1.ライフサイエンス分野
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1.2 ライフサイエンス分野の現状および動向

(1) ゲノム・機能分子

1)ゲノミクス

 中国は1998年に北京と上海にそれぞれ国家ヒトゲノム研究センターを設置し、翌年には国際プロジェクトである「ヒトゲノム計画」に正式に参加した。この計画の中で中国は1%のゲノム、すなわち第3番染色体短腕上の3000万塩基対の解読を担当した。中国の研究者は2000年4月末、マップ作成を完了させている。

 中国は遺伝子多型の研究に関して、「中華民族ゲノム若干遺伝子座研究」プロジェクトを重点プロジェクトと定めて実施し、4年間の研究を通じて初期の目標をほぼ達成した。既に少数民族と漢族の不死化細胞株を約30樹立している。

 「ヒトゲノム計画」において北京区域のSNP座を8000個ほど鑑定しており、さらに「炎黄一号プロジェクト」では、全ゲノム比較法によりSNP座を約1万3000個スクリーニングし、1177億の塩基対を測定してdbSNPバンクへ提出した。「炎黄一号プロジェクト」の有効カバー率は99.7%,変異検査測定精度は99.9%以上である。科学雑誌「Nature」の2007年11月号のトップ記事として「炎黄一号プロジェクト」が特集された。

 また、中国人ゲノム一塩基多型(SNP)のハプマップ作成および開発応用を通じて、ヒト21番染色体上の127個の既知遺伝子に対して大規模なSNPスクリーニング研究を行い、系統的な中国人SNPタイプと頻度を取得している。

 これらの結果と中国3番染色体SNP関連研究の成果から、中国人のSNP/ハプロタイプの特徴が大まかにまとめられ、中国人の代表的なSNPデータベースが構築されている。現在、さらに中国人のゲノムハプマップが作成されている。

 中国は、微生物ゲノムの研究においても顕著な成果をあげており、多種の微生物の全ゲノム配列測定作業を完了している。例えば、予防医学科学院ウイルス研究所によるワクシニア中国ビタミンC核心菌株のKV菌を生産するゲノム全配列測定、国家海洋局第三海洋研究所等による中国エビ白斑桿状ウイルス・ゲノム全配列測定、衛生部ゲノムセンターによる2A赤痢菌全配列測定、国家人類ゲノム南方研究センター等によるレプトスピラと表皮ブドウ球菌全配列測定、国家人類ゲノム南方センターによるキサントモナス・ゲノム全配列測定などがあり、これらは世界で報道された全ゲノム解読完了プロジェクトの約10%を占めている。

2)機能ゲノム

 中国の機能ゲノム研究は、スタートは遅かったが研究の進展は速く、一連の重要な研究で成果をあげている。主な研究は、①ヒトゲノムのクローン鑑定(新遺伝子と重大疾病関連遺伝子)②コメなどの植物およびその他生物の新遺伝子の発見③微生物新遺伝子――である。

① ヒトゲノムのクローン鑑定

 1997年以降、新EST(Expressed Sequence Tag)、新全長cDNA(相補的DNA)、新遺伝子を発見する能力が大幅に向上した。完全な統計ではないが、中国は現在、既に数十万本のESTの初期分離を完成し、ヒトゲノムの全長cDNAクローン数千本を完成し、数百件の新遺伝子に関する特許を申請している。

 重大疾病関連の遺伝子資源の収集では、科学技術部と衛生部の支持の下、長沙、上海、北京を中心とする20数ヵ所の医学センターによる遺伝子資源収集ネットワークと資源情報データベース管理システムが構築されている。

 また、一般的な重要疾病に対し、大規模な現場調査とサンプリングが実施された。この中には、悪性腫瘍(肝臓癌、食道癌、鼻咽頭癌、胃癌)、特発性高血圧、糖尿病、精神疾病、神経系遺伝病とその他遺伝病の重要家系同胞対および各種組織のDNAサンプルが含まれている。

 現在、鼻咽頭癌、食道癌、胃癌、肝臓癌および白血病等の悪性腫瘍の家系同胞対は500個ほど、組織サンプルは約5000個が収集・保存されている。精神病、心血管病、糖尿病等の複雑疾病の同胞対は約1500個が収集されている。

 これ以外にも、全身性エリテマトーデス、乾癬、網膜色素変性症などの一般疾病と希少遺伝性疾病のサンプルを含め、家系同胞対3000個以上、DNA(不死化細胞株を含む)サンプル1万8000個以上が収集されている。

② 水稲などの重要経済植物に対する機能遺伝子クローンと機能ゲノム科学研究

 これまでに水稲分蘖に関わる遺伝子MOC1と脆弱性遺伝子BC1の分離に成功し、1万5000個の水稲EST配列を含んだcDNAチップが構築された。多種成長発育時期と環境応答分野の遺伝子発現プロファイルを作製し、イネ白葉枯病菌遺伝子、いもち病抵抗遺伝子、広親和性遺伝子など、一連の水稲重要機能候補遺伝子のクローンが作成された。また、T-DNA挿入技術によって、独立転換水稲より組成された突然変異体ベースと大量のESTなど1万個以上が構築され、水稲染色体動原体の配列が完全に測定されている。

