【25-08】中国大学ランキング2025から見る"学術大国"の現在地
松田侑奈(JSTアジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2025年07月04日
中国国内において高等教育機関の評価で最も権威があるとされる「上海軟科」が、2025年の中国大学ランキングを4月に発表した。今回のランキングでは全国589の本科大学が対象となり、TOP30の大学は下記表のようになった。
出典:上海軟科(来源:软科) 大学名をクリックすると各大学の詳細な情報が見られます。 |
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順位 | 大学名 | 所在地 | 種類 | スコア | 2024年順位との比較 |
1 | 清華大学 | 北京 | 総合 | 1076.1 | |
2 | 北京大学 | 北京 | 総合 | 1027.7 | |
3 | 浙江大学 | 浙江 | 総合 | 868.9 | |
4 | 上海交通大学 | 上海 | 総合 | 851.7 | |
5 | 復旦大学 | 上海 | 総合 | 788.4 | |
6 | 南京大学 | 江蘇 | 総合 | 707.8 | |
7 | 中国科学技術大学 | 安徽 | 理工 | 637 | |
8 | 武漢大学 | 湖北 | 総合 | 629.2 | ▼1 |
9 | 華中科技大学 | 湖北 | 総合 | 628.9 | ▲1 |
10 | 西安交通大学 | 陝西 | 総合 | 598.5 | |
11 | 北京航空航天大学 | 北京 | 理工 | 585.4 | ▼1 |
12 | 中山大学 | 広東 | 総合 | 585.2 | ▲1 |
13 | 北京理工大学 | 北京 | 理工 | 582.4 | ▼1 |
14 | ハルビン工業大学 | 黒竜江 | 理工 | 576.4 | ▼2 |
15 | 四川大学 | 四川 | 総合 | 576.3 | |
16 | 東南大学 | 江蘇 | 総合 | 575 | ▲3 |
17 | 中国人民大学 | 北京 | 総合 | 558 | ▼1 |
18 | 同済大学 | 上海 | 総合 | 547.7 | ▲1 |
19 | 北京師範大学 | 北京 | 教育 | 543.8 | |
20 | 天津大学 | 天津 | 理工 | 528.5 | |
21 | 西北工業大学 | 陝西 | 理工 | 513.7 | ▼2 |
22 | 山東大学 | 山東 | 総合 | 513.4 | |
23 | 南開大学 | 天津 | 総合 | 512.2 | ▲2 |
24 | アモイ大学 | 福建 | 総合 | 504.8 | |
25 | 中国農業大学 | 北京 | 農業 | 499.2 | ▼2 |
26 | 吉林大学 | 吉林 | 総合 | 486 | |
27 | 中南大学 | 湖南 | 総合 | 485.3 | ▲2 |
28 | 大連理工大学 | 遼寧 | 理工 | 469.5 | |
29 | 湖南大学 | 湖南 | 総合 | 466.4 | ▼3 |
30 | 華東師範大学 | 上海 | 教育 | 460.1 | ▲1 |
一、清華・北京・浙江の三強体制続く
1位は清華大学、2位は北京大学、3位は浙江大学と、今年も不動の三強体制が続いている。清華大学は、中国では「理工系の王者」とされ、工学・情報科学・環境・建築などに強みを持つ。総合大学である北京大学は、特に人文・社会科学、法学、医学、哲学などの分野で強く、清華大学とは異なる学術的地位を築いている。杭州に本拠を置く浙江大学は、理学・農学・医学・情報などのバランスがよく、中国企業との産学連携も非常に盛んで、実学と研究を両立したモデル大学とされている。
この3つの大学は、いずれも教育・研究両面で国家的な支援を受ける双一流大学であり、集中的な投資と政策的優遇がなされている。全国トップレベルの入試偏差値により、優秀な学生が自然と集まる構造も膨大な人材プール確保にプラスに働いている。また、QSやTHEなどの海外ランキングでも高評価を受けており、外部資金や共同研究の誘引力が高いと言える。立地的にも恵まれているが、北京・杭州といった行政・経済の中心地に位置しており、企業や研究機関との連携が容易で、中国の高等教育界を牽引する存在となっている。
二、上海の大学も全国上位に食い込む
上海の大学の存在感にも注目したい。前年度と同様に、上海交通大学が4位、復旦大学が5位と、上海の大学が上位を占めている。上海は中国の経済・文化・研究開発の中心地として、豊富な資源と国際性を背景にした高等教育の質の高さを保っている。単科系大学でも上海は強みを見せており、上海財経大学(財経系1位)、上海体育大学(体育系1位)、上海中医学大学(中医学系2位)、上海外国語大学(語学系2位)、上海政法大学(政法系2位)など、分野別ランキングでも多数の大学が全国上位に入っている。
三、評価指標も進化:より多角的な大学力の可視化
