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【13-028】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(Ⅶ)

2013年11月13日

金 振

金 振(JIN Zhen):公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動・エネルギーエリア研究員

 1976年、中国吉林省生まれ。 1999年、中国東北師範大学卒業。2000年、日本留学。2004年、大 阪教育大学大学院教育法学修士。2006年、京都大学大学院法学修士。2009年、京 都大学大学院法学博士。2009年、電力中央研究所協力研究員。2012年、地球環境戦略研究機関特任研究員。2013年4月より現職。

4.大気汚染防止関連政策

 今年9月に発表した「大気汚染防止行動計画 2013年-2017年(国発[2013]37号)」(以下、行動計画)と「京津冀(北京・天津・河北)および周辺地区の大気汚染防止行動計画を実施するための細則(環発[2013]104号)」(以下、行動細則)には、様々なPM10・PM2.5対策が盛り込まれている。その中で、特に注目を引く政策の1つが、石炭消費絶対量削減政策(以下、本規制)である。

(2) 石炭消費絶対量の削減

 行動計画および行動細則は、北京市、天津市、河北省、山東省の4つの地域に対し、2012年の石炭消費量を基準に、2017年まで計8,300万トンの石炭消費量の削減義務を課した(表1)。

表1 削減目標値、2017年石炭消費量(2011年消費量に基づく推定値)

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典拠:国家統計局「大気汚染行動計画」(2013年9月発表)に基づき筆者作成

 本規制の導入によって、上記4つの地域における2013年度からの年間石炭消費量は2012年度消費量を超えることは許されず、更に、2017年まで更なる絶対量削減が求められる。例えば、1,300万トンの削減義務が課されている北京市の場合、2012年度の石炭消費量は2,300万トン前後であるため、2017年に許される年間石炭消費量は1,000万トンになり、削減率は‐56.5%に相当する。全体的に見た場合、4地域における8,300万トン削減目標の達成は、2012年比‐10.4%の削減に当たるものであり、当初予定していた石炭消費量増加分まで吟味した場合、2~3割の削減につながる計算になる。今後、このような削減義務は他のメガシティに対しても順次課される予定である。

 周知の通り、中国第12次5ヵ年計画(2011年~2015年)上の省エネ目標は原単位目標であるため、ほとんどの地域におけるエネルギー計画は石炭も含め消費全体量が増える前提で作られたものである。図1に見るように、省エネ原単位削減政策が強化された2006年以降においても、北京市以外の地域における石炭消費量は継続的に増加しており、特に山東省の場合、この10年間で3倍ほど増えた。

図1 4地域における過去10年間の石炭消費量

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典拠:国家統計局データベース「北京市2013-2017年加快压减燃煤和清洁能源建设工作方案」
に基づき筆者作成

 大気汚染対策の観点から導入された今回の規制制度によって、各地方政府は、既存のエネルギー計画の修正を強いられることになる。しかし、それは容易なことではない。表2が示すように、中国の石炭依存度は、30年以上も70%台を維持している。今回の規制は、数十年に渡って形成された石炭中心の経済構造、産業構造、エネルギー供給体制の変革を経ずに達成することは難しい。これは、中国の大気汚染政策体系をより複層的なものにしている。

図2 中国のエネルギー消費総量の構成(1990年~2012年)

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典拠:中国エネルギー統計(2011年版)に基づき筆者作成

 昨今、北京市は1,300万トン削減義務を実現するための具体策が盛り込まれた「北京市2013-2017年加快压减燃煤和清洁能源建设工作方案(北京市2013年‐2017年石炭消費削減およびクリーンエネルギー導入促進に関する方案)」(以下、北京市方案)を発表した。詳細は節を改めて紹介するとし、ここでは简单な紹介に留める。

 北京方案の特徴は、政策分野ごとの削減目標が明確に掲げ、更にそれを年度目標レベルまで細分化しているところにある。言い換えれば、計画性の高さである。

 また、計画に含まれた政策分野が多岐に渡っている点も特徴の一つである。具体策には、ボイラ設備の天然ガス化(石炭利用禁止)、火力発電所の閉鎖および天然ガス発電への転換、石炭消費量の多い業種に対する生産設備容量規制、家庭部門における石炭利用の禁止および天然ガスの導入、地域電源構成における新エネ割合の引き上げ、低品質石炭(硫黄含有量が高い等)の利用・流通規制などの強制措置のほか、天然ガス普及策としてのインフラ・設備補助金制度や発電コスト上昇に対応するための電気料金改革も含まれている。

 特に、地域電力供給計画に関する見直し政策が興味深い。北京市は、今後、新規発電所の建設は原則認めず、2017年まで、地域内における発電容量を1,100万kWまで抑制し、不足分の電力を調達するための地域外電力依存度を70%以上に引き上げる方針を打ち出した。また、外部電源の調達に必要な送電能力を2,800万kWまで高める。