③ 微生物機能遺伝子研究

 

 レプトスピラを維持する遺伝子が4700個程度はじめて識別され、このうち新遺伝子は95%であった。また、病原性遺伝子が30個程度、ワクチン開発用潜在新標的物質10個程度の鑑定が行われている。

 植物グラム陰性細菌全遺伝子配列の測定にあたり、当該菌種のゲノムが511.9497万塩基対より組成したことを明らかにした。予測される含有遺伝子約4600個、獲得された遺伝子突然変異体約2500個、スクリーニングされた非病原性突然変異体170個、キサンタンガム突然変異体147個、鑑定した病原関連遺伝子は50個である。

3)プロテオミクス

 中国科学院生物化学研究所、軍事医学科学院、復旦大学北京師範大学等は、国の支持の下、プロテオミクス(総合的タンパク質科学)の研究を開始し、2次元電気泳動プロテオミクス分離技術、画像解析技術、蛋白質鑑定質量分光法を開発した。蛋白質のクロマトグラム/電気泳動2次元分離、2次元チップ電気泳動分離質量分光オンライン鑑定などの分野でも、重要な進展が得られている。

 中国のプロテオミクス研究はスタートしたばかりであるが、肝臓癌などの重大疾病、レチノイン酸による白血病細胞アポトーシス誘導モデルとレチノイン酸による胚神経幹細胞分化誘導モデルなどの比較プロテオミクス研究、重要な生理・病理システム・プロテオミクス成分研究の方面で、重要な成果を上げている。

 現在、軍事医学科学院が中心となった「国家重点基礎研究発展計画」(「973計画」)プロジェクトと上海生命科学院が中心となった「国家ハイテク研究開発発展計画」(「863計画」)プロジェクトでは、人々の健康に深刻な影響を及ぼす重大疾病と重要生命科学問題に対して、「重大疾病の比較プロテオミクス研究」と「重要生理・病理システムの機能プロテオミクス研究」が実施されている。

 中国では、復旦大学蛋白質研究センター、軍事医学科学院プロテオミクスセンター、高等学校プロテオミクス研究院、中国科学院プロテオミクス重点実験室、中国医学科学院プロテオミクス研究センターなどのプロテオミクス研究センターあるいは重点実験室が相次いで設立されている。

 このうち、高等学校プロテオミクス研究院は、国内の多数の大学や臨床部門、国内外の関連企業によって共同で設立された研究機構であり、大学という枠組みを越えて、国内外の関係機関と協力してプロテオミクス研究へ参入するための新たな基盤となっている。なお、2003年10月には中国人類プロテオミクス組織(ChineseHUPO)とプロテオミクス専門委員会が正式に設立されている。

 2004年3月号の「Nature」に、中国科学院生物物理研究所と植物研究所が行った「ホウレンソウ主要捕光複合物の晶体構造」の研究成果が発表された。それによると、中国は純粋な光合成のための膜蛋白質を作り出すことに成功するとともに、この複合体の3次元構造の測定を世界で初めて成功した。この成果は、「2004年 国家10大科学技術進展ニュース」の一つに選ばれている。

4)構造ゲノム科学

 構造ゲノム科学の根幹をなす中国の構造生物学研究の基盤は比較的良好で、1960年代には世界初の人工合成インスリンを開発している。70年代には、1.8オングストローム分解能のブタインスリン3次元構造を測定し、当時の世界先進レベルに達していた。

 中国は国際的に構造ゲノム研究が注目されるなかで、2000年から構造ゲノム科学の研究を展開しており、「863計画」、「973計画」、中国科学院知識イノベーション・プロジェクト、国家重大難関突破プロジェクト、国家自然科学基金などを通じて、構造ゲノム学の研究と関連技術のプラットフォームの建設を重点的に支援している。また、国際プロジェクトに参加してゲノム研究技術のプラットフォームを構築している。

 構造生物学研究チームの規模はここ数年着実に拡大しており、中国科学院生物物理研究所、中国科技大学、北京大学清華大学中国科学院物理研究所、高エネルギー研究所、上海生命科学研究院、福州物質構造研究所、復旦大学などが、構造ゲノム研究を展開する重要な基地となっている。

(2) 細胞機能(再生・発生、免疫・癌)

1)癌ゲノム治療

 中国の遺伝子治療の基礎研究と臨床試験は比較的に早い時期から行われている。1970年代に、中国人研究者の呉旻氏は遺伝性疾病の予防と治療に対し遺伝子治療を提示し、1985年には遺伝子治療の重要目標が腫瘍であることを指摘した。

 1991年には、中国初の遺伝子治療臨床試験となるB型血友病に対する遺伝子治療臨床試験が行われ、その後、以下に紹介するように、多くの重大疾病に対し遺伝子治療の基礎研究と臨床試験が行われてきた。こうした基礎研究と臨床試験は中国の遺伝子治療の全体レベルを上げる結果となった。

