【22-017】中国地方政府における企業誘致政策について 浙江省嘉興経済技術開発区を例として
JST北京事務所 2022年03月29日
1.概要
中国では、地方政府が経済・産業政策の実行において大きな裁量を持ち、各地方政府が地域の特色を生かした政策を打ち出し、お互いに競争関係にあることが中国の経済発展の原動力ともなっており、これまでにも中国の地方政府における科学技術計画[1]や国家第13次五カ年計画期間(2016-2020年)におけるイノベーション成果における地方政府を中心に運営される各地域のイノベーションセンター等[2]を紹介してきた。
関連して、中国の地方政府は、国内外の企業誘致も積極的に取り組んでおり、やはり地方政府間で激しい誘致競争を繰り広げている。
今回、浙江省嘉興経済技術開発区を例として、その一端を紹介する。
2.浙江省嘉興市について
嘉興市は浙江省の地級市(省と県の中間となる二級行政単位)であり、上海市、杭州市、紹興市・寧波市、蘇州市という大都市に東西南北を囲まれている。
(参考)常住人口:540万人(兵庫県と同程度)、陸地面積;4,223平方km(福井県と同程度)
そうした中で、揚子江デルタ地域の地理的中心部に位置するという地の利を生かした産業振興に取り組んでおり、経済技術開発区を運営している。
また、職員の一部は北京や深圳等の大都市に常駐し、国内外の企業誘致に専従している。
3.嘉興市経済技術開発区について
嘉興市経済技術開発区には、本稿執筆時点において、フォーチュン500社のうち38社、日系企業70社超が進出している。
周囲の大都市と比較して、地価や社会保険等の企業負担が相対的に低いため、進出する企業にとっては投資コストを抑えるメリットがある。
4.嘉興市経済技術開発区の優遇策について
他の地方政府と同様、嘉興市経済技術開発区も、進出企業に対して各種の優遇策[3]を提供している。
また上級行政機関(国、省、市)に規定される補助金を受けた企業に対して追記で開発区の補助金を支給したり、嘉興市と開発区が共同(連動)する補助制度を有する等、多様な制度を設けている。(※)いずれも当局(各部(省)、嘉興市、嘉興市経済技術開発区等が定める基準に合致した上で、個別の承認を受ける必要がある。
(1)工業経済系
① 技術改革補助金
(i) 一般プロジェクト
連番 | 補助の対象 | 補助額 |
1 | 地域の産業発展の方向性に合致した技術変革・アップグレード投資(設備投資額300万元以上) | ・設備の実質投資額の5% ・上限400万元 |
2 | 国家標準(GB/T 12643-2013)で認定された産業ロボット購入(または産業ロボット購入を含む投資) | ・ロボット本体購入額の10% ・上限400万元 |
(ii) スマート製造プロジェクト
連番 | 補助の対象 | 補助額 |
1 | 専門家グループが認定した自動車部品、電子情報、高品質食品等の主導的産業のスマート化投資(投資額1,000万元以上) | 投資額の12% |
2 | デジタル経済産業に係る設備のデジタル化・スマート化投資(投資額5,000万元以上) | ・投資額の15% ・上限1,500万元 |
(iii) スマート製造プロジェクト
連番 | 補助の対象 | 補助額 |
1 | 浙江省プロジェクトに初めて認定された企業 ①「未来工場」 ②「デジタルワークショップ/スマート工場」 |
①80万元 ②50万元 |
2 | 上場レベルの「デジタルワークショップ/スマート工場」に初めて認定された企業 | 25万元 |
② 企業成長補助
(i) 工業企業の規模拡大インセンティブ
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | 以下の3つの条件を満たす企業 ①年間売上高が初めて以下の金額超 i)初回売上高 50億元、40億元、20億元、10億元、5億元 ii)翌年売上高 前年比で増加し続ける ②年間の財政的貢献額が前年比増 ③単位面積(ムー:約667平米)あたり平均売上高が、経済技術開発区の平均売上高より高い |
①初回 50億元、40億元、20億元、10億元、5億元 ②翌年 25万元、20万元、10万元、5万元、3万元 |
2 | ①-1「嘉興市ガゼル計画(暖羚计划)」に認定された育成企業 ①-2更に「技術変革」補助金の支給対象企業 ②浙江省「隠れたチャンピオン育成企業データベース」に新たに組入れられた企業/「隠れたチャンピオン企業」に認定された企業 |
①-1 5人以下の上級管理職に対して年間2万元 ②-2現行補助額を3%増加 ②20万元/30万元 |
③ デジタル経済発展補助
