【13-023】中国の大学の特許出願と実施状況についての分析(その2)
2013年 9月 9日
韓 明星(HAN Mingxing):
北京銘碩国際特許事務所所長、中国弁理士
1984年中国東北大学資源学部卒、85年中国弁理士第一期生として登録。中国特許事務所で10年勤務後、韓国サムスン電子知的財産部の特許顧問として10年勤務。2 004年4月北京銘碩国際特許事務所を設立。中国弁理士会理事。日本知財学会で2010年以降、中国の知財動向などに関する研究成果を発表している。特許ライセンス契約の締結、関連法律コンサルティング、産 学連携など幅広く活動している。
連絡先:北京銘碩国際特許事務所・日本事務所 東京都千代田区外神田5-6-14秋葉原KDビル
( その1よりつづき)
5、権利取得者の分析
権利取得者については、企業が主であった。許可を取得した企業は主に江蘇省(228社)、広東省(146 社) 、浙江省(102社)など企業が集まった経済発展が著しい東部地域に集中している。
地域的な関連性から見ると、江蘇省と上海市の技術上の関連性は非常に強く、北京市、陕西省、安徽省、黒竜江省などもやや強い。さらに江蘇省はそのほかの地域との関連性が最も緊密な省といえる。その他の関連性の強い地域としては、陕西省--広東省、黒竜江省--広東省、上海市--浙江省がある。
このほかの特許技術の実用化のモデルとしては、次のようなケースがあげられる。
推測ではあるが、上述の特許の寿命に関する問題の原因としては、権利取得前からの実施率の低さにより、収益が上がらず出願人が特許を維持する費用を捻出できないために放棄してしまうことが挙げられる。
現行では大学の特許出願費用は、一般的に特許取得まで、もしくは権利取得から3年までしか補助が受けられない。その後の費用は発明人あるいはその所属する学部が負担する。これでは負担が多すぎるし、負 担しないと判断されれば権利放棄に至る。
6、特許の実用化ルートを分析する
現在、中国の大学の特許実用化には、以下のルートが存在する。(以下、内容は [1] に基づいて整理する)。
(1) 直接特許技術を企業で実用化するケース
中国の大学で科学技術成果を実用化する最も典型的なモデルで、このモデルは大学の科学研究者や管理者が直接企業に連絡を取り、適切な企業を探し出すか、企業が大学の適切な研究成果を見つけ出して、企 業で実用化するというものである。
(2) 大学の技術を機関に譲渡して特許技術を実用化するケース
大学から技術を譲渡する機関は、主に技術を事業所に譲渡するモデル、技術をセンターに譲渡するモデル、技術を会社に譲渡するモデルがある。
技術を事業所に譲渡するモデル
現在、中国の大多数の大学では、科学技術部門の事業所が研究成果の実用化や推進を請け負っており、一般的に科技課、科学技術課、科研課、科技開発部、科研院などの名称がつけられている。
こうした事業所の下には技術譲渡に関連する事業所が置かれたり、知的財産室やハイテク技術譲渡室、総合成果課などの名称が与えられ、研究成果の実用化に関する管理や推進を請け負っている。
技術をセンターに譲渡するモデル
技術をセンターに譲渡するモデルとは、大学内に仲介的性質を持つプラットホームを設立し、技術譲渡を促進するモデルである。この機関は大学から独立した大学外の法人組織ではなく、ま た厳格な意味での仲介機関でもない。具体例としては、清華大学国家技術譲渡センター、華東理工大学国家技術譲渡センターが挙げられる。
技術を会社に譲渡するモデル
技術を会社に譲渡するモデルとは、大学に大学から独立した法人組織を立ち上げ、技術譲渡を促進するモデルを言う。この機関は自主経営権を持つことから、仲介サービス機関である。具体例としては、北 京大学科技開発部有限公司、北京清華科威国際技術譲渡有限公司、北京科大恒興ハイテク有限公司などが挙げられる。