  • 上海市腫瘍研究所のターゲット遺伝子治療キャリア研究は国際特許を取得し、TK遺伝子による悪性神経膠腫(グリオーマ)の治療は、1996~2000年に上海長征病院、北京天壇病院でI期臨床試験が行われた。
  • 軍事医学科学院は悪性腫瘍、梗塞性血管病と病理性瘢痕遺伝子治療に関して基礎研究を行った。
  • 北京大学医学部はペプタイド抗原による肝臓癌の治療に対し基礎研究を行った。
  • 第2軍医大学のDC細胞ワクチンおよび腫瘍細胞と抗原提示細胞の融合ワクチンによる腫瘍遺伝子治療は効果が得られた。また、細胞因子による遺伝子治療に対しても多くの基礎研究が行われた。
  • 四川大学は、異種免疫遺伝子による担癌マウスの治療によって、良好な腫瘍抵抗性と血管再生作用を実証した。
  • 深圳市賽百諾遺伝子技術有限会社よって研究開発された組換えアデノウイルス-P53抗癌注射液による多種悪性腫瘍の治療はⅡ期臨床試験段階に入った。

 「863計画」、「973計画」、国家自然科学基金などの国家科学技術計画では、遺伝子治療の研究と臨床試験をサポートしており、十数年に及ぶ発展を経て遺伝子導入と遺伝子治療臨床試験が着実に進展した。具体的には、複数の国家遺伝子治療モデル基地が建設され、B型血友病、悪性神経膠腫(グリオーマ)、悪性腫瘍、梗塞性末梢血管疾病など6つの遺伝子治療プランが臨床試験の段階に入っている。このほか、20~30の自主知的財産権を有する遺伝子治療プランも臨床試験段階に入っている。

2)幹細胞移植の研究

 中国は、世界最大の人口を抱えるなかで幹細胞移植の治療が必要な疾病の発病率が他の国とほとんど変わらないことから、肝細胞移植の需要が非常に大きい。また、「1人っ子政策」を実施しているため、兄弟などからの同一あるいは類似した遺伝子の幹細胞が提供される可能性が他の国と比べると低いため、幹細胞移植の研究と応用が急がれている。

 中国の幹細胞研究と応用は一定の基盤が整えられた段階にある。最も研究・応用が進んでいるのは造血幹細胞であり、1960年代に骨髄移植の研究が始まり、70年代末から80年代初期にかけて臨床骨髄移植による血液病の治療が主要な都市で続々と行われた。90年代以降は骨髄移植以外にも末梢血と臍血幹細胞の移植が血液病と腫瘍の治療として普及してきている。

 2001年には北京で中国初の「生命バンク」(「北京協和臍帯血幹細胞貯蔵バンク」)が設立され、新生児の臍帯血を冷凍保存し、将来、血液病あるいは悪性腫瘍などの病気にかかった場合、保存されている本人の臍帯血を移植して治療することが可能となった。

 組織幹細胞に関しては、骨、軟骨、皮膚、腱などの再生で成果が得られている。第4軍医大学と艾尓膚会社は、既に国家食品薬品監督管理局から人工皮膚(組織工程皮膚)の臨床試験実施許可を取得したうえで臨床試験を行い、製品登録証明書を取得している。

 造血支持、心筋再生(心臓衰弱など)、血管再生などの前期研究も基本的に完了しており、一部の製品は既に中国薬品生物製品検定所から認証されている。

 組織器官代用品の研究は、人工血液が既に臨床試験実施許可を取得しているほか、人工股関節も生産許可を取得し、大量生産を開始している。

3)人工多能性幹細胞(iPS細胞)

 再生医療を大きく進歩させると期待されている人工多能性幹細胞(iPS細胞)の研究については国際的に競争が激しさを増しているが、中国でも中国科学院広州生物医薬・健康研究院や上海生命科学研究院の生物化学・細胞生物学研究所、北京生命科学研究所などを含む複数の研究機関がすでにiPS研究のプラットフォームを確立している。中国政府もiPS細胞研究を重視しており、国内の約20の研究室が政府の支援を受けて、基礎研究や動物を使った治療研究を行っている。

 そうしたなかで、北京大学などの研究グループはサルの皮膚からiPS細胞を作ることに世界で初めて成功した。将来、iPS細胞を治療で使用する際の安全性確認にはヒトに近いサルでの検証が必要と言われている。

 研究グループは、京都大学の山中伸弥教授らが使った4因子をアカゲザルの皮膚細胞に導入してiPS細胞を作った。2008年12月4日付の米専門誌「Cell Stem Cell」電子版に発表された。

(3) 脳神経

神経科学はこの20年間で最も発展した学科の一つであり、現在、国際的に研究されている主要なテーマの中には、神経細胞の特殊な細胞と分子生物学の特徴の解明、神経細胞間の各種接続方式、神経細胞間の相違の鑑別、神経細胞による信号の発生・伝達、信号による標的細胞の活動変化の解明、神経系疾病の原因とメカニズムの解明、新しい治療方法の探求などが含まれる。

中国の脳科学研究は、実績に加えて基盤も整備されている。現在、集中的に研究が行われているテーマとしては、痛みと鎮痛メカニズム、視覚情報処理の分子基礎、神経細胞の信号伝達、シナプス伝達の制御、神経回路の情報加工、ホルモンの神経細胞への作用、遺伝子レベルの脳機能制御、神経系の発育と修復などがある。