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | 開発区工業企業情報化応用モデル事業計画に組み入れられた事業 | ・実際の投資額の12% ・上限300万元 |
2 | 5Gネットワークインフラの建設と応用に参加する企業の設備改造・企業内ネットワークの更新 ・5G、1PV6、工業無線等の新技術 ・新型工業スマートゲートウェイとスマートエッジコンピューティング |
・投資額の20%以下 |
2 | ①国家級または省級・市級の製造業・インターネット融合発展・工業インターネットモデル試験企業(プロジェクト)と認定された場合 ②国家級、省級工業インターネット業級と認定されたプラットフォーム ③国家級、省級開発区域級(産業チェーン級)と認定された工業インターネットプラットフォーム ④国家級、省級企業級(特定の一環)工業インターネットプラットフォームと認定された場合 ⑤当年度に認定された国家級、省級、市級サービス型製造模範企業(プラットフォーム)年度省電子情報産業100社の重点企業に認定された企業(電子情報製造業、ソフトウェア、電子情報輸出、電子情報成長性特色企業) |
①初回投資の際に、それぞれ75万元、25万元、10万元 ②それぞれ150万元、75万元。 ③それぞれ100万元、50万元。 ④それぞれ75万元、25万元。 ⑤それぞれ10万元、10万元、10万元、5万元。 |
④ 工業設計補助
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | ①当年度に認定された国家級、省級、市級工業設計基地 ②当年度に認定された国家級、省級、市級の工業設計企業(中心)、工業製品生態(グリーン)設計モデル企業 ③当年度に中国優秀工業設計賞、中国設計スマート製造賞「金智賞」、iF製品設計金賞、Reddot製品設計等を受賞 |
①それぞれ100万元、50万元、25万元。 ②それぞれ20万元、10万元、5万元。 ③それぞれ5万元。 |
⑤ 省エネ補助
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | ①省エネ、節水、資源の総合活用などの投資事業で経済的および社会的利益が大きいもの。 ・事業投資額30万元超 ・一般的に省エネ事業の省エネ効果は10%以上に達すること。 ・年間100トンの標準石炭(相当)の省エネ事業は省エネ効果が8%以上に達すること。 ・節水事業の水再利用率は60%以上、 ・資源総合利用実証事業における廃棄物の総合再利用率は30%以上であること。 |
①単一事業あたり最大補助額100万元以下。(太陽光発電プロジェクトを除く) |
2 | ①グリーン照明・省エネランプへの改修、旧式モーター・旧式変圧器のアップグレードおよび改修事業で投資額が10万元以上 ②クリーン生産監査を実施した企業 ③省級の節水型企業に認定された企業 |
①事業実施後に総投資額の10%(事業あたり上限50万元) ②検収に合格した場合、5万元。 ③15万元 |
3 | ①新規スマートエネルギーシステム事業(ソフト、ハードウェアを含む) ・実際投資額50万以下 ・実際投資額50万元以上100万元未満 ・実際投資額100万元以上 |
・5万元 ・10万元 ・投資額の20%(上限100万元) |
⑥ 生態環境補助
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | ①企業の汚染源(汚水、固体廃棄物、騒音)に対する管理改善事業 ②排気ガス排出企業に対する先進技術を用いて排気ガス汚染管理を行う事業、 ③クリーンエネルギー技術改革事業(石炭水スラリー、バイオマス、燃油等から天然ガスボイラーへの改造及び天然ガスボイラーの低窒化改造) ④企業汚水管網の明管化改造事業 ⑤固体廃棄物処理のモデル化事業を展開する産廃企業 に補助を与え、プロジェクトが完成して監査され、生態環境部門の認定を受けた後、プロジェクトの買際投資額の15%に一回限りの補助を与え、最高補助額は20万元を超えない。 |
①事業終了後、実際の設備投資額の20%(上限150万元) ②事業終了後、実際の投資額の20%(上限200万元) ③事業終了後、実際の投資額の15%(上限100万元) ④事業終了後、実際の投資額の15%(上限20万元) ⑤事業終了後、実際の投資額の15%(上限20万元) |
2 | 企業環境オンラインモニタリング能力整備と環境汚染防止措置の整備事業及び関連するモニタリング警報、制御システム(生態環境部門の認定を受けた)に対して一定の補助を行う。 ①新規に導入する廃水、排気ガス、モニタリング、状況自動監視設備、自動サンプリング計測機器等のオンライン監視設備 ②企業が新規に導入する雨水総排出口自動制御システム ③企業の廃水・排気ガスに対するオンライン監視設備を生態環境部門のオンライン監視システム管理プラットフォームに接続
