【22-018】中国地方政府における人材業誘致政策について 江蘇省常州市ハイテク区を例として
JST北京事務所 2022年04月06日
1.概要
中国では、地方政府が経済・産業政策の実行において大きな裁量を持ち、各地方政府が地域の特色を生かした政策を打ち出し、お互いに競争関係にあることが中国の経済発展の原動力ともなっており、これまでにも中国の地方政府における科学技術計画[1]や国家第13次五カ年計画期間(2016-2020年)におけるイノベーション成果における地方政府を中心に運営される各地域のイノベーションセンター等[2]を紹介してきた。
関連して、中国の地方政府は、国内外の企業誘致も積極的に取り組んでおり、やはり地方政府間で激しい誘致競争を繰り広げており、以前、浙江省嘉興経済技術開発区を例として[3]、その一端を紹介した。
また、中国においては、企業と同様に高度なスキルを有する人材に対しても地方政府間において激しく誘致を競争している。今回、江蘇省常州市ハイテク区の例を紹介する。
2.江蘇省常州市について
常州市は江蘇省の地級市(省と県の中間となる二級行政単位)であり、蘇州市および無錫市と並び上海市と南京市の間に位置する。
(参考)常住人口:527万人(兵庫県と同程度)、陸地面積;4,372平方km(富山県と同程度)
そうした中で、常州市も揚子江デルタ地域に位置するという地の利を生かした産業振興に取り組んでおり、常州市国家ハイテク区(高新区)を運営している。
3.常州市国家ハイテク区について
中国国家ハイテク技術産業開発区(通称:国家ハイテク区)は、国務院の承認に基づき設立される国家級の科学技術工業園区であり、最先端かつイノベーティブな資源を集め、大規模科学技術装置の建設および共同イノベーションプラットフォームを建設している。第13次五カ年計画期間終了時点(2020年末)で国家ハイテク区は169地域に設立されている。
4.常州市国家ハイテク区の人材政策について(2020年9月時点)
他の地方政府と同様、常州市国家ハイテク区も各種の優遇策を提供している。
また上級行政機関(国、江蘇省、常州市)の補助金制度に採択された人材に対して追加でハイテク区の補助金を支給したりする等、多様な制度を設けている。例えば、ハイテク区内で勤務する第一線で科学研究に従事する満48歳以下の人材が「国家重大人材プロジェクト」B類に採択された場合、 「国家重大人材プロジェクト」B類から最高100万元、常州市から30万元の補助を受けた上、ハイテク区から30万元の補助を受けることになる。
【上級行政機関が提供する人材政策(補助制度)】
・常州市:「龍城英才計画」
・江蘇省:「双創計画」、「333ハイレベル人材養成プロジェクト」
・国:「国家重大人材プロジェクト」
常州市国家ハイテク区編「人材計画申請ガイド」に記載の政策概要は以下のとおり。
(補助額について、それぞれ創業支援金、奨励金(企業・個人)、家賃補助(事務所・住居)、住宅購入費補助・利子補給等に細分されているが、以下はそれらの総額)
(1)修士以上の人材がハイテク区で創業
連番 | 補助の対象 | 補助額 |
1 | 市外の人材または常州市内の大学の人材 ①企業を設立し、ハイテク区内で常州市「龍城英才計画」創業類プロジェクトに採択された場合 ②更に省外の人材が区内で江蘇省「双創計画」双創人材(イノベーション類)に採択された場合 |
①最高1,535万元 市・区:900万元 区:635万元 ②更に最高510万元追加 省:500万元 区:10万元 |
2 | 省外の人材グループ(リーダー人材1名および博士2名以上) ①ハイテク区内で江蘇省「双創計画」双創団体に採択された場合 |
①最高905万元 省:800万元 区:105万元 |
3 | 海外での学位取得者 ①帰国し企業を設立し、ハイテク区内で「国家重大人材プロジェクト」A類に採択された場合 |
①最高300万元 国:100万元 市:100万元 区:100万元 |
4 | 地域の発展への効果が比較的に良い創業企業の法人代表または筆頭大株主 ①ハイテク区内で「国家重大人材プロジェクト」B類に採択された場合 |
①最高160万元 国:100万元 市:30万元 区:30万元 |