また、神経系疾患の遺伝子解読、脳機能の遺伝子レベルでの制御、神経系の発育と修復、新型非侵襲的脳内映像技術などの分野でも一定の成果をあげてきている。

 中国政府は近年、神経科学を一層重視している。具体的には、「脳機能と脳重大疾患の基礎研究」と「神経発育の基礎研究」などが「973計画」と「863計画」に組み込まれ、「攀登計画」の中にも脳科学研究の課題が盛り込まれている。

中国では、脳科学研究の今後の主要テーマとして、神経系の構造と機能の研究、各種神経活動の基本規律の解読、神経系がいかに体の各種行為を制御するかの解明などがあげられている。

 2008年4月、中国科学院生物物理研究所のグループによる視覚と脳内神経回路と制御に関する研究が雑誌「Nature Neuroscience」ウェブ版に発表され、中国も脳の視覚認知能力の解明に大きな貢献をした。

中国では神経活動における細胞と分子メカニズム、老人性認知症とパーキンソン症候群などの発病メカニズムと発病原因、脊髄損傷の修復メカニズムなどの分野で、国際的にも先進レベルに達することを目標として掲げており、中国独自の治療プランと中国語認知の観点からも研究を行う予定になっている。

(4) 臨床医学、医療設備・器具

1)重大伝染病の予防と治療の研究

 近年、中国で関心が高まっている重大な伝染病として、SARS、結核、エイズ、ウイルス性肝炎、狂犬病、住血吸虫症、炭疽病などの疾病がある。このうち、中国の医学会で特に重点的に研究されているのは以下の4つの病気である。

① SARS

 SARSは2002年から2004年にかけて中国各地で猛威をふるい、経済損失と社会不安を招いたが、SARSの発生直後から多くの医学的研究が行われ、大きな成果を挙げている。

 軍事医学科学院微生物流行病研究所と中国科学院北京ゲノム研究所は2003年4月、63株のSARSのサンプルからSARSのゲノムを解読することに成功し、初期に流行したSARS-CoVウイルスのゲノムが動物のSARSウイルスのゲノムに酷似していることを解明した。

 また、ウイルスが流行の途中で変異したことにより、中期、後期の流行時にはウイルスの感染力が増加したことも判明した。さらに、SARSウイルス中のN蛋白の測定方法が確立し、発病から7日以内のウイルスを早期診断できるようになった。

 治療方面では、エイズ治療薬であるロピナビル(Lopinavir)、リトナビル(Ritonavir)、グルココルチコイド(Glucocorticoid)がSARS治療に有効であることが判明し、また漢方医学と西洋医学の結合による治療方法も研究された。北京での症例524例のうち、漢方医学と西洋医学の結合による治療が行われた322例は、西洋医学のみの治療を行った204例と比べ完治までの時間が早かったことが明らかになっている。

 ワクチンも開発され、試験的に60名に予防接種を行った。今のところ被験者のSARS感染および副作用などは見られず、現在、その持続性の研究が引き続き行われている。

 SARSのゲノム解読と治療、予防方法の確立は「2003年 国家10大科学技術進展ニュース」の一つに選ばれた。

② 結核

 中国は世界で二番目の結核発生国である。このため、結核の予防と治療の研究・応用が広く進められており、2005年には世界の結核抑制目標を達成し、「直接監視下短期治療」(Directly Observed Therapy Short-course:DOTS)カバー率100%、患者発見率70%、治癒率85%となった。化学療法による治療は治療期間が~9ヵ月にまで短縮され、新規塗抹陽性肺結核の臨床治癒率も85%以上まで高まっている。

③ エイズ

 中国では近年エイズ患者が急速に増加しており、エイズ治療研究のニーズが強まってきている。中国が独自に開発したエイズワクチンの臨床実験が2004年末からスタートしている。治療コストを抑制するため、エイズ治療薬の国産化が進められている。

 現在、西洋医学と漢方医学を結合したエイズ治療と予防の研究が行われているほか、エイズ防止に関する教育広報キャンペーンが積極的に展開されている。

④ ウイルス性肝炎

 中国は世界で最もウイルス性肝炎の発生が多い国である、世界保健機関(WHO)の統計によると、中国のB型肝炎感染者数は世界の感染者数の10%を占め、約1億3000万人に達する。現在、B型肝炎、C型肝炎、G型肝炎の研究が主に進められており、B型肝炎のワクチンに関する研究では世界でもトップクラスにある。

 復旦大学と北京生物製品研究所によって開発されたB型肝炎ワクチンは2002年に国家食品薬品監督管理局から臨床試験が許可された。Ⅰ期、Ⅱ期臨床試験では良好な結果が得られ、現在Ⅲ期臨床試験が行われている。また、第3軍医大学による「治療用B型肝炎ワクチン」もⅠ期臨床試験が終了し、Ⅱ期臨床試験が行われている。

 B型肝炎ワクチンは国家Ⅰ類新バイオ製品に指定されており、中国の医薬製品特許の中で最も多くの特許数を取得している。B型肝炎ワクチン開発は「2006年 国家10大科学技術進展ニュース」にも選ばれた。

2)慢性疾患の予防・治療の研究

 中国では急速な経済成長と生活の近代化に伴い、脳・心臓血管病や高血圧、腫瘍、糖尿病、自律神経症などの生活習慣病が増加している。近年、大規模な生活習慣病の全国調査が行われ、疾病の流行の傾向などが把握されるようになった。臨床医療においては、生活習慣病に対し「予防と治療の統合、予防第一」という方針が採用されている。

