【13-022】中国の大学の特許出願と実施状況についての分析(その1)
2013年 9月 9日
韓 明星(HAN Mingxing):
北京銘碩国際特許事務所所長、中国弁理士
1984年中国東北大学資源学部卒、85年中国弁理士第一期生として登録。中国特許事務所で10年勤務後、韓国サムスン電子知的財産部の特許顧問として10年勤務。2004年4月北京銘碩国際特許事務所を設立。中国弁理士会理事。日本知財学会で2010年以降、中国の知財動向などに関する研究成果を発表している。特許ライセンス契約の締結、関連法律コンサルティング、産 学連携など幅広く活動している。
連絡先:北京銘碩国際特許事務所・日本事務所 東京都千代田区外神田5-6-14秋葉原KDビル
近年、中国における国内特許出願や海外特許出願(PCT出願を含む)が急速に伸びており、中でも中国の各大学からの特許出願もこれに呼応して増加している。本稿は、公的資料や関係する論文、報道などに基づき、中国における大学の特許出願およびその実施状況について分析、解説したものである。
1、大学と外国企業の特許出願の状況
2012年の中国の国内特許出願(特許、実用新案、意匠)は、191万2000件にのぼり、うち中国の大学からの出願は13万3000件であり全体の7%を占めた。
国内の特許出願に限ると、合計で53万5000件であり、このうち大学からの出願は7万6000件と約14%であった。
中国の大学の特許出願の件数と海外からの出願件数は、ほとんど同数になっている。海外からの出願件数は13万8000件でうち特許出願は11万7000件となっている。
順位 | 出願人 | 出願数 |
1 | 浙江大学 | 2301 |
2 | 清華大学 | 1906 |
3 | 上海交通大学 | 1512 |
4 | 江南大学 | 1390 |
5 | 東南大学 | 1382 |
6 | 哈爾濱工業大学 | 1352 |
7 | 天津大学 | 1297 |
8 | 北京航空航天大学 | 1195 |
9 | 華南理工大学 | 1189 |
10 | 常州大学 | 990 |
順位 | 出願人 | 出願数 |
1 | パナソニック株式会社 | 2191 |
2 | ソニー株式会社 | 2184 |
3 | サムスン電子株式会社 | 1754 |
4 | ゼネラル・エレクトリック | 1664 |
5 | ロバート・ボッシュ | 1379 |
6 | キヤノン株式会社 | 1352 |
7 | ゼネラル・モータース | 1263 |
8 | トヨタ自動車株式会社 | 1240 |
9 | シーメンス | 1225 |
10 | シャープ株式会社 | 1220 |
表1と表2は、それぞれ中国の大学の特許出願件数トップ10と、外国企業の出願件数トップ10である。
面白いことに、双方のトップ10の数字がほぼ似たような数字になっている。
2、大学と外国企業の特許取得の状況
2012年の中国国内の特許権の取得件数は、14万4000件となった。このうち中国の大学が取得した特許件数は、3万4000件で全体の23.6%を占めた。
出願件数に占める大学の割合に比べると、特許権利取得に占める大学の割合が高くなっている。大学の権利取得技術のレベルの高さを示しているとも言える。
順位 | 出願人 | 出願数 |
1 | 浙江大学 | 1672 |
2 | 清華大学 | 1198 |
3 | 北京航空航天大学 | 863 |
4 | 上海交通大学 | 827 |
5 | 哈爾濱工業大学 | 825 |
6 | 東南大学 | 650 |
7 | 華南理工大学 | 586 |
8 | 天津大学 | 478 |
9 | 西安交通大学 | 457 |
10 | 重慶大学 | 443 |
順位 | 出願人 | 出願数 |
1 | パナソニック株式会社 | 1660 |
2 | ソニー株式会社 | 1277 |
3 | サムスン電子株式会社 | 1256 |
4 | キヤノン株式会社 | 965 |
5 | トヨタ自動車株式会社 | 950 |
6 | シャープ株式会社 | 938 |
7 | LG電子株式会社 | 909 |
8 | ゼネラル・モーターズ | 765 |
9 | コーニンクレッカ フィリップス | 738 |
10 | クアルコム | 623 |
表3、表4はそれぞれ大学と外国企業の特許取得のトップ10であるが、出願のトップ10と同じように、双方はよく似た数字となっている。
年 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 |
増加率 | 71.4% | 26.8% | 53.3% | 15.2% | 42.4% | 38.1% | 36.4% | 28.8% | 38.8% | 20.4% |
