第147号
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中国の子供の情報機器環境は10年で激変。格差も小さく

2018年12月25日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身、42歳。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より、中国では雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コ ンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のインターネット史: ワールドワイドウェブからの独立( 星海社新書)」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち(ソフトバンク新書)」など。

 様々な社会環境が変化する中国において、子供をめぐる環境は、1990年代生まれの「90后」の子供の頃と、2000年代生まれの「00后」の子供の頃で異なるのか。言い換えれば10年で中国の子供が育つ環境はどう変わっていったか。そうした疑問に答える調査レポート「中国少年児童発展状況調査報告」が中国青少年研究中心から発表された。

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「従90后到00后中国少年児童発展状況調査報告」

 このレポートは中国青少年研究中心が2005年と2010年と2015年の三回にわたって当時の子供を対象にした調査結果を比較したもので、2015年の調査については、沿岸部から内陸部まで複数の省市の小学4年から中学3年までの9,360人を対象にし、都市部と農村部、男子と女子、一人っ子とそうでない子の割合をおおよそ半数となるようにしている。

 同レポートでは、子供の学校生活、子供の価値観、子供とお金、子供と休み、子供とメディア、子供の心理の変化、子供と親子関係などについて触れている。その中でこの10年間で「所得の変化」と、「スマートフォンによる情報社会に関係する変化」が子供の世代に対しても顕著にみられた。もちろん先生に対する考え方や、幸せの指標などについても、5年10年で回答結果に10%程度の差異は見られた。例えば「博士になりたい子供・子供を博士にさせたい親が10年前に比べて15%前後減少」「子供の幸福についての質問で、事業の成功や、社会貢献が10%前後減少し、心を知れた友人をもつことが7%増加」「自分の容貌・健康状態・性格・学習状況に満足な子供が10年前より10%前後多い」「10年前に比べてマイナス思考が強い」といったことが挙げられる。

 具体的に情報化や所得の増大でどれだけ子供の環境は変わったのか。

 所得の変化に関して、お年玉については、2005年の段階では7割が500元(約8000円)未満だったが、2015年には2,000元(約32,000円)未満が7割となっていて、2,000~5,000元(約32,000~8万円)も23.1%、5,000元(約8万円)以上も10.4%と、高額のお年玉をもらう子供も珍しくなくなっている。また普段所有する小銭についても、2005年には4分の3が5元(約80円)以下だったのに対し、2015年には20元(約320円)以下が4分の3となっている。所有する小銭が10年で大幅増となったことから、子供が毎週消費する金額についても比例して大幅増となったが、一方で現在の子供のお金については「貯金する」という回答が増加、「寄付や援助をする」という回答が減少という動きも見られた。

表1「2000年代生まれが毎週使うお小遣い額」に関するデータ
    なし 1~
4.99元
5~
9.99元
10~
19.99元
20~
29.99元
30~
39.99元
40~
49.99元
50~
99.99元
100元
以上
性别 男子 10.4 8.4 12.7 21.2 13.0 7.2 2.4 12.7 11.9
女子 7.1 8.3 16.4 23.3 14.4 6.7 2.0 11.3 10.5
学年 小学生 10.4 11.8 19.2 25.5 11.5 5.6 1.7 7.1 7.2
中学生 6.8 4.5 9.4 18.7 16.4 8.5 2.7 17.3 15.7
一人っ子 はい 10.9 7.5 13.5 20.8 13.8 6.7 2.0 12.2 12.7
いいえ 6.5 9.3 15.8 23.7 13.6 7.2 2.4 11.7 9.9
家庭経済
状況
裕福 9.3 7.1 12.4 20.7 12.3 5.9 1.9 11.6 18.7
一般 8.2 8.4 14.8 23.0 14.1 7.4 2.2 12.3 9.5
生活困難 12.1 2.3 19.9 23.1 13.8 3.3 1.6 7.2 7.7
都市or
農村
都市 11.0 7.9 13.8 21.1 13.8 6.9 2.2 11.7 12.0
農村 6.5 9.0 15.5 23.5 13.7 7.0 2.1 12.2 10.5
地域 東部 10.9 8.2 12.7 21.9 12.2 6.5 2.0 12.0 13.7
中部 7.5 8.0 15.5 23.8 15.6 6.2 2.0 11.1 10.2
西部 5.9 9.1 17.0 22.0 15.0 8.0 2.6 12.3 8.0