|
①導入費用の50% ・廃水、モニタリング等オンライン監視設備の上限額5万元/セット) ・排気ガスオンライン監視システムの上限額15万元/セット) ・状況自動監視設備の上限額0.5万元/セット) ・自動サンプリング計測機器の上限額2.5万元/台 ・測定器の上限額0.6万元/台 ②導入費用の50%(上限額2万元/セット) ③年間運用維持費用の50% (すでに市級補助を受けている場合は不可) ・上限額2万元/セット。そのうち自動サンプリング計測機器の上限は0.3万元/セット ・廃水類監視分析機器(TOC/COD分析器、アンモニア窒素分析器、総リン総窒素分析器、重金属類分析器)の上限は2万元/セット ・排ガス類監視分析器の上限3万元/セット |
3 | ・省級、市級、開発区級のそれぞれの生態環境典型モデル作成事業に参画 ・開発区級の「廃棄ゼロ工場」の建設任務に参画 |
・それぞれ20万元、10万元、5万元 ・2万元 |
4 | ・企業がエコ循環化生産を実施することを奨励するため、開発区内の企業間において廃棄物の交換利用を行い、資源を共有。 | ・交換利用取引額の20%(上限100万元) |
⑦ その他事業補助
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | ・一級、二級、三級の安全生産標準化検収を通過した企業 ・安全生産責任保険に加入した企業 |
・それぞれ10万元、5万元、1万元。 ・保険料の50%(上限10万元) |
2 | ① ・企業が指定された規模を超える企業に成長した場合 ・更に「小規模な成長」後、主な事業収入が2年連続で5,000万元に達した場合 ・投資家と開発区の双方から推薦され新たに設立される株式会社(「二重募集・二重紹介」企業) には、1回限りの3万元の報酬が与えられます。 ②一般的な規範的株式改革を実施する企業 |
① ・6万元 ・3万元追加 ・3万元 ② ・株式保有改革完了後20万元 ・そのうち10万元は企業経営チーム ・規制が不十分な企業は5万元(最大都市連携上限30万元) |
3 | ・5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)現場管理モデル導入に成功し、開発区の審査を組織した企業 ・卓越した業績管理モデルを新たに導入した企業 ・管理委員会主任品質賞受賞企業 ・省級または市級の信用管理モデルとして評価された企業 ・国家誠実管理システムの証明書を新たに獲得した食品業界企業 ・省級または市級の誠実民間企業 |
・1万元 ・1万元 ・20万元 ・それぞれ10万元、3万元 ・5万元 ・それぞれ10万元、5万元 |
4 | ・全国専門標準化技術委員会(分科会を含む)または省専門標準化技術委員会の設立を担当する企業、研究開発および検査計測機関 ・標準化が4 A、3 A、2 A級に達した機関 ・省または市に規定されるイノベーション型企業と認定された企業 |
・それぞれ20万元、10万元 ・それぞれ10万元、5万元、1万元 ・5万元、2万元 |
5 | ・新たに中国の有名な商標を獲得した輸出ブランド製品 ・省または市の商標ブランドモデル企業、省または市の有名商号、省または市の老舗商号、省または市の輸出ブランド製品を獲得した企業 ・初めて「浙江製造」認定を受けた企業 |
・50万元 ・省10万元、市5万元 ・10万元 |
(2)科学技術イノベーション系
① イノベーションキャリア・プラットフォーム整備補助金
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | ・新たに省級または市級研究開発センターに認定された場合 ・企業内部の実験室が国家認可委員会実験室認可(CNAS)を通過した場合、 |
・省級50万元、市級20万元の段階別差額補助 ・企業に3万元の補助 |
2 | ・ハイテク企業と初めて認定 ・ハイテク企業の再審査を通過 ・開発区外に移転したハイテク企業 ・浙江省の科学技術型企業として新たに認定 |
・嘉振市と開発区との連動補助20万元を基礎に、10万元 ・更に10万元 ・開発区内のハイテク企業(再審)と同等の待遇 ・3万元 |
3 | ・前年度の初営業収入およびその年の増加率がそれぞれ以下の場合、 ①2000万元から1億元、増加率が30%以上 ②1億円から5億元、増加率25%以上 ③5億元以上で、増加20%以上のハイテク企業それぞれ一回限りの奨励金を与える。 |
①5万元 ②10万元 ③15万元 |
② 科学技術イノベーション成果産業化補助