3)診断技術と医療設備

 近年の経済成長に伴い、診断用の医療設備と技術が向上し、中国の疾病の発見率は飛躍的に高まってきている。

① 撮影設備と技術

 CT設備は、64列CTが臨床実用段階に入っている。MRI設備は、旧来の1.0Tから徐々に1.5Tにシフトしてきており、3T設備も臨床実験段階に入っている。X線設備はデジタル化X線設備が導入されており、血管撮影装置も撮影フレーム速度が60フレーム/秒のものが導入されている。

② 超音波撮影装置と技術

 超音波撮影はSonoVue造影剤が導入されており、心臓血管と肝臓の臨床診断と治療に大きな発展をもたらしている。3D撮影装置は心臓、腹部、産婦人科器官の診断で応用されている。

4)治療技術と医療器具

 中国では1984年にPCI治療を開始して以来、短期間に広範囲に利用されるようになっている。近年は国産の薬物溶出性ステント(DES)が販売され、多くの患者がPCI治療を受けられるようになっている。

 しかし、地域的に偏在があり、2005年の統計によると、全国754ヵ所の病院で計9万5912件のPCI手術が行われたが、このうち約50%が北京、上海、山東、遼寧、陜西で実施されている。このため、内陸部への普及が課題になっている。

 先天性動脈管開存症の手術は比較的進展が速く、年間4000件程度の手術が行われている。腹部大動脈瘤(AAA)のゼニス応用例は年間200例ほどである。

 中国では、ペースメーカーの導入は、価格が非常に高いこともあり、導入されるのは人口100万人あたり年間10台程度しかない。また埋め込み型除細動器(ICD)も価格が高いため、同じく100万人あたり年間150台前後にとどまっている。両心室ペースメーカー応用例は年間150件程度である。

 中国での腹腔鏡の応用は、世界とほぼ同じペースで進展している。1990年代末に14万件の腹腔鏡手術が行われたと伝えられているほか、1ヵ所の病院で10年間に2万例以上の腹腔鏡手術を行ったとの報道(2002年)もある。

(5) 食品の持続的生産に関する研究開発(植物科学、農業関連)

 中国では人口の増加と生活の近代化に伴い食料需要が急速に拡大している。こうしたことから、遺伝子工学や発酵工学、酵素工学、分子育種などの生物技術を用いて、動植物の新品種育成、バイオ農薬・家畜薬・ワクチンの生産、生物肥料、生物農業用材料などの農業生物技術産業に関する研究開発が進められている。

1)遺伝子組換え動物

 中国科学院発育生物学研究所の研究チームは1990年、中国で初めてのクローン哺乳動物である胚胎細胞クローンウサギを作製することに成功した。その後、中国はヤギ、ウシ、マウス、ブタの5種類の胚胎細胞クローン動物を作製したが、体細胞クローン技術を応用した遺伝子組換えクローンヒツジ「ドリー」の誕生(1997年)を受け、中国における動物クローン研究はさらに加速した。

 中国科学院発育生物学研究所は1999年10月15日、揚州大学と協力し、中国で最初の体細胞クローン動物である体細胞クローンヤギを作製した。この成功は、その他の動物における研究の進展を加速させた(「中国クローン技術の展望」石 徳順・中国広西大学動物繁殖研究所副所長、科学技術振興機構「Science Portal China」、http://spc.jst.go.jp/trend/hottopics/report0402.html)。

 最近では、中国農業大学のプロジェクトチームが、ヒトラクトフェリンの遺伝子組換え乳牛の育種に成功した。「中国国際放送局日本語部」が新華社電として2008年10月19日に伝えたもので、新しいタイプの乳幼児用粉ミルクや健康食品、薬品などの開発への応用だけでなく、乳房炎を予防・治療することもできると期待されている。2年~3年で臨床試験を終了する予定という。

 また、2008年11月24日には、中国で初めての体細胞クローンヤギ「津英」が天津市牧畜獣医研究所で2頭のヤギを出産した。

 このほか中国の研究者は絶滅危惧動物のクローン分野においても積極的に研究を進めており、1998年からは異種クローン・ジャイアントパンダの可能性が研究されている。なお2008年3月には、ジャイアントパンダの遺伝子配列を研究する国際プロジェクトが発足している。

2)遺伝子組換え農作物

 中国では遺伝子組換え農作物の研究開発が進んでおり、遺伝子組換え抗害虫綿を独自に開発し、世界で2番目に自主知的財産権を有する国となった。

 これまでに中国では、以下のようなの遺伝子組換え植物の商品化生産が承認されている。

  • 華中農業大学の遺伝子組換え長持ちトマト
  • 北京大学のカルコンシンターゼ遺伝子組換えペチュニア、ウイルス抵抗性ピメント、ウイルス抵抗性トマト
  • 中国農業科学院の抗害虫綿
  • アメリカモンサント会社のボルガード綿