大学における教育の充実度をより多面的かつ包括的に評価するため、2025年版では、評価指標体系が大きく変わった。今回の改訂では、従来の枠組みにとどまらず、専攻教育の実践力や講師の実力、そして評価の妥当性を高めるための技術的調整など、複数の面において改善が図られている。
まず、国際学術誌の編集委員としての登用実績、国家重点実験室との連携状況、大学院生の国際共同指導の実績、単科系大学(中医学、体育、芸術など)の独立評価、といった要素が新たに組み込まれ、「総合力」だけでなく「専門力」や「国際力」も重視する評価へと進化している。
そして、専攻教育の実践力に関する指標として、「全国大学教員教育コンペティション」や「全国大学生コンペティション」といった教育・学習における競技大会の成果を新たに評価項目として導入した。これにより、大学の教育指導力や人材育成能力といった実践的な側面を、コンテストという具体的な成果を通じて可視化できるようになった。
次に、学問への支援強度に関する評価指標においては、これまで主に「学部レベルの学科(一級学科)」が評価の対象となっていたが、今回初めて「専門職学位カテゴリー」も評価対象として組み込まれた。これにより、特定の専攻に対する学問的・制度的な支援力をより多面的に評価できるようになり、専攻ランキングの精度が高まった。
さらに、スコア算出方法も変わり、専攻教育の実践力に関する評価項目スコアの上限値を設定する手法が導入された。これにより、特定の指標が総合スコアに過剰な影響を与えることを防ぎ、ランキング全体としてバランスの取れた合理的な評価構造が実現している。改善の結果、2025年版の評価指標の変数の数は、前年と比べて41項目増加し、より多角的かつ実態に即した大学教育力の可視化が可能となった。
四、中国大学ランキングから読み解く教育トレンド
今回の中国大学ランキングから読み取れる教育トレンドは、研究志向の深化、国際化の加速、そして大学間の個性化・多様化の進展である。清華大学や北京大学といったトップ校の存在感は依然として揺るがないが、同時に、地方大学や新設型国際大学の成長が鮮明になりつつある。
地方重点大学の台頭は、地域振興政策や地方政府の高等教育投資が実を結び始めていることの証左でもある。海南大学のように、わずか1年で10ランク以上上昇した大学もあり、中堅・準トップ層の競争が一層激化していることがうかがえる。こうした動きは、単に研究力の向上だけでなく、教育改革、産学連携、国際協力といった複合的な努力の成果といえる。
国際化の面でも注目すべき変化が見られる。中外合作大学のひとつである上海ニューヨーク大学のように、外国の大学と共同で設立された教育機関が、一般の中国国内大学と比肩するレベルにまで評価を高めてきている。非双一流大学がここまで順位を上げてきた点は、大いに評価できる。これは、従来の「双一流」大学とは異なるアプローチから、中国高等教育の国際的競争力を高める新たなモデルとなる可能性を示している。中国の「双一流」大学は、政府主導で選定された一流大学および一流学科の建設を目指す国家プロジェクトであり、国際的競争力のある研究型大学の育成を主な目的としている。このアプローチは、限られたトップ大学に対して資源を集中投入し、論文数や国際ランキング、国家研究プロジェクトへの貢献といった明確な指標に基づく評価を重視する点に特徴がある。また、重点分野としてAIや量子技術、バイオテクノロジーなど国家戦略に直結する学科が選ばれ、これらの分野における国際的な先進性を確保することが重視されてきた。しかし、こうした「双一流」モデルは、研究成果やランキング重視のあまり、教育の多様性や実務的な人材育成との乖離を招くといった副作用も指摘されている。特に、地方大学や応用型大学との格差拡大が顕在化しつつある中で、画一的な評価軸では測れない新たな競争力モデルの必要性が浮上している。そのような状況の中、従来の「双一流」とは異なるアプローチを取る大学群、たとえば海南大学のような地方重点大学が注目されている。これらの大学は、地域の特色ある産業や資源と連携した学科強化、実務重視の教育体制、国際的なパートナーシップの形成などを通じて、新たな形の国際競争力を模索している。こうした動きは、中国の高等教育が今後多元的かつ持続可能な発展を遂げる上で、一つの有力なモデルとなる可能性を示している。
また、ランキング上位校に共通して見られるのは、研究成果の質の高さと、教育と研究の一体化を志向する学内改革の徹底である。大学自身が「教育機関」から「知の創造拠点」へと進化しており、これに呼応する形で、教育行政や評価機関の指標体系もより多元的かつ実証的なものへと変わりつつある。
中国政府は2035年までに世界一流の大学・学科を数多く育成するという国家戦略を掲げており、今後は地方・国際・実践志向といった多様な方向性を持つ大学が、それぞれの強みを活かしてランキング上でも台頭してくることが予想される。その意味で、ランキングは単なる順位付けにとどまらず、中国高等教育の発展戦略そのものを映し出す鏡ともいえる。今後の動向を注視することは、アジア全体の高等教育の潮流を読み解くうえでも極めて重要である。
参考資料
- 上海软科「2025 中国大学排名」
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