カナダ及びオーストラリアが上位に来たのは、英語圏のメリットと思われる。
(大学トップ10)
06年度の国際論文のうち引用された論文数で大学別に比較すると以下のとおり。
序列 |
---|
清華大学 |
北京大学 |
浙江大学 |
中国科技大学 |
南京大学 |
復旦大学 |
上海交通大学 |
吉林大学 |
武漢大学 |
山東大学 |
(研究所トップ10)
06年度の国際論文のうち引用された論文数で研究所別に比較すると以下のとおり。
序列 |
---|
化学研究所 |
物理研究所 |
長春応用化学研究所 |
上海有機化学研究所 |
上海生命科学院 |
大連化学物理研究所 |
上海セラミックス研究所 |
金属研究所 |
福建物質構造研究所 |
生態環境科学研究センター |
(研究分野別トップ5)
国際科技論文数による分野別の研究機関の序列は以下のとおり。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
数学 | 北京大学 | 浙江大学 | 数学・系統科学院 | 清華大学 | 上海交通大学 |
物理 | 清華大学 | 中国科技大学 | 物理研究所 | 上海交通大学 | 南京大学 |
化学 | 浙江大学 | 吉林大学 | 山東大学 | 清華大学 | 化学研究所 |
天文 | 国家天文台 | 南京大学 | 北京大学 | 高能物理研究所 | 中国科技大学 |
地学 | 地質・地球物理研究所 | 北京大学 | 中国地質大学 | 大気物理研究所 | 南京大学 |
生物 | 浙江大学 | 復旦大学 | 北京大学 | 中国農業大学 | 上海生命科学院 |
医学 | 北京大学 | 浙江大学 | 復旦大学 | 上海交通大学 | 中山大学 |
農学 | 中国農業大学 | 浙江大学 | 華中農業大学 | 南京農業大学 | |
材料科学 | 上海交通大学 | ハルピン大学 | 清華大学 | 浙江大学 | 金属研究所 |
環境科学 | 生態環境研究センター | 北京大学 | 浙江大学 | 清華大学 | 南京大学 |
(引用回数の多い論文)
97年から06年まで発表された論文の中で引用回数が累積200回を越える論文は29報。その論文の著者を所属する機関別にまとめると以下のとおり。
北京大学 | 5報 |
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清華大学 | 4報 |
上海交通大学 | 3報 |
金属研究所 | 2報 |
固体物理研究所 | 2報 |
復旦大学 | 2報 |
化学研究所 | 2報 |
中山大学 | 2報 |
遺伝・発育生物学研究所 | 1報 |
同済大学 | 1報 |
中国科技大学 | 1報 |
上海生命科学院 | 1報 |
中国医学科学院 | 1報 |
汕頭大学 | 1報 |
中国高等科技中心 | 1報 |
(受賞歴の多い研究者の分野)
理研中国事務所準備室は、現地シンクタンクに委託し、中国人の優秀な人材の発掘のため、国家自然科学賞、百人計画等受賞歴の多い研究者を分野別に調査した。その結果は以下のとおりである。
物理 | 71名(28%) |
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化学 | 66名(26%) |
生命科学 | 57名(22%) |
材料 | 37名(15%) |
情報 | 23名(9%) |
上記の強い研究分野及び弱い研究分野のデータと比較すると、生命科学重視の姿勢が明確に現れている。つまり、生命科学は世界レベルの競争では遅れをとっているものの、生命科学の国内受賞者が比較的多いのは、研究者への激励の意味も含まれていると思われる。
以上の結果は、中国の研究分野の特徴をよく表している。中国の研究機関と協力する場合、どの分野でどの研究機関と連携した方がいいかを知る手がかりとなっている。