 このうち抗害虫綿に関しては、1980年代末から90年代初頭にかけて綿の害虫被害が深刻になったことから、1997年に中国政府が正式に抗害虫綿の商業化を認めた。中国の抗害虫綿の栽培面積は2001年には全綿栽培面積の30%以上を占め、2007年には25万ヘクタールに達した。

 中国政府はいくつかの遺伝子組換え植物の商品化生産を許可しているが、科学研究成果を大規模に応用できるような大型農業企業が存在していないこともあり、遺伝子組換え農作物の栽培面積が農作物総栽培面積に占める割合はまだ数パーセント程度に過ぎない。

3)交配種の研究

 中国では1960年代から雑交種の研究と応用を開始しており、現在、既にトウモロコシの90%以上が交配により開発された雑交種である。この数字は世界でもトップクラスにある。

 これまでに開発、応用されてきた交配種の農作物には、リシン含有量が通常品種より50%ほど高い飼料用トウモロコシ、含油量が2倍の高油トウモロコシ、各類加工食品と工業用の特殊トウモロコシ、人体の免疫力と抗癌能力を向上するαビタミンEと不飽和脂肪酸を多く含む油糧作物、抗癌作用のあるイチゴ、コレステロールを下げるマーガリン、抗癌蛋白を多く含む大豆、多産、高品質なスーパーハイブリッドライス、多産・高含油量の大豆、臭いのない大豆、油吸収量が少ないフライ用ジャガイモなどがある。

 その中でも、中国農業科学院が開発した多産・高含油量大豆の新品種「中黄35」は、2007年に新疆石河子新疆農垦科学院で実験的な栽培が実施されており、収穫高は1ムー(1/15ヘクタール)あたり371.8kgと、中国の大豆生産における最高記録を樹立した。この品種の含油量は23.45%に達しており、国家の食料油の生産に関する政策にも大きく貢献している。

 コメは中国で最も多く栽培されている食糧作物である。1950年代から60年代にかけて、水稲矮化育種を導入したことにより、もみの産量は20~30%増加した。さらに、1970年代に中国で開発された交配種によって、もみの生産量はさらに20%増加した。1976年から98年にかけて、もみの累計生産増加量は3.5億トン、社会利益は3500億元に達している。

 コメの生産量をさらに引き上げるため、中国は1996年から「中国スーパーライス種プロジェクト」を実施し、中国スーパーライス種モデル生産基地を複数箇所建設した。2003年に行われた検収では、モデル栽培地の1ムーあたりの平均生産量は800kg以上に達し、最高生産量は835.2kgを記録した。

4)植物組織の培養

 植物組織培養は、自然環境下で植物体の器官や組織、細胞を分離して、最適な培養環境条件の下で無菌培養し、植物体として完全な機能を持つ個体を再生させる技術を指す。この技術は主に、①植物微細繁殖②半数体細胞培養③ソマクローナル変異④遺伝資源保存――の4つの分野で利用されている。このうち、中国で最も成熟し広範に利用されているのが植物微細繁殖技術、すなわち試験管植物技術である。

 中国の試験管植物の応用は1970年代から始まり、80年代にはブドウ、イチゴ、リンゴ、バナナなどの商業化に成功している。90年代後半にはアロエとカトレアのブームが起こり、中国の試験管植物技術は飛躍的に進展した。2001年までに各規模の試験管植物の研究と生産機関は530社に達した。内訳は、農林大学が約150校、科学研究院・所などが約230ヵ所、民営あるいは合併企業が約150社となっている。

 うどんこ病、ジベレリン病、黄色矮化ウイルスなどに強い、細胞工学技術によって培養された小麦の新品種は栽培面積が73ヘクタールに達している。また、ジャガイモ、サトウキビ、花卉の生産に植物組織培養と快速繁殖解毒技術が重要な役割を果たしている。

5)バイオ農薬

 中国はバイオ農薬とグリーン薬品の発展を「中国21世紀議事日程」の目標に組み込んでいる。現在、BT遺伝子組換え微生物薬剤など3種類の農薬が既に商業化、あるいは商業化される予定になっている。中国のバイオ農薬の研究機関は30数ヵ所に及び、研究開発人員は約500人、生物農薬企業は約200社、登録品種は約50に達している。


種類

経緯

現状

動向

BT殺虫剤

1959年に導入、1965年に武漢で国内初の製造企業を設立

中国で登録されたBT殺虫剤粉剤は16種、液剤12種、製造企業は50数社、年間生産量約2万トン

既に自主知的財産権を有する遺伝子数十個のクローンを作成し、うち数個はパイロットプラント試験段階にある

農業用抗生物質

1950年代から研究が行われている

登録また製造している農薬は17種、製造企業は130数社、年間生産量は8万トン以上

新品種の選択、菌株の発酵レベルの向上を中心に研究が行われ、新薬剤の開発あるいは配合方法にも努力が傾注されている

植物性農薬

世界的にも早い時期から研究、応用が行われている

中国で正式あるいは臨時に登録され大量生産されている農薬には、サポニンニコチン可融性乳剤、ロテノン乳剤、マトリン、ニコチン硫酸塩、「8811」植物農薬などがある

 

ウイルス類農薬

開発、応用の見通しがあるウイルス株が十数株開発されている。このうち、ヘリオチス・アルミゲラの核多角体病ウイルスは既に登録され、100トン/年の薬剤生産ラインがある。ハスモンヨトウ核多核体病ウイルスとミクソウイルスなど9種類のウイルスも登録され、年間使用面積は6.6万ヘクタール以上に達している。

