第130号
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第13次五か年計画でのネット産業強化ポイントを読み解く

2017年 7月21日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身、41歳。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より、中国では雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コ ンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のインターネット史: ワールドワイドウェブからの独立(星海社新書)」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち(ソフトバンク新書)」など。

 国務院が2016年12月に発表した、2020年までの中国の情報化の目標を書いた「第13次五か年計画に関する通知」についてより掘り下げて紹介していく。同通知によれば、2020年までに実現する「数字中国」を目指し、情報化について国際的競争力を向上させ、セキュリティについて自国でコントロールできるようにするとしている。後者に関しては、6月より施行された「網絡安全法(ネットワークセキュリティ法)」で実現を進めている。網絡安全法と五か年計画はリンクしていると思っていいだろう。

 同通知で書かれる全体的な目標としては、発展目標の実現のために情報技術領域における独自技術を強化させ、クラウドコンピューティングやエンドユーザーコンピューティングによるセキュアなシステムを目指す。またIC(集積回路)やOSなどのコア部品や基本ソフトの開発、5G(第5世代移動通信システム)技術の研究開発と標準化を進める一方商用化を目指す。さらにクラウドやビッグデータやIoTやモバイルインターネットを名指しし、これらの技術を国際先端レベルまで高めるとしている。

 情報経済について、情報消費規模を6兆元、EC取引総額を38兆元に目標値を設定する。2011年から2015年末までの第12次五か年計画では、EC取引総額は21兆7900億元で世界一の市場となった。これを次の5年で74%拡大する。これを実現するために、重点産業についてデジタル化、ネットワーク化、スマート化を進め、業界の垣根を越えて各部門の情報システムを共有し、公共のデータを企業や公民に提供する。また電子政府を推進し公共サービスを改善し、ネットサービスで貧困撲滅を進めるとしている。

 同通知の主に注力する方向についての項目では、ネットワーク強国戦略、ビッグデータ強化、あらゆる産業でのネット化を進める「インターネット+」、大衆創業、「中国製造2025」を見据えて「業界や地域を超えた協調ある発展」「ネット活用による環境改善」「国際的な提携」「ネット治安の強化」を目指すと書いている。

 前述の「各業界や地域を超えた協調ある発展」では、情報化により中国国内の京津冀一体開発、長江経済帯、西部開発、東北振興、外国との一帯一路の発展を進める。また中国全土でネットによる公共サービスを普及させることにより、公共サービスの格差を減らす。特に、教育、文化、医療、社会保障、住宅保障を挙げている。「ネット活用による環境改善」では、製造の現場において、生産効率改善や、資源利用の高効率化、廃棄物リサイクルのネットワーク化、スマート製造、無公害化、スマート物流の普及を進める。また個人向けには、EC(電子商取引)、Eラーニング、遠隔医療、スマート交通、デジタルホーム、健康サービスなどの普及を推し進める。

 「国際的な提携」については、世界各国とのインターネットの管理体系で提携し、また国を跨いだ提携を行い、世界的なネットワークインフラ構築に積極的に参加するとしている。特に一帯一路参加国・地域でネット政策の交流や、設備導入・貿易・資金面で優遇するとしている。特に香港とマカオについては積極的にネット産業版一帯一路を進めるために、インフラ建設を積極的に行うとしている。その一方で、インターネットの環境は各国が決め管理するというネット主権は譲れないとしている。これは中国が浙江省烏鎮で毎年開催する「インターネット大会」で訴え続けている内容だ。「ネット治安の強化」については、国民へのネットリテラシー強化や、ネット検閲による犯罪防止などを挙げている。

 同通知では重点的に発展させる産業領域やプロジェクトを挙げている。具体的には「4G、5G」「EC」「陸海空一体化情報ネットワークプロジェクト」「農村僻地ブロードバンド改善プロジェクト」「国家統一ビッグデータプロジェクト」「「中国製造2025」に基づいた製造業とネットの発展」「スマート農業の農業生産の改善」「ネット経済創新発展プロジェクト」「政府サービス情報化」「軍民共用の国家ネットワークの建築と軍民技術の双方向の転化」「国際ネットワーク拠点化プロジェクト」「ネットワーク安全観測と応急処理プロジェクト」。補足すると前述の国際ネットワーク拠点化プロジェクトについて、広西が東南アジアへのネットワークの拠点に、寧夏が中東へのネットワークの拠点となるとしている。