(2)高学歴(職名)人材がハイテク区で就業
① 博士
連番 | 補助の対象 | 補助額 |
1 | 人材不足に対する支援政策に採択された場合 | ①企業:6万元 ②人材:住宅購入補助20万元 新卒者:更に家賃補助月800元(2年間) |
2 | 省外の人材(課税対象賃金月1万元以上) ①ハイテク区内で常州市「龍城英才計画」イノベーション類プロジェクトに採択された場合 ②ハイテク区内で江蘇省「双創計画」双創人材(企業イノベーション類)に採択された場合 |
①最高90万元 市:60万元 区:30万元 ②最高110万元 省:80万元 区:30万元 |
3 | 省外の人材グループ(リーダー人材1名および博士2名以上) ①ハイテク区内で常州市「龍城英才計画」イノベーション団体類プロジェクトに採択された場合 ②ハイテク区内で江蘇省「双創計画」双創団体に採択された場合 |
①最高130万元 市:100万元 区:30万元 ②最高905万元 省:800万元 区:105万元 |
4 | 国外での就業経験を有する人材 ①帰国して帰国し、ハイテク区内で国家重大人材プロジェクトA類に採択された場合 |
①最高300万元 国:100万元 市:100万元 区:100万元 |
5 | 国外での就業経験を有する人材 ①帰国して、ハイテク区内で「国家重大人材プロジェクト」A類に採択された場合 |
①最高300万元 国:100万元 市:100万元 区:100万元 |
6 | 第一線で科学研究に従事する満48歳以下の人材 ①ハイテク区内で「国家重大人材プロジェクト」B類に採択された場合 |
①最高160万元 国:100万元 市:30万元 区:30万元 |
② 修士、学士
連番 | 補助の対象 | 補助額 |
1 | 修士:人材不足に対する支援政策に採択 | ①住宅購入補助10万元 新卒者:更に家賃補助月600元(2年間) |
2 | ①学士:人材不足に対する支援政策に採択された場合 ②その内、ハイテク区の工業企業が招いた優秀な大学学部新卒者 |
①新卒者:家賃補助月500元(2年間) ②住宅購入補助5万元 |
③ 高級職人材
連番 | 補助の対象 | 補助額 |
1 | 新たに高級職人材を受け入れ、人材不足に対する支援政策に採択された場合 | ①人材:住宅購入補助20万元 ②企業:人材誘致補助6万元 |
2 | 高級専門技術を有する人材がハイテク区内で「333ハイレベル人材育成プロジェクト」の育成対象に採択された場合 | ①人材:最高14万元(毎年一人あたり) かつ研究費200万元(省) |
(3)高額報酬系人材がハイテク区で就業
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | 複数の区で活動する企業またはハイテク企業が年棒25万元以上の人材を招き、人材不足に対処する支援政策に採択された場合 | ①人材:住宅購入補助15万元-25万元 ②企業:人材誘致補助6万元-30万元 |
(4)高技能系人材がハイテク区で就業
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | ①フルタイムの「全国技術者」、国家級「技能マスターススタジオ」リーダーが、高技能人材支援政策に採択された場合 ②高級技師 |
①住宅購入補助20万元 ②住宅購入補助10万元 |
2 | 企業職員が参加する市級以上の各種技能大会で上位10位以内に入賞した人材 ①高技能人材支援政策に採択された場合 |
①奨励金1千元-8万元 |
3 | 省外の人材(課税対象賃金月1万元以上) ①ハイテク区内で江蘇省「双創計画」双創人材高技能イノベーション類プロジェクトに採択された場合 |
①最高110万元 内訳不明 |
1.北京便り2021年09月30日「【21-051】中国地方政府における科学技術計画について 河南省を例として」
2.北京便り2021年12月3日「【21-057】《十三五》国家第13次五カ年計画科学技術イノベーション成果展」
3.北京便り2022年3月29日「【22-017】中国地方政府における企業誘致政策について 浙江省嘉興経済技術開発区を例として」