第135号
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ゲームやアニメなどの文化産業に関する中国五か年計画を読み解く

2017年12月28日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身、41歳。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より、中国では雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コ ンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のインターネット史: ワールドワイドウェブからの独立( 星海社新書)」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち(ソフトバンク新書)」など。

 中国産のゲームやアニメの存在感が強くなってきた。特に2017年はゲームについて、ターニングポイントとなる年となったであろう。

 これまでも中国産のゲームは広く普及していたが、2015年にリリースされ、2017年に利用者が増えすぎて社会問題にまで進展した騰訊(テンセント)製の「王者栄耀(北米向けタイトル:Arena of Valor)」は、男女問わずビギナーにも遊ばれたことから人々の中で「中国産ゲームは面白い」という印象を確固たるものとした。また日本絡みでいえば、網易(ネットイース)による日本が舞台の「陰陽師」や 、騰訊の「魂斗羅帰来」といった中国向けタイトルが人気タイトルとなった。一方で中国bilibiliによる「碧藍航線(日本名アズールレーン)」や、網易の「荒野行動(英名knives out)」は、日 本で人気となっただけでなく、中国製ゲームの評価があがるきっかけとなった。

 また中国産漫画やアニメに関しても注目されつつある。騰訊傘下のアニメ会社「上海絵界」のアニメブランドのアニメーションブランド「ハオライナーズ」は日本でアニメ「霊剣山」「一人之下」を配信。ま た漫画でも少年ジャンプ系列で「一人之下」「兄に付ける薬はない!」といった中国製コンテンツ連載を開始した。もちろん中国国内においても確実にクオリティがあがり、人気も上がっている。中国漫画やアニメは、日 本産のそれと別に独自のポジションを確立している感を受ける。

 中国がIP(知的財産権)に力を入れ、IPという言葉を展示会などで連呼しはじめ数年が経過する。そうした文化産業やコンテンツ産業に関する政府方針について当記事ではまとめた。

 まず2016年の両会(全人代+全国政協)において発表された「中華人民共和国国民経済和社会発展第13次5か年計画規画綱要」では、文化産業についても記載されている。ご く簡単にいえば数字だけではなく、人々の満足を伴った市場規模の拡大を要求している。

 現在の一つ前の5か年計画となる、第12次五か年計画期間(2011年~2015年)においては、文化産業が国民経済の柱のひとつとなる産業となる過渡期であり、こ の期間内に柱のひとつとなったとしている。そのうえで第13次五か年計画期間(2016~2020年)において、「社会公益だけでなく、経済利益も考慮し、文化産業の改革発展をすすめる」「 文化事業と文化産業の両輪で、重大な文化プロジェクトを進め、中国の人々に高揚するような多種多彩な精神の栄養になる高品質な作品を作り出す」と書かれている。そ のために優秀な文化作品の創作や生産をバックアップし、ひいては現代中国の価値観を広げるよう記している。作品制作環境をバックアップしていくだけでなく、サプライサイドの改革や、あ らゆる産業にインターネットを導入し、産業を変えていく「互聯網+(インターネットプラス)」に基づいた他業種との提携も行っていくとしている。

 ここで出てくる「文化事業と文化産業の両輪」という表現だが、「アメリカや日本では関連産業の関連度が高いが中国は低い」としている。つまり単にコンテンツを制作するだけでなく、二 次的なグッズやイベントなどのIPの活用をもっと積極的に行い、経済成長に貢献すべきだというわけだ。なおあまり利用されていないが、インターネットを様々な産業にもたらす「互聯網+(インターネットプラス)」に なぞって「文化+」という言葉でも呼ばれる。

 一方で中国社会科学院の担当者は、「どれだけの映画館で上映され動員されたかといった数字ばかりを結果として出すことを受け入れず、本当にいいものを作り、人々の素養を向上させる」とコメントしている。

 この綱要発表をさかのぼること5年間は、文化産業市場規模はGDPの伸び率よりも高い、毎年約2割の割合で拡大し、2014年にはおよそGDPの3.77%に相当する2兆4000億元(約41兆円)程 度となっている。地域では特に北京、上海、江蘇省、広東省が強い。逆に言えば地域差があり、文化産業が発展していない地域も大いにあるとしている。この地域不均衡の解決を目指すと書いてあるので、つ まりは内陸省でのコンテンツ産業の育成を行っていくのだろう。

 経済的な目標値としては、別に発表された計画「"十三五"国家戦略性新興産業発展規画」において、デジタルコンテンツ産業とその関連産業の市場規模について、2020年までに8兆元(約136兆円)規 模にするとしている。逆算すれば、年率20%以上の急成長をこの5年間で目指すわけだ。

 もうひとつ政府方針について紹介する。担当省庁の中国政府文化部は2017年4月、2016年から2020年までのコンテンツ産業計画を記した「文化部"十三五"時期文化産業発展規画」を発表している。こ れによると2020年までにアニメ産業の市場規模を2500億元(約4兆2500億円)規模に、ゲーム産業の市場規模を3000億元(約5兆1000億円)程度とする目標値がかかれている。

 アニメについては、国際的競争力と影響力があるブランドや企業を育て、3~5の影響力のあるアニメ展示会を開催する。またアニメ産業のエコビジネスをより強化し、業界全体の底上げを行い、人 材育成も積極的に行うとしている。またモバイル向けアニメの業界標準を広め、その新標準にあわせたコンテンツ作成を奨励するとしている。コア技術や素材の共有の強化や、IP市場の育成、前 述した実体経済との融合を推進する。

 ゲームについては、やはり国際的競争力と影響力のあるブランドをつくるとし、中国らしさのある健康的なコンテンツの生産を後押しするとともに、ソフトだけでなく本体ほか、VR(バーチャルリアリティー)や 、eスポーツや、ゲーム動画実況などの周辺産業の発展も促進していく。また文化+のように、ゲーム業界にとどまらず、教育、医療、環境、科学普及など様々な業界との提携も推進していく。

 アニメやゲーム産業については、文化部の該発表の中で、一帯一路の国際提携行動計画について触れている。一帯一路の沿線各国で交流提携プラットフォームを構築し、PRを行い、交流を深め、国 際的なエコシステムを構築するとしている。そのためにも中国の重点企業を育成していくとしている。

 またネットカルチャーにも触れている。ネット音楽、ネット動画、ネット上のパフォーマンス、それにネット芸術でも健康的な発展をしつつ、競争力を持たせようとしている。アニメ・ゲーム・ネ ットカルチャーなど全体で言えることだが、健康的なコンテンツという枠組みをしっかり守り、違法性のあるものを厳しく取り締まるとしている。

 文化部の発表は、2020年までの文化発展計画なので、これ以外の工芸のハイテク化、芸術品取引、中国国内の観光地、伝統芸能などについても触れている。

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