表5は2003年から2012年にかけ、中国の大学の国内特許出願の伸び率を示している。ここ10年間の平均伸び率は32.9%だった。
このようなデータ[1]を分析すると、中国の大学の特許出願には次のような特徴があることがわかる。
- 出願件数は海外特許出願件数と同程度に多く、ランキング上位の大学と外国企業の出願件数や特許権取得件数は接近している。
- 増加率が急速に伸びており、2006年を除いて平均20%以上の伸びを維持している。
- 特許に偏重している。清華大学を含む北京市所在の26大学が2005年~2010年の期間に行った特許出願を分析すると、特許88.2%、実用新案11.5%、意匠0.3%となっている[2]。
また、2013年7月までに中国国内の特許で維持されているのは54万3000件で、うち大学が保有する維持特許は10万9000件で約20%を占めている。
中国の大学で特許出願が急速に伸びている理由は、中国の国家知的財産権戦略要綱の実施に呼応して知的財産権への注目度が高まっていることである。
さらに現在、中国の大学が数多くの科学研究プロジェクトを担っており、その成果を特許で保護する必要があるからだと考えられる。
また、知的財産権、特に特許の件数、レベルや実施状況が、大学のテクニカルな評価を計る重要な指標になっている。しかもテクニカルなプロジェクトの管理における特許件数やレベルが、そのプロジェクトの重要な検収の指標になっていることから特許出願件数が伸びていることが挙げられる。
3、特許の実施状況
目下のところ、特許出願の件数と比べ、中国の大学の特許の実施、実用化の状況はあまり理想的とは言えない。
中国国内の報道でも指摘されているが、中国の大学の特許の平均寿命はたった3年あまりであり、特許の実施された割合は平均5%以下だ[3]。
清華大学を含む北京市所在の26大学における2005年~2010年の特許出願に対する分析をすると、取得された特許の26.7%が後でその特許権を放棄している。
特許取得後2,3年での放棄が最も多い。しかも、出願件数全体に対し特許権の譲渡はたった1.7%でありライセンスした権利は0.87%だった[2]。
清華大学の公式サイトによれば、10年間維持された特許は約40%で、これは半数以上の特許が10年を待たずに放棄されていることを示している。
2011年~2012年の2年間で、89件の特許の独占的ライセンス義務や譲渡契約が結ばれ、契約金合計は約1億1500万元(約18億円)だった。
2010年~2012年の3年間の清華大学の特許取得件数が、3167件(2010年832件,2011年1137件,2012年1198件[1])だったことと比べると、実施率はさほど高くない。
中国の知的財産権局(中国特許庁)が発表した2011年特許権実施登録統計データに基づいて、その合計件数と構造の観点から大学の特許実施件数の現状や特徴について分析を行った。以下はその研究結果の概要である[4]。
4、大学保有の特許権の実施を分析する
2008年まで中国の大学では、ほとんど特許の契約登録はなかった。2008年から中国の大学の特許実施登録件数は明らかに増加し、2011年にはすでに1359件に上っている。2011年の大学登録の特許権の実施には、中国の222大学が関係している。
主に特選許可の形式で国内企業に使用されているが、特許は1202件、実用新案130件、意匠は0カウントになっている。しかもほとんどが化学(有機化学、高分子)や物理の方法や器具 (測量、試験)の領域に集中し、主に新規性を認められて取得した特許だった。
しかも、出願件数の多い大学が必ずしも権利取得の多い大学ではなかった。2011年度の特許取得ランキングの上位3位は浙江大学、清華大学、東南大学だった。
2011年度の特許権利の実施件数が最も多かったのは、華南理工大学、江南大学、天津大学で、浙江大学は第5位、清華大学は第12位、東南大学は第18位だった。このほか、特許権の実施を得ている大学は特許で優位性のある省や区に集中している。(その2へつづく)
[1] データは『中国国家知識産権局2012年年度報告』および『国家知識産権局専利業務及総合管理統計月報-201307』より。
[2] 苗小郁 高東輝 韓冰冰 劉長青 林学峰「高校専利申請量及法律状態分析----以北京市"211工程"院校為例(大学特許出願係数と法制上の分析----北京市"211 工程 "大学院を例に)」『中国高校科技』2013年第4期
[3] 『経済日報』2011年08月24日「高校専利転化率為何低于5%(大学特許実用化率はなぜ5%以下なのか)」
[4] 譚竜 劉雲 侯媛媛「我国高校専利実施許可的実証分析及啓示(中国の大学の特許実施許可の実証分析および啓示)」『研究与発展管理』2013年第3期