第155号
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中国が推し進める社会信用システムとは

2019年8月5日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より、中国では雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のインターネット史: ワールドワイドウェブからの独立( 星海社新書)」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち(ソフトバンク新書)」など。

 中国で話題になる「信用」には、「信用スコア」と、「社会信用体系」(社会信用システム)がある。この2つは異なるものだ。

 中国の「信用スコア」とは、各人の信用付けを、各人の個人情報や光熱費や商品の支払いなどから信用を点数化して、点数の高い信用できる人に特別なサービスを与えるクレジットカードのようなものだ。その代表がアントフィナンシャルのアリペイ(支付宝)にある「芝麻信用」である。信用スコアが上がれば上がるほど、シェアサイクルや商品のレンタルや中古買取や借金などで様々な優遇が得られるが、これはクレジットカードにおいても一般カードよりゴールドカード、ゴールドカードよりプラチナカードやブラックカードが様々な優遇を受けられるのと同じことだ。信用スコアにおいて借りたものを返さないとスコアが大幅に下がるが、これもまたクレジットカード支払いができないとクレジットカードが発行されなくなるのと同じ道理である。信用スコアに関しては、芝麻信用などにおいて、芝麻信用内にとどまらず、データを中央銀行である中国人民銀行の信用システムに受け渡すとされている。

 一方社会信用体系は、中国政府発展改革委員会による、各地方政府が収集した、行政処罰、司法判決、社会保険料納入情報、交通違反情報などが集まった「全国信用信息共享平台」(中国全国信用情報シェアプラットフォーム)を活用したものだ。借金踏み倒しなどの悪事をすると信用スコアでなく社会信用体系に登録されて、「悪いことをして乗り物に乗れなくなった」「借金を踏み倒したら町中にさらされた」といったニュースが出てくる。つまりは社会信用体系が稼働し、情報は収集されているが、一方で各地方各省庁が連携して漏れなくデータを集め、中央に情報を提供し活用していかねばならず、社会信用システムは完成されていない。ただ徐々に情報収集できるようにシステムが構築されていることから、社会信用システムが収集した「信用失墜情報」については指数関数的に増えている。

 2019年6月12日付の政府サイト「中国政府網」で、国務院常務会議で論議された社会信用体系についての記事においては、「統一社会信用コードを活用した、権威的で統一された検索可能な信用記録を構築し、異なる部署の提携が可能になるようにシステム構築を急ぎ進める。信用が失墜したとしてブラックリスト入りした対処に対しては、あらゆる部門が懲戒を行い、またビッグデータを活用して信用がない行為の早期発見による処置を行うことを要求した」としている。言い換えれば、各省に対して、標準化を進め、異なる部署でも信用情報が検索され、全ての部署が協力をし、悪事に対して漏れがないようなシステムを構築していく。現状のところまだ各地の部署で社会信用体系のためのシステム構築が不十分であり、漏れがあり、異なる部署間の連携が不十分であるようだ。

 2019年7月には国務院が社会信用体系について意見をまとめた「関于加快推進社会信用体系建設構建以信用為基礎的新型監管机制的指導意見」を発表した。

 信用状況が良い場合、信用スコアが高い時と同様に、利点が発生する。具体的には信用されているからこそ、事業に必要な行政手続き時を事後に行うことができ、手続き時間を短くしたり、抜き打ち審査を減らすことができる。

 逆に信用を失墜する行為を行った場合、厳しく管理され罰せられることになる。またどの企業の誰がどんなことをしたかについて信用を落とした具体的な内容が統一された全国信用信息共享平台に記録されることになる。この信用を失う行為がひどい場合は、飛行機や高速鉄道に乗れなくなったり、株発行や投融資を募ることができなくなったり、税制優遇が受けられなくなったりする。

 信用の失墜というと、借金の踏み倒しなどの例があがるが、この「意見」においては、食品や医薬品、バイオ、安全生産、老人・幼児向け施設といった、人々の生命や財産に直接影響与える産業で信用を失墜した行為に対して厳しく対処するとしている。懲罰は、状況により、一定期間あるいは永久にその業界への参入ができなくなるという措置が与えられる。

 この「意見」においても6月の「中国政府網」の記事同様に、各地域の各部門がシステム構築をすることを進めること、またビッグデータやAIなどを活用してよりスマートに企業などの信用を分析することなどが書かれている。さらに経営者に向けては信用について講義を行い、法律知識や信用について理解を促進するとしている。

 さて、7月にもうひとつ信用に関する政府部門の発表があったので紹介する。中国のインターネットに関する政府部門「国家互聯網信息弁公室」が、担当するインターネット業界の信用管理ルールのドラフト「互聯網信息服務厳重失信主体信用信息管理方法(征求意見稿)」を発表した。インターネットに限ってもう少し具体的に記されている。

 まず第二条で、対象は組織と個人を問わないとしている。ただし未成年には適応されない。第三条では信用失墜リストの情報について、国家互聯網信息弁公室が中国全土の情報を管理し、加えて各省市単位の互聯網信息弁公室が各地域限定の情報を管理するとしている。

 第四条は、インターネットで何をしたら信用が下がり、ブラックリスト入りするかが書かれている。具体的には、道徳に反する情報の伝播や、ネットワーク空間の秩序を乱す行為、社会の公共利益や人々の合法権益に損害を与える行為があがる。またサイト・サービス運営者については法律法規に違反するコンテンツ管理をしてサイトが閉鎖された場合、あるいは行政指導を受けながらサイトに改善が見られない場合もまたブラックリスト入りである。さらに法律法規の規定に違反した、信用を失う行為もブラックリスト入りする場合がある。

 第九条ではブラックリストとして記録される内容が定義されている。法人の場合は法人の名称・統一社会信用コード・代表人・直接の信用を下げた人のリストとその人の身分証番号、個人であれば氏名および身分証番号となる。第十一条では、ブラック入りスト入りは3年で、この期間に何も発生しなければブラックリストから除外されるが、暴力や威嚇行為の場合、1~3年延長されるとある。第十三条では、インターネットプロバイダーやユーザーが、公安、人民銀行、テレビ、新聞出版部門、司法機関から信用を失ったと認定した場合は、利用できるネットサービスが制限されるとしている。

 中国でインターネットを利用する個人にも適応される可能性があるため、身近な話に感じられるかもしれない。このインターネットに限定した信用ルールから、中国全体の信用ルールをイメージできれば幸いである。

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