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【25-057】仮想発電所、「見える化」から「有効活用」段階へ(その2)

韓 栄(科技日報記者) 2025年06月24日

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安徽省の蕪湖市仮想発電所監視センターで、ユーザーの電力リソースをモニタリングするスタッフ。(肖本祥/視覚中国)

中国各地の地方政府と関連企業は近年、仮想発電所(VPP)の建設を積極的に模索しており、広東省や山東省、山西省などでは比較的早期からVPPの発展がみられる。しかし、中国全体で見ると、VPPの建設はまだ初期段階にあり、VPPの定義や機能の位置付けに関する共通認識が形成されておらず、発展に対応する管理体制や市場メカニズム、標準体系なども未整備の部分が多い。

その1 よりつづき)

 山西省は、中国におけるエネルギー改革のモデル地域に指定されている。2022年、同省エネルギー局は「VPP建設・運営管理実施計画」を打ち出し、「時間帯別料金」と「利益分配」を組み合わせた市場化メカニズムを構築した。これにより、分散して存在する充電ポールや大口電力消費者をスマートエネルギーネットワークとして結び付け、「ゼロカーボン調整」という革新的なモデルの確立を模索している。

 国網山西省電力公司の最新データによると、2025年4月24日時点で、山西省の電力市場に参入しているVPPの統合ユーザー数は122に達し、統合された電力容量は202万9800キロワット(kW)、可制御負荷は最大で26万4300kWとなっている。2023年9月1日に山西省でVPPの市場取引が始まって以来、VPPは15分間隔の取引を19カ月にわたって継続しており、取引電力量は累計5億7100万キロワット時(kWh)、総利益は465万6100元(1元=約20円)となっている。

 VPPの建設は一定の成果を上げているものの、依然として初期段階にあり、「見える化」から「有効活用」へ進むには、なお多くの課題が残されている。

 1つ目は「標準」に関する問題だ。太原科技大学電子信息工程学院の何俊強副教授は「VPPは今後、市場メカニズムの整備、標準規格の統一、調整・連携システムの明確化が求められるようになる」と指摘する。

 2つ目は技術面の問題だ。北京市社会科学院の王鵬副研究員は以前、取材に対し、「VPPの建設は技術面で大量のデータ収集・伝送・処理が伴うため、情報技術やサイバーセキュリティの体系を整備して、システムの安定した運営とデータの安全性を確保する必要がある。また、負荷予測やエネルギー計画、運営管理といった技術的課題にも対応し、信頼性、柔軟性、経済性を兼ね備えることが求められる。このほか、リソース統合の面では、VPPには再生可能エネルギーやエネルギー貯蔵設備といった分散型エネルギーリソースの統合が必要で、そのためには効果的な資源統合メカニズムを構築し、資源配置の最適化と効率的な利用を実現することが不可欠になる」と説明していた。

 3つ目は、ビジネスモデルの問題だ。一部のVPP運営事業者は、事業の収支均衡を達成できておらず、関連事業は依然として補助金や電力販売事業など他の部門の支援に依存している。

商業化実現の新たなチャンスが到来

 国網エネルギー研究院有限公司の上級研究員であり、VPP研究チーム責任者の呉瀟雨氏は、中国国家発展・改革委員会と国家エネルギー局がこのほど発表した「仮想発電所の発展を加速させるための指導意見」(以下「意見」)について、「VPP発展に新たなチャンスをもたらす」との見方を示した。

「意見」では明確な発展目標が掲げられている。2027年までに、VPPの建設・運営・管理メカニズムを成熟させて規範化し、電力市場への参入メカニズムを整備するとともに、中国国内のVPP調節能力を2000万kW以上に引き上げることを目指す。さらに、2030年までには、VPPの応用範囲を一層拡大し、多様なビジネスモデルの革新的な発展を促し、VPP調節能力を5000万kW以上にまで拡大させるとしている。

 国家エネルギー局の関係者は、「『意見』は各地域に対し、地域の実情に応じたVPPの発展計画を策定することを求めている。VPPの担い手の育成を加速させ、公平な電力市場への参入やデマンドレスポンスを通じて、総合エネルギーサービスを展開し、収益源の拡大を図るよう促している」と述べた。

 山西大学電力・建築学院電力工程系の閆来清主任は、「『意見』はVPPの商業化を加速させる上で有効であり、新エネルギーの受け入れに伴う課題の解決や電力システムの柔軟性向上に貢献する。さらに、ピーク調整や電力取引への参入機会を創出し、収益モデルの多元化を後押しする」との見解を語った。

 太原科技大学電子信息工程学院の何俊強副教授は、「『意見』は民間企業によるVPPの投資開発および運営管理への積極的な参加を強く支持している。これは、従来の電力分野における投資の壁を打ち破り、エネルギー投資の構造を多様化する上でプラスになる」との見方を示した。

 閆氏は、VPPが今後さらに発展するためには、以下の3つの側面での発展が必要だと指摘する。技術面では、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)を活用して、秒単位の応答と高精度の調整を実現し、分散型電源やエネルギー貯蔵施設、可制御負荷の深い統合を推進する。利用シーンの面では、現在の工業・商業用途から、コミュニティマイクログリッド、電動自動車クラスターなどの新たな分野に広げ、『電源・電力網・負荷・エネルギー貯蔵』の一体的かつ協調的なシステムを形成する。制度面では、ブロックチェーン技術を活用して分散型の取引プラットフォームを構築し、電力スポット取引、炭素取引、補助サービスなどの多様なビジネスモデルを革新する。その上で「あらゆる要素が接続され、あらゆる場面で調整され、すべての市場が連携する」エネルギー・インターネットのエコシステムを最終的に実現することが必要だとした。

 さらに閆氏は「『意見』の発表によって、VPPが試験的な段階からエネルギーシステムの中心的な存在へと移行する道が開かれた。これにより、将来の発展に対する期待がさらに高まった」と語った。


※本稿は、科技日報「虚拟电厂:从"看得见"走向"用得好"」(2025年4月29日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

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