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | ①キーとなるコア技術強化 ・省級以上の科学技術計画プロジェクトを担当する企業(上級が明確に関連サポートを要求した場合を除く) ・そのうち、国家科学技術計画プロジェクトを担当する企業 ・省級の重点研究開発計画プロジェクトを担当する企業 ②企業特許産業化プロジェクトに対して事前審査を行い、国内特許権の導入と取得に対して産業化を実施する(科学技術部門の発文を基準とする)場合 |
① ・上級の関連資金の20% ・最高100万元の関連資金 ・最高50万元の関連資金 (審査時に50%、残り50%は上級科学技術部門によるプロジェクト検収合格後に支給) ②1件1万元 |
2 | ・企業の科学技術研究開発の投入を奨励するため、企業に対して研究開発費用の加算控除政策を実行 ・税務部門が承認した前年度の研究開発費用の実際発生額に基づき、総額は30万元以上(ハイテク企業を除く)であり、研究開発費用が営業収入の3%以上を占めている場合、 |
・10%補助(上限30万元) |
3 | ・科学技術イノベーション券の使用を奨励する。 ・イノベーション券の使用対象と範囲を拡大し、各種の普恵性、業績性を持つ科学技術補助と奨励に対して、イノベーション券の方式で補助することができる。 ・技術サービス券、資源共有券、インキュベーション機構専用券と賞補券の4つの証券種に分けて、企業が自主的に技術イノベーション活動を展開することを支持する。 |
・具体的には「嘉興経済技術開発区、嘉興国際ビジネス区の科学技術イノベーション券の実施管理に関する方法」を参照のこと。 |
③ 知的財産権創造応用補助
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | ・国家級知的財産権モデル企業、国家級知的財産権優位企業、省級特許モデル企業、市特許モデル企業と認定された場合 ・国家知的財産権局から中国特許金賞と優秀賞を授与された特許 ・企業が『知的財産権管理規範』(GB/T 29490-2013)の基準を貫く仕事を実施することを奨励し、審査を通じて合格と認定された企業 |
・それぞれ30万元、20万元、10万元、5万元 ・それぞれ30万元、10万元 ・5万元 |
2 | 新たに特許を取得した場合 ・アメリカ、曰本とヨーロッパ特許局等の国家または地区のPCT特許を獲得した場合(1件のPCT特許は最大2カ国または地区) |
・10000元(上級補助資金を含まない)の開発区級補助 ・嘉振市と開発区との連動補助1件3万元の上で、更に開発区補助として1件5千元 |
3 | 国際標準制定を先導する(第1位、改訂を含まない) ・国際標準、国家標準、業界(または地方、軍用)標準、「浙江製造ブランド」団体標準を完成した企業と機構 ・標準制定(上位4位)に参加し、国際基準、国家基準を完成した企業と機構 |
・それぞれ100万元、30万元、20万元、20万元 ・30万元、15万元 |
④ リスク防止補助
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | ・当年度に嘉興市の対外経済貿易発展資金の輸出信用保険補助を受けた事業 | ・補助額の50% (各企業の毎年の補助総額上限15万元かつ嘉振市と開発区との連動補助額は実際の保険料を超えない) |
⑤ 構造最適化補助
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | ・嘉興市の対外経済貿易発展資金のオフショアサービスアウトソーシング補助を受けた事業 ・ただし、その年のオフショアサービスアウトソーシング増加率10%を下回った場合 |
・補助額の50% ・半額を減補(上限50万元) |
⑥ 貿易転換補助
連番 | 補助/奨励の対象 | 補助額/奨励額 |
1 | 開発区内の省級公共海外倉庫の発展を支援 ・サービス区内の年間輸出額が100万ドル以上の企業が5社を超える省級海外倉庫の運営主体 |
・運営費20万元(累計5年間) |
2 | 対外貿易企業による越境電子商取引を応用した市場開拓を奨励 ・開発区内の越境電子商取引公共サービスプラットフォームを利用して、越境電子商取引を行った企業 |
・投入した業務費用(プラットフォーム使用費、普及費を含む)の50%。(単一企業の上限10万元) |
1.北京便り2021年09月30日「【21-051】中国地方政府における科学技術計画について 河南省を例として」
2.北京便り2021年12月3日「【21-057】《十三五》国家第13次五カ年計画科学技術イノベーション成果展」
3.嘉兴经济技术开发区管委会・嘉兴国际商务区管委会2021年5月11日"关于印发《2021年度全区工业经济、科技创新、开放型经济三大类若干政策》的通知"