(3) 地方政府と提携機関を設立し特許技術の実用化を行うケース
大学と地方政府で提携機関を設立し、特許技術の実用化を行う。主に産学協同事業モデル、省(市)大学院モデルや産学研究基地モデルなどがある。
産学協同事業モデルは、大学と地方行政の科学技術管理部門が提携して設立する事業で、一般的に大学で両者の専業の人材が派遣され事業の日常業務を行う。事業の主な職責はその地域の要望に基づいて大学の科学技術資産を利用し、地域と教育機関の産学協同を促進する。
具体例としては、清華大学産学協同事業室、北京理工大学産学共同事業室、同済大学産学協同事業室などがある。
省(市)大学院モデルや産学研究基地モデルは、大学と省(市)レベルの政府機関が共同で研究機関を立ち上げるモデルで、北京科技大学と広東省が設立した「北京科技大学広東研究院」、電子科技大学と広東省科技庁、東莞市人民政府が設立した「東莞--電子科技大学電子情報工程研究院」、深セン市政府と北京大学、香港科技大学が共同で設立した深港産学研基地がある。
(4)企業と連携して協力機関を設立し、特許技術の実用化を行うケース
大学と企業が連携して協力機関を設立し、特許技術の実用化を行う。このモデルは主に、大学企業連合研究開発機関モデルと大学企業提携機構モデルがある。
大学企業共同研究開発機関モデルとは、企業と大学が双方で確立した専門技術分野で提携を行い、共同で研究所や研究センター、ラボなどを設立して、共同研究開発機関で技術譲渡仲介をする技術譲渡モデルである。
大学企業提携機構モデルは、主に会員制などの形式でメンバーを募る組織で、様々なサービス展開や企業と全方位的な提携を通して、産業界と綿密で親密な連携を期待するものである。その典型としては、清華大学企業合作委員会などが挙げられる。
(5) 大学のサイエンスパークを通じて特許技術の実用化を行うケース
大学がその大学のサイエンスパークを通じて、特許を技術実用化するモデル(大学サイエンスパークモデルと略称)は、大学にとって重要な研究成果の実用化方法である。大学のサイエンスパークは大学に隣接しており、コロニー形式のイノベーションという長所を生かし、産学協同の中核的集団となっている。企業のインキュベーター集団や技術研究開発集団、大学科学技術産業集団、教育育成機関集団、仲介サービス集団、付帯サービス集団などが、すでに国家のイノベーション新体系の中で重要な役割を果たしている。
(6)国家工程センターで特許技術実用化を行うケース
国家工程(技術)研究センターモデルは、国家工程技術研究センターや国家工程研究センターの技術のインキュベーターモデル[国家工程(技術)研究センターモデルと略称]として、両者はそれぞれ国家科技部と国家発展改革委員会が設立している。
現在、中国全土にすでに141カ所の国家工程技術研究センターがあり、うち44カ所は中国の関係大学に委託しており、既存の国家工程研究センターは124カ所でうち大学に関連しているのは42カ所である。
このほかの特許技術の実用化のモデルとしては、次のようなケースがあげられる。
- ①企業とのコラボレーションによる研究するモデル
- ②独立した企業設立するモデル
- ③業界の連合会へ参加するモデル
- ④教授個人が会社を起業するモデル
- ⑤大学が技術市場や仲介機構を通して実用化するモデル
7、まとめ
中国の国家的知的財産権戦略要綱がさらに進展すれば、中国の特許出願はさらに増加し速度を速めるだろう。中国の大学の特許出願にかける熱意も持続すると考えられる。
しかし、どのようにして特許出願の質を上げ、有効に実施していくかには「特許のための特許」を排除するなど中国の大学が直面する課題があげられる。(おわり)
[1] 張平 黄賢涛「高校専利技術転化模式研究(大学特許技術実用化モデル研究)」『中国高校科技』2011年第7期