 同通知では、一部について2020年とそれ以前の目標を記載している。次世代移動通信システムとなる「5G」などについては、2018年までに5Gの研究とテストを行う一方、5Gとは別にIPv6(インターネットプロトコル バージョン6)の利用普及促進をし、2020年までに5Gのテストを終了し商用化を実現する。中国版GPSこと、衛星測位システム「北斗」は、2018年までに一帯一路沿線と周辺国に基本サービスを提供し、2020年までに35の衛星を打ち上げて軌道に乗せ、世界全体にサービスを提供する。

 応用基礎インフラ建設については、2018年までにクラウドコンピューティングとIoTの開発能力を著しく増強し、エネルギー効率指標「PUE」値を1.5以下に、2020年までにクラウドコンピューティングとIoTで国際競争力ある産業体系を構築し、エネルギー効率指標「PUE」値を1.4以下にし、省エネ化を進める。

 データ資源シェア開放については、2018年までに、公共データをオープン化するための法律法規制度と政策体系をつくりあげ、2020年までに民生保障サービス方面での政府データをオープンにする。政務サービスは、2017年までに80のテスト都市で、部門を跨いだデータ共有を行い、一つの窓口で対応できるようにし、2020年までに中国全土に拡大。サービスをさらに効率化する。

 自然管理について、2018年までに自然生態環観測ネットワークを基本的に完成させ、2020年までにエネルギー利用効率を顕著に高め、無公害化緑化レベルを大幅に上昇させる。

 脱貧困について、2018年までに貧困救済ネットワークサービスを構築し、テスト地区でインフラ・サービス・情報ともにカバーする。2020年までに832の貧困県と12万8000の貧困村にネットワークを拡大。ECサイトのサービスを各貧困地にまで提供する。オンライン教育やオンラインによる文化体験、それにインターネット医療を通して環境を向上し、ひいては農村部のモラルレベル、身体能力、就業能力を向上させる。

 新型スマートシティ建設について、2018年までに100のサンプルとなる新型スマートシティを建設し、2020年までに新型スマート都市で顕著な成功を収める。透明なオンライン地方政府、新しい情報経済。都市管理がより行き届き、安全で信頼できる都市運用体系を構築する。

 国際提携について、2018年までに中東欧、東南アジア、中東と国家情報経済で提携を行い、中国と同一規格、同一設備の導入を促進する。また企業産業においても提携を後押しする。2020年までに一帯一路の国家地区でネット経済で提携し、ネット経済の提携を広い範囲で明確に拡大する。

 ネットカルチャーについて、2018年までにネットカルチャーサービスのプライオリティをあげて、テレビなどの伝統メディアと新興ネットメディアの提携を大幅に増やす。2020年までに有力な新型メディアグループやネットカルチャー企業を養成し、世界へのネットカルチャー輸出量を大幅に増やす。

 Eラーニングについて、2018年までに学校内でのブロードバンドをさらに整備し、教育コンテンツを充実し、個人向け学習管理サービスを普及させる。2020年までにデジタルコンテンツによるEラーニング環境を整え、中国全土にサービスをカバーし、各学校各クラスでクラウドを活用する。ネットと医療の融合は、2018年までにネットサービスによる医療健康サービスの利用勝手を向上させ、2020年までに新型健康情報サービスを普及させる。

 政府は五か年計画の達成に向けて法律の整備、ネット産業領域における標準化の推進、関連する産業への融資、税優遇、人材育成の強化といったサポートを行っていくと同通知で記している。強化ポイントを中心に政府投資が行われるだろう。こうしたサポートは他の産業の五か年計画でも同様の支援体制があり、特別なものではない。