 情報化については、2005年と2015年を比べると、「情報機器を持ってない」という回答が25.9%から11.3%へと減少する一方、「携帯電話・スマートフォンを所有している」という回答が8.0%から64.6%へ、「パソコンを所有している」という回答が9.7%から29.1%へと増加した。パソコンは2005年当時に比べ、スペック(性能)が上がっているのは当然のこと、所得が上昇する一方で価格が低下し買いやすくなっている。とはいえ所得の上昇に対して何でも所有率が高まっているというわけではなく、電子辞書の保有率は2005年・2015年ともに約15%、学習機と呼ばれる学習用コンピューターも2005年・2015年ともに50%台前半であり、ほぼ変わっていない。

 つまり子供にとってのスマートフォンやパソコンの重要性が変わってきたといっていい。休みの時間にネットを楽しむと回答したのは12.7%から33.4%へと大幅に上昇したし、友人や学校のクラスの連絡にはスマートフォンによる微信(WeChat)が必要となっている学校が増え、また宿題にはネットを活用しないと難しいものが増えている。さらに宿題を解くための、家庭学習のためのアプリも増えている。スマートフォンを使ってもいい、ではなく、スマートフォン無しではいられない状況に変わっている。2018年現在は子供のスマートフォン所有率はさらに高まっているであろう。

 2015年において、所有する最も高価な情報機器の価格帯は「500~999元(20.2%)」「1,000~1999元(17.6%)」「2,000~2,999元(14.0%)」が最も多い一方、5,000元以上も12.1%、500元未満も21.0%いる。この500~3,000元というのはAndroid搭載スマートフォンの価格帯(低価格機は3桁後半、高価格機は2,000元台後半)であり、5,000元以上はiPhoneやiPad、500元未満は安価な音楽や動画再生機能も付いた電子辞書や学習機と予想できる。なお富裕層の家族の4人に1人が5,000元以上の情報機器を所有している。製品別ではデジカメやデジタルビデオカメラの所有率が若干増えているが、そうしたものを含め新しい変わった製品は、所得に余裕のある富裕層の子供だけが所有している、と同レポートは分析する。

表2「2000年代生まれが所有する最も高価な情報機器」に関するデータ
    <500元 500~
999元
1000~
1999元
2000~
2999元
3000~
3999元
4000~
4999元

5000元
性别 男子 23.5 19.1 16.6 13.3 9.4 5.6 12.5
女子 18.6 21.3 18.6 14.6 9.7 5.4 11.7
学年 小学生 22.9 18.9 16.7 13.6 10.2 5.2 12.7
中学生 19.2 21.7 18.7 14.3 8.8 5.9 11.4
一人っ子 はい 18.0 16.8 18.2 15.2 11.3 6.4 13.8
いいえ 24.3 23.6 17.0 12.6 7.9 4.6 10.3
家庭経済
状況
裕福 15.8 12.7 13.7 13.9 11.9 8.7 23.5
一般 21.5 21.2 19.1 14.5 8.9 5.0 9.7
生活困難 32.0 32.6 13.2 10.3 4.9 1.8 5.2
都市or
農村
都市 17.9 18.9 17.0 14.3 10.5 6.4 15.1
農村 24.0 21.5 18.1 13.7 8.7 4.6 9.3
地域 東部 17.1 20.2 18.0 14.0 11.0 5.9 13.7
中部 19.1 16.4 16.4 14.6 10.2 7.1 16.2
西部 28.1 22.3 17.6 13.7 6.9 4.0 7.5

 通信費について、2010年と2015年を比べると大きな違いが見られる。「通信費を払っていない=データ通信を利用していない」という子供の割合は2010年の67.1%から2015年の31.7%へと減少した。また通信費を払う人々に限定しても、2015年は2010年よりも高い。一方で都市部と農村部という分け方でみると、2010年は都市部では55.8%が、農村部では79.2%が「通信費を払っていない」としたが、2015年には同質問に対し、都市部では30.1%、農村部では33.2%と差が縮んでいる。2015年では都市部と農村部で支払うデータ通信料金で違いがなくなってきている。

 富裕層が高価な機器を子供に導入するように、貧困層は安価な製品を購入する割合が高く、一人っ子ほど同条件において高価な電子製品を所有する傾向にある。調査レポートでも「所有する最も高価な情報機器」について、農村部は2,000元未満が多くを占める一方、都市部は2,000元以上が多くを占める、とある。スペック面では都市部のリッチな家庭の子供は高性能なスマートフォンを所有し、農村部は安価なとりあえず動く程度のスマートフォンを所有するという差はあろう。とはいえ、10年前は農村部では子供が情報機器を持てなかったが、今は安いものではあるが持てるようになっているのが違いとなっているわけだ。

 つまり都市部と農村部でデジタルネイティブ化に差があるかという疑問については、あるにはあるが近年大幅にその差は縮小しているといっていいだろう。

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