真菌類農薬

昆虫病原性糸状菌を主として、30年以上の開発の歴史がある

昆虫病原性糸状菌によりマツカレハとアワノメイガの退治は年間70万ヘクタール以上に達する
トリコデルマ・ビレンスの開発に成功。農薬登録済みで、野菜の灰色カビ病の退治に使用している。

サイトカラミン、紫赤きょう病菌、昆虫真菌、バーティシリウム・レカニなどが小規模試験およびパイロットプラント試験段階にある。

植物生長調節剤

主要品種のシベレリンは2期作のハイブリッドライスの分蘖と早熟に良好な作用を発揮し、需要量が急増しており、生産企業も既に40数社に達した。また、微生物による植物成長調節剤には細胞マイトジェンとアブシジン酸などがある。

(6) 製薬

 国家食品薬品監督管理局・南方医薬経済研究所の「中国医薬経済運行分析システム」によると、2007年1月から9月までに中国の製薬業界は比較的安定した成長を続け、2007年の製薬工業生産値は前年比18%増の約7080億元(約1兆620億円)に達すると見込まれている。

2007年1月から9月までの医薬工業業界の利益は373.65億元(前年比49.74%増)であり、このうち化学薬品原料製造業の利益は61.87億元(前年比49.05%増)、化学薬品剤製薬業の利益は112.24億元(前年比63.39%増)、漢方製薬製造業の利益は79.97億元(前年比59.45%増)、バイオ薬品製薬業の利益は32.12億元(前年比30.81%増)、漢方薬原料製造業の利益は7.62億元(前年比13.92%増)であった。

1)バイオ薬品

 国家食品薬品監督管理局の鄭筱萸局長(当時)は、2002年時点ですでに中国が医薬生物技術領域において国際先進レベルに達し、国際競争力を備えていることを明らかにした。同年、浙江省杭州で開催された西湖博覧会生物医薬シンポジウムで述べたもので、次の分野で具体的な成果をあげた。

  • 多数の遺伝子工学薬物とワクチンが試験段階から商業化のステップに移り、遺伝子工学薬物産業も一定の規模に達した。
  • 人工血液代用品は臨床研究段階に入った。
  • 体細胞クローンと遺伝病の遺伝子診断技術は国際先進水準に達した。
  • B型血友病、悪性腫瘍、梗塞性末梢血管疾病など6つの遺伝子治療プランが臨床試験段階に入った。
  • ナノテクが医薬研究に応用されている。
  • 腫瘍免疫治療、抗血管治療、生物チップと幹細胞などの技術が進展した。

一方で鄭筱萸氏は、2002年時点では中国のバイオ薬品の技術は国外と比べて差があり、バイオ製薬企業の研究開発投資の不足と研究開発能力の低さ、各段階の技術の連続性と研究成果の産業化率の低さに課題が残っていると指摘していた。

2)ワクチン

 医薬発展の六大重点項目の一つとして最も注目されているのがワクチンの研究開発である。世界のワクチン市場は今後10年間にわたって年商80億ドルを超え、年率平均10~15%のスピードで成長していくとの予測がある。

 13億人の需要を有する中国では現在、疾病予防製品の年間生産供給可能量は約10億人分、主要な人用ワクチンは約30種、一定規模を有するワクチン生産企業は約20社に達しているが、年商1億元(約15億円)以上の企業は2、3社しかなく、技術の集約と量産化が望まれている。

3)漢方薬

 天然薬物は、動物、植物、微生物などから製造された薬物を指す。このうち漢方製薬は、中国の伝統と資源が集約された貴重な薬品と位置付けられている。

 中国政府は、漢方製薬の商業化を進めており、現在3ヵ所の漢方薬安全性評価センターと4ヵ所の漢方薬評価基準臨床試験センターがある。これ以外にも、3ヵ所の国家漢方薬薬理評価基準実験室、4ヵ所の国家漢方薬プロジェクト技術センターの建設を進めている。なお、中国国内には448ヵ所の漢方薬植付基地があり、作付面積は約100万ヘクタールに達する。

(7) 漢方医学(中医)

 2005年末時点で、全国に漢方病院は3009ヵ所あり患者数は延べ約2億3400万人(救急を含む)、総合病院の漢方科の患者数は延べ5851万人(救急を含む)に達した。また、全国の漢方病院のベッド数は3万1000床、総合病院漢方科のベッド数は3万3000床で、利用率は65%である。現場の漢方医の人数は49万3000人であった。

 漢方研究教育機関に関しては、高等医学校が32校(専門大学5校を含む)、中等漢方学校が61校ある。また、総合医学校(部)128校と衛生学校455校でも漢方医学を教えている。このほか、独立した漢方薬の教育研究機関が119ヵ所ある。漢方医学・薬学の学生数は2000年の7万7000人から2005年の間に38万5000人に大きく増加した。

 中国政府は漢方医学・薬学に対し、科学研究と技術開発・商業化という2つの側面から政策を展開しており、財政支出は2004年の37億52万元(約563億円)から2005年には41億4200万元(約621億円)まで増加した。

 漢方医学のデータ化・標準化に向けての動きも活発化している。上海中医薬大学は2008年11月6日、世界初の「中医四診合参診断システム」が上海で完成したと発表した(「2008年11月7日付「人民網日本語版」」。

 「四診合参」とは、漢方医学の「望診」、「聞診」、「問診」、「切診」という4つの診察法を駆使して総合的に判断を下すことであるが、今後はコンピュータと脈診器、画像収集装置で構成されたシステムを用いて問診・顔面診・舌診・脈診断の情報を総合的に分析し、漢方医学の伝統的な診察を正確に行うことができるようになると期待されている。

1)主要な研究テーマと研究結果


研究テーマ

研究結果

脳疾患の研究

522の症例から、総合的な漢方医学と西洋医学を組み合わせた治療が脳卒中患者の日常生活能力や認識能力の改善に有効であることが証明された。この研究は、2005年の中華中医薬学会技術賞2等賞を受賞した。
また、マウスによる実験で脳血管性認知症(VD)に対し漢方医学治療と漢方薬の処方が知力、学習能力を大幅に改善することが証明された。

内分泌疾患の研究

中国中医研究院広安門医院などによる研究をもとに、具体的な漢方医学による糖尿病の治療プランが体系化された。

血液病の研究

急性前骨髄球性白血病(APL)に漢方薬のダウリシン(Dauricine)や「益気養陽」法、「補腎健脾」法などが白血病治療に有効であることが証明された。

腫瘍の研究

腫瘍の摘出手術の前後、化学治療期間、放射線治療期間などにおいて、漢方治療を組み合わせることで早期回復や延命に効果があることが証明された。

免疫系疾患の研究

防已、雷公藤、マチンなどの漢方薬のリューマチ関節炎に対する効果の研究が盛んに行われている。

呼吸器系統疾患の研究

北京中医薬大学を中心に古い医学書の理論分析と応用が行われており、呼吸器疾病への漢方治療の総合分析が行われている。また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を第11次5ヵ年期間の重大難病と位置付けたうえで、治療方法の確立に向けた研究が行われている。

腎臓病の研究

2005年に「中医腎臓病学科専門病の診断、識別、治療効果評価プラン」が発表され、診断、治療、評価方法の体系化が行われている。

ウイルス性肝炎の研究

慢性B型肝炎には「健脾」が、重症な肝炎には漢方薬による浣腸が効果があることが証明された。

エイズの研究

5つの省の104症例に対する臨床実験で、漢方治療がエイズの防止と緩和に有効であることが証明され、30以上の漢方薬がエイズに対し効果があることがわかっている。

2)漢方医学の国際化

 WHOはアジア地区に15ヵ所の伝統医学研究協力センターを設置しているが、このうち13ヵ所が漢方医学に関する研究所であり、中国国内には7ヵ所が開設されている。また、2003年のWHOの世界伝統医学発展戦略でも漢方医学や鍼灸、漢方薬が伝統医学の面から重視されるなど、漢方医学の国際化の要求が強まってきている。

 完全な統計ではないが、中国以外の130以上の国・地域で漢方医学(鍼灸を含む)に関する研究機関は5万ヵ所もあり、鍼灸師は10万人以上、漢方医は2万人以上に達している。

 中国はすでに70以上の国・地域と漢方薬に関する条項を含んだ協力協議書を締結しているだけでなく、16の漢方医学専門の協定も締結している。政府協力の枠組みの下で実施されている主なプロジェクトとしては、「中医薬エイズ予防・治療(タンザニア)」、「中医薬大腸肛門疾病治療(日本)」、「中草薬血液病予防(オーストラリア)」、「中医薬喘息治療(ロシア)」、「中医薬主要と糖尿病予防・治療(イタリア)」などがある。

 また、中国の漢方医学・薬学専門学校と海外の学校による提携も盛んであり、日本、韓国、欧州では政府の承認した正式な漢方医学校が設立されている。

主要参考文献:

  1. .「中国科学技術統計年鑑」(2002~2007年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)
  2. 「生物医学工程 学科発展報告(2006-2007)」(2007年、中国科学技術協会主編・中国生物医学工程学会編著、中国科学技術出版社)
  3. 「中医薬学 学科発展報告(2006-2007)」(2007年、中国科学技術協会主編・中華中医薬学会編著、中国科学技術出版社)
  4. 「医学 学科発展報告(2006-2007)」(2007年、中国科学技術協会主編・中華医学会、中国科学技術出版社)
  5. 「薬学 学科発展報告(2006-2007)」(2007年、中国科学技術協会主編・中国薬学会編著、中国科学技術出版社)

主要参考ウェブサイト:

  1. 科学技術部 (http://www.most.gov.cn)
  2. 中国科学院http://www.cas.cn
  3. 国家発展改革委員会http://www.ndrc.gov.cn
  4. 国家食品薬品監督管理局(http://www.sda.gov.cn
  5. 中国バイオ技術発展センター(http://www.cncbd.org.cn
  6. 中国バイオ技術情報ネット(http://www.biotech.org.cn
  7. 中国脳科学ネット(http://www.pai314.com
  8. 中医中薬ネット(http://www.zhong-yao.net